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トキソプラズマ症

執筆者:

Richard D. Pearson

, MD, University of Virginia School of Medicine

最終査読/改訂年月 2018年 1月
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トキソプラズマ症は、単細胞の寄生虫であるトキソプラズマ原虫 Toxoplasma gondiiによる感染症です。通常は症状を引き起こしませんが、一部の患者ではリンパ節の腫れ、発熱、漠然とした体調の悪さがみられ、ときにはのどの痛みまたはかすみ目や眼の痛みが現れることもあります。エイズまたは他の病気によって免疫機能が低下している人では、トキソプラズマ症が再活性化することがあり、その場合、通常は脳に影響が及びます。感染症が再活性化すると、脱力、錯乱、けいれん発作、または昏睡をもたらしたり、全身に広がったりすることがあります。出生前の胎児が感染すると(先天性感染症と呼ばれます)、先天異常、視力障害、けいれん発作、知的障害、その他の異常が生じることがあります。

  • 汚染されたものから口に寄生虫の虫卵が入ったり、汚染された食べものを食べたりすることで感染が起こります。

  • たいていの場合、この感染症による症状は、ほとんどまたは一切みられません。

  • 妊娠中に感染した女性では、寄生虫が胎児に移動し、流産や死産、または新生児の重篤な障害につながることがあります。

  • 一般的には免疫機能が低下している人にのみ重度の症状が生じ、その場合、通常の原因は脳の炎症(脳炎)で、体の片側の筋力低下や錯乱、昏睡が生じることがあります。

  • 免疫機能が低下している人では、頻度は低いものの、他の臓器が侵されることもあります。

  • この感染症の診断は通常、寄生虫に対する抗体を検出する血液検査を行うことで下されます。

  • 肉類を十分に加熱調理するか冷凍し、生の肉、土、ネコのトイレを触った後には十分手を洗うようにすると、感染拡大の予防に役立ちます。

  • ほとんどの健康な患者では治療は不要ですが、症状が現れた成人と感染している新生児や乳児には、ピリメタミンとスルファジアジンに加えてロイコボリンが投与されます。

寄生虫感染症の概要も参照のこと。)

トキソプラズマ原虫 Toxoplasma gondiiは世界中のネコのいる地域に存在します。この寄生虫は人間だけでなく多くの種類の動物に感染します。米国では多くの人が感染していますが、症状が出る人はほとんどいません。重度の感染症は通常、胎児か、エイズ、がん、または免疫抑制薬(免疫系の機能を抑える薬)の使用(特に臓器移植後の拒絶反応を抑えるための使用)によって免疫機能が低下している人にのみ起こります。

知っていますか?

  • トキソプラズマ原虫はネコの腸でのみ産卵します。

この寄生虫は様々な動物の組織で成長しますが、虫卵であるオーシストが産みつけられるのはネコの腸の内皮細胞だけです。虫卵はネコの糞とともに排出され、1~5日後には感染を起こせるようになります。土壌中の虫卵は数カ月にわたり感染能力を有します。野鳥、げっ歯類、シカや多くの家畜(特にブタとヒツジ)が、ネコの糞に汚染された餌や土に含まれている虫卵を食べることがあります。この虫卵は、タキゾイトと呼ばれる形態の寄生虫を放出します。タキゾイトは動物の組織に広がり、やがてシストを形成します。

トキソプラズマ原虫 Toxoplasma gondii のライフサイクル

  • 1a.トキソプラズマ原虫 Toxoplasma の虫卵はネコの糞とともに排出されます。多数の虫卵が排泄されますが、その期間は通常、1~2週間だけです。環境内で1~5日が経過した後、虫卵は感染を起こせるようになります。

  • 1b.ネコは虫卵で汚染された食べものや他のものを食べて再感染することがあります。

  • 2.他の動物(野鳥、げっ歯類、シカ、ブタ、ヒツジなど)が、汚染された土、水、植物、またはネコのトイレの中に存在する虫卵を体内に取り込んで感染することがあります。

  • 3.虫卵は動物の体内に入ってすぐ、移動できる形態の寄生虫(タキゾイト)を放出します。

  • 4.タキゾイトは動物の体内に広がり、神経や筋肉組織でシストを作ります。

  • 5.ネコがこのシストを含んだ動物を食べると感染します。

  • 6a.人間が、こうしたシストを含む肉を加熱調理が不十分な状態で食べ、感染することもあります。

  • 6b.また、人間がネコの糞で汚染された食べものや水、または他のもの(土など)を食べたり、ネコのトイレを扱った手で口を触ったりすることで感染することもあります。

  • 7.まれに、寄生虫を含む輸血や臓器移植を受けて感染することもあります。

  • 8.まれに、母親から子に伝染することがあります。

  • 9.人間の場合、寄生虫は筋肉や心臓、脳、眼などの組織でシストを形成します。シストは、その人の生涯にわたり症状を引き起こさず体内に残ることがあります。病気や薬の作用によってその人の免疫機能が低下すると、シストが活性化して、症状を引き起こすことがあります。

トキソプラズマ原虫  <i>Toxoplasma gondii</i> のライフサイクル

トキソプラズマ Toxoplasma の感染経路

人間への感染は、以下のようにいくつかの経路で起こります。

  • トキソプラズマ Toxoplasmaの虫卵を含むネコの糞で汚染された食べものや水、または他のもの(土など)を食べる

  • トキソプラズマ Toxoplasmaのシストを含む肉を食べる

  • 新たに感染した母親から胎児に伝染する

  • まれに、寄生虫を含む血液の輸血や臓器の移植を受けて感染する

汚染されたネコのトイレや土などの物体に触れた後に、手を洗わずに口を触ったりものを食べたりすると、トキソプラズマ Toxoplasmaの虫卵を飲み込んでしまうことがあります。また、感染した動物の肉(豚肉やラム肉が多い)を生の状態や加熱調理が不十分な状態で食べることで、シストを飲み込んでしまうこともあります。

まれに、感染者からの輸血や臓器移植で感染することもあります。

妊娠中のトキソプラズマ症

妊婦が感染すると、胎盤を通して胎児にトキソプラズマ原虫 Toxoplasma gondiiが伝染することがあります。妊娠の初期に胎児に感染した場合の方が重症となります。その結果、胎児の発育が遅れたり、早産、流産、死産、または先天異常が生じたりします。先天性トキソプラズマ症は、後年に視覚障害、けいれん発作、知的障害を引き起こす可能性があります。

妊娠前に感染した女性では、(HIV感染症などにより)免疫機能が低下して感染症が再活性化している場合を除いて、寄生虫が胎児に移ることはありません。

免疫機能が低下している人のトキソプラズマ症

免疫機能が低下している人、特にエイズまたはがんの患者や、臓器移植後の拒絶反応を抑える薬を使用している人は、トキソプラズマ症を発症するリスクが高くなります。過去に感染したことがある人では、免疫機能を低下させる病気が発生したときや免疫系の働きを抑制する薬(免疫抑制薬)を使用したときに、感染症が再活性化することがあります。

感染が再活性化した場合は症状が現れます。初回の感染では、多くの場合、症状はみられません。感染症が再活性化すると、通常は脳が侵されますが、眼や全身に広がる(播種[はしゅ]される)こともあります。

免疫機能が低下している人では、トキソプラズマ症は非常に重篤な病気で、治療しなければ死に至ることもあります。

症状

免疫機能が正常な人の大半では、トキソプラズマ症の症状はほとんどみられず、完全に回復します。しかし、このような人の約10~20%では、痛みのないリンパ節の腫れがみられます。さらに少数では、間欠的な微熱、漠然とした体調不良、筋肉痛、ときにのどの痛みがみられることがあります。こうした症状は自然に、通常は数週間以内に消失します。

先天性トキソプラズマ症

先天性トキソプラズマ症の小児は、重症で出生前や生後すぐに死亡する場合もあれば、先天異常やその他の症状がみられる場合もあります。中にはずっと健康な小児もいます。あるいは最初は健康に見えるものの、数カ月から数年後に症状(けいれん発作、知的障害、脈絡網膜炎など)を呈する小児もいます。

新生児の典型的な症状には、以下のものがあります。

  • 眼球後部の内側の膜と網膜の感染症(脈絡網膜炎

  • 肝臓と脾臓の腫大

  • 黄疸

  • 発疹

  • あざができやすい

  • けいれん発作

  • 脳内に水分がたまっているため頭が大きい(水頭症

  • 頭が小さい(小頭症

  • 知的障害

脈絡網膜炎は、かすみ目、眼の痛み、光に対する過敏性、失明をもたらすことがあります。

免疫機能が低下している人の症状

免疫機能が低下している人がトキソプラズマ症にかかった場合は、以下の通り、感染部位に応じた症状が現れます。

  • 脳のトキソプラズマ症(脳炎):体の左右片側の筋力低下、言語障害、視覚障害、頭痛、錯乱、けいれん発作、昏睡など

  • 全身に広がったトキソプラズマ症(急性播種性トキソプラズマ症):発疹、発熱、悪寒、呼吸困難、疲労感

一部の人(通常、免疫機能が著しく低下している人)では、トキソプラズマ症が肺の炎症(肺炎)、心臓の炎症(心筋炎)、頻度は下がりますが肝臓の炎症(肝炎)の原因となります。侵された臓器は十分に機能しなくなることがあります(臓器不全と呼ばれる状態)。治療しなければ、この種のトキソプラズマ症は通常、死に至ります。

診断

  • 寄生虫に対する抗体を検出する血液検査

  • 脳が侵されている可能性がある場合は、CT検査またはMRI検査とその後の腰椎穿刺

トキソプラズマ症の診断は通常、寄生虫に対する抗体を検出する血液検査の結果に基づいて下されます。(抗体とは、寄生虫などによる攻撃から体を守るために免疫系が作り出すタンパクです。)血液検査は、新たに生じた感染症の診断に用いられます。

ときに、血液または腰椎穿刺によって採取される髄液(脳と脊髄の周囲を流れている体液)のサンプルを用いて、寄生虫の遺伝物質(DNA)を確認する検査が行われることもあります。

免疫機能が低下しているもののトキソプラズマ症の症状はみられない人に、血液検査が行われることがあります。この検査は、免疫系がさらに弱まった場合に再活性化する可能性がある過去の感染の証拠がないか探すために行います。しかし、エイズによって免疫系の機能に障害がある場合には、血液検査で実際に存在している感染が検出されない(偽陰性の結果がでる)ことがあります。

患者が眼の問題を訴えている場合、医師は眼を調べて、トキソプラズマ症に典型的な損傷がないか確認し、血液検査を行い、寄生虫に対する抗体がないか調べます。

胎児が感染しているかどうかを確認するには、胎児の周囲を満たしている液体(羊水)を採取します(羊水穿刺と呼ばれる処置)。この液体の中に、寄生虫に対する抗体や寄生虫の遺伝物質がないかを調べる検査が行われます。妊娠中または胎児もしくは新生児のトキソプラズマ症の診断は難しいため、医師はしばしば専門医に相談します。

脳のトキソプラズマ症が疑われる場合、頭部のCT検査やMRI検査が行われ、通常はその後、腰椎穿刺によって検査用の髄液のサンプルが採取されます。比較的まれですが、寄生虫を特定するために感染した脳の組織を採取し、顕微鏡で調べること(生検)もあります。

予防

妊婦はネコとの接触を避けるべきです。接触が避けられない場合は、せめてネコのトイレ掃除をしないか、手袋を着用して掃除するようにします。

肉類は74~77℃以上の温度で十分に加熱調理し、生の肉、土、ネコのトイレを触った後は十分に手を洗います。

臓器移植のドナーになる人は、移植臓器を介して寄生虫感染が起こらないように検査を受ける必要があります。

免疫機能を低下させるエイズなどの病気の患者には、トキソプラズマ症の再活性化を予防するためにトリメトプリム-スルファメトキサゾール(抗菌薬)を用いることがあります。この薬を使用できない患者には、ピリメタミン(マラリアの治療薬)とスルファジアジンまたはクリンダマイシン(抗菌薬)を併用します。別の選択肢としては、アトバコン(抗原虫薬)の単独投与やピリメタミンとの併用、ジアフェニルスルホンとピリメタミンの併用などがあります。ピリメタミンは骨髄での血球の生産を減少させることがあるため、ロイコボリン(ホリナートとも呼ばれる)を併用することで、この副作用を予防します。

エイズ患者には、抗レトロウイルス薬も投与します。この薬は、患者の免疫系を強化して、トキソプラズマ症が再活性化するリスクを低下させます。

治療

  • ピリメタミンと、スルファジアジン、クリンダマイシン、またはアトバコンのいずれかに加えてロイコボリン

  • 眼の感染症には、トキソプラズマ症に効果的な薬とコルチコステロイド

免疫機能が正常で症状がみられない大半の感染者では、治療は不要です。

症状がみられる人には、ピリメタミン、スルファジアジン、ロイコボリンを併用した治療が行われます。ロイコボリンは、ピリメタミンの副作用である骨髄での血球生産の減少を予防するために投与されます。ピリメタミンが入手できない場合は、トリメトプリム-スルファメトキサゾールで代用できます。スルファジアジンを使用できない場合は、代わりにクリンダマイシンまたはアトバコンが使用されます。

免疫機能が正常なら、治療期間は通常、数週間になります。

免疫機能を低下させるエイズなどの病気の患者にも同じ薬が投与されますが、投与期間はより長く(通常は6週間)、免疫系の機能が改善するまで投与が続けられます。

エイズ患者ではトキソプラズマ症が再発しやすいため、免疫系の機能に改善がみられ(CD4陽性細胞数が増加し)症状が治まらない限り、トキソプラズマ症を抑制する薬が無期限に投与されます。医師は、最も効果的な抗レトロウイルス薬を使用するようにします。

眼の感染症がある人には、ピリメタミンとスルファジアジン(またはクリンダマイシン)にロイコボリンを組み合わせて使用することがあります。通常は、炎症を抑える目的で、同時にプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などのコルチコステロイドが投与されます。

妊婦がトキソプラズマ症にかかった場合は、妊娠中にトキソプラズマ症の専門医の診察を受ける必要があります。薬の選択は複雑で、妊婦が感染症にかかった時期(第1、第2、第3トリメスター[訳注:それぞれ日本の妊娠初期、中期、後期にほぼ相当]のいずれか)と胎児にも感染しているかどうかによって異なります。ピリメタミンは先天異常を引き起こす可能性があるため、第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)の間は使用されません。トキソプラズマ症が母親から胎児に感染するのを予防するため、第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)にスピラマイシン(抗菌薬)が使用されることがあります。スピラマイシンは米国では市販されていませんが、医師は米国食品医薬品局(FDA)から入手できます。

誕生前に感染した新生児には、出生後の1年間にわたって、ピリメタミン、スルファジアジン、ロイコボリンを投与します。

知っていますか?

  • 妊婦がトキソプラズマ症にかかった場合は、妊娠中にトキソプラズマ症の専門医の診察を受ける必要があります。

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