入院中の患者では、多くの細菌やウイルスに加えて、真菌も肺炎の原因となる可能性があります。
肺炎で最もよくみられる症状は、たんがからんだせきですが、胸痛、悪寒、発熱、息切れなどもよくみられます。
診断は、症状と、胸部のX線検査またはCT検査に基づいて下されます。
肺炎の原因である可能性が最も高い微生物に応じて、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬が使用されます。
病院で発生する肺炎は、普段の生活環境で発生する 市中肺炎 市中肺炎 市中肺炎は、病院外の人に発生する肺の感染症です。 多くの細菌、ウイルス、真菌が原因となります。 肺炎で最もよくみられる症状は、たんがからんだせきですが、胸痛、悪寒、発熱、息切れもよくみられます。 医師は、聴診器で肺の音を聞き、胸部のX線やCT画像を見て、市中肺炎を診断します。 肺炎の原因と考えられる微生物に応じて、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬が使用されます。 さらに読む に比べて一般に重症であり、これは病原体がより攻撃的な傾向にあるためです。このような病原体は、抗菌薬に反応しにくく(「耐性がある」といいます)、そのため治療もより困難です。さらに、入院患者は肺炎にかかっていなくても、普通に生活している人に比べて健康状態が悪い傾向にあるため、感染症に対する抵抗力が弱くなっています。
(肺炎の概要 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む も参照のこと。)
危険因子
入院中で病状が重く、特に 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む による補助を要する他の病気がある患者は、 肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む になるリスクが非常に高くなります。その他の危険因子には以下のものがあります。
抗菌薬による治療歴
心臓、肺、肝臓、腎臓などの機能障害が併存する
年齢70歳以上
腹部や胸部の最近の手術歴
胃食道逆流症 胃食道逆流症(GERD) 胃食道逆流症では、胃酸や胆汁を含む胃の内容物が胃から食道に逆流し、食道の炎症と胸部の下部の痛みが生じます。 逆流は、正常な場合に胃の内容物が食道に逆流しないように防いでいる輪状の筋肉(下部食道括約筋)が正しく機能していないと起こります。 最も典型的な症状は胸やけ(胸骨の裏側の焼けつくような痛み)です。 診断は症状のほか、ときに食道pH検査の結果に基づいて下されます。 引き金になる物質(アルコールや脂肪分の多い食物など)を避け、胃酸を減ら... さらに読む
の治療のため、プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール、エソメプラゾール、ランソプラゾール、またはパントプラゾール)を使用している可能性
衰弱
健康な人にはめったに肺炎を引き起こさない微生物が、入院中の患者や衰弱した人に肺炎を引き起こすことがあります。このような人の多くは、感染症に抵抗する免疫系の機能が低下しているためです。最も可能性が高い原因微生物は、その病院にまん延している微生物の種類によって異なり、ときには患者が他にどのような病気をもっているのかによって変わることもあります。
原因
院内肺炎の原因で最も多いのは以下の細菌です。
黄色ブドウ球菌 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症 黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusは多くの一般的なブドウ球菌の中で最も危険とされています。この グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 主な細菌の形」を参照)は、しばしば皮膚感染症を引き起こしますが、肺炎、心臓弁の感染症、骨の感染症を引き起こすこともあります。 これらの細菌は、感染者と直接接触したり、汚染された物を使用したり、くしゃみやせきによって飛び散った飛沫を吸引することで感染します。... さらに読む
(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus[ MRSA メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus (MRSA) 黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusは多くの一般的なブドウ球菌の中で最も危険とされています。この グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 主な細菌の形」を参照)は、しばしば皮膚感染症を引き起こしますが、肺炎、心臓弁の感染症、骨の感染症を引き起こすこともあります。 これらの細菌は、感染者と直接接触したり、汚染された物を使用したり、くしゃみやせきによって飛び散った飛沫を吸引することで感染します。... さらに読む
]を含む)
グラム陰性細菌 グラム陰性細菌の概要 グラム陰性細菌という分類は、グラム染色と呼ばれる化学的処理の適用後に細菌が何色に染色されるに基づくものです。グラム陰性細菌はこの処理によって赤く染まります。青色に染まる細菌もあり、 グラム陽性細菌といいます。グラム陰性細菌とグラム陽性細菌は、その細胞壁の違いから異なる色で染色されます。こうした菌の種類の違いによって、生じる感染症の種類も異... さらに読む 、例えば 緑膿菌 シュードモナス(Pseudomonas)感染症 グラム陰性細菌であるシュードモナス属 Pseudomonasの細菌(どの菌種もそうですが、とりわけ緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa)は、体の様々な部分に感染することがあり、重篤な病気がある人や入院患者で特によくみられます。 体の外側にみられる軽度のもの(耳や毛包への感染)から、体内で起こる重篤なもの(肺、血液、心臓弁への感染)まで、様々な感染症があります。... さらに読む および インフルエンザ菌 インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)感染症 グラム陰性細菌の一種であるインフルエンザ菌 Haemophilus influenzaeは、気道の感染症を引き起こし、それが他の臓器に広がることもあります。 この感染症はくしゃみ、せき、接触によって広がります。 この細菌は中耳の感染症や副鼻腔炎のほかにも、髄膜炎や喉頭蓋炎、さらには呼吸器感染症など、より重篤な感染症を引き起こします。 血液や感染組織のサンプル中でこの細菌が特定されれば、診断が確定します。... さらに読む
MRSA、緑膿菌 P. aeruginosa、その他のグラム陰性腸内細菌には特定の抗菌薬に対する耐性がしばしばみられます。
症状
症状は一般に 市中肺炎 症状 市中肺炎は、病院外の人に発生する肺の感染症です。 多くの細菌、ウイルス、真菌が原因となります。 肺炎で最もよくみられる症状は、たんがからんだせきですが、胸痛、悪寒、発熱、息切れもよくみられます。 医師は、聴診器で肺の音を聞き、胸部のX線やCT画像を見て、市中肺炎を診断します。 肺炎の原因と考えられる微生物に応じて、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬が使用されます。 さらに読む と同じで、具体的には以下のものがあります。
全身のだるさ(けん怠感)
たん(粘り気が強いまたは変色した粘液)がからんだせき
息切れ
発熱
悪寒
胸痛
病院で感染する肺炎は、一般の生活環境で感染する肺炎と比べ、気づかれにくい場合があります。例えば、肺炎を発症する入院患者の多くが、高齢であったり、気管に挿管されて人工呼吸器をつけていたり、認知症であったり、極めて重篤な状態であったりして、胸痛、息切れ、脱力などの症状を訴えられない場合があります。そのような場合、しばしば発熱、呼吸数の増加、心拍数の増加に基づいて肺炎が疑われます。
肺炎の高齢者は、錯乱、食欲不振、落ち着きのなさや興奮、転倒、失禁(尿を漏らすこと)をきたすこともあります。
診断
医師による症状の評価
胸部X線検査または胸部CT検査
ときに血液培養検査
ときに気管支鏡検査または胸腔穿刺
院内肺炎の診断は、症状に加え、胸部X線検査または胸部CT検査の結果に基づいて下されます。医師は通常は血液サンプルを採取し、検査室で細菌を増殖させる検査(培養検査)と特定を試みます。
院内肺炎の患者は病状が非常に重い場合もあるため、最適な治療法を決定するために肺炎の原因微生物の特定が必要になることもあります。このような理由から、原因微生物を特定するために医師は 気管支鏡検査 気管支鏡検査 気管支鏡検査とは、気管支鏡(観察用の管状の機器)を用いて発声器(喉頭)や気道を直接観察することです。 気管支鏡の先端にはカメラが付いていて、これによって太い気道(気管支)から肺の内部を観察できます。医師は、気管支鏡に小さな器具を通し、肺や気道組織のサンプルを採取して、肺疾患の診断や一部の肺疾患の治療に役立てることもできます。気管支鏡には、柔軟なもの(軟性気管支鏡)と硬いもの(硬性気管支鏡)があります。気管支鏡によるほとんどの処置(特に診... さらに読む を行って肺そのものの中からサンプルを採取することがあります。気管支鏡検査では、気管支鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を気管から肺へ挿入します。検査用のサンプルとして、膿や分泌物に限らず、肺の組織を採取することもあります。分泌物が見えない場合は、肺の一部を液で洗浄し、その洗浄液を回収して分析する検査(気管支肺胞洗浄 気管支鏡による処置 気管支鏡検査とは、気管支鏡(観察用の管状の機器)を用いて発声器(喉頭)や気道を直接観察することです。 気管支鏡の先端にはカメラが付いていて、これによって太い気道(気管支)から肺の内部を観察できます。医師は、気管支鏡に小さな器具を通し、肺や気道組織のサンプルを採取して、肺疾患の診断や一部の肺疾患の治療に役立てることもできます。気管支鏡には、柔軟なもの(軟性気管支鏡)と硬いもの(硬性気管支鏡)があります。気管支鏡によるほとんどの処置(特に診... さらに読む
と呼ばれる処置)を行うこともあります。液体が肺を覆う膜にたまっている場合(胸水 胸水 胸水とは、胸腔(厳密には2つの胸膜の間)に液体が異常にたまることや、その液体自体のことをいいます。 胸腔に液体がたまる原因としては、感染症、腫瘍、外傷、心不全、腎不全、肝不全、肺血管の血栓(肺塞栓症)、薬物など、数多くあります。 症状には、呼吸困難や胸痛などがあり、特に呼吸やせきをしたときに現れます。 診断には、胸部X線検査や胸水の検査が用いられ、CT血管造影検査もよく使用されます。... さらに読む
と呼ばれる)、医師は胸部に針を刺してこの液体を採取し(胸腔穿刺 胸腔穿刺 胸腔穿刺では、胸腔に異常にたまった水( 胸水と呼ばれます)が抜き取られます。胸腔穿刺を行う主な理由は以下の2つです。 診断検査に必要なサンプル液を採取すること 胸水が肺組織を圧迫することで生じる息切れを和らげること この処置を行う間、患者は楽な姿勢で座り、台の上に腕を乗せて体を前に傾けます。医師は、背中の一部分の皮膚を消毒して、局所麻酔を施します。次に、肋骨の間から針を刺し胸腔内まで進め、肺には届かないようにして、注射器で水を抜き取りま... さらに読む と呼ばれる処置)、培養させることがあります。
予後(経過の見通し)
治療
抗菌薬
院内肺炎の治療では、最も可能性が高い原因微生物と、個々の患者の危険因子に基づいて抗菌薬が選択されます。重篤な患者は、集中治療室で治療を行うことがあり、場合によっては 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む を装着します。治療法には、抗菌薬の静脈内投与、酸素補給、輸液などがあります。
以下のものを始め、いくつかの抗菌薬が使用できます。
アズトレオナム
セフェピム
セフタジジム
ゲミフロキサシン(gemifloxacin)
ゲンタマイシン
イミペネム
レボフロキサシン
リネゾリド
メロペネム
モキシフロキサシン
ピペラシリン + タゾバクタム
トブラマイシン
バンコマイシン
これらの薬剤は単独で使用されることもあれば、他の薬剤と併用されることもあります。
重篤な肺炎患者における終末期の問題
一部の院内肺炎患者では状態が非常に悪くなります。肺炎はしばしば強力な抗菌薬で治療され、必要であれば人工呼吸器が用いられます。死期を悟った患者がこれほど積極的な治療を望んでいない場合もあります。重症疾患または末期疾患である場合は、入院に際して、肺炎または他の重篤な合併症の 治療に関する希望 事前指示書 医療に関する事前指示書は、ある人が医療に関する決断を下すことができなくなった場合に、医療についての本人の希望を伝達する法的文書です。事前指示書には、基本的にリビングウィルと医療判断代理委任状の2種類があります。( 医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。) リビングウィルは、終末期ケアに代表されるような、個人が医療に関する決定能力を喪失する事態に備え、将来の医学的治療に関する指示や要望を事前に表明するものです。... さらに読む を主治医や家族に伝えておくとよいでしょう。