サラセミアの種類によって症状が異なります。
黄疸のほか、腹部の膨満感や不快感を訴える人もいます。
通常、診断には特別なヘモグロビン検査が必要です。
サラセミアが軽い場合は、ほとんど治療を必要としませんが、重症になれば、骨髄移植が必要になることもあります。
(貧血の概要 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む も参照のこと。)
ヘモグロビンは、2組のペアになったグロビンの鎖からつくられています。通常、成人ではアルファ鎖が1ペアとベータ鎖が1ペアで構成されています。ときには、これらの鎖のうち、1つ以上の鎖が異常になっていることがあります。サラセミアは、このように異常となったアミノ酸の鎖に基づいて分類されています。主に次の2種類があります。
アルファサラセミア(アルファ鎖に異常が生じる)
ベータサラセミア(ベータ鎖に異常が生じる)
アルファサラセミアは黒人に最も多く(25%が異常遺伝子を少なくとも1つ保有)、ベータサラセミアは地中海地域と東南アジア地域出身の人に最も多くみられます。
サラセミアは重症度によって以下のように分類されます。
サラセミアマイナー:症状がまったくないか軽度
サラセミア中間型:軽度から重度の症状がある
サラセミアメジャー:治療を要する重度の症状がある
症状
サラセミアはいずれも同様の症状を示しますが、重症度は様々です。
アルファサラセミアマイナーとベータサラセミアマイナーでは、軽度の貧血だけで症状はありません。
アルファサラセミアメジャーでは、疲労感、息切れ、蒼白、 脾腫 脾腫(脾臓の腫大) 脾腫自体は病気ではありませんが、その原因になっている病気があります。脾腫を引き起こす可能性がある病気はたくさんあります。 感染症、貧血、がんといった多くの病気が脾腫を引き起こすことがあります。 通常、特有の症状がみられることはありませんが、左上の腹部や背中に膨満感や痛みが現れることがあります。 一般には、触診で脾腫を判定できますが、超音波検査などの画像検査を行って、脾臓の大きさを測定することもあります。... さらに読む (腹部の膨満感や不快感につながります)など、中等度ないし重度の貧血症状が現れます。
ベータサラセミアメジャー(ときにクーリー貧血と呼ばれます)では、疲労、脱力感、息切れなど重度の貧血症状が現れ、 黄疸 成人の黄疸 黄疸では、皮膚や白眼が黄色くなります。黄疸は、血中にビリルビン(黄色の色素)が多すぎる場合に起こります。この病態を高ビリルビン血症と呼びます。 ( 肝疾患の概要と 新生児黄疸も参照のこと。) 写真では、黄色に変色した眼と皮膚(黄疸)がみられます。 ビリルビンは、古くなった赤血球や損傷した赤血球を再利用する正常なプロセスの中で、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球の一部)が分解されるときに生成されます。ビリルビンは、血流によって肝臓に運ばれ、そ... さらに読む (皮膚や白眼が黄色くなります)、皮膚潰瘍、 胆石 胆石 胆石は胆嚢内で固形物(主にコレステロールの結晶)が集積したものです。 肝臓はコレステロールを過剰に分泌することがあり、このコレステロールは胆汁とともに胆嚢に運ばれ、そこで過剰なコレステロールが固体粒子を形成して蓄積します。 胆石は、ときに数時間続く上腹部痛を起こすことがあります。 超音波検査では極めて正確に胆石を検出できます。 胆石によって痛みなどの問題が繰り返し起こる場合は、胆嚢を摘出します。 さらに読む
などもみられることがあります。脾腫もみられることがあります。骨髄の活動が過剰になり、特に頭部と顔面の骨が厚く大きくなります。腕と脚の長管骨が弱くなり、骨折しやすくなります。
ベータサラセミアメジャーの小児は成長が遅く、思春期に達するのが正常より遅れます。鉄の吸収量が増加する場合があることに加え、頻繁な輸血が必要になる(さらに多くの鉄が供給される)ため、過剰な鉄が心筋に集まって沈着し、最終的には 鉄過剰症 鉄過剰症の概要 鉄は生命になくてはならないものです。したがって、人間の体では食物からの鉄の吸収や、赤血球からの鉄の再利用が厳密にコントロールされています。毎日少量の鉄が失われており、たとえ健康的なメニューでも、食事中に含まれる鉄の量はほんのわずかです。そのため、体内に過剰な鉄が蓄積されることはまれですが、鉄が過剰に蓄積される(鉄過剰症)原因としては以下の... さらに読む や心不全が引き起こされ、早期死亡に至る場合もあります。
診断
血液検査
ヘモグロビン電気泳動検査
出生前検査
サラセミアの診断には血液検査を行います。血算を行い、血液のサンプルを顕微鏡で調べます。赤血球の特徴的な異常が認められることがあります。
別の血液検査である ヘモグロビン電気泳動検査 診断 鎌状赤血球症は、鎌状(三日月形)の赤血球と、異常な赤血球の過剰破壊による慢性貧血を特徴とする、遺伝性のヘモグロビン(酸素を運搬する赤血球内のタンパク質)の遺伝子異常です。 必ず貧血がみられ、ときとして黄疸がみられます。 貧血、発熱、息切れなどが悪化し、長管骨、腹部、胸部などに痛みを伴うと、鎌状赤血球症の疼痛発作(症状が急速に悪化する危険な状態)が疑われます。 電気泳動法と呼ばれる特別な血液検査を使用して、鎌状赤血球症かどうかを判定するこ... さらに読む も行われます。電気泳動では、電流を流すと様々な種類のヘモグロビンが分離されるため、異常なヘモグロビンが特定されます。1滴の血液を電気泳動で調べる検査が役立つこともありますが、特にアルファサラセミアでは診断の確証を得にくい傾向があります。このため、通常は特殊なヘモグロビン検査と遺伝様式の判定を基に診断を行います。
サラセミアを検出するために出生前に遺伝子検査を行うことがあります。
治療
ときに輸血、脾臓の摘出、または鉄キレート療法
造血幹細胞移植
軽度のサラセミアではほとんどの場合、治療は必要ありません。
より重度のサラセミアの場合は、手術による脾臓切除(脾臓摘出術)、 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む 、鉄キレート療法が必要になります。キレート療法では、余分な鉄が血液中から除去されます。鉄キレート療法は、デフェラシロクスやデフェリプロン(deferiprone)の経口投与や、デフェロキサミンの皮下または静脈内投与によって行われます。
ベータサラセミアでは、輸血の必要性を減らすために、新薬であるルスパテルセプト(luspatercept)を使用することがあります。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
クーリー貧血財団(Cooley's Anemia Foundation):サラセミア患者に対して診断と治療に関する教育および支援を提供しています。