心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする冠動脈です。この血管が狭くなる冠動脈疾患では、血流が遮断されて、胸痛(狭心症)や急性冠症候群が発生します(冠動脈疾患の概要も参照)。
急性冠症候群では、冠動脈が突然ふさがることで、心筋の一部への血液供給が大きく減少または遮断されます。組織への血液供給がなくなることを虚血といいます。血液供給が2~3分以上にわたって大きく減少するか遮断されると、心臓の組織が壊死してしまいます。心筋梗塞とも呼ばれる心臓発作は、虚血により心臓の組織が壊死する病気です。
冠動脈疾患の人に医師が薬剤を処方することには、以下のような様々な理由があります。
心臓の負担を軽減するとともに動脈を広げることで、胸痛を軽減するため(硝酸薬)
狭心症や急性冠状動脈症状の発症を予防するため(ベータ遮断薬、カルシウム拮抗薬、ときにラノラジン[ranolazine])
動脈硬化による冠動脈狭窄を予防および解消するため(アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、スタチン系薬剤、抗血小板薬)
閉塞した動脈を開通させるため(血栓溶解薬、抗凝固薬)
硝酸薬
ほとんどの患者にニトログリセリンが投与されますが、この薬は血圧を下げて心臓にかかる負担を減らしたり動脈を拡張したりすることで痛みを軽減します。通常は、まず舌下投与(錠剤を舌の下に置いて口の中で溶かす投与方法)で使用し、続いて静脈内に投与します。
モルヒネ
心臓発作を起こした人の多くは重度の不快感と不安感を覚えます。モルヒネには鎮静作用があるほか、心臓にかかる負担を減らします。ニトログリセリンが使用できない場合や効果がない場合にはモルヒネを投与しますが、最近のデータから、モルヒネは抗血小板薬と相互作用を起こしてその有効性を低下させ、死亡のリスクをわずかに高めることが示唆されています。
ベータ遮断薬
心臓の負担を減らすことも組織の損傷を抑えることにつながるため、ベータ遮断薬を使って心拍を遅くします。心拍数を減らすことで心臓の負担が減り、組織に損傷が起きる範囲を狭めます。
カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬には、血管が収縮して狭くなるのを予防する作用と、冠動脈のけいれんを止める作用があります。カルシウム拮抗薬はすべて血圧を低下させます。そのうちの一部、例えばベラパミルやジルチアゼムには、心拍数を低下させる作用もあります。この作用は多くの人、特にベータ遮断薬を服用できない人や、硝酸薬で十分な回復が得られない人で有用になります。
ラノラジン(ranolazine)
ラノラジン(ranolazine)は、狭心症に対する他の治療をすべて受けたにもかかわらず、症状が持続する人に使用される治療薬です。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、心臓の拡大を軽減することにより、多くの人で生存の可能性を高めます。そのため、この種の薬は心臓発作の発生後、数日以内に服用を開始し、無期限に処方されます。
スタチン
スタチン系薬剤は、冠動脈疾患の予防薬として多年にわたり使用されてきましたが、急性冠症候群の患者にも短期的なメリットがあることが最近明らかにされました。まだ投与されていない場合は、スタチン系薬剤が投与されます。
抗血小板薬
心臓発作が起きたと思ったら、まず救急車を呼んでから、直ちにアスピリンの錠剤を噛み砕いて服用します。自宅にアスピリンがなく、救急隊員も投与しなかった場合は、病院に到着した直後に投与されます。アスピリンは冠動脈内の血栓を小さくする作用があるため、生存の可能性が高くなります。また、クロピドグレル、チクロピジン、もしくはチカグレロル(経口投与)または糖タンパク質IIb/IIIa阻害薬(静脈内投与)のような他の種類の抗血小板薬が投与されることもあります。
血栓溶解薬
経皮的冠動脈インターベンションを病院到着から90分以内に行えない場合、動脈を拡張するために血栓溶解薬(血栓を溶かす薬)が静脈内に投与されます。
抗凝固薬
ほとんどの場合、さらなる血栓の形成を予防するために、ヘパリンなどの抗凝固薬も投与されます。
鼻カニューレやフェイスマスクを使って酸素を吸入させることもしばしばあります。心臓に多くの酸素を供給することで、心臓の組織の損傷を最小限にとどめることができます。