銅は肝臓、脳、眼やその他の臓器に蓄積します。
ウィルソン病の患者では、振戦(ふるえ)、発語困難、嚥下(えんげ)困難、協調運動障害、人格変化、肝炎がみられることがあります。
血液検査と眼の診察が診断の確定に役立ちます。
患者は、銅を除去するために薬を服用する必要があり、その後生涯にわたって銅の含有量が高い食品を避けなければなりません。
体内の銅のほとんどは肝臓、骨、筋肉に存在していますが、体のすべての組織に微量の銅が存在します。肝臓は、余分な銅を体内から取り除くために胆汁中に排泄します。ウィルソン病の患者では、肝臓が余分な銅を排泄しないため、肝臓に銅が蓄積して肝臓が損傷し、 肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む を起こします。損傷した肝臓は銅を血液中に直接放出し、銅は脳や腎臓、眼など他の臓器へ運ばれて、そこでも蓄積します。
ウィルソン病の症状
症状は、通常は5~35歳で出始めますが、2~72歳のどの年齢でも始まることがあります。
患者のほぼ半数では、最初の症状は脳の損傷によって生じます。そうした症状には、振戦、発語困難、嚥下困難、よだれ、協調運動障害、けいれん性不随意運動(舞踏運動)、人格変化などがあり、統合失調症や躁うつ病などの精神病症状がみられることもあります。
それ以外の患者の大半では、最初の症状は炎症(肝炎 肝炎の概要 肝炎とは肝臓の炎症です。 ( 急性ウイルス性肝炎の概要と 慢性肝炎の概要も参照のこと。) 肝炎は世界中でみられる病気です。 肝炎には以下の種類があります。 急性(経過が短い) さらに読む )による肝傷害によって生じ、最終的には瘢痕化(肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む )に至ります。
虹彩(眼の色が付いた部分)の縁に金色または緑がかった金色の輪(カイザー-フライシャー輪)が現れることがあります。この輪は銅が蓄積すると生じます。少数の患者では、この輪がウィルソン病の最初の徴候となります。
赤血球が破裂するため、赤血球の減少(貧血)による疲労および筋力低下がみられる場合もあります(溶血性貧血 自己免疫性溶血性貧血 自己免疫性溶血性貧血は免疫系機能の異常を特徴とする疾患群で、赤血球をまるで異物であるかのように攻撃する自己抗体が生産されます。 症状がまったくない人もいますし、疲労感や息切れを覚えたり、顔が青白くなったりする人もいます。 重症の場合は、黄疸がみられたり、脾腫(脾臓の腫大)のために腹部に不快感や膨満感を覚えたりすることがあります。 血液検査を行って、貧血であることを確認し、自己免疫反応の原因を特定します。... さらに読む )。女性では、月経が来なかったり流産を繰り返したりすることもあります。
ウィルソン病の診断
眼の細隙灯顕微鏡検査
血液と尿の検査
ときに肝生検
医師は、 肝炎 肝炎の概要 肝炎とは肝臓の炎症です。 ( 急性ウイルス性肝炎の概要と 慢性肝炎の概要も参照のこと。) 肝炎は世界中でみられる病気です。 肝炎には以下の種類があります。 急性(経過が短い) さらに読む 、振戦、人格の変化など、明らかに原因のない症状に基づいてウィルソン病を疑います。以下の検査が診断の確定に役立ちます。
血液検査で、セルロプラスミン(銅を運ぶタンパク質)の濃度を測定する
尿中に排泄される銅の測定
ウィルソン病の病歴をもつ家族がいる小児には、1歳になった後に検査を行います。それより早い時期に検査を行うと、ウィルソン病を見逃す可能性が高くなります。
ウィルソン病の治療
食習慣の変更
薬と亜鉛のサプリメント
肝臓の移植を行う可能性あり
ウィルソン病の患者は、食事を銅の少ないものにする必要があります。避けるべき食品としては、牛レバー、カシューナッツ、ササゲ、野菜ジュース、甲殻類、キノコ類、ココアなどがあります。この病気の患者は、ビタミンやミネラルのサプリメントで銅が含有されるものを一切摂取すべきではありません。
蓄積した銅を除去するため、ペニシラミンやトリエンチンなどの銅と結合する薬を服用します。亜鉛のサプリメントは、銅が体に吸収されるのを防ぐことができ、ペニシラミンかトリエンチンが効果的でなかったり副作用が多すぎる場合に用いられます。亜鉛は、ペニシラミンやトリエンチンと結合でき、これらの薬が効果的でなくなるため、これらを服用する前後2時間以内には亜鉛を飲まないようにします。ウィルソン病の人は、ペニシラミン、トリエンチン、または亜鉛サプリメントを生涯にわたって服用する必要があります。
ウィルソン病は、生涯にわたって治療をしないと、一般的には30歳までに死に至ります。治療を受ければ通常、診断された時点でウィルソン病が進行していない限り、患者は問題なく暮らせます。
指示通りに薬を服用しない場合、特に若い人では、肝不全が生じることがあります。
この病気の患者は肝疾患の専門医を定期的に受診することが推奨されています。
肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後、最長で18時間保存できます。... さらに読む を行えば、肝不全を完治させることができ、ウィルソン病と重度の肝不全または薬物治療で効果が得られない重い肝臓の異常がある患者の救命につながることがあります。