免疫療法は、がんに対抗するために体の 免疫系 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守るために、免疫系が備わっています。侵入物には以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕[ぜん]虫など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む を活性化するために行われます。そのような治療では、腫瘍細胞の特定の遺伝学的特徴を標的にします。腫瘍の遺伝学的特徴は、がんが発生する器官に左右されません。そのため、このような薬は多くの種類のがんに対して効果的な可能性があります。(がん治療の原則 がん治療の原則 がんの治療は、医療の中でもとりわけ複雑なものの1つです。治療には、様々な医師(かかりつけ医、婦人科医やその他の専門医、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、外科医、病理医など)とその他の様々な医療従事者(看護師、放射線技師、理学療法士、ソーシャルワーカー、薬剤師など)が1つのチームとなって取り組みます。 治療計画では、がんの種類、位置、 病期、遺伝学的特徴などのほか、治療を受ける人に特有の特徴を考慮に入れます。... さらに読む も参照のこと。)
免疫系を刺激するために使用される治療にはいくつかの種類があります。また、がん治療のこの領域は精力的に研究されています。米国国立がん研究所(National Cancer Institute)は、免疫療法薬(およびがんの治療に使用される他の薬)の最新の一覧を整備しています。この一覧は、それぞれの薬の使用法についての簡潔な概要と、詳しい情報へのリンクを提供しています。
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体療法では、がん細胞表面にある特定のタンパク質を標的とする抗体が実験室で作成され、それが使用されます。そうした抗体の多くが利用可能であり、現在研究が行われているものもあります。トラスツズマブはそうした抗体の1つで、乳がんの女性の25%にみられるがん細胞表面のHER2/neuを攻撃します。トラスツズマブは化学療法薬の効果を高めます。
リツキシマブは、リンパ腫や慢性リンパ性白血病の治療に非常に効果的です。リツキシマブを放射性同位元素と結合させて投与すると、リンパ腫細胞に放射線を直接照射できます。
ゲムツズマブ・オゾガマイシンは抗体と薬を組み合わせたもので、急性骨髄性白血病の一部の患者に効果的です。
いくつかのモノクローナル抗体は、免疫系の制御を助ける 免疫チェックポイント がんに対する体の防御 体内では1つの細胞ががん化しても、増殖したり拡がったりする前に、 免疫系がその細胞の異常を認識して破壊できることが多くあります。がん細胞は完全に除去されることがあり、その場合はがんが現れることはありません。エイズ患者や免疫抑制薬の投与を受けている人、ある種の自己免疫疾患のある人、また免疫系の働きが若い人に比べて低い高齢者のように、免疫系に異常や機能低下がある人では、特定のがんが進行する可能性が高くなります。免疫機能が低下している人によく... さらに読む の機能を変化させ、そうすることで体に本来備わっているがんに対する免疫を刺激します。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬には、チェックポイントであるCTLA-4(イピリムマブ)、PD1やPD-L1(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ)を阻害するものがあります。ペムブロリズマブは、体のどこにがんがあるかにかかわらず、DNA修復異常があるすべての進行がんに対して使用できます。これらの薬は、単独で使用されることもあれば、他の抗がん剤と併用されることもあります。
生物学的反応修飾物質
生物学的反応修飾物質は、正常な細胞を刺激して情報を伝達する化学物質(メディエーター)を作らせ、それによって免疫系ががん細胞を発見して破壊する能力を増強します。
インターフェロンは最もよく知られていて最も広く利用されている生物学的反応修飾物質で、いくつかのタイプがあります。人間のほとんどの細胞にはインターフェロンを作る働きがありますが、バイオテクノロジーを利用してインターフェロンを製造することもできます。その作用の正確な仕組みはまだ完全には分かっていませんが、インターフェロンはカポジ肉腫や悪性黒色腫など、いくつかのがんの治療に役立ちます。
インターロイキンは、特定の免疫系細胞(活性化 T細胞 T細胞 体の防御線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっており、白血球は血流に乗って体内を巡り、組織に入り込んで微生物などの異物を見つけ出し、攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防御は以下の2つの部分に分かれています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識したときに始まります。そして、獲... さらに読む )によって作られる情報伝達物質です。インターロイキンの使用は、転移性黒色腫の治療に役立ち、腎臓がんでも有益となる場合があります。特定の白血球が作り出すインターロイキン2は、腎細胞がんや転移性黒色腫の治療に役立ちます。
その他の薬
がん細胞は未熟な細胞で、急速に増殖するため、ある種類の薬はがん細胞がもっと速く成熟(分化)するよう促し、腫瘍の増殖を遅らせます。このような分化誘導薬は短期間しか効果がないことがあるため、多くの場合は 多剤併用化学療法 がんの併用療法 抗がん剤は、複数の薬を組み合わせて使用する場合に最も効果的です。併用療法の原理は、異なる仕組みで作用する薬を用いることで、治療抵抗性のがん細胞が発生する可能性を減らすというものです。異なる効果をもつ薬を併用する場合は、耐えがたい副作用を伴うことなくそれぞれの薬を最適な用量で使用できます。( がん治療の原則も参照のこと。) 一部のがんでは、 がん手術、 放射線療法、 化学療法または他の抗がん剤を組み合わせるのが最善の方法です。手術と放射線... さらに読む で使用されます。
血管新生阻害薬は、腫瘍が新しい血管を作るのを妨げます。血管の成長が妨げられると、がんは増殖して大きくなるために必要な血流が不足します。
また別の薬として、がん細胞がさらに増殖するための信号を送るのに利用される仕組み(経路)を標的にするものもあります。
ワクチン
がん細胞に由来する物質を用いたワクチンによって、がんを攻撃できる抗体や免疫細胞の産生を活性化できます。また、免疫反応を高める作用が知られている弱毒化した結核菌からの抽出物を膀胱に注入すると、膀胱がんの再発を予防する効果があることが確認されています。
遺伝子治療
遺伝子の変化(変異)ががんを引き起こすことから、研究者らは遺伝子を操作してがんと闘う方法を探しています。新しい進歩したタイプの遺伝子治療では、 T細胞 T細胞 体の防御線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっており、白血球は血流に乗って体内を巡り、組織に入り込んで微生物などの異物を見つけ出し、攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防御は以下の2つの部分に分かれています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識したときに始まります。そして、獲... さらに読む (免疫細胞の一種)の遺伝子を改変します。患者の血液からT細胞を採取し、遺伝子を改変してその患者の特定のがんを認識するようにします。改変されたT細胞は、キメラ抗原受容体細胞またはCAR-T細胞と呼ばれ、患者の血液へと戻されてがん細胞を攻撃します。最近、2つのCAR-T細胞療法が利用できるようになりました。この方法は急性リンパ芽球性白血病またはリンパ腫の患者で使用されています。
造血幹細胞移植
幹細胞 幹細胞とは とは、未分化の細胞で、様々な種類の細胞になることができます。骨髄中の幹細胞は、様々な種類の正常な血球すべてのもとになります。高用量の化学療法薬や高線量の放射線療法は、がん細胞を破壊できますが、幹細胞も破壊してしまうことが多く、骨髄が正常な血球を作ることを妨げてしまいます。 幹細胞移植 造血幹細胞移植 幹細胞移植とは、健康な人から幹細胞(未分化細胞)を採取し、重篤な血液疾患がある人にそれを注射することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 幹細胞は未分化の細胞で、分裂しながら、より分化した他の細胞に変わっていきます。幹細胞は以下のものから採取することができます。 生まれてすぐの新生児の臍帯血(母親が提供) 骨髄(骨髄移植) さらに読む では、破壊された幹細胞をドナーから採取した健康な幹細胞と入れ替えます。ドナーは、がん患者本人(自家移植)の場合も、別の遺伝的に適合した血縁者や非血縁者(同種移植)の場合もあります。幹細胞移植によって、白血病や一部のリンパ腫の治療に高用量の化学療法を使用することが可能になります。