ギラン-バレー症候群は、自己免疫反応によって引き起こされると考えられています。
通常、筋力低下は両脚で最初に起こり、それから体の上の方に広がります。
筋電図検査と神経伝導検査が診断の確定に役立ちます。
ギラン-バレー症候群では、症状が急速に悪化する可能性があるため、患者は直ちに入院させられます。
免疫グロブリン製剤の静脈内投与または血漿交換を行うと、回復速度が速まる可能性があります。
(末梢神経系の概要 末梢神経系の概要 末梢神経系とは、中枢神経系以外の神経系、すなわち脳と脊髄以外の神経のことを指します。 末梢神経系には以下のものが含まれます。 脳と頭部、顔面、眼、鼻、筋肉、耳をつなぐ神経( 脳神経) 脊髄と体の他の部位をつなぐ神経(31対の脊髄神経を含む) 体中に分布している1000億個以上の神経細胞 さらに読む も参照のこと。)
ギラン-バレー症候群は全身の多くの 末梢神経 末梢神経系の概要 末梢神経系とは、中枢神経系以外の神経系、すなわち脳と脊髄以外の神経のことを指します。 末梢神経系には以下のものが含まれます。 脳と頭部、顔面、眼、鼻、筋肉、耳をつなぐ神経( 脳神経) 脊髄と体の他の部位をつなぐ神経(31対の脊髄神経を含む) 体中に分布している1000億個以上の神経細胞 さらに読む を侵します(多発神経障害)。
ギラン-バレー症候群の原因は 自己免疫反応 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む であると考えられています。免疫系が以下の一方または両方を攻撃します。
髄鞘(神経を取り巻く組織で、神経を信号が伝わる速度を速める働きを担っています)
情報を伝える神経の部分(軸索 神経細胞の典型的な構造
と呼ばれます)
ギラン-バレー症候群の約3分の2の患者では、軽度の感染症(カンピロバクター感染症 カンピロバクター( Campylobacter)感染症 グラム陰性細菌であるカンピロバクター属 Campylobacterのいくつかの細菌(最も多いのはカンピロバクター・ジェジュニ Campylobacter jejuni)は、消化管に感染し、しばしば下痢を引き起こします。 汚染された食べものや飲みものの摂取や、感染した人または動物との接触によって感染が起こります。 感染すると、下痢、腹痛、発熱が起こります。... さらに読む 、 単核球症 伝染性単核球症 エプスタイン-バーウイルスは、伝染性単核球症をはじめ、いくつかの病気を引き起こします。 この ウイルスはキスを介して広がります。 症状は様々ですが、最も多いのは極度の疲労感、発熱、のどの痛み、リンパ節の腫れです。 血液検査を行って診断を確定します。 アセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は発熱と痛みを和らげます。 さらに読む 、他のウイルス感染症など)、手術、または予防接種の後、約5日から3週間で症状が現れ始めます。
神経線維を絶縁する組織
脳の内外のほとんどの神経線維は、脂肪(リポタンパク質)でできた何層もの組織(ミエリンといいます)に包まれています。それらの層は髄鞘と呼ばれる組織を形成しています。髄鞘は電気ケーブルを包んでいる絶縁体のような役割を果たしていて、その働きによって、電気信号が神経線維に沿って速やかに伝わるようになっています。 髄鞘が損傷すると、信号が神経を正常に伝わらなくなります。 ![]() |
ギラン-バレー症候群による筋力低下は、通常3~4週間かけて悪化し、その後は変化しないか回復に転じます。症状が8週間以上にわたり悪化する場合、ギラン-バレー症候群ではなく 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP) 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーは多発神経障害の一種で、ギラン-バレー症候群と同様に筋力が次第に低下していきますが、筋力低下は8週間以上かけて進行します。 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーは、自己免疫反応によって神経の周りにある髄鞘が損傷することで引き起こされると考えられています。 この病気では、筋力低下が8週間以上にわたり持続的に悪化していきます。 筋電図検査、神経伝導検査、髄液の分析が診断の確定に役立ちます。... さらに読む (CIDP)とみなされます。
症状
通常、ギラン-バレー症候群の症状はまず両脚に現れ、上方に広がって腕に達します。ときに、腕や頭部に始まり、下方に広がることもあります。
症状としては筋力低下、チクチクする感覚、感覚消失などがみられます。異常感覚より筋力低下が顕著に現れます。反射は減弱または消失します。ギラン-バレー症候群の90%の人では、症状が始まってから3~4週間後に筋力低下が最も重症化します。5~10%の人では、呼吸を制御している筋肉が非常に弱くなるため、人工呼吸器が必要になります。
重症化すると、半数以上の患者では、顔面の筋肉と嚥下に関わる筋肉の筋力が低下します。それらの筋力が低下すると、食事の際にむせたり、脱水や栄養不良に陥ったりします。
非常に重症の場合、 自律神経系 自律神経系の概要 自律神経系は、血圧や呼吸数など、体内の特定のプロセスを調節している神経系です。意識的な努力を必要とせず、自動的(自律的)に機能するのが特徴です。 自律神経系の病気は、体のあらゆる部分とあらゆるプロセスに影響を及ぼす可能性があります。また、自律神経系の病気には、可逆性のものと進行性のものがあります。... さらに読む によって制御されている体内機能が働かなくなることがあります。例えば、血圧が大幅に変動する、不整脈が起こる、尿が出なくなる、重い便秘になる、などの症状が現れます。
ミラー-フィッシャー症候群と呼ばれる変異型では、眼球運動の麻痺、歩行不安定、正常な反射の消失など、いくつかの症状だけが現れます。
診断
医師による評価
筋電図検査と神経伝導検査、MRI検査、血液検査、腰椎穿刺
通常は、症状のパターンからギラン-バレー症候群と診断できます。しかし、診断を確定するために検査を行います。ギラン-バレー症候群は急速に悪化して、呼吸に関わる筋肉の働きを妨げる可能性があるため、医師がギラン-バレー症候群を疑った場合、患者は入院して検査を受けることになります。呼吸の評価が頻繁に行われます。
以下のような検査が行われます。
MRI検査
血液検査
これらの検査は、ギラン-バレー症候群に似た重度の筋力低下を引き起こす他の病気を否定するのに役立ちます。例えば、MRI検査は、 圧迫による脊髄の損傷 脊髄の圧迫 外傷や病気により脊髄に圧力が加わると、背部痛や頸部痛、チクチク感、筋力低下などの症状が起こります。 脊髄の圧迫は、骨、血液(血腫)、膿(膿瘍)、腫瘍(良性または悪性)、椎間板の破裂または椎間板ヘルニアなどが原因で起こります。 症状としては、背部痛や頸部痛、異常な感覚、筋力低下、排尿障害、排便障害などがみられ、軽度の場合もあれば重度の場合もあります。 診断は、症状と身体診察および画像検査(MRI検査など)の結果に基づいて下されます。... さらに読む (例えば、腫瘍または膿瘍によるもの)や 横断性脊髄炎 急性横断性脊髄炎 急性横断性脊髄炎は、脊髄の幅全体に(横断性に)炎症が起こり、脊髄を行き来する神経信号が遮断される病気です。 急性横断性脊髄炎は、多発性硬化症、視神経脊髄炎、ライム病、全身性エリテマトーデスなどの特定の病気の人、または特定の薬剤を使用している人に起こります。 突然背中に痛みが生じ、患部を帯状に締めつけられるような感じがします。その後、ときに麻痺などの重度の症状が現れることがあります。... さらに読む (脊髄の炎症)の可能性を否定するのに役立ちます。
髄液の検査でタンパク質が増加しているにもかかわらず白血球が少ないかまったくなく、筋電図検査で特有の波形がみられれば、ギラン-バレー症候群が強く疑われます。
予後(経過の見通し)
損傷の進行は8週間以内に止まります。ギラン-バレー症候群の人の大半は、治療を受けなくても、数カ月かけてゆっくり回復していきます。しかし早期治療ができれば回復は非常に早く、数日から数週間で回復します。
成人患者の約30%では発症から3年経っても筋力低下が残り、小児ではその割合はさらに高くなります。平均的な死亡率は2%未満です。
最初の改善がみられた後、ギラン-バレー症候群の患者の3~10%が 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP) 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーは多発神経障害の一種で、ギラン-バレー症候群と同様に筋力が次第に低下していきますが、筋力低下は8週間以上かけて進行します。 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーは、自己免疫反応によって神経の周りにある髄鞘が損傷することで引き起こされると考えられています。 この病気では、筋力低下が8週間以上にわたり持続的に悪化していきます。 筋電図検査、神経伝導検査、髄液の分析が診断の確定に役立ちます。... さらに読む を発症します。
治療
入院と支持療法
必要であれば、人工呼吸器による呼吸の補助
免疫グロブリン製剤または血漿交換
ギラン-バレー症候群は急速に悪化することがあるため、緊急の治療を要します。発症した人は直ちに入院して治療を受ける必要があります。適切な治療を開始するのが早いほど、良好な治療結果が期待できます。症状からギラン-バレー症候群が強く疑われる場合、通常は検査結果を待たずに治療が開始されます。
支持療法
病院では、必要なときに人工呼吸器で呼吸を補助できるよう、綿密なモニタリングが行われます。
顔面や首の筋力が低下している患者には、静脈に挿入したカテーテルから栄養を補給するか(静脈栄養 静脈栄養 静脈栄養は、重い 吸収不良を引き起こす病気などで、消化管が十分に栄養素を吸収できない場合に用いられます。 潰瘍性大腸炎の特定の病期など、一時的に食べものを消化管に入れてはいけない場合にも用いられます。 静脈から投与される食物は、栄養所要量の一部を供給して(部分的静脈栄養)、口から食べる食物の栄養を補うことができます。または、栄養所要量の前部を供給する場合もあります(完全静脈栄養)。... さらに読む )、腹部の小さな切開から胃もしくは小腸へ直接挿入した管(胃瘻チューブ 経管栄養 経管栄養は、消化管は正常に機能しているものの、十分に栄養所要量を満たすほど食べられない人に、栄養を与えるために用いられることがあります。例としては、以下の状態の人が挙げられます。 長期間にわたる食欲不振 重度の タンパク-エネルギー低栄養(重度のタンパク質とカロリーの欠乏症) 昏睡または覚醒レベルの大幅な低下 肝不全 さらに読む といいます)を介して栄養を補給する必要があります。静脈から輸液を投与することもあります。
筋力低下のために動くことができないと、 床ずれ 床ずれ 床ずれ(褥瘡[じょくそう]とも呼ばれます)とは、長時間の圧迫によって皮膚に十分な血液が流れなくなることで、その部分に損傷が生じた状態です。 床ずれは、圧迫に加えて、皮膚を引っ張る力、摩擦、湿気などの要因が組み合わさって発生する場合が多く、特に骨のある部分の皮膚でその傾向が強くみられます。... さらに読む になったり、筋肉が硬く永久に短くなったり(拘縮)するなど、多くの問題が発生する可能性があります。そのため、床ずれとけがを防止するために、柔らかいマットレスを使い、筋力低下が重症であれば2時間毎に体位交換を行うなどの予防措置が取られます。
拘縮を予防し、関節と筋肉の機能を保ち、歩行能力を維持するために理学療法を開始します。理学療法を行いやすくするため、温熱療法を行うことがあります。理学療法は、理学療法士が患者の四肢を動かす運動(他動運動)から始めることもあります。筋力低下が治まったら、患者が自分で四肢を動かす運動(自動運動)を行う必要があります。
免疫グロブリン製剤または血漿交換
ギラン-バレー症候群で選択すべき治療は、免疫グロブリン製剤(複数のドナーから採取した多くの様々な抗体を含む溶液)を早い段階で5日間にわたって静脈内に投与することです。
免疫グロブリン製剤で効果がなければ、 血漿交換 血小板献血 通常の 献血と 輸血に加えて、特別な処置が行われることがあります。 血小板献血では、全血ではなく 血小板だけを採取します。供血者から採取した血液を機器で成分毎に分け、血小板だけを選別して、残りの成分は供血者に戻します。血液の大部分が体内に戻るため、全血の場合と比べて、1回に8~10倍の血小板を安全に採取できます。3日毎に1回(ただし、供血は1年に24回まで)と、より頻繁に血小板を採取できます。全血の場合は採血にかかる時間は10分程度です... さらに読む (髄鞘への抗体などの有害物質をフィルターで血液から取り除く治療法)が役立つことがあります。
これらの治療は比較的安全で、入院日数を短縮し、回復を早め、死亡や恒久的な身体障害のリスクを減らします。
血漿交換を行うと、血液から免疫グロブリンも除去されてしまうため、血漿交換と免疫グロブリン製剤の投与を同時には行うことはありません。血漿交換は、この薬剤を投与した日から最低でも2~3日経過してから行います。
その他の治療
コルチコステロイドは役に立たず、ギラン-バレー症候群の症状を悪化させることがあります。