神経の長時間の圧迫は、単神経障害の最も一般的な原因です。
侵された領域にチクチクする感覚やしびれ、筋力の低下がみられます。
通常、単神経障害の診断は症状と身体診察の結果に基づいて下されます。
通常は、症状を引き起こす活動を止めるか修正し、鎮痛薬を服用することが有用ですが、ときにコルチコステロイドの注射、理学療法、または手術が必要なこともあります。
(末梢神経系の概要 末梢神経系の概要 末梢神経系とは、中枢神経系以外の神経系、すなわち脳と脊髄以外の神経のことを指します。 末梢神経系には以下のものが含まれます。 脳と頭部、顔面、眼、鼻、筋肉、耳をつなぐ神経( 脳神経) 脊髄と体の他の部位をつなぐ神経(31対の脊髄神経を含む) 体中に分布している1000億個以上の神経細胞 さらに読む も参照のこと。)
原因
単神経障害の最も一般的な原因は物理的な損傷です。損傷の主な原因は以下の通りです。
肘、肩、手首、膝など、骨の隆起部付近の体表近くを通っている神経に対する、長時間の圧迫(例えば、長時間熟睡した場合[特にアルコール依存症の人])
ギプスが合っていない、または松葉杖の大きさもしくは使い方が適切でない、などの原因による圧迫
無理な姿勢を長時間続けたことによる圧迫(ガーデニングや、テーブルに肘を乗せたままトランプゲームを続けるなど)
手術のために麻酔を受けた人や、寝たきり状態の人(特に高齢者)、麻痺がある人、意識のない人など、長時間動くことができない人でも、神経に圧迫が生じて、神経が損傷されることがあります。
頻度は下がりますが、以下のような原因で神経が損傷されることもあります。
事故
低温または高温に長時間さらされる
がんの放射線療法
小型工具を強く握り締める、またはエアハンマーの振動を過剰に受けるなどして、繰り返し生じた損傷
ハンセン病 ハンセン病 ハンセン病は、らい菌 Mycobacterium lepraeまたはマイコバクテリウム・レプロマトーシス Mycobacterium lepromatosisという細菌によって引き起こされる慢性感染症です。感染の結果、主に末梢神経(脳と脊髄以外の神経)、皮膚、精巣、眼、鼻、のどの粘膜に障害が起こります。 ハンセン病は軽症のもの(皮膚の患部が1カ所から数カ所)から重症のもの(皮膚の患部が多数で、多くの臓器に障害... さらに読む
や ライム病 ライム病 ライム病は、スピロヘータと呼ばれるらせん状の細菌(図「 主な細菌の形」を参照)の一属である、ボレリア属 Borrelia(米国では主にライム病ボレリア Borrelia burgdorferi)によって引き起こされる、ダニを介してうつる感染症です。 ほとんどの人は、ライム病がみられる山間地域での野外活動中に、ライム病ボレリア Borrelia... さらに読む
などの感染症
血液の貯留(血腫)
がんが神経に直接浸潤すること
神経への圧迫が軽い場合は、筋力低下は起こらず、チクチクする感覚だけが生じます。例えば、肘の尺骨の先端部を何かにぶつけた場合や、座っていて足がしびれた場合などがこれにあたります。このような症状は、一時的な単神経障害とみなすことができます。
骨の近くにある体表付近の神経は損傷を受けやすい傾向があります。例えば、以下の神経が損傷することがあります。
症状
損傷を受けた神経が支配している領域で、チクチクする感覚や感覚消失などの異常感覚が起こります。痛みと筋力低下は、起こることも、起こらないこともあります。ときに、筋力低下から麻痺に至り、筋肉が恒久的に短縮して硬くなる(拘縮する)ことがあります。
手根管症候群
手根管症候群 手根管症候群 手根管症候群は、正中神経が手首の手根管を通る所で圧迫され(締めつけられ)痛みが引き起こされる病気です。 手根管症候群の大半は原因不明です。 手の親指に近い指と手のひらが、痛くなったりチクチクしたりしびれたりします。 診断は、診察と、必要な場合は神経機能検査の結果に基づいて下されます。 通常、症状は、痛み止め、副子、またはときにコルチコステロイドの注射や手術で軽減できます。 さらに読む は最も一般的な単神経障害です。これは、手首にある細い通路(手根管)を通る正中神経の圧迫に起因します。
妊娠中の女性や、 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に産生しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 神経を損傷し、知覚に問題が生じます。 血管を損傷し、心臓発作、脳卒中、慢性腎臓病、視力障害のリスクが高まります。... さらに読む 、 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下し、甲状腺ホルモンの産生が不十分になる病気で、身体の重要な機能が働く速度が低下します。 顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。 通常は1回の血液検査で診断が確定されます。 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。 甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホル... さらに読む (甲状腺の活動が不十分になった状態)、特定の アミロイドーシス アミロイドーシス 、 関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む
のある人も、手根管症候群が発生するリスクが高くなります。また、ドライバーの使用など、手首を伸ばした状態で繰り返し力を入れる動作を要求される仕事をしている人でもリスクが高くなります。不適切な姿勢でコンピュータのキーボードを使用することが、別の危険因子である可能性もあります(ただし、これには議論があります)。しかし、ほとんどの場合、発症の原因は不明です。
正中神経への圧迫は、以下の領域に痛みと異常な感覚(しびれ、チクチク感、灼熱感など)を引き起こします。
一部の指(親指、人差し指、中指のほか、薬指の親指側)
手と手首の手掌側
ときに腕
慢性の手根管症候群は、親指側の手の筋肉の筋力を低下させ、萎縮させます。
腓骨神経麻痺
橈骨神経麻痺
橈骨神経は、上腕骨の下側に沿って走る神経です。この神経が長時間圧迫されると 橈骨神経麻痺 撓骨神経管症候群 撓骨神経管(とうこつしんけいかん)症候群は、撓骨神経の分枝が前腕、腕の後ろ側、または肘で圧迫された(締めつけられた)結果起こる病気です。 ( 手の病気の概要も参照のこと。) 撓骨神経管が管と呼ばれるのは、そこが狭い領域であり、橈骨神経が肘の周囲でそこを通って、前腕から手へと向かっているためです。橈骨神経管はそれを取り囲む筋肉、腱、靱帯によってできています。撓骨神経が肘で圧迫される原因には、けが、... さらに読む が起こります。週末に大量の飲酒をして、バーカウンターに腕をかけたまま、腕をイスの背もたれにかけたまま、あるいはパートナーに腕枕をしたまま熟睡してしまったときなどに起こるため、別名「土曜の夜の麻痺(Saturday night palsy)」とも呼ばれています。ギプスの大きさが合わなくて、わきの下近くの腕の内側が圧迫されたときにも、橈骨神経麻痺が起こることがあります。
神経の損傷により、手首と指が弱くなって、指が曲がったまま手首がダラリと垂れ下がります(下垂手)。ときに手の甲の感覚が失われることもあります。
通常は、橈骨神経への圧迫がなくなれば、橈骨神経麻痺は解消します。
尺骨神経麻痺
尺骨神経は、肘の皮膚の表面近くを通る神経です。この神経は、繰り返し肘をついたり、肘にある尺骨の突起部を物にぶつけたりすると、簡単に損傷が生じます。この領域にある骨の異常な成長によって損傷が生じる場合もときにあります。肘で尺骨神経が圧迫されて起こる病気は、 肘部管症候群 肘部管症候群 肘部管(ちゅうぶかん)症候群は、尺骨神経が肘の位置で圧迫される(締めつけられる)ことによって起こる病気です。 肘を繰り返し使うことによって肘部管症候群が生じることがあります。 症状には、薬指と小指のしびれや針で刺したようなチクチクする感じ、肘の痛みなどがあります。 診断は、診察と、必要な場合は神経機能検査の結果に基づいて下されます。 治療としては、理学療法や副子固定などがあり、手術を行うこともあります。 さらに読む と呼ばれます。
通常は、小指と薬指に針で刺されたようなチクチクする感覚が生じます。より重度の損傷による尺骨神経麻痺では、手の筋力が低下します。重度かつ慢性の尺骨神経麻痺では、筋肉の萎縮が起こり、筋肉が固まって指が曲がったままになる鷲手変形と呼ばれる現象が起こります。
尺骨神経麻痺を予防するには、肘への圧迫を避けることが推奨されます。
診断
医師による評価
ときに、筋電図検査と神経伝導検査
単神経障害の診断は通常、症状と身体診察の結果に基づいて下されます。
通常は、以下の目的で 筋電図検査と神経伝導検査 筋電図検査と神経伝導検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む が行われます。
考えられる他の原因の可能性を否定する
損傷した神経の部位を判定する
病気の重症度を判定する
治療
原因の治療
圧迫が一時的なものであれば、安静、圧迫の解除、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)
ときに、コルチコステロイドの注射、副子(副木)による固定、手術、および/または理学療法
単神経障害の原因が病気である場合は、その病気を治療します。例えば、腫瘍があれば手術で切除します。
一時的な圧迫が原因の場合は、通常は次のように対応すると症状が軽減します。
安静にする
神経を圧迫しない
患部を加温する
イブプロフェンなどのNSAIDを使用して炎症を抑える
手根管症候群では、手根管への コルチコステロイド コルチコステロイド 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む の注射が有益になる場合があります。
しばしば、症状が軽減するまで装具や副子が使用されます。これらの器具は、筋肉が短縮して硬くなるのを予防するために使用されます。
治療を行っても症状が進行する場合は、神経の圧迫を和らげる手術を行うことがあります。そのような症例では、通常は手根管症候群の手術が効果的です。
重度かつ慢性の尺骨神経麻痺に対しては、筋肉の硬直を予防する上で理学療法が役立ちます。