原因は遺伝子の突然変異です。
50歳以降の男性が発症します。最初は手に振戦が起こり、次に協調運動障害、動作の緩慢化、表情の減少がみられ、ときに記憶障害も生じます。
遺伝子検査で診断を確定できます。
プリミドン、プロプラノロール、またはパーキンソン病の治療薬によって、しばしば振戦を緩和できます。
脆弱X関連振戦/失調症候群は、50歳以上の男性の3,000人に1人の割合で起こります。
脆弱X関連振戦/失調症候群の原因は、X染色体上(性染色体の1つ)の遺伝子にみられる前変異と呼ばれる比較的小さな異常です。男性はX染色体とY染色体を1本ずつもち、女性は2本のX染色体をもっています。この遺伝子にさらに大きな(完全な)変異が発生すると、小児に知的障害を起こす病気である、 脆弱X症候群 脆弱X症候群 脆弱X症候群は、X染色体の異常の1つで、知的障害と行動面の問題が現れます。 染色体は、細胞の中にあってDNAや多くの遺伝子が格納されている構造体です。遺伝子とは、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパクの設計情報が記録された領域で、物質としてはDNA(デオキシリボ核酸)で構成されています(遺伝学についての考察は 遺伝子と染色体)。遺伝子には、体がどのように機能するかを定めた詳細な指示が記録されています。... さらに読む の原因になります。
前変異をもつ人はキャリア(ある異常遺伝子をもっているものの、その病気の症状が出ていない人)とみなされます。しかし、前変異をもつ男性の約30%、前変異をもつ女性の約5%未満が成人期に脆弱X関連振戦/失調症候群を発生します。発生リスクは加齢とともに増加します。
前変異は、それをもつ男性から、娘には引き継がれますが、息子には引き継がれません。前変異をもつ女性の多くはこの症候群を発症せず、したがって本人も知らずに、息子(はじめに前変異をもっていた男性の孫)にこの変異遺伝子を伝えることがあります。この女性から子どもに前変異が遺伝する確率は50%です。前変異は、母親から子どもに引き継がれるときに完全な変異に転じることがあり、すると子どもは脆弱X症候群を発症します。
症状
通常、脆弱X関連振戦/失調症候群の症状は成人期に現れます。
多くの場合、最初の症状は以下のものです。
手の振戦(典型的には何か作業をしようとしたときに起こる)
ほかに、協調運動障害、動作の緩慢化、こわばり、表情の減少などがみられます。
最近の出来事を思い出したり、問題を解いたりするのが難しくなることがあります。思考が鈍くなることもあります。精神機能が進行性に低下することもあります。人格の変化や、抑うつ、不安、短気、敵意、気分の変動などがみられることがあります。
足の感覚障害や内臓の機能不全なども生じます。立ち上がったときに、正常なら起こる血圧上昇が起こらないため、立ちくらみを感じることもあります( 起立性低血圧 立ちくらみ 一部の人、特に高齢者では、上体を起こしたり、立ち上がったりすると、血圧が極度に低下することがあります(起立性低血圧や体位性低血圧と呼ばれます)。立ち上がると(特にベッドで寝ていた後や長時間にわたって座っていた後に)数秒間から数分間にわたって気が遠くなる、ふらつき、めまい、混乱、かすみ目などの症状が起こり、横になるとそれらの症状は速やかに消失します。しかし、なかには転倒や失神、また極めてまれですが短時間のけいれんが起こる場合もあります。こ... さらに読む )。排尿回数が増え、最終的に尿失禁や便失禁を起こすようになることもあります。
発症後の生存期間は約5~25年です。
前変異をもつ女性では症状は比較的軽いのが普通です。これは、女性にはX染色体がもう1本あり、それが前変異をもつX染色体の影響を防ぐためと考えられています。前変異をもつ女性は、もたない女性より閉経が早く、不妊症になりやすい傾向があります。
診断
医師による評価
遺伝子検査
ときにMRI検査
脆弱X関連振戦/失調症候群は比較的最近(2001年)になって特定された病気であるため、ときに見逃されたり、パーキンソン病やアルツハイマー病など同様の症状を引き起こす病気と誤診されたりすることがあります。振戦は、 本態性振戦 本態性振戦 振戦とは、手、頭、声帯、体幹、脚などの体の一部に起こる、不随意でリズミカルなふるえです。振戦は、筋肉の収縮と弛緩が繰り返されたときに起こります。 振戦には以下の種類があります。 正常(生理的)なもの 病気または薬剤によって引き起こされる異常(病的)なもの 振戦は通常、いつ起こるかに応じて分類されます。 さらに読む (その他の症状を伴うことはめったにない一般的な振戦)と誤認されることがあります。
この症候群が疑われる場合、医師は患者の家族の症状について質問し、特に孫に知的障害がないか、娘に早期の閉経や不妊症がなかったかを尋ねます。
医師が脆弱X症候群の小児を診察する際は、その祖父に脆弱X関連振戦/失調症候群を疑わせる症状がないかを質問するはずです。
遺伝子検査で診断を確定できます。
脳内の特徴的な異常を調べるために MRI検査 MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるような強力な磁場の中に置かれると、磁場... さらに読む が行われることもあります。
また、脆弱X関連振戦/失調症候群がある男性の娘と孫息子は遺伝カウンセリングを受けた方がよいでしょう。患者の娘は、子どもを作るかどうか、そして妊娠した場合に出生前検査を受けるかどうかについて決断できるように、前変異の有無を調べる検査を受けることができます。
治療
振戦をコントロールする薬
プリミドン(抗てんかん薬)、プロプラノロール(ベータ遮断薬)、または パーキンソン病による振戦をコントロールする薬 パーキンソン病の治療に用いられる薬剤 の多くで、振戦がしばしば緩和されます。