肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。
医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。
治療では通常、タンパク質の摂取調整、食事に含まれるナトリウムの制限、禁酒、原因に対する治療が行われますが、 肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後、最長で18時間保存できます。... さらに読む が必要になることもあります。
(肝疾患の概要 肝疾患の概要 肝疾患は、様々な形で現れます。特徴的な症状や徴候には、以下のものがあります。 黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状) 胆汁うっ滞(胆汁の流れの減少または停止) 肝腫大(肝臓が大きくなる) 門脈圧亢進症(腸から肝臓に向かう静脈の血圧が異常に高くなること) さらに読む も参照のこと。)
原因
肝不全は、 ウイルス性肝炎 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は、5種類の肝炎ウイルスのいずれかの感染によって肝臓に炎症が起きる病気です。多くの場合、炎症は突然始まり数週間続きます。 症状は、何もみられない場合から重症の場合まであります。 感染すると、食欲不振、吐き気、嘔吐、発熱、右上腹部の痛み、黄疸などの症状がみられます。 医師は、肝炎の診断を下しその原因を特定するための血液検査を行います。 ワクチンはA型、B型、E型の肝炎を予防できます(E型肝炎ワクチンは中国でのみ利用可能)... さらに読む (ほとんどがB型かC型肝炎)、 肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、 飲酒によらない脂肪肝です。 食欲不振、体重減少、疲労、全身のけん怠感などの症状が現れます。 腹部への体液の貯留( 腹水)、... さらに読む 、 アルコールによる肝傷害 アルコール性肝疾患 アルコール性肝疾患は、長期にわたる大量の飲酒によって肝臓に損傷が起きる病気です。 一般に、飲酒の量、頻度、期間によって肝傷害のリスクと重症度が決まります。 最初は無症状ですが、次第に発熱、黄疸、疲労がみられるようになり、肝臓は圧痛や痛みが生じて大きくなり、やがて消化管出血や脳機能低下などの、より深刻な問題が現れます。... さらに読む
、 アセトアミノフェン アセトアミノフェン中毒 アセトアミノフェンを含有する製品を何種類も服用することによって、中毒を起こす場合があります。 血液中のアセトアミノフェンの量により、まったく症状がない場合から、嘔吐や腹痛、肝不全、さらには死に至る場合まであります。 血液中のアセトアミノフェン量と肝機能検査の結果に基づいて診断されます。 アセチルシステインを投与してアセトアミノフェンの毒性を低下させます。 ( 中毒の概要も参照のこと。) さらに読む などの薬による肝傷害など、あらゆる肝疾患が原因で起こりえます。
肝不全が起こるまでには、肝臓のかなりの部分が損傷を受けています。肝不全は、数日から数週間のうちに急速に進行すること(急性)もあれば、数カ月から数年かかって徐々に進行すること(慢性)もあります。
合併症
肝臓が機能しないため多くの影響が生じます。
肝臓は、ビリルビン(古い赤血球が分解されてできる老廃物)を十分に処理して体内から排除することができなくなります。そうしてビリルビンが血液中に蓄積し、皮膚に沈着します。その結果が 黄疸 成人の黄疸 黄疸では、皮膚や白眼が黄色くなります。黄疸は、血中にビリルビン(黄色の色素)が多すぎる場合に起こります。この病態を高ビリルビン血症と呼びます。 ( 肝疾患の概要と 新生児黄疸も参照のこと。) 写真では、黄色に変色した眼と皮膚(黄疸)がみられます。 ビリルビンは、古くなった赤血球や損傷した赤血球を再利用する正常なプロセスの中で、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球の一部)が分解されるときに生成されます。ビリルビンは、血流によって肝臓に運ばれ、そ... さらに読む
です。
肝臓は、もはや血液凝固を助けるタンパク質を十分に合成できなくなります。その結果、 皮下出血や出血が起きやすくなります あざと出血 けがをしたときのあざや出血は正常です( 血栓についても参照)。しかし、あざや出血を起こしやすくなる病気があります。ときには、あきらかな原因やけががないのに出血することもあります。体のほぼあらゆる部分で自然に出血することがありますが、鼻や口、消化管に最も多くみられます。 血友病では、関節内や筋肉内でしばしば出血がみられます。ほとんどの場合、出血はわずかですが、生命を脅かすほど大量に出血することもあります。ただし、わずかな出血でも、脳に発生... さらに読む
(血液凝固障害)。
肝臓が有害物質を正常に除去できず、これらの物質が血液中に蓄積するため、脳の機能が低下することがあります。この病態を 肝性脳症 肝性脳症 肝性脳症は、重度の肝疾患がある人において、正常なら肝臓で除去されるはずの有害物質が血液中に蓄積して脳に達することで、脳機能が低下する病気です。 肝性脳症は、長期にわたる(慢性の)肝疾患がある患者に発生します。 肝性脳症は、消化管での出血、感染症、処方薬を正しく服用しないこと、その他のストレスによって誘発されます。 錯乱、見当識障害、眠気が起こるとともに、性格、行動、気分の変化がみられます。... さらに読む と呼びます。
肝臓を迂回する新しい静脈(側副血管と呼ばれます)が形成されることがあります。これらの血管は、たいてい食道や胃に形成されます。このような場所では、静脈が拡張して蛇行します。食道静脈瘤や胃静脈瘤と呼ばれるこれらの静脈は、 もろく容易に出血します 消化管出血 口から肛門までの消化管のいずれの部分でも、出血が起こることがあります。出血は肉眼で容易に見える場合(顕性)もあれば、量が少なすぎて見えない場合(潜在性)もあります。潜在性の出血(潜血)は、特別な化学物質を用いた便サンプルの検査でのみ検出されます。 嘔吐物中に血液がみられる場合(吐血)があり、この場合上部消化管(通常は食道、胃または小腸の最... さらに読む
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免疫系が機能不全に陥り、感染のリスクが高まります。
カリウムの血中濃度の低下(低カリウム血症 低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が低いこと) 低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に低い状態をいいます。 カリウム濃度の低下には多くの原因がありますが、通常は嘔吐、下痢、副腎の病気、利尿薬の使用が原因で起こります。 カリウム濃度が低下すると、筋力低下、筋肉のけいれんやひきつり、さらには麻痺が生じるほか、不整脈を起こすことがあります。 診断は、カリウム濃度を測定する血液検査に基づいて下されます。 通常は、カリウムを豊富に含む食べものを食べるか、カリウムのサプリメントを飲むだ... さらに読む )や血糖値の低下(低血糖 低血糖 低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に低くなっている状態です。 低血糖は、糖尿病を管理するために服用する薬によるものが最も多くみられます。低血糖のまれな原因としては、他の種類の薬、深刻な病態や臓器不全、炭水化物に対する反応(感受性の高い人において)、膵臓のインスリン産生腫瘍、一部の肥満外科手術(減量のための手術)などがあります。 血糖値が下がると、空腹、発汗、ふるえ、疲労、脱力感、思考力の低下といった症状が生じますが、重度の... さらに読む )などの代謝異常がみられることもあります。
症状
肝不全患者では、黄疸、腹水、肝性脳症、全身の健康状態の悪化が通常みられます。黄疸になると、皮膚や白眼が黄色くなります。腹水があると腹部が膨れることがあります。肝性脳症は、錯乱や眠気を引き起こします。ほとんどの患者では、疲労、筋力低下、吐き気、食欲不振などの全身症状もみられます。
息はカビ臭く、甘ったるい匂いがすることがあります。
皮下出血や出血が起きやすくなることがあります。例えば、普通の人なら取るに足らない出血(例えば、小さな切傷や鼻血)も、自然に止まらず、医師でさえ出血を止めるのが難しいことがあります。失血のため、 血圧低下(低血圧)やショック 低血圧およびショック に至ることがあります。
急性肝不全では、健康だった人が数日以内に瀕死の状態に陥ることがあります。急性肝不全は緊急の治療を要する病気であり、可能であれば肝移植センターで評価を行うべきです。慢性肝不全では、吐血や血便がみられるなどの著明な事態が起こるまでは、健康状態の悪化は非常に緩やかです。嘔吐物または便に混じる血液は、通常、食道や胃の静脈瘤からの出血によるものです。
腎不全になると、尿の生産量や排泄量が減少するため、血液中に有害物質が蓄積します。
やがて、呼吸が困難になります。
肝不全を治療せずに放置した場合や、肝疾患が進行性のものである場合、最終的に死に至ります。たとえ治療しても、肝不全は元に戻らないことがあります。一部の患者は腎不全で死亡します。 肝臓がん 肝腫瘍の概要 肝臓の腫瘍(肝腫瘍)には、がんではない良性腫瘍と、がんである悪性腫瘍があります。 肝臓の悪性腫瘍は、 原発性(肝臓から発生したもの)と 転移性(他の部位から肝臓に転移してきたもの)に分類されます。ほとんどの肝臓がんは転移性です。体の各部で発生した腫瘍から離れたがん細胞は、しばしば血流に入って全身に運ばれますが、肝臓では体全体に流れる血液の... さらに読む を発症する患者もいます。
診断
治療
原因の治療
急性肝不全は、直ちに治療
治療法は原因と具体的な症状によって異なります。肝不全が急性か慢性かによって治療の緊急度は異なりますが、治療の原則は同じです。
食事制限
さらに、腹部への体液の貯留を防ぐために、ナトリウム(塩分や多くの食品に含まれる)の摂取量を1日当たり2000mg未満に制限する必要があります。飲酒は、肝傷害を悪化させるため厳禁です。
急性肝不全
急性肝不全は、緊急の治療を要する病気です。可能であれば、肝移植センターで評価を行い、集中治療室で管理するべきです。以下の治療を行います。
低血圧に対して、静脈からの水分補給(輸液)と血圧を上げる薬
肝性脳症に対して、場合により、ラクツロース(下剤)、抗菌薬など
感染症に対して、抗菌薬または抗真菌薬
低血糖に対して、グルコース(糖の一種)の静脈内投与
出血に対して、新鮮凍結血漿(血液凝固因子と呼ばれる、血液凝固を助けるタンパク質を含む血液の成分)の輸血、および必要な場合は全血輸血
肝移植
肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後、最長で18時間保存できます。... さらに読む を早く行えば、肝機能を回復させることができ、肝疾患にかからなかった場合と同等の寿命を全うすることができます。しかし、すべての肝不全患者が肝移植に必要な条件を満たすわけではありません。