健常者の間でも、全体的なパーソナリティ、気分、行動には大きな個人差があります。また各個人でも、状況に応じて日毎に変化があります。しかし、パーソナリティや行動に突然大きな変化がみられることは、特に明らかな出来事(薬の服用、大切な人を亡くすなど)と関連していない場合、しばしば何らかの問題があることを意味します。
(精神障害の概要 精神障害の概要 心の病気(精神障害または精神疾患)には、思考の障害、感情の障害、行動の障害などがあります。思考、感情、行動などに多少の問題が生じるのはよくあることですが、そのために大きな苦痛が生じたり、日常生活に支障をきたしたりするものは、精神障害(精神疾患)とみなされます。精神障害の影響は、長期的なものとなる場合もあれば、一時的なもので終わる場合もあり... さらに読む も参照のこと。)
パーソナリティや行動の変化は、おおまかに以下のいずれかに分類することができます。
錯乱またはせん妄
妄想
支離滅裂な発言や行動
幻覚
極端な気分の変動(抑うつや躁病など)
これらのカテゴリー分類は病気ではなく、単に医師が様々な種類の思考、会話、行動の異常をまとめる方法の1つにすぎません。こうしたパーソナリティや行動の変化は、身体的または精神的な問題によって引き起こされます。
複数の種類の変化が同時に生じている場合もあります。例えば、薬の相互作用による錯乱がみられる人には、ときに幻覚が生じ、極端な気分の変動が起きている人には、妄想がみられることがあります。
錯乱とせん妄
錯乱と せん妄 せん妄 せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。 多くの病気、薬剤、毒物などが、せん妄の原因になりえます。 診断は症状と身体診察の結果に基づいて下され、原因を特定するために血液検査、尿検査、画像検査を行います。 せん妄は通常、原因になっている異常を迅速に処置または治療することで治癒します。... さらに読む は、意識障害を指す表現です。つまり、周囲の環境に当人の注意が向かなくなり、原因によっては、極度に興奮して攻撃的になったり、眠そうになって外部の刺激に鈍くなったりすることがあります。注意力の低下と過度の覚醒が交互にみられる人もいます。患者の思考がぼやけて緩慢になったり、不適切になったりするように見え、簡単な質問にも集中できなくなり、返答が遅くなります。話し方が不明瞭になることもあります。しばしば、今日が何日か分からなくなり、自分がどこにいるのか言えなくなることもあります。自分の名前を言えないこともあります。
せん妄はしばしば、身体に新たに発生した深刻な問題や、薬に対する反応が原因で起こり、特に高齢者によくみられます。せん妄を発症した患者には、迅速な医学的処置を行う必要があります。せん妄の原因を特定して迅速に是正すれば、問題が解消することもよくあります。
妄想
妄想とは、それを否定する証拠があるにもかかわらず、もち続けられる、誤った思い込みのことです。実際の感覚や体験を誤解することで生じる妄想もあります。例えば、迫害されているように感じ、路上で後ろにいる人が自分を尾行していると思ったり、よくあるアクシデントを意図的な妨害だと考えたりします。歌詞や新聞の記事の中にほかならぬ自分のことを指すメッセージが込められていると考える人もいます。
思い込みの中にはもっともらしくみえるものもあり、それらは実生活で起こりうることであるために、妄想と確認することが難しい場合もあります。例えば、人が政府の捜査員に尾行されたり、同僚に仕事を妨害されることは、実際にありえないことではありません。このようなケースでは、それを否定する証拠があるにもかかわらず、本人がその思い込みをどれだけ強く抱いているかによって、妄想と判断できることがあります。
容易にそれと分かる妄想もあります。例えば、宗教妄想や誇大妄想では、自分をキリストや一国の大統領であると信じている場合があります。非常に奇妙な妄想もあります。例えば、自分の臓器がすべて機械の部品に取り換えられたと思っている人や、頭の中に政府からのメッセージを受信する無線装置が埋め込まれていると考える人がいます。
支離滅裂な会発言
支離滅裂な発言とは、一連の思考の間や質問と答えの間に、しかるべき論理的なつながりがない会話のことです。例えば、考えをまとめることもなく、ある話題から別の話題へと飛躍することがあります。それぞれの話題はほとんど関係がないか、まったく関係がないこともあります。あるいは、簡単な質問に対し、要領を得ないこまごまとした内容をだらだらと返す場合もあります。答えは非論理的であったり、完全に支離滅裂であったりします。このような発話の問題は、言語による表現や理解の障害(失語症 失語 失語とは、会話や文字でものごとを表現したり、理解したりする能力が部分的または完全に失われる障害です。言語を制御する脳領域の損傷が原因で起こります。 言葉を読む、書く、話す、理解する、または繰り返すことが困難になります。 医師は通常、患者に質問することで、この問題を特定できます。 CT検査やMRI検査などの画像検査が行われます。 失語のある患者の多くで言語療法が助けになります。 さらに読む )や、言葉の発音ができなくなる障害(構音障害 構音障害 構音障害とは、言葉を正常にはっきり発音する能力が失われる障害です。 話し方がぎこちなくなる、ブツブツ途切れる、息の音が混じる、不規則になる、不明瞭になる、または単調になることがありますが、患者は言語を正しく理解し、正しく使用できます。 医療従事者は、口と舌を使う簡単な動作をしたり単語や文を復唱したりするよう患者に指示して、患者の筋力や筋肉の動きを評価します。 構音障害がある人には、言語療法が役立つ場合があります。... さらに読む )といった、脳卒中などの脳の病気が原因で生じる問題とは異なります。
ときおりある言い間違いや、意図的に理解しにくくした話し方、失礼になる話し方、おどけた話しぶりなどは、支離滅裂な発言とはみなされません。
支離滅裂な行動
支離滅裂な行動とは、かなり異常な行為(公共の場で裸になったり、マスターベーションをしたり、明らかな理由もなく怒鳴ったり罵ったりするなど)をすることや、正常な行動がとれないことをいいます。支離滅裂な行動がみられる人は、一般的に正常な日常生活(身の回りを清潔に保ったり、食べものを手に入れたりするなど)に支障をきたします。
幻覚
幻覚とは、実際には存在しない物事を聴いたり、見たり、匂ったり、味わったり、感じたりすることをいいます。つまり、外界の刺激によってではなく、見たところ自らの感覚によって物事を知覚しているものです。あらゆる感覚に生じる可能性があります。最も一般的な幻覚は、聴覚的なもの(幻聴)で、通常は声が聴こえるものです。その声は、しばしば当人に関する軽蔑的なことを言ったり、何かをやるように命令したりします。
すべての幻覚が精神障害によるものというわけではありません。幻覚の種類によっては、 神経の病気 脳、脊髄、末梢神経の病気の症状に関する序 脳、脊髄、神経が侵される病気を神経疾患と呼びます。 神経症状とは、神経系の一部または全体が侵された結果起こる症状のことで、神経系は非常に多くの身体機能を制御しているため、該当する症状は多岐にわたります。症状には、 頭痛や 腰痛など、あらゆる種類の痛みが含まれます。筋肉の運動、皮膚の感覚、特殊感覚(視覚、味覚、嗅覚、聴覚)が正常に機能するた... さらに読む の方が原因として多い場合もあります。例えば、けいれん発作の前には、実際には特に匂いがないのに匂いを感じることがあります(幻嗅)。
極端な気分の変動
極端な気分の変動としては、怒りの爆発、極端な高揚感(躁病 躁状態 双極性障害(以前の躁うつ病)では、抑うつ状態と躁状態または軽躁状態(軽度の躁状態)が交互にみられます。躁状態は、過度の身体活動や、置かれた状況と著しく不釣り合いな高揚感を特徴とします。 双極性障害の発症には、おそらく遺伝も一部関与しています。 抑うつ状態と躁状態は、別々に生じることもあれば、同時に生じることもあります。 過度に気持ちがふさぎ込んで人生に興味がなくなる時期と、気分が高揚し、極端に活動的になって、しばしば易怒性を示す時期とが... さらに読む )や 抑うつ うつ病 うつ病とは、日常生活に支障をきたすほどの強い悲しみを感じているか、活動に対する興味や喜びが低下している状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。 うつ病になると、悲しみに沈み、動作が緩慢になり、以前は楽しんでい... さらに読む を感じている時期、また逆に、常に感情の表現に乏しかったり、まったくなかったりする時期(無反応や無関心に見える)などがあります。
原因
パーソナリティ(人格)、思考、行動の変化は、すべて精神障害が原因と思われがちですが、ほかにも考えられる原因は数多くあります。いずれの原因も最終的には脳が関係してきますが、それらを4つに分類することが役立ちます。
精神障害
薬物(薬物中毒、薬剤の離脱症状、薬剤の副作用など)
主に脳に影響を及ぼす病気
脳にも影響を及ぼす全身の病気(全身性疾患)
精神障害
精神障害には以下のものがあります。
薬物
薬物は、以下を引き起こす場合、パーソナリティや行動に影響を及ぼすことがあります。
中毒:特に アルコール アルコール アルコール(エタノール)は抑制薬です。急激にまたは定期的に大量飲酒すると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 遺伝特性や個人的な性質がアルコール関連障害の発症に関与しています。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれ、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられます。 長期間大量のアルコールを飲むと、アルコールに依存するようになり、肝臓、脳、心臓を損傷します。... さらに読む (大量に摂取した場合)、 アンフェタミン アンフェタミン アンフェタミンは、特定の病状の治療に使用される刺激薬ですが、乱用されることもあります。 アンフェタミンには覚醒作用があり、身体機能を高め、高揚感や幸福感をもたらします。 アンフェタミンには食欲を抑える作用があるため、体重を減らす目的で不適切にアンフェタミンを使用する人もいます。 過剰摂取により異常な興奮、せん妄、生命を脅かすほどの体温上昇、 心臓発作や 脳卒中が起こることがあります。... さらに読む 、 コカイン コカイン コカインは、植物のコカの葉から作られる、依存性のある刺激薬物です。 コカインは、強い覚醒作用があり、人々に多幸感をもたらし、自分たちには力があると感じさせる強い刺激物です。 大量に摂取すると、 心臓発作や 脳卒中など、生命を脅かす重篤な病態を引き起こす可能性があります。 診断は尿検査により確定します。 ロラゼパムなどの鎮静薬を静脈内投与すると多くの症状が軽減します。 さらに読む 、 幻覚剤 幻覚剤 幻覚剤は、人の知覚に大きなゆがみを引き起こす薬物の一種です。 幻覚剤は感覚をゆがめたり強めたりしますが、実際の影響は多様で、非常に予測困難です。 最大の危険は、精神的な影響とその影響がもたらす判断力の低下です。大半の人は幻覚を見ていることを客観的に自覚しています。 診断は、医師による評価に基づいて下されます。 中毒状態にある人には、静かな薄暗い部屋で脅かさないように穏やかに話すのが助けとなります。ときに、抗不安薬および精神医学的ケアが必... さらに読む (LSDなど)、 フェンシクリジン ケタミンおよびフェンシクリジン(PCP) ケタミンとフェンシクリジンは化学的に類似した薬剤であり、麻酔に使用しますが、ときに娯楽目的で使用されることがあります。 ケタミンは粉末や液剤で入手可能です。粉末は鼻から吸引したり、経口で摂取したりします。液剤は、静脈内、筋肉内、または皮膚の下に注射します。 フェンシクリジン(PCP、エンジェルダスト)の使用法で最も多いのは、パセリ、ミントの葉、タバコ、 マリファナなどの植物にふりかけてから煙を吸う方法です(「ウェット」や「フライ」などの... さらに読む (PCP)
離脱症状: アルコール 離脱症状 アルコール(エタノール)は抑制薬です。急激にまたは定期的に大量飲酒すると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 遺伝特性や個人的な性質がアルコール関連障害の発症に関与しています。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれ、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられます。 長期間大量のアルコールを飲むと、アルコールに依存するようになり、肝臓、脳、心臓を損傷します。... さらに読む 、 バルビツール酸系薬剤 離脱症状 、 ベンゾジアゼピン系薬剤 離脱症状 抗不安薬と鎮静薬は、不安を和らげたり睡眠を補助したりするために使用される処方薬ですが、その使用は依存や物質使用障害を引き起こすことがあります。 不安を和らげるまたは睡眠を補助するための処方薬の使用は、依存を引き起こす可能性があります。 過剰摂取により、眠気、錯乱、呼吸抑制が生じる可能性があります。 長期間使用後にやめると、不安、易刺激性、睡眠障害を引き起こします。 薬に依存するようになっても、用量を減らすことにより徐々にやめることができ... さらに読む 、 オピオイド オピオイド オピオイドは、ケシに由来する薬物(合成のバリエーションを含む)の種類で、誤用される可能性の高い鎮痛薬です。 オピオイドは痛みの緩和に使用されますが、過度の幸福感ももたらし、使いすぎると依存症や嗜癖になります。 オピオイドを大量摂取すると、通常、呼吸停止により致死的となる可能性があります。 尿検査でオピオイドを確認できます。 治療戦略として、解毒(薬の使用を中止する)、代替療法(別の薬に切り替えて徐々に量を減らす)、維持療法(別の薬に切り... さらに読む
副作用 薬の有効性と安全性 薬の開発の主な目標は、有効性と安全性です。どのような 薬でも、役に立つだけでなく害をもたらすことがあり、安全性は相対的なものです。通常用いられる、治療効果のある投与量と、重度の副作用や、生命を脅かす副作用を引き起こす投与量との差を安全域といいます。安全域の広い薬が望ましいですが、重体の人を治療する場合や、ほかに治療の選択肢がない場合には、安全域の狭い薬を受け入れざるを得ないこともよくあります。通常用いられる、治療効果のある投与量でも毒性... さらに読む :脳の機能に作用することを意図する薬剤(抗てんかん薬 抗てんかん薬 けいれん性疾患では、脳の電気的活動に周期的な異常が生じることで、一時的に脳の機能障害が引き起こされます。 多くの人では、けいれん発作が始まる直前に感覚の異常がみられます。 コントロールできないふるえや意識消失が起こる場合もありますが、単に動きが止まったり、何が起こっているか分からなくなったりするだけにとどまる場合もあります。... さらに読む 、 抗うつ薬 抗うつ薬 うつ病とは、日常生活に支障をきたすほどの強い悲しみを感じているか、活動に対する興味や喜びが低下している状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。 うつ病になると、悲しみに沈み、動作が緩慢になり、以前は楽しんでい... さらに読む 、 抗精神病薬 抗精神病薬 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症は、遺伝的な要因と環境的な要因の双方によって起こると考えられています。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわた... さらに読む 、 鎮静薬 抗不安薬と鎮静薬 抗不安薬と鎮静薬は、不安を和らげたり睡眠を補助したりするために使用される処方薬ですが、その使用は依存や物質使用障害を引き起こすことがあります。 不安を和らげるまたは睡眠を補助するための処方薬の使用は、依存を引き起こす可能性があります。 過剰摂取により、眠気、錯乱、呼吸抑制が生じる可能性があります。 長期間使用後にやめると、不安、易刺激性、睡眠障害を引き起こします。 薬に依存するようになっても、用量を減らすことにより徐々にやめることができ... さらに読む 、中枢刺激薬など)、 抗コリン作用のある薬剤 抗コリン作用:どんな作用か?
(抗ヒスタミン薬など)、 オピオイド鎮痛薬 オピオイド鎮痛薬 基礎疾患を治療することで、痛みを解消したり最小限に抑えたりできるケースがあります。例えば、骨折をギプスで固定することや、感染を起こした関節に抗菌薬を投与することは、鎮痛に役立ちます。しかし、痛みの基礎疾患が治療可能な場合でも、痛みに速やかに対処するために痛み止め(鎮痛薬)が必要になる場合もあります。 ( 痛みの概要も参照のこと。) 医師が鎮痛薬を選択する際、痛みのタイプと持続期間、それぞれの鎮痛薬の便益とリスクを考慮します。ほとんどの鎮... さらに読む 、 コルチコステロイド コルチコステロイド 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む
まれに、特定の抗菌薬や高血圧治療に使用される薬剤がパーソナリティや行動の変化を引き起こすことがあります。
主に脳に影響を及ぼす病気
これらの病気は、パーソナリティ、気分、行動に影響を及ぼします。例えば、以下のような病気です。
髄膜炎 髄膜炎に関する序 髄膜炎とは、髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症のことです。 髄膜炎は細菌、ウイルス、または真菌、感染症以外の病気、薬剤などによって引き起こされます。 髄膜炎の症状には、発熱、頭痛、項部硬直(あごを胸につけるのが難しくなる症状)などがありますが、乳児では項部硬直がみられない場合もあり、非常に高齢の人や免疫... さらに読む 、 脳炎 脳炎 脳炎とは、ウイルスが脳に直接感染して起こることもあれば、ウイルスやワクチン、その他の物質が炎症を誘発して起こることもあります。炎症が脊髄に波及することもあり、その場合は脳脊髄炎と呼ばれます。 発熱、頭痛、けいれん発作が起こることがあり、眠気、しびれ、錯乱をきたすこともあります。 通常は頭部のMRI検査と腰椎穿刺が行われます。 治療としては、症状を緩和する処置が行われ、ときに抗ウイルス薬が用いられることもあります。... さらに読む 、脳のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症(HIV脳症 HIV関連認知症 HIV関連認知症とは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が脳に感染することで精神機能が進行性に悪化する病気です。 他の大半の種類の認知症と異なり、HIV関連認知症は比較的若い人に発生する傾向があります。 この種の認知症は、発生当初は目立たないことが多いのですが、数カ月から数年間かけて着実に進行してい、典型的にはHIVの感染による他の症状が現れた後に発症します。 HIV関連認知症の診断は、症状と精神状態検査、HIVの血液検査、画像検査の結果に... さらに読む と呼ばれます)などの脳感染症
脳にも影響を及ぼす全身の病気
脳にも影響を及ぼす全身の病気には以下のものがあります。
甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下し、甲状腺ホルモンの産生が不十分になる病気で、身体の重要な機能が働く速度が低下します。 顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。 通常は1回の血液検査で診断が確定されます。 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。 甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホル... さらに読む
(甲状腺の活動が不十分になった状態)や 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む
(甲状腺の活動が過剰になった状態)などの甲状腺疾患
比較的頻度は低いものの、 ライム病 ライム病 ライム病は、スピロヘータと呼ばれるらせん状の細菌(図「 主な細菌の形」を参照)の一属である、ボレリア属 Borrelia(米国では主にライム病ボレリア Borrelia burgdorferi)によって引き起こされる、ダニを介してうつる感染症です。 ほとんどの人は、ライム病がみられる山間地域での野外活動中に、ライム病ボレリア Borrelia... さらに読む 、 サルコイドーシス サルコイドーシス サルコイドーシスとは、体の多くの器官に炎症細胞の異常な集積(肉芽腫[にくげしゅ])がみられる病気です。 サルコイドーシスは、一般に20~40歳で発生し、スカンジナビア系の人やアフリカ系アメリカ人に最も多くみられます。 多くの器官が侵される可能性がありますが、肺に最もよくみられます。... さらに読む
、 梅毒 梅毒 梅毒は、梅毒トレポネーマ Treponema pallidumという細菌によって引き起こされる性感染症です。 梅毒の症状は、見かけ上は健康な時期をはさんで、3段階で生じます。 まず患部に痛みのない潰瘍が現れ、第2期では、発疹、発熱、疲労感、頭痛、食欲減退がみられます。 治療しないでいると、第3期には、大動脈、脳、脊髄、その他の臓器が侵されることがあります。 医師は通常、患者に梅毒があることを確認するために2種類の血液検査を... さらに読む
、ビタミン欠乏症もパーソナリティや行動の変化を引き起こします。
評価
初診時には、症状が精神障害によるものか、身体的な病気によるものかの判断を試みます。
以下では、どのようなときに医師の診察を受ける必要があるか、また受けた場合に何が行われるかについて説明しています。
警戒すべき徴候
パーソナリティや行動に変化がみられる人では、特定の症状や特徴に注意が必要です。そうした警戒すべき徴候としては以下のものがあります。
突然現れた症状
自傷他害の試みまたは脅し
錯乱またはせん妄
発熱
重度の頭痛
歩く、バランスを保つ、しゃべる動作が困難、あるいは視覚障害など、脳の機能障害を示唆する症状
最近の頭部外傷(数週間以内)
受診のタイミング
警戒すべき徴候がみられる人は、できるだけ早く医療機関を受診する要があります。本人が暴力的な場合は、警察を呼ばなければならないこともあります。
警戒すべき徴候がない人については、パーソナリティや行動の変化が現れたのが最近のことであれば、1~2日のうちに受診する必要があります。変化が徐々に生じていた場合は、できるだけ早く医師の診察を受ける必要がありますが、1週間程度の遅れは問題になりません。
医師が行うこと
医師はまず、症状と病歴について質問します。次に、 神経学的診察 神経学的診察 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む と 精神医学的診察 精神状態 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む を含めた身体診察を行います(これにより注意力、記憶、気分、抽象的思考、指示に従う能力、言語使用などを評価します)。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、変化の原因と必要になる検査を推測することができます(表「 パーソナリティおよび行動の変化の主な原因と特徴 パーソナリティおよび行動の変化の主な原因と特徴 」を参照)。
問診では、症状がいつから始まったかを質問します。精神障害の多くは10代から20代で発症します。精神障害が中年期以降に始まった場合は、身体的な病気が原因である可能性が高く、特に明らかなきっかけ(大切な人を失うなど)がない場合は、さらにその可能性が高くなります。慢性精神障害の患者において中年期以降に精神症状が大きく変化した場合にも、身体的な病気が原因である可能性が高くなります。そのときの年齢を問わず、変化が始まって間もない場合や、変化が突然始まった場合は、医師はそのような変化のきっかけとなりうる条件について尋ねます。例えば、処方薬やレクリエーショナルドラッグの服用を最近開始したか、または中止したかと質問します。
また、以下のような原因を示唆することのある他の症状についても尋ねます。
動悸:甲状腺機能亢進症(甲状腺の活動が過剰になった状態)や薬の使用または離脱症状の可能性あり
振戦:パーキンソン病または薬の離脱症状
歩く動作やしゃべる動作が困難:多発性硬化症、パーキンソン病、脳卒中、オピオイドや鎮静薬による中毒
頭痛:脳感染症、脳腫瘍、脳内出血
しびれまたはチクチク感:脳卒中、多発性硬化症、ビタミン欠乏症
また、以前に精神障害やけいれん性疾患の診断や治療を受けたことがあるかどうかも尋ねます。治療を受けたことがある場合は、薬剤の服用を中止したり、用量を減らしたりしたか尋ねます。ただし、精神障害のある患者も身体的な病気を発症することがあるため、新たな異常行動がみられても、その原因が常に精神障害であると判断することはできません。
医師は、患っている身体的な病気(糖尿病など)と生活習慣(婚姻状況、雇用形態、教育的な背景、飲酒、レクリエーショナルドラッグの使用、生活環境など)について質問します。また、精神症状を引き起こす身体的な病気(多発性硬化症など)をもつ人が家族内にいるかも質問します。
身体診察では、特に以下の点に注意しながら、身体的な病気の徴候や精神状態の変化について調べます。
発熱や心拍数の上昇(感染症、アルコールの離脱症状、高用量のアンフェタミンやコカインの使用が疑われる)
錯乱またはせん妄(薬物中毒や離脱症状が疑われる)
言葉の表出や言語理解に関する困難など、神経学的診察で認められる異常(脳の病気が疑われる場合がある)
錯乱とせん妄は、身体的な病気が原因であることの方が多い症状です。精神障害の患者に錯乱やせん妄が生じることはまれです。しかし、行動の変化を引き起こす身体的な病気の多くは、錯乱やせん妄を引き起こさない一方、しばしば精神障害のように見えることのある他の症状を引き起こします。
診察では、医師が患者の首を前に傾けますが、そのときに傾けるのが難しかったり、痛みが出たりする場合は、髄膜炎が原因である可能性があります。また、腎不全や肝不全で生じることのある浮腫(むくみ)がないか、脚と腹部を確認します。皮膚や白眼が黄色い場合は、肝不全が原因である可能性があります。
医師は小さな懐中電灯のような機器(検眼鏡 眼底検査 眼に何らかの症状が出た場合は、医師の診察を受けるべきです。 しかし、眼の病気の中には、初期段階では症状がほとんどまたはまったくないものもあります。したがって、症状がなくても、眼科医やオプトメトリストによる定期的な検査を1~2年に1回程度(眼の状態によってはもう少し頻繁に)受けるべきです。眼科医とは、眼の病気の評価と(手術を含む)治療を専門... さらに読む といいます)で眼の内部を調べることもあります。そこで視神経がある部分に腫れ(乳頭浮腫 (視神経)乳頭浮腫 乳頭浮腫とは、脳の内部や周辺の圧力上昇が原因で、視神経の眼球内にある部分が腫れた状態をいいます。 症状は一時的な視覚障害、頭痛、嘔吐(おうと)で、これらが複合して現れることもあります。 医師は検眼鏡で眼の中を観察することにより診断を下します。 脳圧上昇の原因になっている病気を、できるだけ速やかに治療します。 ( 視神経の病気の概要も参照のこと。) さらに読む )が認められる場合には、頭蓋骨の中の圧力が高まっている可能性があり、脳内の腫瘍や出血が精神症状の原因になっている可能性があります。
検査
典型的な検査としては以下のものがあります。
パルスオキシメーター(指に取り付けるセンサー)を用いた血液中の酸素レベル測定
血液検査による血糖値(グルコース値)の測定
薬物の有無を確認する尿検査
血算
ときに血液検査による電解質濃度の測定と腎機能の評価
精神障害があることが分かっている人のほとんどでは、その典型的な症状の悪化のみが症状である場合、意識がはっきりしている場合、ならびにこれらの検査および身体診察の結果が正常である場合には、それ以上の検査は不要です。
その他の人には、HIV感染症を調べる血液検査が通常は必要になります。
その他の検査は、主に症状と診察結果に基づいて行われます(表「 パーソナリティおよび行動の変化の主な原因と特徴 パーソナリティおよび行動の変化の主な原因と特徴 」を参照)。具体的な検査としては以下のものがあります。
脳の CT CT(コンピュータ断層撮影)検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む
または MRI MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるよう... さらに読む
検査:精神機能障害の症状が現れて間もない場合、せん妄または頭痛がみられる場合、頭部に最近けがを負っていた場合、神経学的診察で異常が発見された場合
腰椎穿刺 腰椎穿刺 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む
:髄膜炎の症状がみられる場合、発熱、頭痛、またはせん妄がみられる患者のCT検査で異常が認められない場合
甲状腺機能を評価するための血液検査:リチウムを服用している場合、甲状腺の病気の症状がみられる場合、40歳以上の人でパーソナリティまたは行動の変化が始まって間もない場合(特に女性と甲状腺疾患の家族歴がある人)
胸部X線検査:発熱がある場合、たんを伴うせきや喀血がみられる場合
血液培養(血流中に細菌が侵入していないか調べるため):非常に具合が悪く、発熱がみられる場合
肝機能を評価するための血液検査:肝臓の病気の症状またはアルコールや薬物乱用の既往がある場合、それらについて具体的な情報が得られない場合
治療
可能であれば原因を是正または治療します。原因が何であれ、自傷行為や他害行為のおそれがある場合は、一般的には本人の意思の有無にかかわらず、入院させて治療を行う必要があります。米国の多くの州では、そのような判断は、精神障害のある個人に代わって医療に関わる判断を行うように任命された人物(代理意思決定者 既定の代理人による意思決定 患者が自分の医療に関する決定を下す能力を失った場合は、ほかの人(複数人も可)が意思決定を行わなければなりません。こうした役割を担う人を一般に代理意思決定者といいます。医療判断代理委任状が作成されておらず、医療に関する決定を下す権限をもつ後見人が裁判所によって任命されていない場合に、誰が代理意思決定者になるかは、ほとんどの州の州法で定められています。( 医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。)... さらに読む と呼ばれます)が下す必要があります。当人が判断する人を任命していない場合は、医師が近親者に連絡をとるか、裁判所が緊急の後見人を任命することができます。
自傷他害のおそれがない人は、評価や治療を受けることを拒否することができますが、そうすることで自身や家族に問題が生じる場合があります。
要点
パーソナリティや行動の変化は、常に精神障害によるものというわけではありません。
それ以外の原因としては、薬(離脱症状と副作用を含む)、主に脳に影響を及ぼす病気、脳にも影響を及ぼす全身の病気などがあります。
医師は特に、錯乱やせん妄、発熱、頭痛、脳の機能不全を疑わせる症状がある人、頭部に最近けがを負った人、自身や他者を傷つけたいと考えている人に特に注意を払います。
一般的には、血液検査を行って酸素レベル、血糖値(グルコース値)、服用している特定の薬物(抗てんかん薬など)の濃度を測定するとともに、症状と診察結果に基づいて他の検査を行うことがあります。