(性感染症の概要も参照のこと。)
淋菌感染症に似た病気を起こす細菌として、具体的には、クラミジア・トラコマティス Chlamydia trachomatis(クラミジア)、ウレアプラズマ属細菌 Ureaplasma、マイコプラズマ属細菌 Mycoplasmaなどがあります。クラミジアは検査室で特定できますが、その他の細菌は特定が困難です。
クラミジア感染症は最も報告の多い性感染症(STD)です。米国では、2016年に160万例近くの症例が報告されました。この感染症では症状が出ないことも多いため、感染者の実数はその2倍にのぼる可能性があります。
男性の場合、非淋菌性尿道感染症(尿道炎)の約半数はクラミジアが原因です。それ以外の男性の尿道感染症は、おそらくほとんどがウレアプラズマ・ウレアリティカム Ureaplasma urealyticumかマイコプラズマ・ジェニタリウム Mycoplasma genitaliumによるものです。
女性では、非淋菌性で膿の出る子宮頸部感染症(子宮頸管炎)のほぼすべてがクラミジアによるものです。
男女とも、淋菌とクラミジアに同時に感染することがあります。
クラミジア感染症はオーラルセックスで感染することもあり、この場合はのどに感染が起こります。
症状
男性では、クラミジア尿道炎の症状は性交による感染の7~28日後に現れます。一般に、排尿時に尿道に軽い灼熱感を感じ、陰茎から透明または濁った分泌物が出ることがあります。この分泌物は通常、淋菌感染症で生じるものよりサラサラしています。分泌物の量が少なく、症状が軽いこともあります。それでも朝起きたときに陰茎の開口部が赤くなり、乾いた分泌物でくっついたような状態になっていることがよくあります。また、もっと劇的な症状で始まる場合もあります。この場合、頻繁に尿意が生じ、排尿時に痛みがあり、尿道から膿が出てきます。
クラミジア子宮頸管炎にかかった女性の多くは、症状がほとんどないか、あってもごくわずかです。しかし頻繁に尿意が生じたり、排尿時に痛みを覚えたり、腟から黄色い粘液や膿が出ることがあります。性交時に痛みが生じることもあります。
のどに起きるクラミジア感染では、症状がみられないのが通常です。
直腸の感染症では、直腸が痛んだり、押すと痛みが感じられたり、直腸から黄色い膿や粘液が出ます。
治療を行わなくても、約3分の2の人では4週間以内に症状が軽快します。しかし、たとえ症状がないか軽度のものであっても、クラミジア感染症は女性には深刻な長期的影響を与える可能性があります。そのため、たとえ症状がなくても、女性の感染は見つけて治療することが重要です。
合併症
女性では、感染が生殖器を通って広がり、卵巣と子宮をつなぐ管(卵管)に及ぶことがあります。この感染症は卵管炎と呼ばれ、下腹部に強い痛みを引き起こします。一部の女性では、骨盤や腹腔の内側を覆う膜(腹膜)に感染が広がり、腹膜炎が起こることもあります。腹膜炎では下腹部にさらに激しい痛みが生じます。このような感染症は骨盤内炎症性疾患とみなされます。感染が右上腹部に位置する肝臓周辺に集中して、痛みや発熱、嘔吐を引き起こすことがあります。この感染症はフィッツ-ヒュー-カーティス症候群と呼ばれます。
合併症には、慢性腹痛や卵管の瘢痕(はんこん)化などがあります。この瘢痕が不妊症や異所性(子宮外)妊娠の原因となることがあります。
男性の場合、クラミジアは精巣上体のの感染症(精巣上体炎)を引き起こすことがあります。精巣上体とは、左右の精巣の上にあるコイル状の管です({blank} 男性生殖器)。この感染症にかかると、片方または両方の陰嚢が腫れて痛みます。
また男女ともに、クラミジアが眼に感染し、白眼の部分を覆う透明な膜の感染症(結膜炎)を引き起こすことがあります。
クラミジア性器感染症は、反応性関節炎と呼ばれる(以前はライター症候群と呼ばれていました)関節の炎症を引き起こすことがあります。典型的な反応性関節炎では、一度に1つまたは少数の関節だけが侵されます。最もよくみられるのは膝などの脚の関節です。この炎症は、感染症が関節に広がったものではなく、性器の感染症に対する免疫反応と考えられます。症状は通常、最初にクラミジアに感染した後1~3週間で現れます。反応性関節炎は、足の皮膚の変化、眼の異常、尿道の炎症といったその他の問題を引き起こすことがあります。
母親に子宮頸部のクラミジア感染症がある場合、新生児は分娩中にクラミジア Chlamydiaに感染するおそれがあります。新生児では、感染により肺炎または結膜炎(新生児結膜炎)が生じる可能性があります。
診断
陰茎や子宮頸部から分泌物が出るなどの症状に基づいて、これらの感染症が疑われます。
たいていは、クラミジアに特有の遺伝物質(DNA)を検出する検査を行い、クラミジア感染症の診断を下します。検査には通常、陰茎や子宮頸部の分泌物を使用します。ときに、女性には綿棒を使用して腟からサンプルを採取するように求められることがあります。このような検査の中には、尿サンプルを使用できるものもあります。尿のサンプルを使用できる場合、サンプル採取のために陰茎に綿棒を挿入したり、婦人科内診を受けたりする煩わしさを回避することができます。
医師がのどまたは直腸の感染を疑った場合、それらの部位から採取されたサンプルが検査されることがあります。
よく同時に感染がみられる淋菌感染症も、同じサンプルで診断することができます。通常はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症と梅毒の有無を調べる血液検査も行われます。
ウレアプラズマ属 Ureaplasmaやマイコプラズマ属 Mycoplasmaの細菌による性器感染症に対する特異的な検査は通常行われませんが、マイコプラズマについては新しい診断検査が利用可能になっています。特徴的な症状があり、淋菌感染症やクラミジア感染症の可能性が否定された人が、これらの感染症と診断されることがあります。
スクリーニング
クラミジア感染症は非常に一般的であり、また感染した女性の多くで症状がみられないため、性的に活動的な女性と男性には、クラミジア感染症と他の性感染症に対するスクリーニング検査が推奨されます。
妊娠していない女性は、感染リスクを高める以下の条件に当てはまる場合にスクリーニング検査を受けます。
以下の妊婦は最初の妊婦健診でスクリーニング検査を受け、第3トリメスター(訳注:日本の妊娠後期にほぼ相当)に再度検査を受けます。
妊婦にクラミジア感染症がある場合は治療を行い、治療の3~4週間後に再検査を行って、感染が排除されたかどうかを判断します。このような女性は3カ月以内にさらにもう一度検査を受けます。
異性愛者の男性は、クラミジア感染症のリスクが高い場合(複数のセックスパートナーがいる場合、青年クリニックや性感染症クリニックに通っている場合、または刑務所などの矯正施設に収容される場合など)にはスクリーニングを受けます。
同性愛者の男性は、以下の場合にスクリーニングを受けます。
このような男性には、コンドームを使用しているかどうかに関係なくスクリーニングが行われます。検査は、直腸、尿道、またはオーラルセックスをしている場合、のどから採取したサンプルを使用して行われます。
予防
クラミジア感染症(やその他の性感染症)の予防には、以下の一般的な対策が役立ちます。
-
コンドームを常に正しく使用する({blank} コンドームの使用法)
-
セックスパートナーを頻繁に変えたり、売春婦と性交したり、他のセックスパートナーがいる相手と性交したりするといった安全でない性行為を避ける
-
感染症の迅速な診断と治療(感染の拡大を防ぐため)
-
感染者の性的接触を把握し、それらの接触に対するカウンセリングや治療を行う
最も確実な性感染症の予防方法は、性行為(肛門性交、腟性交、オーラルセックス)を行わないことですが、これは往々にして非現実的です。
治療
クラミジア、ウレアプラズマ、マイコプラズマ感染は、次のいずれかの抗菌薬で治療されます。
妊婦はアジスロマイシンで治療されます。
淋菌感染症の可能性がある場合、その治療のためにセフトリアキソンなどの抗菌薬の筋肉内注射が同時に行われます。このような治療が必要とされるのは、この2つの感染症の症状が似ているためで、また両方の感染症に同時にかかっている人が多いためでもあります。
次のいずれかの理由により、症状が続いたり再発したりする場合があります。
そのような場合、クラミジア感染症と淋菌感染症の検査が再度行われ、ときには他の感染症の検査も行われます。そして、アジスロマイシン、またはアジスロマイシンを以前に使用したときに効果がなかった場合はモキシフロキサシンが投与されます。
できればセックスパートナーも同時に治療を受けるべきです。感染者とセックスパートナーは、治療を1週間以上続けるまで性交を控えるべきです。
3~4カ月以内にクラミジアをはじめとする性感染症に再び感染するリスクが高いため、その時期に再度スクリーニング検査を受ける必要があります。