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冠動脈疾患(CAD)の概要

執筆者:

Jonathan G. Howlett

, MD, Libin Cardiovascular Institute of Alberta

最終査読/改訂年月 2016年 11月
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冠動脈疾患とは、心臓の筋肉(心筋)への血液供給が部分的または完全に遮断されることで起きる病気です。

心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする冠動脈です。この血管が狭くなる冠動脈疾患では、血流が遮断されて、胸痛(狭心症)や心臓発作(心筋梗塞とも呼ばれる)が発生します。

かつては、冠動脈疾患は男性の病気という認識が広がっていました。女性は閉経まで高濃度の エストロゲンによって発生が抑えられているため、平均すると男性の方が約10歳低い年齢で発症するからです。閉経後は、女性にもこの病気が多くみられるようになります。75歳以上になると、女性患者の割合が高くなりますが、これは女性の方が長生きするためです。

多くの先進国では、男女とも冠動脈疾患が死亡原因の第1位を占めています。冠動脈疾患、特に冠動脈の動脈硬化(文字通り「動脈が硬くなった」状態で、動脈の壁に脂肪分が沈着することで、進行すると動脈が狭くなり、ついには血流が遮断される病気)は、性別や人種によって差はありますが、20歳以上の人の約5~9%でみられます。その死亡率は年齢とともに高くなり、全体的には女性よりも男性の方が高く、特に35~55歳ではその差が大きくなります。55歳を過ぎると男性の死亡率は低下しますが、女性の死亡率は上昇し続けます。70~75歳以降では、女性の方が同年齢の男性より死亡率が高くなります。

冠動脈疾患はすべての人種でみられますが、その発生率は黒人と東南アジアの人種で極めて高くなっています。黒人男性の死亡率は60歳まで白人男性より高く、黒人女性の死亡率は75歳まで白人女性を上回ります。

心臓への血液の供給

全身の他の組織と同じように、心臓の筋肉も酸素を豊富に含む血液を受け取って、老廃物を血液中に放出しなければなりません。酸素を豊富に含む血液を心筋に供給する血管は、大動脈(心臓から出た直後のところ)から分岐する右冠動脈と左冠動脈です。右冠動脈は鋭縁枝と後下行枝に枝分かれし、後下行枝は心臓の背面に位置します。左冠動脈(左冠動脈主幹部とも呼ばれます)は、回旋枝と左前下行枝に枝分かれします。老廃物を含んだ心筋からの血液は心静脈に送られ、心臓の背面にある冠静脈洞という太い静脈に合流してから、右心房に戻されます。

心臓への血液の供給

原因

動脈疾患は、ほぼ常に冠動脈の壁にコレステロールなどの脂肪性物質(アテロームあるいはアテローム性プラークと呼ばれます)が徐々に蓄積することによって発生します。この過程は動脈硬化と呼ばれ、心臓だけでなく他の部位の多くの動脈にも影響を及ぼします。

心臓への血流が異常に減少する最も一般的な原因はアテローム性動脈硬化ですが、他の原因で起こることもあります。ときに冠動脈疾患は冠動脈のけいれんによっても起こり、そうしたけいれんは自然に発生する場合もあれば、コカインや ニコチンなど特定の薬物が原因で起こる場合もあります。血流の需要が(運動中などに)増大しても、それに応じて冠動脈が拡張しないことがあります。そうなると、心臓が必要とする量の血流が供給されなくなり、この状態を内皮機能障害と呼びます。また、まれに先天異常、全身性エリテマトーデス、動脈炎(動脈の炎症)、心房や心室から冠動脈に流入した血栓、物理的な損傷(けがや放射線療法によるもの)などが原因になることもあります。

アテロームが大きくなると、動脈の内部に隆起してきて内腔が狭まり、血流が部分的に遮断されます。時間が経過するにつれて、アテローム内にカルシウムが蓄積します。アテロームによって冠動脈がふさがれていく(閉塞)につれて、心臓の筋肉(心筋)に酸素を豊富に含んだ血液が十分に供給されなくなります。運動時には、心筋がより多くの血液を必要とするため、血液供給が不足しやすくなります。原因にかかわらず心筋への血液供給(何らかの原因による)が不足すると、心筋虚血と呼ばれる状態になります。心臓に十分な血液が供給されなくなると、心臓は正常に収縮して血液を送り出すことができなくなります。

アテロームは、たとえ血流をそれほど妨げていなくても、突然破裂することがあります。アテロームが破裂すると、血栓(血液のかたまり)ができるきっかけになります。できた血栓は、さらに動脈を狭めたり完全にふさいだりすることで、急性心筋虚血を引き起こします。この急性虚血の結果として生じる病態は、急性冠症候群と呼ばれます。そのような症候群としては、閉塞の位置と程度に応じて、不安定狭心症や数種類の心臓発作などがあります。心臓発作では、閉塞した動脈から血液の供給を受けていた部分の心筋が壊死します(この状態は心筋梗塞と呼ばれます)。

急性冠症候群は、冠動脈のけいれんやその他の冠動脈疾患によって起こることもあります。

危険因子

冠動脈疾患の発生に影響を及ぼす危険因子の中には、是正できないものもあります。具体的には以下のものがあります。

  • 加齢

  • 男性であること

  • 比較的低年齢での冠動脈疾患の家族歴(近親者に50~55歳未満でこの病気を発症した人がいる)

冠動脈疾患の危険因子のうち上記以外のものは、是正または治療することができます。具体的には以下のものがあります。

  • 低比重リポタンパク(LDL)コレステロールの血中濃度が高い(脂質異常症を参照)

  • リポタンパクAの血中濃度が高い

  • 高比重リポタンパク(HDL)コレステロールの血中濃度が高い

  • 糖尿病

  • 喫煙

  • 高血圧

  • 肥満

  • 運動不足

  • 食事に関する要因

喫煙は、冠動脈疾患と心臓発作のリスクを2倍以上に高めます。受動喫煙もリスクを上昇させるとみられています。

食事に関する危険因子としては、食物繊維やビタミンC、D、E、ファイトケミカル(果物や野菜に含まれ、健康増進に役立つと考えられる植物性化合物)が少ない食事などがあります。一部の人々では、魚油(オメガ3多価不飽和脂肪酸)の少ない食事でリスクが高まります。

1日1~2ドリンク程度の飲酒は、冠動脈疾患のリスクをわずかに低下させるようです(ただし脳卒中のリスクはわずかに高まります)。しかし、1日2ドリンクを超える飲酒はリスクを高め、量が多くなるほどリスクは高くなります。

甲状腺機能低下症、高ホモシステイン血症、アポタンパクB(アポB)の高値など、特定の代謝性疾患も危険因子です。

特定の微生物による感染症が冠動脈疾患の発生に関与しているかどうかは不明です。

予防

動脈硬化の危険因子を是正することが冠動脈疾患の予防につながります。危険因子の中には相互に関連するものもあり、1つを改善すると関連のある別の危険因子も改善できる場合があります。

喫煙

禁煙は最も重要です。禁煙すると、冠動脈疾患の発生リスクは喫煙を続けている人の半分に低下します。禁煙するまでの喫煙期間の長さは関係ありません。禁煙はまた、冠動脈バイパス術の実施後や心臓発作の発生後の死亡リスクの低下にもつながります。受動喫煙を避けることも重要です。

食事

いくつかの改善が有益です。

  • 飽和脂肪の摂取量を減らす

  • トランス脂肪酸は摂取しない

  • 果物と野菜の摂取量を増やす

  • 食物繊維の摂取量を増やす

  • 飲酒は適度な量に抑える

  • 単純炭水化物(砂糖、白いパン、小麦粉など)の摂取量を減らす

健康を増進するため、1日のカロリー摂取量のうち脂肪の割合を25~35%以下に制限することが推奨されています。ただし、冠動脈疾患のリスクを低下させるには、脂肪の割合を1日のカロリー摂取量の10%まで制限する必要があるという専門家の意見もあります。低脂肪食には、冠動脈疾患の別の危険因子である総コレステロール値とLDL(悪玉)コレステロール値の上昇を抑える働きもあります。摂取する脂肪の種類も量と同じように重要です。脂が多く、オメガ3脂肪(善玉脂肪)を豊富に含む魚(サケなど)を普段から食べるようにすることと、有害なトランス脂肪酸の摂取を確実に避けることが推奨されています。トランス脂肪酸は、多くの加工食品、ファストフード店、レストランで原材料から排除されるようになっています。

果物や野菜を毎日5サービング以上食べると、冠動脈疾患のリスクが低下します。これらの食物には様々なファイトケミカルが含まれています。ただし、このような食事を摂取する人は、脂肪が少なく、繊維質が多く、ビタミンC、D、Eを豊富に含む食事を摂取する傾向もあるため、本当にファイトケミカルがリスクの低下につながるのは明らかではありません。ファイトケミカルの一種であるフラボノイド(赤や紫のブドウ、赤ワイン、紅茶などに含まれる物質)を多く含む食品を食べている人は、冠動脈疾患のリスクが低いようです。しかし、明確な因果関係は確認されていません。これらの人でリスクが低くみえることには、生活における他の要因も関わっている可能性があります。

高繊維食も推奨されています。食物繊維には2種類あります。水溶性繊維(水に溶ける繊維質)は、オートブラン、オートミール、豆類、エンドウ豆、米ぬか、大麦、柑橘類、イチゴ、リンゴの果肉などに含まれていて、高いコレステロール値を低下させます。高血糖を低下または安定させたり、低下した インスリン濃度を上昇させたりする可能性もあります。そのため水溶性繊維は、糖尿病患者の冠動脈疾患のリスクを低下させるのに役立ちます。不溶性繊維(水に溶けない繊維質)は、ほとんどの穀類と穀物製品、リンゴの皮、キャベツ、ビート、ニンジン、芽キャベツ、カブ、カリフラワーなどの果物や野菜に含まれていて、消化機能を助ける働きもあります。しかし、とり過ぎるとビタミンやミネラルの吸収を妨げることがあります。

1日に必要な量のビタミンとミネラルは、食事から摂取すべきです。ビタミンのサプリメントは、健康的な食事の代用にはならないと考えられています。冠動脈疾患のリスク低下に対するサプリメントの効果については、まだ結論が出ていません。ビタミンEまたはビタミンCのサプリメントの服用には、冠動脈疾患の予防効果はないとみられています。葉酸やビタミンB6およびB12を服用すると、ホモシステインの値が低下しますが、これらのサプリメントが冠動脈疾患のリスクを低下させるという研究結果は得られていません。

糖類や炭水化物(精白小麦粉、白米、加工食品など)の摂取量を抑え、全粒穀類の摂取量を増やすことは、冠動脈疾患の危険因子でもある肥満のリスクを低下させ、糖尿病のリスクも低下させる可能性があるため、冠動脈疾患のリスクを低下させるのに役立つ可能性があります。

結局のところ、健康的な体重を維持し、様々な種類の食品を食べることが重要です。心臓病や脳卒中のリスクを低下させるために、いくつかの食事療法が提案されています。果物、野菜、ナッツ類、オリーブ油などをふんだんに使った地中海地方の食事には、冠動脈疾患のリスクや、すでに心疾患がある人に再度心臓発作が起こるリスクを低下させる効果があるとみられています。

脂肪の種類

脂肪には次の3種類があります。

  • 飽和脂肪

  • 一価不飽和脂肪

  • 多価不飽和脂肪

「飽和」という用語は、1つの脂肪分子に含まれる水素原子の数を表しています。

飽和脂肪とは、水素原子を上限の数まで含んでいる脂肪のことです。通常は室温で固体です。飽和脂肪は肉類、乳製品、水素添加された植物油に含まれます。固形に近いものほど、飽和脂肪の割合が高くなります。飽和脂肪を多く含む食事は、冠動脈疾患の発生を促進します。

不飽和脂肪(一価不飽和脂肪と多価不飽和脂肪)とは、水素原子の数に余裕がある脂肪のことです。一価不飽和脂肪は水素原子をもう1つ含むことができます。一価不飽和脂肪は通常、室温で液体ですが、冷蔵庫に入れておくと固まります。オリーブ油やキャノーラ油はこのタイプに該当します。

多価不飽和脂肪は2つ以上の水素原子を含むことができます。これらの脂肪は通常、室温でも冷蔵庫の温度でも液体です。室温では変質する傾向があります。コーン油はこのタイプに該当します。その他の多価不飽和脂肪にはオメガ3脂肪やオメガ6脂肪があり、オメガ3脂肪はサバ、サケ、マグロなどの脂の多い魚に含まれ、オメガ6脂肪は植物油に含まれます。

水素原子を人工的に加える水素化(硬化)と呼ばれる処理は、多価不飽和油を使用した食品が変質しないようにし、マーガリンのような固形の食品を製造するために行われますが、この処理によってトランス脂肪酸が発生します。(「トランス」とは、脂肪分子上で水素原子が追加された場所を表す用語です)。トランス脂肪酸は、クッキー、クラッカー、ドーナッツ、フライドポテトなど、焼いたり油で揚げたりした市販の食品によく含まれています。

トランス脂肪酸は低比重リポタンパク(LDLまたは悪玉)コレステロールの血中濃度を上昇させ、高比重リポタンパク(HDLまたは善玉)コレステロールの血中濃度を低下させますが、これらの作用は冠動脈疾患のリスク上昇につながるとみられています。トランス脂肪酸を含む食品は摂取を控えるのが賢明です。現在では、トランス脂肪酸は食品のラベルに表示されるようになっています。また、原材料一覧の最初に記されている脂肪が硬化脂肪あるいは半硬化脂肪であれば、トランス脂肪酸が含まれていることになります。メニューにトランス脂肪酸に関する情報が掲載されている飲食店もあります。米国のいくつかの都市では、飲食店がトランス脂肪酸を料理に使用することが禁止されており、今後はより多くの都市がこの傾向に追従すると考えられます。米国食品医薬品局は製造業者に対し、製品からトランス脂肪酸を除去するように指示しました。

マーガリンや油では、外観からこの種の脂肪が含まれているかどうかを判断できる場合があり、柔らかいほど、あるいは液状であるほど、トランス脂肪酸の含有量は少なくなります。例えば、容器に入れて販売されるマーガリンの方がスティック状のマーガリンよりもトランス脂肪酸の含有量は少なくなっています。

一部のマーガリンは、総コレステロールとLDLコレステロールの血中濃度を低下させる効果のある、植物性のステロールまたはスタノールを含有しています。これらの物質にこのような作用があるのは、消化管の中であまり吸収されず、コレステロールの吸収を妨害するためと考えられています。このようなマーガリンは、健康的な食生活の中で摂取するのであれば、心臓に良い食品として認められています。それらの製品は不飽和脂肪から製造され、バターよりも飽和脂肪の含有量が少なく、トランス脂肪酸を含有していません。しかし、値段は高価です。

どのような種類の脂肪の組合せが理想であるかは分かっていません。しかし、一価不飽和脂肪またはオメガ3脂肪を多く含み、トランス脂肪酸が少ない食事が望ましいと考えられています。

運動不足

積極的に運動をする人では、冠動脈疾患や高血圧が発生する可能性が低くなります。持久力をつける運動(速足でのウォーキング、サイクリング、ジョギングなどの有酸素運動)や、筋力を増強する運動(フリーウェイトやウェイトマシンを使っての筋力トレーニング)は、冠動脈疾患を予防するのに役立ちます。毎日30分間ウォーキングするだけでも効果が得られます。体調を崩している人や長い間運動をしていなかった人は、運動を始める前に主治医に相談するべきです。

肥満

食生活を見直し、運動をすることで、肥満はコントロールできます。アルコールはカロリーが高いため、飲酒量を減らすことも有効です。体重を4.5~9キログラム落とすことでも、冠動脈疾患のリスクの低下につながる可能性があります。

コレステロール高値

総コレステロールとLDL(悪玉)コレステロールの検査値が高い場合は、運動や禁煙によって、あるいは食事による脂肪の摂取量を減らすことで、これらの値を低下させることができます。総コレステロールとLDLコレステロールの血中濃度を低下させる薬(脂質低下薬)を使用することもあります。コレステロール値を低下させることの効果は、喫煙、高血圧、肥満、運動不足などの危険因子がある人で最も大きくなります。

HDL(善玉)コレステロール値を上昇させることも冠動脈疾患のリスクを低下させるのに役立ちます。総コレステロールやLDLコレステロールの血中濃度を低下させる生活習慣の改善には、特定の薬と同様に、HDLコレステロールの濃度を上昇させる効果もあります。過体重の人では、減量も効果があります。

高血圧

血圧が高い場合は、血圧を下げることが冠動脈疾患のリスク低下につながります。高血圧の治療は生活習慣の改善から始まります。塩分の少ない健康的な食事をとるようにし、必要であれば体重を減らし、運動量を増やします。薬物療法も必要になることがあります。

糖尿病

糖尿病をうまくコントロールできれば、一部の糖尿病合併症のリスクは低下しますが、冠動脈疾患の発生リスクが低下するかどうかはよく分かっていません。ただし、糖尿病をうまくコントロールすれば、冠動脈疾患の合併症のリスクを低下させることができます。

治療

冠動脈疾患のある人には、次の3つを目標として治療を行います。

  • 心臓の負担を軽減する

  • 冠動脈の血流を改善する

  • 動脈硬化の進行を遅らせる、または動脈硬化を解消する

心臓の負担を減らすには、血圧をコントロールするとともに、ベータ遮断薬やカルシウム拮抗薬など、心臓を激しく拍動させないようにする薬を使用します( 冠動脈疾患の治療に用いられる薬剤*)。冠動脈を通る血流は、冠動脈の弛緩を促す薬剤(硝酸薬、カルシウム拮抗薬、ラノラジン[ranolazine]など)を使用するか、狭くなった動脈を拡張したり(経皮的冠動脈インターベンション[PCI])閉塞部をバイパスしたり(冠動脈バイパス術[CABG])することで改善できます。冠動脈の血栓は、ときに薬で溶かせる場合があります( 動脈を開通させる治療)。食生活を見直し、運動し、特定の薬を服用することで、動脈硬化を解消できる可能性があります。

経皮的冠動脈インターベンション

経皮的冠動脈インターベンション(経皮的冠動脈形成術[PTCA]とも呼ばれる)では、まず大腿動脈(太ももにある太い動脈)または手首にある橈骨動脈に針を挿入します。その針を通して長いガイドワイヤーを動脈の中に入れ、大動脈内を通して冠動脈の狭窄部位まで進めます。次に、先端に小さな風船(バルーン)が付いたカテーテルをガイドワイヤーに沿って冠動脈の狭窄部位(狭くなった部分)まで進めます。カテーテルを動かしてバルーンの位置を狭窄部位に合わせ、数秒間膨らませます。膨らんだバルーンが動脈を拡張し、それによって動脈を狭めているアテロームが押しつぶされるため、動脈が広がります。バルーンを膨らませてしぼませる操作を数回繰り返します。この処置を受けた人の80~90%では、狭窄した動脈が開通します。

通常は、冠動脈の開通を維持するため、ワイヤー製またはメッシュ製の筒状の器具(ステント)を動脈内に挿入します。約75%のケースでは、表面に薬剤をコーティングしたステントが使用されます。この薬剤は徐々に溶け出していき、コーティングされていないステント(ベアメタルステントと呼ばれます)でよくみられる冠動脈の再閉塞を予防します。しかし、この種のステント(薬剤放出型ステント)は動脈を開いた状態に保つには非常に有用ですが、ベアメタルステントと比べて、ステント内に血栓が形成されるリスクが若干高くなります。このような血栓のリスクを小さくするため、ステントを使用している人には、ステント挿入後少なくとも1年間はアスピリンと別の抗血小板薬を投与します。抗血小板薬の投与は、しばしばステントを挿入する前に開始されます。動脈が再び閉塞した場合には、原因が血栓かどうかにかかわらず、2回目の経皮的冠動脈インターベンションを行います。

多くの場合、経皮的冠動脈インターベンションは冠動脈バイパス術より体への負担が少なく、回復が早いため、冠動脈バイパス術より好まれます。しかし、冠動脈の病変の位置と範囲、蓄積したカルシウムの量などの状態によっては、経皮的冠動脈インターベンションが適さない場合もあります。また、動脈が狭くなった領域が複数あるか、その他の条件に該当する人は、経皮的冠動脈インターベンションよりも冠動脈バイパス術を受けた方が生存期間が長くなる可能性があります。そのため、医師はこの治療法が適しているかどうかを慎重に判断します。

その他の手法

ほかの手法によるアテロームの除去も検討されています。非常に小さな刃、ドリル、レーザーなどを用いて、厚くなったアテロームや線維化または石灰化したアテロームを切り取る、削り取る、押しつぶす、分解するなどの手法があります。これらの手法の一部は依然として評価段階にあり、これまでのところ、特に長期経過に関しては、期待通りの結果は得られていません。

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)について理解する

先端にバルーンの付いたカテーテルを太い動脈(大腿動脈が選択されることもありますが、現在は手首にある橈骨動脈が最もよく選択されます)に挿入し、その動脈から大動脈を通して冠動脈の狭窄または閉塞部位まで進めます。次に、バルーンを膨らませてアテロームを動脈壁に押し付けて、動脈を開通させます。通常は、折りたたんだステント(網目状のワイヤーでできた筒)をカテーテル先端のしぼんだバルーンにかぶせて、カテーテルと一緒に挿入します。カテーテルがアテロームの部分まで到達したら、バルーンを膨らませ、ステントを開きます。続いて、バルーンの付いたカテーテルを抜き、ステントはそのまま留置して、動脈が開通した状態を維持させます。

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)について理解する

通常、この治療は意識がある状態で行われますが、リラックスさせるための薬を投与することがあります。バルーンを膨らませると狭くなった冠動脈の血流が一時的に遮断されるため、経皮的冠動脈インターベンションの実施中は、患者の状態を注意深くモニタリングします。こうした血流の遮断のために、胸痛が起こり、心電図に電気的活動の異常がみられる場合もあります。経皮的冠動脈インターベンションの実施中の死亡率は1%未満で、死に至らない心臓発作の発生率は5%未満です。経皮的冠動脈インターベンションの直後に冠動脈バイパス術が必要になる人の割合は1%以下です。

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)について理解する

冠動脈バイパス術

冠動脈バイパス術(CABG)は、バイパス手術や冠動脈バイパス移植術とも呼ばれます。この手術では、ほかの部位から採取した静脈や動脈(グラフト)を使って、大動脈(心臓から全身に血液を送り出す太い動脈)を冠動脈の閉塞部分より先のところにつなぎます。これにより、血流は狭窄や閉塞が起きた箇所を迂回(バイパス)して流れるようになります。静脈は通常、脚にあるものを使用します。動脈は通常、胸骨の後方または前腕にあるものを使用します。動脈のグラフトに冠動脈疾患が起きることはまれで、97%以上はバイパス術の10年後も正常に機能します。一方、静脈のグラフトはアテロームによって徐々に狭くなっていきます。1年後には約15%が完全に閉塞し、5年後には3分の1以上が完全に閉塞します。

この手術には、グラフトを移植する血管の数に応じて2~4時間かかります。3枝バイパスや4枝バイパスといった呼び方で表される数字は、バイパス術の対象となる動脈の数(この場合は3本または4本)を示しています。この手術は全身麻酔で行います。胸の中央を首の付け根から腹部の上端まで切開して、胸骨を開きます。このような手術法は開心術と呼ばれています。最近では、より小さな切開で済む特殊な装置が用いられることもあります。通常は、手術を行いやすくするために心臓を停止させます。人工心肺装置を使って、酸素を入れた血液を体内に送り込みます。グラフトの移植が必要な血管が1~2本だけの場合は、心臓を動かしたまま手術することもあります。この手法はオフポンプバイパス術または心拍動下バイパス術と呼ばれます。入院日数は一般的に5~7日で、人工心肺を使用しない場合はそれより短くて済みます。ただし、どちらの方法でも長期的な結果は同じです。

手術によるリスクとして、脳卒中や心臓発作などがあります。心臓の大きさや機能が正常で、心臓発作の病歴がなく、その他の危険因子がない人が手術中に心臓発作を起こすリスクは5%未満で、脳卒中のリスクは2~3%、死亡リスクは1%未満です。血液を送り出す心臓の能力(左心室の機能)が低下している人、過去の心臓発作によって心筋が損傷している人、ほかに心臓や血管に問題がある人では、リスクがいくぶん高くなります。しかし、これらの人でも手術が成功すれば、長期間の生存が期待できます。

一部の人では、冠動脈バイパス術を受けた後に思考や行動に変化がみられます。そうした変化は軽い場合もあれば非常に重い場合もあり、数週間から数年にわたって続くこともあります。高齢者ではリスクが高くなります。このリスクは、人工心肺装置を使用しない場合に低下する可能性があります。

その他の手術法

新しい手法を用いることで、胸の切開創がはるかに小さくなり、バイパス術の体への負担も最小限に抑えることができます(この種の手術は、ときにキーホール手術と呼ばれます)。その1つがロボット工学を応用した方法です。外科医はコンピュータの前に座り、鉛筆ほどの太さのロボットアームを操作して手術を行います。アームには、外科医の複雑な手の動きを再現する特別に設計された手術器具が搭載されています。外科医は、スコープを通して拡大された3次元画像を見ながら手術を行います。この手術を行うには3カ所(左右のアーム用の1カ所ずつと、スコープと接続されているカメラ用の1カ所)を約2.5センチメートルほど切開する必要があります。そのため、胸骨を切開する必要がありません。通常は、この新しい手術法の方が、胸を開いて行う心臓手術よりも手術時間と入院日数が短くて済みます。

冠動脈バイパス術

冠動脈バイパス術では、採取した動脈または静脈の一部を冠動脈につなぎ、大動脈から心筋に至る新しい血流のルートを作ります。その結果、血液は冠動脈の狭窄または閉塞部位を迂回して流れることになります。静脈よりも動脈の方がよく使用されますが、これは動脈の方が後に閉塞を起こす可能性が低いためです。バイパス術の一種に、左右2本ある内胸動脈の片方を切断し、一方の断端を閉塞部位を越えた所で冠動脈につなぐ処置です。もう一方の切断端は糸で結んでおきます。動脈が使えない場合や冠動脈に閉塞部位が複数ある場合は、静脈(通常は鼠径部から足首に向かう伏在静脈)の一部を切り取って使用します。切り取った血管(グラフト)の一方を大動脈につなぎ、もう一方を閉塞部位を越えたところで冠動脈につなぎます。場合によっては、これら2つの方法を組み合わせて行うこともあります。

冠動脈バイパス術
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