A型肝炎は、通常、感染した人の便で汚染されたものを摂取したときに感染します。
A型肝炎は、年長児と成人ではウイルス性肝炎の典型的な症状(食欲不振、全身のだるさ、黄疸など)を引き起こしますが、幼児では症状が起こらないことがあります。
A型肝炎の診断は、血液検査の結果に基づいて下されます。
すべての小児のほか、感染にさらされたり、重い合併症が発生したりする可能性が高い成人に、A型肝炎に対するワクチン接種が推奨されます。
A型肝炎に対する特別な治療法はありませんが、ほとんどの患者が完治します。
( 肝炎の概要 肝炎の概要 肝炎は肝臓の炎症です。 肝炎は世界中でみられる病気です。 肝炎には以下の種類があります。 急性(経過が短い) さらに読む と 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は、5種類の肝炎ウイルスのいずれかの感染によって肝臓に炎症が起きる病気です。多くの場合、炎症は突然始まり数週間続きます。 症状は、何もみられない場合から重症の場合まであります。 感染すると、食欲不振、吐き気、嘔吐、発熱、右上腹部の痛み、黄疸などの症状がみられます。 医師は身体診察と検査用の採血を行います。 ワクチンはA型、B型、E型の肝炎を予防できます。 さらに読む も参照のこと。)
A型肝炎は、急性ウイルス性肝炎の最も一般的な原因です。小児と若い成人で特に多くみられます。A型肝炎は慢性化しません。つまり、感染が6カ月を超えて持続しません。
米国では、2014年に約2500例の症例が報告されており、1995年にA型肝炎ワクチンが使用可能になる前の年間約25,000~35,000例から減少しています。一部の国では、75%以上の成人がA型肝炎ウイルスにさらされています。
A型肝炎の感染
A型肝炎は通常、感染した人の便で汚染されたものに触れたり、そのような食べものや飲みものを摂取したりしてウイルスを飲み込んだときに感染します(これを 糞口感染 寄生虫と糞口感染 といいます)。感染は通常、感染した人が手をよく洗わずに食べものを調理するなどの、不良な衛生状態を原因として起こります。未処理の下水が流れ込む水域でとれた貝類や甲殻類は汚染されている場合があり、生で食べると感染する可能性があります。
A型肝炎は託児所や介護施設で、感染者の便が付着したおむつに介護者や子どもが触れて広がることもあります。
症状が現れる前、自分が感染していると気づく前にもウイルスが広がることがあります。
通常は便で汚染された水に起因する流行がよくみられ、発展途上国にとりわけ多いです。
A型肝炎患者はキャリアにはなりません。キャリアとは、ウイルスに感染していて他者にウイルスを感染させる可能性があるものの、その感染症の症状がみられない人のことです。
症状
年長児と成人のA型肝炎患者の大半で、急性肝炎の典型的な症状がみられます。具体的な症状としては以下のものがあります。
食欲不振
全身のだるさ(けん怠感)
嘔吐
右上腹部(肝臓がある場所)の痛み
濃い色の尿
6歳未満の小児の約70%では症状がなく、症状があっても黄疸がみられることはまれです。
便の色が白くなる、全身がかゆくなるなど、 胆汁うっ滞 胆汁うっ滞 胆汁うっ滞とは、胆汁の流れが減少または停止した状態です。 胆汁うっ滞の原因として、肝臓、胆管、膵臓の病気が考えられます。 皮膚や白眼が黄色くなり、皮膚にかゆみが生じ、尿の色が濃くなり、便は色が薄くなって悪臭がするようになります。 原因を特定するには、臨床検査と多くの場合は画像検査が必要です。 治療法は原因によって異なりますが、かゆみの軽減には薬剤が有用です。 さらに読む (胆汁の流れが減ったり止まったりする病態)の症状がみられることもあります。
症状は、通常約2カ月で消えますが、最大で6カ月にわたって持続したり再発したりすることがあります。
A型肝炎では肝臓の重度の瘢痕化( 肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的なアルコール乱用、慢性ウイルス性肝炎、飲酒によらない脂肪肝です。 食欲不振、体重減少、疲労、全身のだるさなどの症状が現れます。 腹部への体液の貯留(腹水)、消化管の出血、脳機能の異常など、多くの重篤な合併症が起こる可能性が... さらに読む )は生じません。A型肝炎が重症(劇症)になることはほとんどありません。B型肝炎の場合よりもまれです。
通常、A型急性肝炎は完治します。
診断
血液検査
黄疸などの典型的な症状に基づいて肝炎が疑われます。
A型肝炎の検査は、通常、肝臓がどの程度機能しているかと肝傷害の有無を評価する血液検査( 肝機能検査 肝機能検査 肝機能検査という名称から誤解されることもありますが、これは肝臓の代謝や胆汁分泌の機能を調べる検査ではなく、実際には肝臓の炎症や肝臓の損傷を検出する検査です( 肝臓の機能)。このような炎症や損傷は、肝臓の実際の機能に影響が現れる前から生じている可能性があります。肝機能検査は血液検査として行われますが、これは肝疾患の有無をスクリーニングし(例えば、献血された血液に肝炎があるかを調べる)、肝疾患の重症度や進行度と治療に対する反応を評価するため... さらに読む )により開始します。肝機能検査では、肝酵素や肝臓で作られるその他の物質の濃度を測定します。この検査は、肝炎の診断の確定や除外、原因の特定、肝傷害の重症度の判定に役立ちます。
また、感染症を引き起こしている肝炎ウイルスの種類を特定するための参考にする目的でも、血液検査を行います。血液検査では以下のものを検出することができます。
特定の肝炎ウイルスに反応して患者の免疫系によって作られた抗体
特定の肝炎ウイルスの抗原(抗原とは、体の免疫反応を引き起こすあらゆる物質のことです)
予防
食べものを取り扱う際の衛生状態を改善することが、A型肝炎の感染予防に役立ちます。トイレを使った後、おむつを替えた後、食べものを取り扱う前に、石けんと水で手を洗うべきです。
汚染された水の摂取を避けることも重要です。公衆衛生が不十分な可能性のある地域に旅行するときは、特に注意する必要があります。
A型肝炎 A型肝炎ワクチン A型肝炎ワクチンはA型肝炎の予防に役立ちます。一般的に、A型肝炎はB型肝炎ほど重篤ではありません。A型肝炎は無症状の場合もよくありますが、発熱、吐き気、嘔吐、黄疸がみられることや、まれに重度の肝不全や死亡に至ることもあります。慢性肝炎にはなりません。 ワクチンの使用によって、感染者数が減少しました。 詳細については、CDCによるA型肝炎ワクチン説明書(Hepatitis A vaccine... さらに読む に対するワクチン接種はすべての小児に推奨されます。大人でもA型肝炎への感染リスクが高い以下のような人への接種が推奨されます。
A型肝炎がまん延している地域に旅行する人
A型肝炎ウイルスを取り扱う検査室や研究室のスタッフ
慢性肝疾患または出血性疾患の患者
男性と性行為を行う男性
違法薬物の使用者(しばしば薬物使用以外の理由で感染する)
慢性肝疾患(C型慢性肝炎など)の患者は、A型肝炎ウイルスに起因する劇症肝炎と肝不全の発生リスクが高くなっている可能性があるため、A型肝炎に対するワクチン接種を受けるべきです。
A型肝炎にさらされた後の予防
A型肝炎患者の家族や患者と濃厚な接触がある人は、感染にさらされているため、予防策が推奨されます(曝露後予防と呼ばれます)。
ワクチン接種を受けたことがない人がA型肝炎ウイルスにさらされた場合、次のいずれかの投与を受けます。
1~40歳の健康な人:A型肝炎ワクチン1回
40歳を超えているか、免疫機能が低下しているか、慢性肝疾患がある人:標準的な免疫グロブリン製剤
標準的な免疫グロブリン製剤は、免疫系が正常な人の血液から抽出された抗体を含有する製剤です。この治療法によって、感染症の重症化を予防したり、感染症の症状を軽減したりすることができます。
治療
一般的な対策
A型肝炎に対する特別な治療法はありません。
飲酒によってさらに肝臓が障害されるため、A型肝炎の患者は禁酒すべきです。特定の食べものを避けたり活動を制限したりする必要はありません。
かゆみが生じた場合、経口投与するコレスチラミンがしばしば効果的です。
ほとんどの場合、黄疸が消えれば安全に仕事に復帰することができます。