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自律神経系の概要

執筆者:

Phillip Low

, MD, College of Medicine, Mayo Clinic

レビュー/改訂 2021年 9月
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自律神経系は、血圧や呼吸数など、体内の特定のプロセスを調節している神経系です。意識的な努力を必要とせず、自動的(自律的)に機能するのが特徴です。

自律神経系の病気は、体のあらゆる部分とあらゆるプロセスに影響を及ぼす可能性があります。また、自律神経系の病気には、可逆性のものと進行性のものがあります。

自律神経系の解剖

自律神経系 自律神経系 は全身に分布していて、血管、胃、腸管、肝臓、腎臓、膀胱、性器、肺、瞳孔、心臓、汗腺、唾液腺、消化腺などの内臓を支配しています。

自律神経系は、以下の2つに分けられます。

  • 交感神経系

  • 副交感神経系

自律神経系は、体内や体外の環境に関する情報を受け取って、体内プロセスを制御します。機能を刺激(促進)するには主に交感神経系、機能を抑制するには主に副交感神経系が使われます。

自律神経系の1本の経路には2つの神経細胞が関与しています。一方は 脳幹 脳幹 脳の機能は神秘的で驚くべきものですが、それらは膨大な数の神経細胞とそれらの間でなされるコミュニケーションによって実現されています。思考、信念、記憶、行動、気分は、すべて脳から起こります。脳は思考と知能の場所であり、体全体をコントロールしている司令塔です。脳はまた、運動、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の統合も担っています。人は脳の働きによって... さらに読む 脳幹 または脊髄に存在し、もう一方は自律神経節と呼ばれる神経細胞の集まりの中に存在し、この2つは神経線維によって連結されています。神経節から伸びる神経線維は内臓につながっています。交感神経系の神経節の大半は、脊髄のすぐ外の左右両側に位置しています。副交感神経系の神経節は、それぞれ支配する内臓の付近または内部に存在します。

自律神経系の機能

自律神経系は、以下のような体内プロセスを制御しています。

多くの臓器は、交感神経系と副交感神経系のどちらか一方によって主に制御されていますが、1つの臓器に対して両方の神経系がそれぞれ反対の作用を及ぼしている場合もあります。例えば、交感神経系は血圧を上昇させますが、副交感神経系は血圧を低下させます。全体として、2つの神経系が協調して機能することで、体は様々な状況に対して適切に反応できるようになっています。

一般に、交感神経系には以下の機能があります。

  • ストレスの多い状況や緊急事態に際して体の状態を整える(闘争・逃走反応)

そのため交感神経系は、心拍数を増やし、心臓の収縮力を高め、呼吸がしやすくなるように気道を広げ(拡張し)ます。これにより、蓄えられたエネルギーが体から放出され、筋肉に大きな力が入るようになります。この神経系はまた、手のひらの発汗、瞳孔の散大、体毛の逆立ちなども引き起こします。その一方で、緊急時にあまり重要でない機能(消化や排尿など)を鈍らせます。

副交感神経系には以下の機能があります。

  • 日常的な状況下で体内プロセスを制御する。

副交感神経系には一般に、エネルギーを温存し、体を回復させる役割があります。副交感神経系は、心拍数を減らし、血圧を低下させます。また、消化管を刺激して、食べものの消化や不要物の排泄を促します。食べものから吸収されたエネルギーは、組織の修復や形成に利用されます。

自律神経系における情報伝達には、以下の2種類の化学伝達物質(神経伝達物質)が利用されています。

  • アセチルコリン

  • ノルアドレナリン

アセチルコリンを分泌する神経線維はコリン作動性線維と呼ばれます。ノルアドレナリンを分泌する線維はアドレナリン作動性線維と呼ばれます。一般的に、アセチルコリンは副交感作用(抑制作用)、ノルアドレナリンは交感作用(刺激作用)を示します。ただし、アセチルコリンには一部の交感作用もあり、例えば、発汗を刺激したり、毛を逆立てたりすることがあります。

自律神経系

自律神経系

自律神経系の病気の原因

自律神経系の病気は、自律神経や脳の特定の部分(体の仕組みの制御に関わっている部分)に損傷が起きる病気が原因で生じることもあれば、明らかな原因がなく、自然に発生することもあります。

自律神経系の病気の一般的な原因は以下のものです。

その他の比較的まれな原因としては、以下のものがあります。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)で起こる自律神経系の機能障害については、いまだ研究が行われているところです。この場合は、起立性調節障害のほか、ややまれですが自律神経性ニューロパチーが起きることがあります。起立性調節障害とは、立ち上がったときに起こる自律神経系の機能障害のことです。症状としては、ふらつき、かすみ目、重頭感、動悸、震え、吐き気、呼吸困難などがあります。意識を失うこともあります。

自律神経系の病気の症状

発汗量が少なくなったり、まったく汗をかかなくなったりして、暑さに耐えられなくなることもあります。眼と口が乾燥することもあります。

自律神経系の病気があると、胃から内容物が送り出されるペースが非常に遅くなるために(胃不全麻痺)、食事をしてもすぐに満腹感を覚えることがあり、嘔吐することさえあります。意図せず尿が漏れることもあり(尿失禁 成人の尿失禁 尿失禁とは、自分では意図せずに尿が漏れることです。 尿失禁は、男女とも年齢を問わず起きる可能性がありますが、女性と高齢者でより多くみられ、高齢女性の約30%、高齢男性の約15%が尿失禁を起こしています。尿失禁は高齢者でより多くみられるものの、加齢に伴う正常な変化の一部ではありません。尿失禁は、利尿効果のある薬を服用した場合のように突然で一... さらに読む 成人の尿失禁 )、多くは膀胱の活動が過剰になることが原因で起こります。逆に膀胱の活動が弱まって、排尿が困難になる場合もあります(尿閉 尿閉 尿閉とは、膀胱から尿をまったくまたはほとんど排出できなくなった状態のことです。 排尿後に膀胱内に残尿がみられる人では、同時に頻尿や尿失禁がみられる場合があります。 排尿が可能な場合は、排尿後に膀胱に残った尿の量を測定します。 カテーテルを用いて膀胱内の尿を除去した後、原因に対する治療を行います。... さらに読む )。 便秘 便秘 便秘は、排便しにくい、排便回数が少ない、便が硬い、または排便後に直腸が完全に空になっていない感覚(残便感)がある状態です。( 小児の便秘も参照のこと。) 便秘には急性のものと慢性のものがあります。急性便秘は突然起こり、はっきりと現れます。慢性便秘は、徐々に始まり数カ月ないし数年間持続することがあります。... さらに読む になったり、排便を制御できなくなったりすることもあります。

光の変化に伴う瞳孔の散大や収縮が起こらなくなることがあります。

自律神経系の病気の診断

  • 医師による評価

  • 特定の動作で血圧がどのように変化するかを調べる検査

  • 心電図検査

  • 発汗の検査

身体診察の際に、医師は起立性低血圧などの自律神経系の病気の徴候を調べることがあります。例えば、横になった状態または座った状態で血圧と心拍数を測定した後、今度は立った状態で血圧と心拍数を測定して、姿勢が変わったときに血圧がどのように変化するかを確認します。立った状態では、重力のせいで血液が脚の静脈から心臓に戻りにくくなります。そのため、血圧が低下します。これを補うために、心臓の拍動が盛んになり、心拍数が増加します。しかし、心拍と血圧の変化はわずかで、短期間しか続きません。変化が大きい場合や持続時間が長い場合は、起立性低血圧の可能性があります。

また、バルサルバ法(鼻や口から息が漏れないようにした状態で思い切り息を吐き出そうとする[排便時にいきむときのような]動作)を行いながら、血圧を継続的に測定します。また、深呼吸とバルサルバ法を行いながら 心電図検査 心電図検査 心電図検査は心臓の電気刺激を増幅して記録する検査法で、手早く簡単に行える痛みのない方法です。この記録は心電図と呼ばれ、以下に関する情報が得られます。 心臓の1回1回の拍動を引き起こしている、ペースメーカーとしての部分(洞房結節、洞結節) 心臓の神経伝導経路 心拍数や心拍リズム 心電図では、心臓が拡大していること(通常の原因は... さらに読む 心電図検査 を行って、心拍数が正常に変化するかを調べます。

ティルト試験とバルサルバ法は、これらを併用することで、血圧の低下が自律神経系の病気によるものかどうかを医師が判断する手がかりが得られます。

瞳孔を診察し、光の変化に対する異常な反応がないか、反応が失われていないかも確かめます。

発汗の検査も行われます。ある方法では、内部をアセチルコリンで満たした電極を脚と前腕に付けることで汗腺を刺激します。次に、発汗量を測定して、汗が正常に分泌されているかを調べます。検査中に、軽い灼熱感(焼けるような感覚)を覚えることがあります。

温熱発汗試験と呼ばれる別の方法では、皮膚に染料を塗ってから、密閉された高温の部屋に入ってもらい、発汗を刺激します。発汗があると染料の色が変化します。さらに、発汗の減少のパターンを評価することができ、その結果は自律神経系の病気の原因を特定する手がかりになります。

自律神経系の病気につながりうる病気の有無を調べるため、血液検査など、その他の検査が行われる場合もあります。

自律神経系の病気の治療

  • 原因が特定された場合は、それに対する治療

  • 症状の緩和

自律神経系の病気の一因となりうる病気がある場合は、その病気を治療します。ほかに病気がない場合や、あっても治療できない場合は、症状の緩和に重点が置かれます。

自律神経系の病気による症状の一部には、以下のような簡単な対策や、ときに薬剤の使用がその緩和に役立つことがあります。

  • 起立性低血圧:ベッドの頭側を10センチメートルほど高くし、ゆっくりと起き上がるようにします。腹帯や弾性ストッキングなどの圧迫帯やサポーターを着用することも助けになることがあります。塩分や水分の摂取量を増やすと、循環血液量が維持されるため、血圧の維持に役立ちます。ときに、薬剤が使用されることもあります。フルドロコルチゾンは、血液量と血圧を維持するのに役立ちます。ミドドリンは、動脈を細くする(収縮させる)ことで、血圧の維持に役立ちます。これらはいずれも経口薬です。

  • 発汗の減少または停止:汗の量が減った場合や汗が出なくなった場合は、温かい環境を避けることが有用です。

  • 尿閉:膀胱が正常に収縮できないために尿を排出できなくなった場合(尿閉)は、カテーテル(ゴム製の細い管)を尿道を通して膀胱内まで自分で挿入する方法を教わることができます。カテーテルを挿入すれば、たまった尿を排出できるため、症状が和らぎます。1日に数回カテーテルを挿入し、膀胱が空になったらカテーテルを抜きます。膀胱の緊張を高めて、排尿を補助するために、ベタネコールという薬剤が使用されることもあります。

  • 便秘:高繊維食(食物繊維を多く含む食事)をとり、便軟化剤を使用することが推奨されます。便秘が続く場合は、浣腸が必要になることがあります。

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