大動脈は全身で最も太い動脈です。酸素を豊富に含む血液を心臓から受け取り、枝分かれする動脈を介して全身に血液を送り出しています。炎症により、ときに大動脈の 動脈瘤 大動脈瘤 大動脈は、直径が約2.5センチメートルある体内で最も太い動脈で、左心室から送られてきた酸素を多く含む血液を、肺を除く全身の組織へと送り出しています(肺への血液は右心室から送り出されます)。心臓から出た大動脈からは、すぐに腕と頭へ向かう動脈が枝分かれします。その後、大動脈は弧を描いて下に向かい、左心室の高さから腰の骨(骨盤)の最上部の高さま... さらに読む や閉塞が発生することがあります。
大動脈炎の原因としては以下のものがあります。
結合組織疾患や血管炎疾患(高安動脈炎 高安動脈炎 高安(たかやす)動脈炎は、慢性の血管の炎症を引き起こし、主に大動脈(直接心臓につながる動脈)とそれから分岐する動脈、肺動脈に生じます。 高安動脈炎の原因は不明です。 発熱や筋肉や関節の痛みなどの全身症状がみられることがあり、その後、侵された臓器に応じて特有の症状がみられます。 診断を確定するために大動脈の画像検査が行われます。 コルチコステロイドと、ときには免疫の働きを抑制する別の薬を使うことで、通常は、炎症を抑えることができます。 さらに読む 、 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎は、頭部、頸部、上半身にある大型動脈や中型動脈に慢性の炎症が起きる病気です。典型的に侵されるのは側頭動脈であり、この血管はこめかみを通り、頭皮の一部、あごの筋肉、視神経に血液を供給しています。 原因は不明です。 主に、ズキズキする激しい頭痛、髪をとかしたときの頭皮の痛み、ものをかむときに顔の筋肉の痛みがみられます。 治療しないと、失明することがあります。 症状と身体診察の結果からこの病気が疑われますが、診断を確定するには側... さらに読む 、 強直性脊椎炎 強直性脊椎炎 強直性脊椎炎は 脊椎関節炎の1つで、脊椎の炎症(脊椎炎)や大きな関節、手足の指の炎症を特徴とし、こわばりと痛みが生じます。 長引く関節の痛み、背中のこわばり、眼の炎症がよくみられます。 診断は症状、X線検査、診断基準に基づいて下されます。 非ステロイド系抗炎症薬と、ときにはサラゾスルファピリジンやメトトレキサートが、腕や脚の関節炎の軽減に役立ちます。 セクキヌマブや腫瘍壊死因子を阻害する薬は、脊椎や腕や脚の関節炎に非常に効果的です。 さらに読む
、 再発性多発軟骨炎 再発性多発軟骨炎 再発性多発軟骨炎は、軟骨や多数の臓器の結合組織に繰り返し生じる、痛みを伴う破壊的な炎症を特徴とするまれな 自己免疫リウマチ疾患です。 耳や鼻に炎症が起こることや、圧痛がみられたりすることがあります。 体内の他の軟骨に損傷が起こることもあり、眼の充血や痛み、声がれ、せき、呼吸困難、発疹、胸骨周辺の痛みなど、様々な症状が生じます。 血液検査、臨床検査、画像検査、観察と検査のための組織の採取を行うことがあり、診断のために確立された基準を用いる... さらに読む
など)
感染症(細菌性心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む
、 梅毒 梅毒 梅毒は、梅毒トレポネーマ Treponema pallidumという細菌によって引き起こされる性感染症です。 梅毒の症状は、見かけ上は健康な時期をはさんで、3段階で生じます。 まず患部に痛みのない潰瘍が現れ、第2期では、発疹、発熱、疲労感、頭痛、食欲減退がみられます。 治療しないでいると、第3期には、大動脈、脳、脊髄、その他の臓器が侵されることがあります。 医師は通常、患者に梅毒があることを確認するために2種類の血液検査を... さらに読む
、 ロッキー山紅斑熱 ロッキー山紅斑熱(RMSF) ロッキー山紅斑熱は死に至ることのある リケッチア感染症の一種で、イヌダニや森林ダニが媒介します。感染すると、発疹や頭痛、高熱が生じます。 感染したマダニに咬まれることで感染します。 重度の頭痛、悪寒、極度の疲労感、筋肉痛が起こり、通常はその数日後に発疹がみられます。 最も効果的な予防法は、マダニに咬まれないようにすることです。 マダニに咬まれて、典型的な症状がみられた場合には、即座に抗菌薬が投与されます。 さらに読む
、真菌感染症など)
炎症は、通常は大動脈の全層に及んでおり、大動脈やその分枝の閉塞、あるいは大動脈の壁の劣化をもたらし、結果として動脈瘤を引き起こすことがあります。
症状は大動脈炎の原因と発生部位によって異なり、発熱を伴う背部痛や腹痛から、大動脈炎が大動脈弁に波及した場合の重度の息切れや脚のむくみ(心不全 心不全(HF) 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む )まで様々です。 大動脈の解離 大動脈解離 大動脈解離は、しばしば死に至る病気で、大動脈の壁の内層(内膜)が破れて、壁の中間層から剥がれる病態です。 ほとんどの大動脈解離は、高血圧によって動脈の壁が劣化することが原因で発生します。 一般的には、耐えがたい激痛が突然胸部に起こりますが、背中の肩甲骨の間に痛みが生じることもあります。 診断を確定するには、通常はX線検査またはCT検査を行います。 通常は血圧を下げる薬を投与するとともに、外科手術を行って裂けた部分を修復するか、ステントグ... さらに読む や破裂が起こる場合もあり、死に至ることもあります。
診断は CT血管造影 CT血管造影 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む 、 MRアンギオグラフィー 冠動脈造影検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の1つとしては、検査中に 冠動脈疾患など様々な病気の治療も行えることがあります。... さらに読む
、 超音波検査 超音波検査 超音波検査は、周波数の高い音波(超音波)を用いて内臓などの組織の画像を描出する検査です。プローブと呼ばれる装置で電流を音波に変換し、この音波を体の組織に向けて発信すると、音波は体内の構造で跳ね返ってプローブに戻ります。これは再度、電気信号に変換されます。コンピュータが、この電気信号のパターンをさらに画像に変換してモニター上に表示するとともに、コンピュータ上のデジタル画像として記録します。X線は使用しないため、超音波検査で放射線にさらされ... さらに読む
などの画像検査によって下されますが、それらの画像では大動脈の一部に腫れと肥厚が認められます。
体内の炎症レベルが上昇していることを示す血液検査の結果(C反応性タンパク質値の上昇、赤血球沈降速度の上昇)によっても、大動脈炎の診断を裏付けることができます。
治療法は炎症の原因に応じて異なり、例えば、原因が感染症であれば抗菌薬、結合組織疾患や血管炎疾患であれば抗炎症薬か免疫抑制薬が投与されます。大動脈炎によって不可逆的な損傷が生じた場合には、外科手術またはステントグラフトの留置が必要になることがあります。