人間は社会的な生き物であり、社会生活における適応能力は、家族、学校、仕事、遊び、交際、人間関係など、生活における多くの重要な側面に影響を及ぼします。
恐怖症は、特定の状況や物に恐怖や不安を抱く 不安症 不安症の概要 不安は誰もが普通に経験する神経質、心配、困惑の感情です。不安は幅広い精神障害、例えば全般不安症、パニック症、恐怖症などでもみられます。このような障害はそれぞれ別のものですが、いずれも特に不安と恐怖に関連した苦痛と日常生活への支障を特徴としています。 不安に加え、患者が息切れ、めまい、発汗、心拍数の上昇、ふるえなどの身体症状を経験することも... さらに読む の一種で、恐怖症の人はそれらを避けるようになります。その恐怖や不安は現実の脅威とは不釣り合いなものです。 限局性恐怖症 限局性恐怖症 限局性恐怖症とは、特定の状況、環境、または対象に対して、非現実的で激しい不安や恐怖感が持続する状態です。 恐怖症によって不安が引き起こされ、特定の活動や状況を避けるようになるため、日常生活に支障をきたすことがあります。 通常は症状から明らかに診断がつきます。 治療は通常、曝露療法を行います。 限局性恐怖症はよくみられる 不安症で、12カ月の期間で調べると、成人の約8%で認められます。最も多くみられる限局性恐怖症としては、動物に対する恐怖... さらに読む は多数存在します。
社会的状況の中である程度の不安を抱くのは正常なことですが、社交恐怖症の人は極めて強い不安を感じるため、社会と接することを避けたり、苦痛を感じながらその不安に耐えたりしています。約13%の人が人生のいずれかの時点で社交恐怖症になるといわれています。12カ月の期間で調べると、この病気は女性の約9%、男性の約7%で認められます。
社交恐怖症の成人の中には、子どもの頃から内気だった人もいますが、思春期の後まで強い不安症状がみられなかった人もいます。
社交恐怖症の人は、自分の行為や言動がほかの人の目に不適切に映るのではないかと心配します。しばしば、不安を抱いていることが他者にあからさまに分かってしまうのではと心配し、汗をかいたり、赤面したり、吐いたり、体や声がふるえたりするのではないかと思い悩みます。さらには、途中で何を話していたか分からなくなったり、自分をうまく表現する言葉を見つけられなくなるのではないかと不安を抱くこともあります。
社交恐怖症の中には、特定の状況と結びついて、人前で特定の活動を行わなければならないときにだけ不安が生じるものもあります。その場合、同じことを一人で行っても、不安になることはありません。社交恐怖症の人でよく不安の誘因になるものとしては、以下のものがあります。
人前で話をすること
教会での聖書の朗読や楽器の演奏など、大勢の人の前で何かをすること
人と食事をすること
知らない人と会うこと
会話をすること
証人の面前で署名をすること
公衆トイレを使用すること
より全般的なタイプの社交恐怖症では、様々な社会的状況で不安が生じることが特徴です。
どのタイプの社交恐怖症でも、患者は自分が他者の期待に沿えなかったり、対人関係の中で詳細に吟味されたりした場合に、恥をかいたり、きまりの悪い思いをしたり、拒絶されたように感じたり、他者の気分を害したりすることを恐れます。
患者は自分の恐怖感が非合理で過剰であると認識していることもあれば、認識していないこともあります。
診断
具体的な診断基準に基づく医師による評価
社交恐怖症は、以下のすべてに当てはまる恐怖または不安がある場合に診断されます。
程度が強く、6カ月以上にわたってみられる
1つまたは複数の社会的状況に関係している
ほぼ常に同じ状況で生じる
他者による否定的な評価に対する恐怖を伴う
その状況を避けるようになったり、居心地悪く感じながら耐えたりする
実際の危険と釣り合っていない
重大な苦痛を引き起こしているか、日常生活に大きな支障をきたしている
また診断過程では、 広場恐怖症 広場恐怖症 広場恐怖症とは、強い不安に襲われたときにすぐに逃げられない、または助けが得られそうにない状況や場所にいることに恐怖や不安を抱く状態です。多くの場合、そのような状況や場所を避けたり、多大な苦痛を感じながら耐えたりします。 広場恐怖症は 不安症の一種です。広場恐怖症の人の約30~50%は パニック症も併発しています。12カ月の期間で調べると、広場恐怖症は女性の約2%、男性の約1%で認められます。広場恐怖症の人のほとんどは35歳までに発症しま... さらに読む 、 パニック症 パニック発作とパニック症 パニック発作とは、極めて強い苦痛、不安、恐怖などが突然現れて短時間で治まる発作のことで、身体症状や精神症状を伴います。パニック症(パニック障害とも呼ばれます)では、パニック発作が繰り返し生じることで、将来の発作に対して過度の不安を覚えるようになったり、発作を引き起こす可能性のある状況を回避するための行動変化がみられたりします。 パニック発作では、胸の痛み、窒息感、めまい、吐き気、息切れなどの症状が生じることもあります。... さらに読む 、 醜形恐怖症 醜形恐怖症 醜形恐怖症(身体醜形障害とも呼ばれます)では、実際には存在しない外見上の欠点やささいな外見上の欠点にとらわれることで、多大な苦痛が生じたり、日常生活に支障をきたしたりします。 典型的な例では、自分の体には外見上大きな欠点があると思い込み、毎日何時間も思い悩みますが、そのような「欠点」は体の様々な部分にみられます。... さらに読む など、同様の症状を引き起こすことがある他の精神障害の可能性を否定します。
治療
曝露療法
認知行動療法
抗うつ薬、通常は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
社交恐怖症は治療せずにいると長引くことが多く、本来やりたい活動まで避けるようになる人も多くいます。
曝露療法が通常は有効です。しかし、不安を誘発する状況に慣れて安心できるようになるまで曝露療法を続けるのは、容易なことではありません。例えば、上司の前で発言することを恐れている人が、その上司の前で繰り返し話す練習をするのは、まず無理なことです。こうした場合は、トーストマスターズ(人前で話すことに不安を感じる人のための団体)に参加する、介護施設などを訪問して入所者に本を朗読するなど、代わりになる状況で練習することが助けになることがあります。
認知行動療法も役立ちます。この治療法では、対象者は次のことを学びます。
リラクゼーション法を使用すること
不安やパニックのきっかけとなる可能性のある思考・行動パターンを特定すること
そのような思考パターンを調整すること
自分の行動を適切な方向に変化させること
SSRIなどの 抗うつ薬 抗うつ薬 うつ病とは、日常生活に支障をきたすほどの強い悲しみを感じているか、活動に対する興味や喜びが低下している状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。 うつ病になると、悲しみに沈み、動作が緩慢になり、以前は楽しんでい... さらに読む とベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬)は、社交恐怖症にしばしば効果があります。通常はSSRIが好まれますが、それはベンゾジアゼピン系薬剤と異なり、認知行動療法の妨げになりにくいからです。ベンゾジアゼピン系薬剤は、中枢神経系(脳と脊髄)に作用し、眠気や記憶障害を引き起こすことがあります。
人前で何かを行うことへの苦痛から生じる頻脈(心拍数の上昇)、ふるえ、発汗の軽減には、ベータ遮断薬が使用されることがありますが、この薬で不安自体が軽減するわけではありません。
さらなる情報
米国国立精神衛生研究所、社交不安症(National Institute of Mental Health, Social Anxiety Disorder):社交不安症についての多岐にわたる一般的な情報(有病率の統計など)