淡水のカニやザリガニを生や加熱調理が不十分なまま、あるいは塩漬けや酢漬けにして食べたときに、一緒に吸虫(幼虫)の入ったシストを飲み込むことで感染します。
感染者には、下痢、腹痛、発熱、せき、かゆみなどの症状がみられ、肺などの臓器の損傷のために後から症状が現れることもあります。
虫卵がたんや飲み込んだたんとともに排出された便のサンプル中に確認できれば、この感染症と診断されます。
体内から吸虫を駆除するために、プラジカンテルなどの薬を投与します。
吸虫 吸虫感染症の概要 吸虫は寄生性の扁形動物です。吸虫には多くの種類があります。種類によって、感染する場所が異なる傾向があります。 吸虫は以下の部位に感染します。 消化器系または泌尿器系の血管:住血吸虫属( 住血吸虫症) 腸:肥大吸虫、異形吸虫、または関連する生物(... さらに読む は寄生性の扁形動物です。吸虫には多くの種類があります。種類によって、感染する場所が異なる傾向があります。肺吸虫属には30を超える種が属し、そのうち10種が人に感染して肺吸虫症を引き起こします。しかし、肺吸虫症の症例のほとんどは以下の種が原因となります。
ウェステルマン肺吸虫 Paragonimus westermani
淡水のカニやザリガニを生や加熱調理が不十分なまま、あるいは塩漬けや酢漬けにして食べたときに、一緒に未成熟な吸虫(幼虫)の入ったシストを飲み込むことで、人間が肺の吸虫感染症に感染します。この種の感染症は、アジアで特に多くみられます。(寄生虫感染症の概要 寄生虫感染症の概要 寄生虫とは、他の生物(宿主[しゅくしゅ])の体表や体内にすみつき、宿主を利用して(例えば、栄養素を奪うことによって)生きている生物のことです。この定義は実際には細菌、真菌、ウイルスなど多くの微生物に当てはまりますが、「寄生虫」という用語は以下のものを指して用いられます。 単一の細胞のみで構成される原虫(... さらに読む も参照のこと。)その他の種類の肺吸虫 Paragonimusは、アフリカと中南米、まれに北米で肺吸虫症を引き起こします。
人間がシストを飲み込むと、体内でそのシストから幼虫が出てきて、腸壁を通り抜け腹腔に入ります。さらに幼虫は横隔膜を越え、肺に侵入します。移動した先で幼虫が成虫になり、産卵します。治療しなければ、成虫は20年生存できます。
吸虫は脳や肝臓、リンパ節、皮膚、または脊髄に入ることもあり、そこでシストを形成して産卵します。しかしこれらの臓器に入ると、虫卵が体外に排出されないため、ライフサイクルはそこで途切れます。
肺で産卵された虫卵は、せきによって引き上げられ、たんとして吐き出されるか飲み込まれて、便とともに体外に排出されます。その虫卵が淡水中に排出されると、幼虫がふ化して巻貝に摂食されます。巻貝の体内で、幼虫は泳ぐ能力をもつ形態(セルカリア)に成長します。セルカリアは感染した巻貝から放出された後、カニやザリガニに感染し、シストを形成します(メタセルカリア)。
症状
肺の吸虫感染症に感染した直後に、下痢、腹痛、発熱、せき、かゆみなどが現れることがあります。
その後、感染症により主に肺が損傷を受けますが、他の臓器(皮膚を含む)に影響が及ぶこともあります。慢性のせき、胸痛、呼吸困難などの症状が徐々に現れます。せきとともに血を吐くこともあります。皮膚にこぶが形成されることがあります。
脳が感染症に侵されると、けいれん発作、言葉の使用や理解の問題、視覚障害がみられることがあります。麻痺が起こる場合もあります。
診断
たんや便のサンプルの検査
ときに寄生虫に対する抗体を検出する血液検査
肺の画像検査
たんまたは便のサンプル中に虫卵が確認できれば、肺の吸虫感染症と診断されます。ときとして、肺から体液のサンプルを採取して虫卵の有無を調べることがあります。虫卵は一度に少ししか放出されず、定期的に放出されるわけでもないため、見つけるのは難しいことがあります。検査室では、虫卵の識別を容易にする特殊な濃縮技術が使用されることがあります。
寄生虫に対する抗体を検出する血液検査が役立つことがあります。(抗体 抗体 体の防御線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっており、白血球は血流に乗って体内を巡り、組織に入り込んで微生物などの異物を見つけ出し、攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防御は以下の2つの部分に分かれています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識したときに始まります。そして、獲... さらに読む とは、寄生虫などによる攻撃から体を守るために免疫系が作り出すタンパク質です。)
また、肺などの臓器に損傷がないか確認するために、 X線検査 単純X線検査 X線は高エネルギーの放射線で、程度の差こそあれ、ほとんどの物質を通過します。医療では、極めて低線量のX線を用いて画像を撮影し、病気の診断に役立てる一方、高線量のX線を用いてがんを治療します(放射線療法)。 X線は単純X線検査のように単独で使用することもありますが、 コンピュータ断層撮影(CT)などの他の手法と組み合わせて使用することもあります。( 画像検査の概要も参照のこと。)... さらに読む や胸部の CT検査 CT(コンピュータ断層撮影)検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む が行われることもあります。
予防
肺吸虫感染症がみられる地域への旅行者は、予防策として、生や加熱調理が不十分なままでカニやザリガニを食べないようにします。
治療
体内の吸虫を駆除する薬
ときに手術
肺吸虫感染症は、体内から吸虫を駆除するプラジカンテルという薬(抗蠕虫薬)で治療します。ほかにトリクラベンダゾール(triclabendazole)があります。
脳に感染している場合、コルチコステロイドが投与されることもあります。コルチコステロイドは、薬が吸虫を殺すときに発生する炎症を制御するのに役立ちます。けいれん発作のコントロールには抗てんかん薬が用いられます。
ときに、皮膚にできたこぶや、まれですが脳内のシストを手術で切除しなければならないことがあります。