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造血幹細胞移植

執筆者:

Martin Hertl

, MD, PhD, Rush University Medical Center

レビュー/改訂 2022年 8月
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本ページのリソース

造血幹細胞移植とは、健康な人から幹細胞(未分化細胞)を採取し、重篤な血液疾患がある人にそれを注射することです。

幹細胞は未分化の細胞で、分裂しながら、より分化した他の細胞に変わっていきます。幹細胞は以下のものから採取することができます。

  • 静脈からの採血

  • 骨髄(骨髄移植)

  • 生まれてすぐの新生児の臍帯血(母親が提供)

手技による体への負担が少なく、正常な血球数への回復が早いため、骨髄よりも血液からの採取が好まれます。通常、臍帯血からの幹細胞は小児のみに使用されます。これは、臍帯血には成人に使用できるほど十分な量の幹細胞が含まれていないためです。

幹細胞とは

幹細胞は未分化の細胞で、血液、神経、筋肉、心臓、分泌腺、皮膚など、体内の200種類もの細胞に変化する能力をもっています。

なかには、体内のあらゆる細胞になる能力をもつ幹細胞もあります。また、すでに分化が一部進んでいる幹細胞もあり、こういった細胞には、例えばある種の神経細胞にだけなれる幹細胞があります。

幹細胞は、特定の細胞への分化を開始するまでは単純に分裂し、幹細胞として増殖します。分裂が進むにつれ、分化が始まって一定の特性をもつようになり、他の細胞に分化する能力を失って一種類の細胞にしかなれなくなります。

研究者らが期待しているのは、幹細胞をパーキンソン病、糖尿病、脊髄損傷などの疾患により損傷または破壊された細胞や組織を修復したり、置き換えたりするのに利用できるのではないかということです。特定の遺伝子を誘導することで幹細胞を分化させ、置き換えが必要な細胞をつくることができる可能性があります。

これまでの研究では、幹細胞を以下のものから得ることに成功しています。

  • 胎児

  • へその緒の血液(臍帯[さいたい]血)

  • 小児または成人の骨髄

  • 人工多能性幹細胞(成人から採取した、幹細胞のような働きをするように変化することができる特定の細胞)

胚:体外受精の際には、まず男性の精子と女性の卵子(卵細胞)数個を一緒に培養皿に入れます。精子が卵子(卵細胞)に受精すると卵細胞は分裂して胚を形成します。これらの胚のうち一番元気なものをいくつか子宮に入れます。残りの胚は廃棄することもあれば、凍結保存しておいて必要になった場合に後で利用することもありますが、

この使わなかった胚から幹細胞を取り出すことができます。これにより使われなかった胚は完全な人間になるという本来の能力を失うことになるため、胚からの幹細胞の使用には賛否が分かれています。しかし、研究者らはこれらの幹細胞が、様々な細胞に分化し、移植した後も生き続ける可能性が最も高いと考えています。

胎児:発生して8週間以降の胚は胎児と呼ばれます。流産や中絶により死亡した胎児から幹細胞を採取することができます。

臍帯:出産後に、臍帯や胎盤の血液から幹細胞を採取することができます。これらの幹細胞から様々な種類の血球がつくられます。

小児と成人:小児と成人の骨髄と血液にも幹細胞が含まれています。これらの幹細胞は血液細胞にしかなれませんが、移植には最も多く用いられています。

人工多能性幹細胞:科学者らが開発中の方法で、他の細胞(血球または皮膚細胞など)が幹細胞として機能できるようにします(誘導)。誘導する細胞は成人から採取されます。細胞を誘導する方法の1つに、リプログラミングと呼ばれるプロセスがあり、遺伝子に影響を及ぼす物質を細胞に注入します。

幹細胞を人工的に作り出し、それを利用することは、まだ実験段階と考えられています。

幹細胞は理論的にはどの種類の細胞にもなりえますが、実際には幹細胞移植は主に、 白血病 白血病の概要 白血病は、白血球または成熟して白血球になる細胞のがんです。 白血球は骨髄の幹細胞から成長した細胞です。ときには成長がうまくいかずに、染色体の一部の並びが変化してしまうことがあります。こうして異常となった染色体により正常な細胞分裂の制御が失われ、この染色体異常がある細胞が無制限に増殖するようになったり、細胞がアポトーシス(不要になった細胞が... さらに読む 、特定の種類のリンパ腫(ホジキンリンパ腫 ホジキンリンパ腫 ホジキンリンパ腫は、リンパ球と呼ばれる 白血球のひとつががんになる病気で、リード・シュテルンベルク細胞と呼ばれる特殊ながん細胞が認められることで区別されます。 発生原因は分かっていません。 リンパ節の腫れがみられますが、通常は痛みを伴いません。 ほかにも、がん細胞が増殖している場所によっては、発熱、かゆみ、息切れなどの症状が出ることがあります。 診断にはリンパ節の生検が必要になります。 さらに読む を含む)、 再生不良性貧血 再生不良性貧血 再生不良性貧血は、成熟した血液の細胞へと成長する骨髄の細胞が傷つき、赤血球や白血球、血小板の数が少なくなる病気です。 成熟した血球や血小板になる骨髄細胞(幹細胞)が損傷を受けたり、抑制されたりすると、骨髄が機能不全に陥ることがあります。この骨髄不全のことを再生不良性貧血といいます。骨髄不全になると、赤血球の減少(貧血― 貧血の概要も参照)、白血球の減少( 白血球減少症)、血小板の減少(... さらに読む サラセミア サラセミア サラセミアは、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球中のタンパク質)を形成する4つのアミノ酸の鎖のうち1つの鎖の生産が不均衡なために生じる遺伝性疾患群です。 サラセミアの種類によって症状が異なります。 黄疸のほか、腹部の膨満感や不快感を訴える人もいます。 通常、診断には特別なヘモグロビン検査が必要です。 サラセミアが軽い場合は、ほとんど治療を必要としませんが、重症になれば、骨髄移植が必要になることもあります。 さらに読む 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症は、鎌状(三日月形)の赤血球と、異常な赤血球の過剰破壊による慢性貧血を特徴とする、遺伝性のヘモグロビン(酸素を運搬する赤血球内のタンパク質)の遺伝子異常です。 必ず貧血がみられ、ときとして黄疸がみられます。 貧血、発熱、息切れなどが悪化し、長管骨、腹部、胸部などに痛みを伴うと、鎌状赤血球症の疼痛発作(症状が急速に悪化する危険な状態)が疑われます。 電気泳動法と呼ばれる特別な血液検査を使用して、鎌状赤血球症かどうかを判定するこ... さらに読む 鎌状赤血球症 などの血液疾患に対する治療の一部として用いられています。ときに造血幹細胞移植は先天性の代謝疾患や免疫不全疾患(慢性肉芽腫症 慢性肉芽腫症(CGD) 慢性肉芽腫症は遺伝性の免疫不全疾患で、白血球の一種である食細胞が正常に機能しません。 慢性肉芽腫症の患者では、皮膚、肺、リンパ節、口、鼻、尿路、腸の長引く感染症がみられます。 この病気の診断は、血液検査の結果に基づいて下されます。 治療では、感染症を予防し、感染症にかかる回数や重症度を軽減する薬を用いるほか、輸血と幹細胞移植を行います。 ( 免疫不全疾患の概要も参照のこと。) さらに読む など)に対して行われます。

特定のがんに対して高用量化学療法や放射線療法を受けた患者で、造血幹細胞移植が行われることもあります。これらの治療を受けると、幹細胞を生産する骨髄が破壊されてしまいます。ときに、乳がんや神経芽腫(神経組織に発生する一般的な小児がん)のような臓器がんの治療で破壊された骨髄細胞と置き換えるために造血幹細胞移植が使用できます。医師らは造血幹細胞移植を用いて多発性硬化症など一部の自己免疫疾患の治療する方法の研究を行っています。

リンパ腫患者の約30~40%および白血病患者の20~50%では、造血幹細胞移植を含む治療後にがんが認められなくなります。造血幹細胞移植により、多発性骨髄腫患者の生存期間が延長します。乳がんに対する効果はそれほど高くありません。

造血幹細胞移植の方法

移植する幹細胞には以下の種類があります。

  • 患者自身の細胞(自家移植)

  • ドナーから提供を受けた細胞(同種移植)

がん患者が自身の幹細胞を使う場合、化学療法や放射線療法が幹細胞に損傷を与える可能性があるため、その前に幹細胞を採取します。そして治療が終わってから、保存しておいた幹細胞を体内に注入して戻します。

幹細胞をレシピエントの骨髄中の造血細胞と置き換えることを目的とする場合は、移植された細胞の生存を妨げる骨髄細胞を除去するために、レシピエントには薬物と放射線療法を組み合わせた治療が行われます。

血液由来の幹細胞

成人の幹細胞は、外来で血液中から採取することができます。幹細胞を採取する数日前に、幹細胞が骨髄から血流中へ移行しやすくなる薬剤(コロニー刺激因子)をドナーに投与してから、腕にカテーテルを入れて血液を採取し、幹細胞を抽出する装置の中を循環させて幹細胞だけを集め、残りの血液は反対側の腕に入れたカテーテルからドナーの体に戻します。通常、十分な量の幹細胞を得るために、数日間かけて2~4時間の処置を約6回受ける必要があります。幹細胞は使うときまで凍結保存が可能です。幹細胞は新生児のへその緒(臍帯[さいたい])からも採取でき、将来の利用のために凍結保存することができます。

骨髄由来の幹細胞

骨髄移植の場合、ドナーに全身麻酔か局所麻酔をかけ、寛骨(骨盤の骨)から注射器で骨髄を採取します。骨髄採取にはおよそ1時間かかります。

レシピエントへの移植

幹細胞の移植の際はレシピエントの静脈内に1~2時間かけて注入します。注入された幹細胞はレシピエントの骨の中に移動し、そこで増殖して血液細胞をつくります。

造血幹細胞移植の後

移植後は合併症を予防するための薬剤を投与します(以下を参照)。

幹細胞移植のレシピエントは通常、1~2カ月入院し、

退院後にフォローアップのために定期的に来院するスケジュールを立てます。ほとんどの場合、回復するのに1年以上かかります。

造血幹細胞移植の合併症

感染症

造血幹細胞移植は、レシピエントの白血球がすでに化学療法や放射線療法で破壊されたり減少したりしているため、リスクを伴います。そのため、移植された幹細胞が感染を防ぐのに十分な白血球を産生できるようになるまでの2~3週間は、極めて感染症のリスクが高い状態が続きます。

移植幹細胞が白血球をつくり始めるまでレシピエントを隔離状態にすることで、感染症のリスクを減らすことができます。この期間に病室に入る人は全員がマスクとガウンを身に着け、徹底的に手を洗います。

レシピエントには以下のものが投与されます。

  • 血球の生産を刺激するコロニー刺激因子(感染防御に役立つ白血球など)

  • 感染リスクの低減に役立つ抗菌薬

移植片対宿主病

元の病気の再発

元の病気が再発するかどうかは、以下の要素に左右されます。

  • 元の病気が何だったか

  • 元の病気の重症度

  • どの種類の移植が行われたか

元の病気が再発する割合は以下の通りです。

  • 本人の幹細胞が移植された人では40~75%

  • 別の人から採取した幹細胞が移植された人では10~40%

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