(肺炎の概要も参照のこと。)
原因
細菌、ウイルス、真菌、寄生虫など、多くの微生物が市中肺炎を引き起こします。ほとんどの場合、肺炎を引き起こした微生物が具体的に特定されることはありません。しかし、通常は、患者の年齢やその他の要因(同時に他の病気を抱えていないかなど)によって、可能性が高い原因微生物を予想することができます。市中肺炎という病名は一般に、比較的多くみられる細菌やウイルスによって引き起こされた肺炎に対して使用されます。
「歩く」肺炎というのは医学用語ではありませんが、市中肺炎のうち、床上安静や入院を必要としない、軽度の病気を指すのに用いられます。なかには、仕事に行ったり、その他の日常活動に従事できるほど元気な患者さえいます。原因はほとんどの場合、ウイルス性肺感染症か、肺炎マイコプラズマ Mycoplasma pneumoniaeまたは肺炎クラミジア Chlamydophila pneumoniaeによる細菌感染症です。
肺炎を引き起こす細菌
市中肺炎を引き起こす最も一般的な細菌は以下のものです。
肺炎球菌は、米国で毎年約90万人に肺炎を引き起こしています。肺炎球菌には90種類以上ありますが、非常に重篤な病気を引き起こすのはごく少数です。肺炎球菌性肺炎は非常に重症化することがあり、幼児や高齢者では特にその傾向が強まります。
インフルエンザ菌による肺炎は、成人にも起こりますが、小児により多くみられます。しかし、インフルエンザ菌 H. influenzaeに対する小児への予防接種が定期的に行われるようになってから、小児における感染は著しく減少しています。インフルエンザ菌 H. influenzaeによる肺炎は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支拡張症などの慢性肺疾患がある成人に、より多くみられます。
肺炎クラミジアは、5~35歳の健康な人に発生する肺感染症として、2番目に多い原因です。肺炎クラミジア C. pneumoniaeは、家族内、学生寮、軍事キャンプなどにおける呼吸器感染症の流行の原因となることがよくあります。この細菌による肺炎が重症化することはまれで、入院が必要になることもほとんどありません。オウム病クラミジア Chlamydia psittaciによる肺炎(オウム病)は、別の種類のクラミジアが原因となるまれな感染症で、鳥を飼っている人や鳥と接触する機会の多い人に発生します。
肺炎マイコプラズマによる感染症は、肺炎クラミジア C. pneumoniaeによる感染症と非常によく似ています。肺炎マイコプラズマ M. pneumoniaeによる肺炎は、年長児から40歳未満の成人によくみられ、学校、学生寮、兵舎など、人が多く集まる環境で生活する人に特によくみられます。重症化することはまれですが、症状は数週間、長ければ数カ月続くことさえあります。
レジオネラ・ニューモフィラは、インフルエンザ様の症状を伴う肺炎を引き起こし、ときにレジオネラ症とも呼ばれます。この感染症は、肺炎全体の約1~8%を占め、病院内で感染し死に至る肺炎の約4%を占めます。レジオネラ菌 Legionellaは水の中に生息しており、空調設備やシャワーなどの給水設備を通じて広がり、主にホテルや病院における集団発生につながっています。人から人へ直接感染した例は確認されていません。
黄色ブドウ球菌は一部の抗菌薬に耐性を示す肺炎を引き起こします。この細菌は、市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus(CA-MRSA)として知られており、重度の肺炎を引き起こすことがあり、主に若い成人にみられます。2000年以降、黄色ブドウ球菌 S. aureusによる市中肺炎の数が増えましたが、それでもまだまれではあります。
肺炎を引き起こすウイルス
市中肺炎を引き起こす一般的なウイルスには以下のものがあります。
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アデノウイルス
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インフルエンザウイルス
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パラインフルエンザウイルス
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コクサッキーウイルス
水痘の原因となる水痘ウイルスも、肺感染症を引き起こすことがあります。ハンタウイルスや重症急性呼吸器症候群(SARS)も、ウイルス性肺炎の原因となります。ときにウイルスによる肺感染症の後、続いて細菌性肺炎が発生することがあります。
肺炎を引き起こす真菌
市中肺炎を引き起こす真菌には以下のものがあります。
あまり一般的ではありませんが、ブラストミセス・デルマティティジス Blastomyces dermatitidis(ブラストミセス症)やパラコクシジオイデス・ブラジリエンシス Paracoccidioidesbraziliensis(パラコクシジオイデス症)などの真菌が原因となることもあります。ニューモシスチス・イロベチイ Pneumocystis jiroveciiは、HIVに感染した人や易感染状態にある人における肺炎の一般的な原因です。
肺炎を引き起こす寄生虫
症状
市中肺炎の症状には以下のものがあります。
年長児や成人では、せきにたん(粘り気が強いまたは変色した粘液)を伴うのが一般的ですが、乳児、幼児、高齢者では、乾いたせきが出ます。息切れは、軽いことが多く、主に活動中に発生します。胸痛は、息を吸ったり、せきをしたりするときに強くなるのが一般的です。ときには、上腹部に痛みが現れることがあります。
乳幼児や高齢者の場合は、症状が異なります。乳幼児では、ぐずったり、落ち着きがなくなったりすることがあります。高齢者では、錯乱または意識レベルの低下がみられることがあります。高齢者や幼児は、胸痛や息切れを訴えられないことがあります。発熱は一般的な症状ですが、高齢者ではみられないこともあります。
診断
予後(経過の見通し)
予防
治療
医師は、様々な要因を考慮して、自宅で安全に治療できるか、合併症のリスクが高いために入院させるべきかを判断します。例えば、以下のような要因が考慮されます。
抗菌薬の投与はできるだけ早く開始されます。医師は感染の重症度と合併症のリスクに基づいて抗菌薬を処方することがあります(表「市中肺炎の治療」を参照。)輸液が行われ、解熱剤や鎮痛剤が投与されるとともに、必要であれば酸素が投与されます。
原因微生物の特定は困難なため、肺炎を引き起こしている可能性が最も高い微生物と肺炎の重症度に基づいて、抗菌薬が選択されます。
抗菌薬による治療で、ほとんどの細菌性肺炎の患者が改善します。改善がみられない場合、まれな微生物、治療に用いた抗菌薬への耐性、別の微生物への二次感染、肺以外の部位(例えば、肺を覆う膜[胸膜])への感染の拡大、回復を遅らせている別の病気(免疫系の機能障害や肺の異常など)などが検討されます。
インフルエンザ肺炎の治療には、抗ウイルス薬であるオセルタミビルまたはザナミビルを使用できます。水痘ウイルス肺炎の治療には、アシクロビルが使用されます。ウイルス性肺炎が疑われる患者で、非常に病状が重く、治療を始めて数日経っても改善がみられなければ、細菌が肺に重複感染した可能性を考慮して抗菌薬が処方されます。
真菌性肺炎の治療には、抗真菌薬が使用されることがあります。
治療開始から約6週間後に、フォローアップのため胸部X線検査が行われることもあり、X線検査上の異常が消失したかどうかが確認されます。喫煙者や高齢者ではこのようなフォローアップが特に重要ですが、これは胸部X線検査でみられた異常が単なる肺炎であり、肺炎を伴うがんではないことを確認する必要があるためです。