成熟した血球や血小板になる骨髄細胞(幹細胞)が損傷を受けたり、抑制されたりすると、骨髄が機能不全に陥ることがあります。この骨髄不全のことを再生不良性貧血といいます。骨髄不全になると、赤血球の減少(貧血— 貧血の概要 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む も参照)、白血球の減少(白血球減少症 白血球の病気の概要 白血球は、感染性微生物や外来物質から体を守る重要な役割を担っています( 免疫系)。体を十分に守るためには、感染性微生物や外来物質が体内に侵入したというメッセージを受けた十分な数の白血球がその場所に向かい、有害な微生物や物質を殺して消化する必要があります(図「 リンパ系:感染に対する防御を補助する」を参照)。... さらに読む )、血小板の減少(血小板減少症 血小板減少症の概要 血小板減少症とは、血液中の血小板の数が少なくなった状態で、出血のリスクが高まります。 血小板減少症は、骨髄で作られる血小板が少なすぎる場合や血小板が破壊されすぎたり、腫大した脾臓に蓄積されすぎたりした場合に発生します。 皮下出血やあざがみられます。 血液検査を行って、診断を確定するとともに、その原因を特定します。 ときには治療(血小板輸血、プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]、血小板の生産を増やす薬、または脾臓摘出)が必要になることが... さらに読む
)が起こります。
再生不良性貧血という用語は、血液の細胞のうちすべての種類において産生が抑制された場合に起きる貧血のことを指して使われます。赤血球の産生だけが抑制された場合は、赤芽球癆(せきがきゅうろう)と呼ばれます。
再生不良性貧血の原因を診断できない場合(特発性再生不良性貧血と呼ばれます)、原因として可能性が高いのは、骨髄の幹細胞が免疫系によって抑制される 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む です。
その他の原因としては以下のものがあります。
パルボウイルス、エプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルスなどによるウイルス感染症
放射線曝露
毒性物質(ベンゼンなど)
化学療法薬などの薬(クロラムフェニコールなど)
妊娠
症状
再生不良性貧血の症状は、数週間から数カ月かけてゆっくりと現れます。
貧血になると、疲労感や脱力感を覚え、顔色が青白くなります。白血球減少症になると、感染しやすくなります。血小板減少症になると、あざや出血が生じやすくなります。
診断
血液検査
骨髄検査
貧血の症状がみられる場合には血液検査が行われます。血液検査ですべての血液の細胞が減少していることが明らかになれば、骨髄検査が行われます。
治療
造血幹細胞移植
再生不良性貧血が重度の場合は、直ちに治療しなければ死に至ることがあります。赤血球や血小板を 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む し、増殖因子と呼ばれる物質を投与することで、赤血球、白血球、血小板を一時的に増やすことができます。
幹細胞移植 造血幹細胞移植 幹細胞移植とは、健康な人から幹細胞(未分化細胞)を採取し、重篤な血液疾患がある人にそれを注射することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 幹細胞は未分化の細胞で、分裂しながら、より分化した他の細胞に変わっていきます。幹細胞は以下のものから採取することができます。 生まれてすぐの新生児の臍帯血(母親が提供) 骨髄(骨髄移植) さらに読む は、この病気を治癒する可能性があるため(特に若い人で、適合するドナーがいる場合)、再生不良性貧血で通常行われる治療です。移植ができない場合は、免疫系を抑制し骨髄幹細胞が再生できるようにするために、抗胸腺細胞グロブリンとシクロスポリンが投与されます。