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トキソプラズマ症

執筆者:

Richard D. Pearson

, MD, University of Virginia School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 12月
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トキソプラズマ症は、単細胞の寄生虫であるトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)によって引き起こされる感染症です。ネコの糞に含まれるトキソプラズマのシストを知らずに摂取したり、汚染された肉を食べたりすることで感染が起きます。通常は無症状ですが、一部の患者ではリンパ節の腫れ、発熱、漠然とした体調の悪さがみられ、ときにはのどの痛みまたはかすみ目や眼の痛みが現れることもあります。エイズまたは他の病気によって免疫機能が低下している人では、トキソプラズマ症が再活性化することがあり、その場合、通常は脳に影響が及びます。感染症が再活性化すると、脱力、錯乱、けいれん発作、または昏睡をもたらしたり、全身に広がったりすることがあります。出生前の胎児が感染すると(先天性感染症と呼ばれます)、先天異常、視力障害、けいれん発作、知的障害、その他の異常が生じることがあります。

トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)は世界中のネコのいる地域に存在します。この寄生虫は人間だけでなく多くの種類の動物に感染します。米国では多くの人が感染していますが、症状が出る人はほとんどいません。重症の感染症は通常、胎児のほか、 免疫機能を低下させる病気 免疫不全を起こす可能性のある病気 免疫不全を起こす可能性のある病気 エイズ ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 がん がんの概要 がんは、細胞が異常に増殖する病気です(通常は1つの異常な細胞から発生します)。がん細胞は正常な制御メカニズムを失っているため、増殖を続けたり、周辺の組織に侵入したり、体の離れた部位に移動したり、がん細胞が栄養を獲得できるように新しい血管の成長を促したりすることができます。悪性(がん)細胞は全身のあらゆる組織から発生する可能性があります。... さらに読む など)があるか、免疫系の機能を抑える薬(免疫抑制薬 免疫不全を引き起こす可能性がある主な薬剤 免疫不全を引き起こす可能性がある主な薬剤 )を(特に臓器移植後の拒絶反応を抑えるために)使用している人にのみ起こります。

知っていますか?

  • トキソプラズマ原虫はネコの腸でのみ産卵します。

この寄生虫は様々な動物の組織で成長しますが、虫卵であるオーシストが産みつけられるのはネコの腸の内皮細胞だけです。虫卵はネコの糞とともに排出され、1~5日後には感染を起こせるようになります。土壌中の虫卵は数カ月にわたり感染能力を有します。野鳥、げっ歯類、シカや多くの家畜(特にブタとヒツジ)が、ネコの糞に汚染された餌や土に含まれている虫卵を食べることがあります。この虫卵は、タキゾイトと呼ばれる形態の寄生虫を放出します。タキゾイトは動物の組織に広がり、やがてシストを形成します。

トキソプラズマ原虫のライフサイクル

  • 1a.トキソプラズマ原虫(Toxoplasma )の虫卵はネコの糞とともに排出されます。多数の虫卵が排泄されますが、その期間は通常、1~2週間だけです。環境内で1~5日が経過した後、虫卵は感染を起こせるようになります。

  • 1b.ネコは虫卵で汚染された食べものや他のものを食べて再感染することがあります。

  • 2.他の動物(野鳥、げっ歯類、シカ、ブタ、ヒツジなど)が、汚染された土、水、植物、またはネコのトイレの中に存在する虫卵を体内に取り込んで感染することがあります。

  • 3.虫卵は動物の体内に入ってすぐ、移動できる形態の寄生虫(タキゾイト)を放出します。

  • 4.タキゾイトは動物の体内に広がり、神経や筋肉組織でシストを作ります。

  • 5.ネコがこのシストを含んだ動物を食べると感染します。

  • 6a.人間が、こうしたシストを含む肉を加熱調理が不十分な状態で食べ、感染することもあります。

  • 6b.また、人間がネコの糞で汚染された食べものや水、または他のもの(土など)を食べたり、ネコのトイレを扱った手で口を触ったりすることで感染することもあります。

  • 7.まれに、寄生虫を含む輸血や臓器移植を受けて感染することもあります。

  • 8.まれに、母親から子に伝染することがあります。

  • 9.人間の場合、寄生虫は筋肉や心臓、脳、眼などの組織でシストを形成します。シストは、その人の生涯にわたり症状を引き起こさず体内に残ることがあります。病気や薬の作用によってその人の免疫機能が低下すると、シストが活性化して、症状を引き起こすことがあります。

トキソプラズマ原虫のライフサイクル

感染経路

トキソプラズマ症は、以下のようにいくつかの経路で人に感染します。

  • トキソプラズマ Toxoplasmaの虫卵を含むネコの糞で汚染された食べものや水、または他のもの(土など)を食べる

  • トキソプラズマ Toxoplasmaのシストを含む肉を食べる

  • 新たに感染した母親から胎児に伝染する

  • まれに、寄生虫を含む血液の輸血や臓器の移植を受けて感染する

汚染されたネコのトイレや土などの物体に触れた後に、手を洗わずに口を触ったりものを食べたりすると、トキソプラズマ Toxoplasmaの虫卵を飲み込んでしまうことがあります。また、感染した動物の肉(豚肉やラム肉が多い)を生の状態や加熱調理が不十分な状態で食べることで、シストを飲み込んでしまうこともあります。

まれに、感染者からの輸血や臓器移植で感染することもあります。

妊娠中のトキソプラズマ症

妊婦が感染すると、胎盤を通して胎児にトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)が伝染することがあります。妊娠の初期に胎児に感染した場合の方が重症となります。その結果、胎児の発育が遅れたり、早産、流産、死産、または先天異常が生じたりします。先天性トキソプラズマ症は、後年に視覚障害、けいれん発作、知的障害を引き起こす可能性があります。

妊娠前に感染した女性では、(HIV感染症などにより)免疫機能が低下して感染症が再活性化している場合を除いて、寄生虫が胎児に移ることはありません。

免疫機能が低下している人のトキソプラズマ症

感染の再活性化は、脳で起こることが最も多いと考えられますが、眼で起きたり、全身に広がったりする(播種[はしゅ])こともあります。

免疫機能が低下している人では、トキソプラズマ症は非常に重篤な病気で、治療しなければ死に至ることもあります。

トキソプラズマ症の症状

免疫機能が正常な人の大半では、トキソプラズマ症の症状はほとんどみられず、完全に回復します。しかし、このような人の約10~20%では、痛みのないリンパ節の腫れがみられます。さらに少数では、間欠的な微熱、漠然とした体調不良、筋肉痛、ときにのどの痛みがみられることがあります。こうした症状は自然に、通常は数週間以内に消失します。

先天性トキソプラズマ症

先天性トキソプラズマ症の小児は、重症で出生前や生後すぐに死亡する場合もあれば、先天異常がみられる場合もあります。中にはずっと健康な小児もいます。あるいは最初は健康に見えるものの、数カ月から数年後に症状(けいれん発作、知的障害、視覚障害など)を呈する小児もいます。

新生児の典型的な症状には、以下のものがあります。

脈絡網膜炎は、かすみ目、眼の痛み、光に対する過敏性、失明をもたらすことがあります。

免疫機能が低下している人の症状

  • 脳のトキソプラズマ症(脳炎):体の左右片側の筋力低下、言語障害、視覚障害、頭痛、錯乱、けいれん発作、昏睡など

  • 全身に広がったトキソプラズマ症(急性播種性トキソプラズマ症):発疹、発熱、悪寒、呼吸困難、疲労感

トキソプラズマ症の診断

免疫機能が低下しているもののトキソプラズマ症の症状はみられない人に、血液検査が行われることがあります。この検査は、免疫系がさらに弱まった場合に再活性化する可能性がある過去の感染の証拠がないか探すために行います。しかし、エイズによって免疫機能に障害がある場合には、血液検査で実際に存在している感染が検出されない(偽陰性の結果がでる)ことがあります。

患者が眼の問題を訴えている場合、医師は眼を調べて、トキソプラズマ症に典型的な損傷がないか確認し、血液検査を行い、寄生虫に対する抗体がないか調べます。

脳のトキソプラズマ症が疑われる場合、頭部の CT検査 CT検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む CT検査 MRI検査 MRI検査 MRI検査は、強い磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強い磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置の中で発生するような強い磁場の中に... さらに読む MRI検査 が行われ、通常はその後、 腰椎穿刺 腰椎穿刺 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む 腰椎穿刺 によって検査用の髄液のサンプルが採取されます。比較的まれですが、寄生虫を特定するために感染した脳の組織を採取し、顕微鏡で調べたり、寄生虫の遺伝物質(DNA)がないか検査したりすることもあります。

トキソプラズマ症の予防

妊婦はネコとの接触を避けるべきです。接触が避けられない場合は、せめてネコのトイレ掃除をしないか、手袋を着用して掃除するようにします。

肉類は74~77℃以上の温度で十分に加熱調理し、生の肉、土、ネコのトイレを触った後は十分に手を洗います。

臓器移植のドナーになる人は、移植臓器を介して寄生虫感染が起こらないように検査を受ける必要があります。

免疫機能を低下させるエイズなどの病気の患者には、トキソプラズマ症の再活性化を予防するためにトリメトプリム-スルファメトキサゾール(抗菌薬)を用いることがあります。この薬を使用できない患者には、ピリメタミン(抗原虫薬)とスルファジアジンまたはクリンダマイシン(抗菌薬)を併用します。別の選択肢としては、アトバコン(抗原虫薬)の単独投与やピリメタミンとの併用、またはジアフェニルスルホンとピリメタミンの併用などがあります。ピリメタミンは骨髄での血球の生産を減少させることがあるため、ロイコボリン(ホリナートとも呼ばれます)を併用することで、この副作用を予防します。

トキソプラズマ症の治療

  • ピリメタミンとスルファジアジン、クリンダマイシン、またはアトバコンのいずれかに加えてロイコボリン;あるいは、トリメトプリム-スルファメトキサゾール

  • 眼の感染症には、トキソプラズマ症に効果的な薬とコルチコステロイド

免疫機能が正常で症状がみられない大半の感染者では、治療は不要です。

トキソプラズマ症の症状がみられる人には、ピリメタミン、スルファジアジン、ロイコボリンを併用した治療が行われます。ロイコボリンは、ピリメタミンの副作用である骨髄での血球生産の減少を予防するために投与されます。スルファジアジンを使用できない人には、代わりにクリンダマイシンまたはアトバコンが使用できます。ピリメタミンが入手できない場合は、トリメトプリム-スルファメトキサゾールが使用されます。

免疫機能が正常なら、治療期間は通常、数週間になります。

免疫機能を低下させるエイズなどの病気がある患者にも同じ薬が投与されますが、感染の徴候がすべてなくなるまで、より長期(通常は少なくとも6週間)にわたって治療を続けることになります。再発はよくみられ、長期維持療法にはいくつかの選択肢があり、これは免疫系の機能が改善するまで継続されます。

エイズ患者では、トキソプラズマ症が再発する傾向があるため、免疫機能の改善(CD4陽性細胞数 モニタリング ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む モニタリング が許容可能な水準まで増加することで示されます)がみられない限り、トキソプラズマ症をコントロールするための薬が無期限に投与されます。医師は、最も効果的な抗レトロウイルス薬を使用するようにします。

眼の感染症がある人には、ピリメタミンとスルファジアジン(またはクリンダマイシン)にロイコボリンを組み合わせて使用することがあります。トリメトプリム-スルファメトキサゾールは代替薬です。炎症を抑えるため、通常は同時にプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などのコルチコステロイドも投与されます。

妊婦がトキソプラズマ症にかかった場合は、妊娠中にトキソプラズマ症の専門医の診察を受ける必要があります。薬の選択は複雑で、妊婦が感染症にかかった時期(第1、第2、第3トリメスター【訳注:それぞれ日本でいう妊娠初期、中期、後期にほぼ相当】のいずれか)と胎児にも感染しているかどうかによって異なります。ピリメタミンは先天異常を引き起こす可能性があるため、第1トリメスター【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】の間は使用されません。トキソプラズマ症が母親から胎児に感染するのを予防するため、第1トリメスター【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】にスピラマイシン(抗菌薬)が使用されることがあります。スピラマイシンは米国では市販されていません。

誕生前に感染した新生児には、出生後の1年間にわたって、ピリメタミン、スルファジアジン、ロイコボリンを投与します。

知っていますか?

  • 妊婦がトキソプラズマ症にかかった場合は、妊娠中にトキソプラズマ症の専門医の診察を受ける必要があります。

トキソプラズマ症に関するさらなる情報

  • 米国疾病予防管理センター:トキソプラズマ症(Centers for Disease Control and Prevention: Toxoplasmosis)

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