脳内出血は通常、慢性高血圧によって起こります。
多くの場合、最初の症状は重度の頭痛です。
診断は、主に症状と画像検査の結果に基づいて下されます。
治療としては、出血に寄与した可能性のある病態の管理(血圧が非常に高ければ、降圧するなど)のほか、まれに、貯まった血液を手術で除去することがあります。
(脳卒中の概要 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む と 出血性脳卒中の概要 出血性脳卒中の概要 出血性脳卒中には、脳の内部で起こる出血(脳内出血)や、脳を覆っている組織の内側の層(軟膜)と外側の層(くも膜)の間で起こる出血(くも膜下出血)などがあります。 ( 脳卒中の概要も参照のこと。) ほとんどの脳卒中は、脳の一部への血流が遮断され、脳組織が壊死すること(虚血)で起こります。このような脳卒中は 虚血性脳卒中と呼ばれます。出血によって起こる脳卒中は、全体の約20%に過ぎません。... さらに読む も参照のこと。)
脳内出血は脳卒中全体の約10%ですが、脳卒中による死亡に占める割合はこれよりはるかに高くなっています。60歳を過ぎると、 くも膜下出血 くも膜下出血(SAH) くも膜下出血は、脳を覆っている組織(髄膜)の内側層(軟膜)と中間層(くも膜)との間にあるすき間(くも膜下腔)への出血です。 最も多い原因は、動脈のこぶ(動脈瘤)の破裂です。 通常、動脈が破裂すると、突然の激しい頭痛が起こり、その後にしばしば短時間意識を失います。 診断を確定するためにCT検査またはMRI検査のほか、ときに腰椎穿刺と血管造影検査が行われます。 頭痛を軽減し血圧をコントロールするために薬剤が投与され、出血を止めるために手術が... さらに読む (脳の内部ではなく、脳の周囲への出血)より脳内出血の方が多くなります。
破裂と破綻:出血性脳卒中の原因
脳の血管が弱かったり、異常があったり、血管に異常な圧力がかかったりすると、出血性脳卒中が起こることがあります。出血性脳卒中は、脳内出血のように脳の中で出血が起こる場合と、くも膜下出血のように脳をおおっている組織の内側の層と中間の層との間(くも膜下腔)で出血が起こる場合があります。 |
脳内出血の原因
脳内出血の原因で最も多いのは以下のものです。
この種の出血につながる危険因子としては、以下のものがあります。
コカインやアンフェタミン類を使用すると、一時的ではあるものの血圧が非常に高くなり、脳内出血を起こすことがあります。高齢者では、アミロイドと呼ばれる異常タンパク質が脳の動脈に蓄積することがあります。この蓄積(アミロイド血管症と呼ばれます)によって動脈が弱くなり、脳内出血が起こることがあります。
あまり一般的でない原因として、先天性の血管異常、脳の動脈の膨らみ(脳動脈瘤 脳動脈瘤 動脈瘤は、動脈の壁にできる膨らみ(拡張)のことです。脳の動脈(脳動脈)に発生した動脈瘤は、脳動脈瘤と呼ばれます。 動脈瘤はどの動脈にもできる可能性があります。( 大動脈分枝の動脈瘤と 腕、脚、心臓の動脈瘤も参照のこと。) 脳動脈瘤の多くは、出生時からある(先天性の)動脈壁の脆弱化が原因で生じます。 動脈硬化(血管壁にプラークと呼ばれる脂肪性の沈着物が蓄積した状態)による動脈壁の脆弱化が原因で生じるものもあります。脳動脈瘤は1つだけの場合... さらに読む )、頭蓋骨内の動脈と静脈の異常な接続(動静脈奇形 脳動静脈奇形(AVM) 動静脈奇形とは、毛細血管(正常な状態で動脈と静脈をつないでいる血管)を迂回して動脈と静脈をつなぐ拡張した血管のもつれです。 脳動静脈奇形は、脳に出血を引き起こすこともあれば引き起こさないこともあります。 脳内出血の有無にかかわらず、頭痛を引き起こすことがあります。 医師は脳の画像検査を行い、脳動静脈奇形を診断します。 治療では、手術による脳動静脈奇形の切除、放射線手術による脳動静脈奇形の破壊、脳動静脈奇形の血液供給を遮断するための物質の... さらに読む )、けが、腫瘍、血管の炎症(血管炎)、出血性疾患、抗凝固薬の過量投与などがあります。出血性疾患がある場合や、抗凝固薬を使用している場合は、脳内出血による死亡リスクが増大します。
脳内出血の症状
脳内出血は突然起こります。重度の頭痛がよくみられます。多くの人で、脳内出血は意識の変化を引き起こしますが、それは多くの場合、数秒または数分以内にみられます。周囲をよく認識できなくなり、理解、記憶、明瞭な思考が難しくなることがあります。吐き気、嘔吐、けいれん発作もよくみられます。
出血が少ない場合、意識に影響はなく、頭痛または吐き気はないか、あっても軽度にとどまります。
しかし、脳の機能障害を示唆する症状は突然生じ、出血が広がるにつれて着実に悪化します。
筋力低下、麻痺、感覚消失、しびれなどの症状が、しばしば体の片側だけに生じます。話をすることができなくなったり、錯乱したりすることがあります。視力が障害されたり、失われたりすることもあります。片方または両方の眼を特定の方向に動かせないことがあります。その結果、両眼がそれぞれ違った方向を向くことがあります。
脳内出血の診断
CTまたはMRI検査
血糖値を測定する血液検査
血液が正常に凝固するかどうかを調べる血液検査
多くの場合、医師は症状と身体診察の結果に基づいて脳内出血を疑いますが、
低血糖では脳卒中と似た症状が現れることがあるため、直ちに血糖値を測定します。
血小板(血液凝固を促進する)の数を測定し、血液が凝固するのにかかる時間を判定するための血液検査も行われます。血小板の数(血小板数)は、様々な理由で低下している可能性があります。血小板数の減少は出血リスクを高めます。血液凝固は、高用量のワルファリン、肝不全、その他の病気の影響を受けることがあります。
診断を確定するため、直ちにCTまたはMRI検査が行われます。どちらの検査も、出血性脳卒中と虚血性脳卒中を見分けるのに役立ちます。脳組織の損傷の程度や、脳の他の領域で圧が上昇していないかどうかもこの検査で分かります。
医師は、ときに CT血管造影検査 CT血管造影 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む (静脈に造影剤を注射してから行うCT検査)を行い、出血が拡大し続けていないかを判定することもあります。出血が拡大し続けていれば、経過の見通しは悪くなります。
脳内出血の予後(経過の見通し)
脳内出血は、虚血性脳卒中に比べて高い確率で死に至ります。多くの場合、出血は大規模かつ壊滅的で、特に慢性高血圧がある人ではその傾向が強まります。大出血を起こした人の約半数が、数週間以内に死亡します。生き延びた人は、通常、意識を回復し、一部の脳機能が時間とともに回復します。しかし、失われた脳機能のすべてが回復することはほとんどありません。
出血が少ない場合、虚血性脳卒中の人よりも良好な回復がみられる傾向があります。出血による脳組織への破壊的影響は、虚血性脳卒中による酸素不足のそれほど強くありません。
脳内出血の治療
必要に応じてモニタリングと支持療法
危険因子のコントロール
ときに、血液凝固を促す治療
ときに、たまった血液を除去する手術
脳内出血を起こした患者は通常、集中治療室(ICU)で治療を受けます。ICUでは、必要に応じて生命維持に必要な機能(呼吸など)を補助し、発生した問題を治療することができます。
脳内出血の治療は、虚血性脳卒中の治療とは異なります。抗凝固薬(ヘパリンやワルファリンなど)、血栓溶解薬、抗血小板薬(アスピリンなど)は、出血を悪化させるため、投与されません。
抗凝固薬を服用している人が出血性脳卒中を起こした場合は、血液の凝固を助ける次のような治療が必要です。
ビタミンK(通常は静脈内投与)
血小板の輸血
血球と血小板を除去した血液(新鮮凍結血漿)の輸血
凝固因子など、血液の凝固を助けるタンパク質を含む溶液(プロトロンビン複合体製剤)
血圧が非常に高ければ、 高血圧 治療 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなっている状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む の治療が行われます。降圧しすぎたり、あまりに急速に降圧したりすると、出血のために血液が少なくなっている脳領域への血流がさらに減少します。すると、血液が足りなくなったその脳の部位で、脳卒中(虚血性脳卒中)が起こることがあります。
貯まった血液を取り除き頭蓋内の圧力を下げる手術は、その手術自体によって脳が傷つく可能性があるため、めったに行われません。貯まった血液を取り除くと、さらなる出血が誘発され、脳がさらに損傷されて、重度の機能障害につながる可能性もあります。ただし、小脳(体の動きの協調を助ける脳の部分)に大きな出血がある場合、この手術が救命につながることがあります。
けいれん発作のある人には、抗てんかん薬が投与されます。