骨パジェット病はどの骨でも発生しますが、最もよくみられるのは骨盤、太ももの骨(大腿骨)、頭蓋骨です。すねの骨(脛骨)、脊椎(椎骨)、鎖骨、上腕骨に発生することは比較的まれです。
40歳未満の人が骨パジェット病を発症することはまれです。米国では、40歳以上の人の約1%にこの病気がみられ、有病率は年齢とともに増加します。ただし、この病気の有病率は低下してきているようです。男性では女性と比べて50%多く発症します。骨パジェット病は、欧州(スカンジナビア半島を除く)、オーストラリア、ニュージーランドで多くみられます。
原因
正常な場合は、古い骨を分解する細胞(破骨細胞)と新しい骨を作る細胞(骨芽細胞)が互いにバランスよく働いて、骨の構造と完全な状態が維持されています。骨パジェット病では、骨の一部の領域で、破骨細胞と骨芽細胞の両方が過度に活性化し、骨の分解と再構築(骨のリモデリングと呼ばれます)が極端に加速します。過度に活性化した部分は肥厚しますが、大きくても構造的に異常で、もろくなります。
ほとんどの場合、骨パジェット病の原因は不明です。この疾患は家族内で遺伝する傾向があり、骨パジェット病患者の約10%で特定の遺伝子異常が関与している可能性があります。また、ウイルスが関連していることを示唆する証拠もいくつかあります。しかし、この病気が感染するという証拠はありません。
合併症
骨パジェット病で最も多くみられる合併症は、次のものです。
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変形性関節症(関節の病気の一種)
患者の最大50%で、患部の骨の近くの関節に変形性関節症が生じます。
また、患部の骨は骨パジェット病でもろくなっているため、通常よりも骨折しやすい傾向にあります。このような骨折を病的骨折といいます。
肥厚した骨が、狭い開口部を通る神経やその他の構造物を圧迫することがあります。脊柱管が狭まり脊髄を圧迫することもあります。
まれに、患部の骨を通る血流が増えて、心臓に余分な負荷がかかるため、心不全が発生します。患部の骨を通る血流が異常に多いため、手術中に大量に出血することがあります。また骨パジェット病患者の最大1%で、患部の骨が悪性化します。通常、骨腫瘍に進行すると、骨肉腫(骨にできる悪性の腫瘍)が発生します。
高カルシウム血症(血液中のカルシウムが多い状態)が、骨パジェット病で寝たきりの人にごくまれにみられることがあります。
症状
通常、骨パジェット病では症状がみられません。ただし、骨の痛み、骨の肥厚、骨の変形が生じることがあります。骨の痛みは、深部のうずくような痛みの場合があり、ときに激しい痛みで、夜間に強くなることもあります。肥厚した骨が神経を圧迫することがあり、さらなる痛みの原因になります。変形性関節症が起こると、関節に痛みやこわばりが現れます。
その他の症状は、どの骨が患部かによって異なります。
頭蓋骨が肥厚することがあり、眉の部分と額がより突出しているように見えることがあります(前頭隆起)。以前よりも大きな帽子が必要になったときに、この肥厚に気がつく人もいます。肥厚した頭蓋骨によって内耳(蝸牛)が損傷し、難聴やめまいが起こることがあります。また、頭蓋骨の肥厚によって神経が圧迫されることがあり、頭痛の原因になります。頭皮に静脈の隆起がみられることもあり、これは、頭蓋骨を通る血流が増加するために起こると考えられます。
骨パジェット病で上腕、太もも、ふくらはぎの骨がもろくなると、骨が曲がったように見え、骨折する可能性が高くなります。また、椎骨が侵されると、骨がもろくなって拡大したりつぶれたりします。椎骨がもろくなると、身長が低くなったり、背中が曲がったりするほか、脊髄の神経が圧迫されて、痛みやしびれ、筋力の低下が生じることがあります。
診断
骨パジェット病は、別の理由でX線検査や臨床検査を受けた際に偶然発見されることがよくあります。それ以外の場合は、症状や身体診察の結果に基づいて骨パジェット病が疑われることがあります。
X線検査で骨パジェット病特有の骨の異常がみられることや、臨床検査で血液中のアルカリホスファターゼ(骨細胞形成に関与する酵素)、カルシウム、およびリンの濃度の上昇が確認されることにより、診断を確定することができます。
骨シンチグラフィー(テクネチウムを使用した核医学検査)を行うと、どの骨が侵されているのかが分かります。
予後(経過の見通し)
治療
骨パジェット病患者で不快な症状がある場合や、難聴、変形性関節症、変形などの合併症のリスクが非常に高いか、これらの合併症があると強く示唆される場合には、治療が必要です。
アセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などの一般的に使用される鎮痛薬が、骨の痛みの軽減に役立ちます。片方の脚が曲がって(内反して)短くなった場合は、ヒールリフト装具を使うと歩きやすくなります。ときには、神経への締めつけを緩和したり、骨パジェット病が原因で関節炎を起こした関節を人工関節に置換したりするために手術が必要になることがあります。
いくつかのビスホスホネート系薬剤(アレンドロン酸、エチドロン酸、パミドロン酸、リセドロン酸、チルドロン酸[tiludronate]、ゾレドロン酸)のうち1つを、骨パジェット病の進行を遅らせるために使用することがあります。これらの薬は、普通は静脈内注射されるパミドロン酸とゾレドロン酸以外は、経口投与されます。投与の目的は以下の通りです。
ゾレドロン酸などのアミノビスホスホネート系薬剤(ビスホスホネート系薬剤の1つ)は、より長期にわたって骨パジェット病の進行を遅らせると考えられます。
ときに、カルシトニンが皮下注射か筋肉内注射で投与されます。カルシトニンは、ビスホスホネート系薬剤ほど効果的ではなく、他の薬が投与できない場合に限り使用されます。ビスホスホネート系薬剤を服用できない場合には、デノスマブが代替薬となりえます。
体重の負荷を支える動きが推奨されます(立つ、歩くなど)。高カルシウム血症を防ぐために、夜の就寝時以外での過度の床上安静はできるだけ避けるべきです。
骨のリモデリングが急速に行われているため、骨へのカルシウムの取込み(骨の石灰化)が確実に十分行われるよう、食事からカルシウムと ビタミンD(カルシウムの吸収に不可欠)を十分摂取するべきです。ビタミンDとカルシウムのサプリメントがしばしば必要です。それらが欠乏すると、骨の石灰化が不十分(骨軟化症)になり、骨がもろくなることがあります。