体の水分排泄能力を低下させる病気または体の水分貯留傾向を高める病気があると、水分過剰に陥る可能性があります。
水分を摂取しすぎても、腎臓が正常であれば過剰な水が容易に排泄されるため、水分過剰になることはまれです。
多くの場合、症状は現れませんが、重度の水分過剰では、錯乱やけいれん発作が起こることもあります。
水分摂取の制限と、場合によっては利尿薬の投与が行われます。
(体内の水分について 体内の水分について 水分は体重の約半分から3分の2を占めます。脂肪組織は筋組織より水分の割合が少なく、女性は脂肪が多い傾向があるため、平均的な女性で水分が体重に占める割合は男性より低くなります(男性が60%に対して女性は52~55%)。高齢者や肥満の人も水分が体重に占める割合が低く、反対に出生時や乳幼児期では水分が体重に占める割合が高く(70%)なります。... さらに読む も参照のこと。)
水分過剰は、体から失われる分より多くの水分を摂取することで発生します。
体が必要な量よりはるかに多い水分を摂取すると、水分過剰になることがあります。脱水を避けるために過剰な水分を摂取した人(特に運動選手)は、水分過剰になる可能性があります。心因性多飲症と呼ばれる精神障害がある場合も、水を過剰に摂取してしまいます。その結果、水分が過剰になり、ナトリウム(電解質 電解質の概要 人の体内の水分量は体重の2分の1をはるかに上回ります。体内の水分は様々な空間(体液コンパートメントと呼ばれています)に制限されて存在していると考えられています。主に次の3つのコンパートメントがあります。 細胞内の体液 細胞の周囲の体液 血液 体が正常に機能するには、これらの各領域で体液量が偏らないようにする必要があります。 さらに読む の1つ)が不足した状態になります。このように、一般に水分過剰は 血液中のナトリウム濃度の低下 低ナトリウム血症(血液中のナトリウム濃度が低いこと) 低ナトリウム血症とは、血液中のナトリウム濃度が非常に低い状態をいいます。 大量の水分摂取、腎不全、心不全、肝硬変、利尿薬の使用など、多くの原因でナトリウム濃度が低下します。 症状は、脳の機能障害によるものです。 まず動作や反応が緩慢になり、錯乱がみられます。低ナトリウム血症が悪化するにつれて、筋肉のひきつりやけいれん発作が発生して無反応状態に進行します。 診断は、ナトリウム濃度を測定する血液検査に基づいて下されます。 さらに読む (低ナトリウム血症)を引き起こし、危険な状態に陥る場合があります。しかし、多量の水を飲んでも、下垂体、腎臓、肝臓、心臓が正常に機能していれば水分過剰にはなりません。腎機能が正常な若い成人の場合、体の水分排出能力を上回るには、1日当たり約23リットル以上の水を毎日飲まなければなりません。
水分過剰は、腎臓から正常に尿を排出できない人によくみられます。例えば、心臓、腎臓、肝臓に異常がある人や腎臓が未発達な早産児です。例えば一部の抗うつ薬など、特定の薬によっても、影響を受けやすい人では水分過剰が生じることがあります。
水分過剰は、 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH) 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH) 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群は、特定の不適切な状況下での下垂体による抗利尿ホルモン(バソプレシン)の放出量が多すぎることで発生し、これにより体液が保持され、血中のナトリウムの濃度が希釈されて低下します。 ( 電解質の概要、 体内でのナトリウムの役割の概要も参照のこと。) バソプレシン(抗利尿ホルモン)は、腎臓から排泄される水分量を制御することで体内の水分量を調節しています。バソプレシンは腎臓から排泄される水分量を減少させます。その結果... さらに読む からも生じます。この症候群では、下垂体がバソプレシン(抗利尿ホルモンとも呼ばれます)を分泌しすぎて、必要のないときでも腎臓が水分を保持してしまいます。
水分過剰の症状
水分過剰と血液中のナトリウム濃度の低下の影響を特に受けやすいのは、脳細胞です。水分過剰がゆっくり起こり、程度も軽度または中等度である場合は、脳細胞が適応する時間の余裕があるため、症状があるとしても、注意散漫や嗜眠(しみん)のような軽度のものにとどまります。水分過剰が急激に起こった場合、嘔吐と平衡感覚の異常が生じます。水分過剰な状態が悪化した場合は、錯乱、けいれん発作、昏睡が生じることがあります。
水分過剰になっても、血液量が正常であれば、余分な水分が細胞内へ移動し、組織のむくみ(浮腫)は起こりません。血液量が過剰になった場合は、肺や下腿(膝から足首までの部分)に水分が貯留します。
水分過剰の診断
医師による診察
血液と尿の検査
医師は、体重増加と浮腫の徴候がないか診察し、血液および尿検査で電解質の濃度を調べることで、水分過剰(水が多すぎる)と血液量の増加の鑑別を試みます。
水分過剰の治療
水分摂取の制限
水分過剰の原因に対する治療
水分過剰はその原因にかかわらず、たいていの場合、医師の指示の下で水分摂取を制限しなければなりません。摂取量を1日約0.9リットル以下に制限すれば、普通は数日間で改善します。心臓、肝臓、あるいは腎臓の疾患のために血液量過剰を伴う水分過剰となった場合は、ナトリウム摂取量を制限することも有用です。これは、水分を体内にとどめる働きがナトリウムにあるためです。
水分過剰を引き起こす傾向のある薬の使用を中止します。ときに、利尿薬(尿中への水分とナトリウムの排泄を促す薬剤)が処方されることがあります。他の種類の薬も水分排出を促す可能性があり、ときに血液量が正常な場合の水分過剰の治療に使用されることがあります。これらの薬は一般に患者を入院させた上で、綿密なモニタリングの下で使用されます。