筋肉のけいれんとは、突然起きて短時間だけ持続する、意図しない(不随意の)筋肉または筋肉群の収縮で、通常は痛みを伴います。筋肉のけいれんは、末梢神経系の機能障害の症状である可能性があります。
(脳、脊髄、末梢神経の病気の症状に関する序も参照のこと。)
原因
筋肉のけいれんの最も一般的な原因は以下のものです。
筋肉のけいれん(「筋肉がつる」とも表現されます)は、健康な人にもしばしば起こり、通常は中高年の人によくみられますが、ときに若い人に起こることもあります。筋肉のけいれんは、激しい運動の最中や後に起こる傾向がありますが、ときに安静時にも起こります。就寝中に脚の筋肉にけいれんが起きる人もいます。このような痛みを伴う筋肉のけいれんは、ふくらはぎや足の筋肉に起こることが多く、その場合は足や足指が下方へ屈曲します。このような筋肉のけいれんは、痛みを伴うものの、通常は良性の(重篤でない)けいれんです。
筋肉のけいれんは、ほぼすべての人に時折みられる現象ですが、特定の異常があると、けいれんのリスクや重症度が高まります。具体的には以下のものがあります。
電解質濃度が低下する原因として、一部の利尿薬の使用、アルコール依存症、特定の内分泌疾患、ビタミンD欠乏症、体液の喪失(とそれに伴う電解質の喪失)を引き起こす他の病気などがあります。電解質の濃度は、妊娠の後期にも低くなることがあります。
透析の直後に筋肉のけいれんが起こることもありますが、その原因としては、透析により体液があまりに大量に、あるいはあまりに急激に除去されたり、電解質の濃度が低下したりすることが考えられます。
筋肉のけいれんの原因または一因となる病態
分類 |
例 |
薬剤 |
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特定の薬剤の使用 |
アンジオテンシンII受容体拮抗薬、一部のベータ遮断薬(高血圧の治療薬)、気管支拡張薬(喘息の治療薬)、シスプラチン、クロフィブラート、利尿薬、ドネペジル、ロバスタチン(lovastatin)、経口避妊薬、ピラジナミド、ラロキシフェン、合成副甲状腺ホルモン(テリパラチド)、トルカポン、ビンクリスチン 刺激物(例えば、アンフェタミン、カフェイン、コカイン、エフェドリン、ニコチン、プソイドエフェドリン) |
薬剤の突然の中止 |
鎮静薬(例えば、アルコール、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系) 不眠症または不安の治療薬 |
病気 |
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電解質と内分泌の病気 |
甲状腺機能低下症(甲状腺の活動が不十分になった状態) |
筋骨格系の病気 |
ふくらはぎの筋肉が硬い ミオパチー(筋肉を侵す病気) 構造的異常(例えば、扁平足、反張膝[膝関節が後方に反り返る変形]) |
神経の病気 |
運動ニューロン疾患(随意筋[意識的にコントロールできる筋肉]を侵す神経の病気) 末梢神経障害(脳や脊髄以外の神経の損傷) 脊髄神経根の圧迫 |
水分のバランスが崩れる病気 |
大量発汗がみられ、塩分またはカリウムの補充が不十分な場合 透析の影響(例えば、体液があまりに大量にまたはあまりに急激に除去された場合) |
その他 |
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運動と生活習慣 |
運動中または運動直後の筋肉のけいれん 長時間座ったままでいること |
類似の症状を引き起こす病気
一部の病気は筋肉のけいれんに似た症状を引き起こします。
ジストニアでは、不随意な筋収縮がみられますが、通常は筋肉のけいれんよりも長く続き、より頻繁に起こります。また、ふくらはぎ以外の筋肉に起こりやすい傾向があり、脚だけでなく腕の筋肉のほか、背中、首、声帯の筋肉など、他の多くの筋肉にもみられます。反対に、脚の筋肉の良性のけいれんや運動に伴う筋肉のけいれんは、ふくらはぎに起こる傾向があります。
テタニーは、体中の筋肉が継続的または周期的にけいれん(れん縮)する現象です。このれん縮は、筋肉のけいれんよりはるかに長く続き、より広範囲に及びます。筋肉がひきつることもあります。
一部の人では、けいれんの錯覚が起こることもあります。これは、実際には筋収縮が起こっていないのに、筋肉のけいれんが起こっているかのように感じる状態です。
脚に動脈硬化(末梢動脈疾患)がある人では、歩行などの運動中にふくらはぎの筋肉が痛むこと(跛行[はこう])があります。この痛みはけいれんのような筋肉の収縮によるものではなく、筋肉への血流が不十分であるために起こります。
評価
以下では、医師の診察を受ける必要があるか、また受けた場合に何が行われるかについて説明しています。
警戒すべき徴候
受診のタイミング
医師が行うこと
検査
予防
筋肉のけいれんには予防が最善のアプローチです。以下のような対策が役に立ちます。
ストレッチをすると筋肉と腱の柔軟性が高まるため、筋肉が意図せずに収縮することが少なくなります。ランナーが行うストレッチ(ランナーストレッチ)は、ふくらはぎのけいれん(こむら返り)を予防する最善のストレッチ法です。片脚を前に出して膝を曲げ、後方の脚は膝を伸ばした姿勢(ランジ姿勢)で立ちます。バランスを取るために手を壁につけてもよいでしょう。両足のかかとは床につけたままにします。そして前方の脚の膝を、後方の脚の後ろ側が伸びているのを感じられるまでさらに深く曲げます。両足の距離が離れているほど、また前方の膝が深く曲がっているほど、後方の脚の背側の筋肉はよりいっそう伸ばされます。後方の膝を伸ばした状態で姿勢を30秒間保ち、それを5回繰り返します。その後、このセットを反対側でも繰り返します。
治療
筋肉のけいれんの原因となる病気が見つかった場合は、その治療を行います。
筋肉のけいれんが起きたときは、多くの場合、けいれんを起こしている筋肉を伸ばすことで緩和できます。例えば、ふくらはぎのけいれんの場合は、手で足やつま先を上方に引っ張るか、ランナーストレッチを行います。ある種のけいれんは、マッサージをすると一時的に痛みが和らぐことがあります。
筋肉のけいれんの再発を予防する目的で処方される薬剤(カルシウムサプリメント、炭酸マグネシウム、ジアゼパムのようなベンゾジアゼピン系の薬剤など)のほとんどは、有効性が証明されていないうえ、副作用を起こす可能性があります。キニーネが有効かどうかはよく分かっていませんが、嘔吐、視覚障害、耳鳴り、頭痛などの副作用があります。メキシレチン(不整脈の治療に用いられる)が役に立つ場合もありますが、吐き気、嘔吐、振戦(体の一部が律動的にふるえる症状)、けいれん発作などの様々な副作用があります。