現在使用されている 薬 薬の概要 米国の法律では、薬は「病気の診断、治癒、緩和、治療、予防を目的として使用する物質(食品や装置を除く)」または「体の構造や機能に作用することを目的とする物質」と定義されています。(例えば、経口避妊薬は病気ではなく、体の機能に作用する薬の一例です)。こうした薬のあらゆる側面を網羅した定義は、法律を運用する上では重要ですが、日常的に使用するには... さらに読む の多くは、動物実験や人間に投与する試験によって、効果が見出されました。一方、現在では多くの薬が、特定の病気を考慮して設計開発されています。病気が引き起こす異常な生化学的変化や細胞の変化を見出し、次に(体の特定の部位に作用することにより)これらの異常を防いだり修復したりする化合物を設計します。ある新しい化合物が有望だと分かると、通常は、その構造を以下の目的で何度も改良します。
その他の要素として、その化合物の腸壁からの吸収性や、身体組織や体液中での安定性なども考慮します。こうした要素には、体が薬に及ぼす作用(薬物動態 薬の投与と薬物動態に関する序 薬の投与とは、いくつかある手段(経路)のいずれかを使って薬を与えることです。薬物動態とは、生体がどのように薬を処理するのか、また吸収、分布、代謝、および排泄のプロセスがどうなっているのかを説明するものです。 薬物療法では、組織内の特定の標的部位に薬が届き、そこでその薬が作用することが必要です。通常、薬は体内に送り込みますが(... さらに読む )と、薬が体に及ぼす作用(薬力学 薬力学の定義 )が関与します。
理想的な薬とは以下のようなものです。
標的部位に対する選択性が高い:体の他の組織にはほとんど、あるいはまったく作用しない薬で、そのために副作用が最小にとどまったり、まったくなかったりします(薬の有害反応の概要 薬の有害反応の概要 薬の有害反応(副作用)とは薬のあらゆる望ましくない作用のことです。 19世紀初頭に、ドイツの科学者パウル・エールリヒが理想的な薬を「魔法の弾丸(magic bullet)」と表現しました。これは病気の部位を正確に狙い、健康な組織には害を及ぼさないような薬を意味したものです。新薬の多くは、それまでの薬よりも狙いが正確になっているものの、現在... さらに読む を参照)。
力価と効果が非常に高い:治療が難しい病気にも少量の投与で済みます。
内服によって効果を発揮する(消化管からよく吸収される):投与しやすいという利点があります。
体内組織や体液中で適度に安定している:1日1回の投与で十分であれば理想的です(短期的な治療だけが必要な病気には、作用時間の短い薬が望ましいことがあります)。
薬の開発段階で、標準投与量や平均投与量が決まります。しかし、薬に対する反応は人それぞれです。年齢(加齢と薬 加齢と薬 最も一般的な医学的介入である薬は、高齢者医療の重要な部分です。薬がなければ、多くの高齢者の身体機能はさらに衰えたり、またはより早く死を迎えるでしょう。 高齢者は、高血圧、糖尿病、または関節炎など複数の慢性疾患にかかりやすいことから、若い人より多くの薬を服用する傾向があります。高齢者が慢性疾患の治療に使用するほとんどの薬は何年にもわたり服用... さらに読む を参照)、体重、遺伝子構成、他の病気の有無といった様々な要因が、薬に対する反応に影響します(薬に対する反応の概要 薬に対する反応の概要 薬に対する反応は人によって異なります。人がどのようにある薬に反応するかは多くの要因に左右されます。例えば以下のような要因があります。 遺伝的素因 年齢 体の大きさ 他の薬や栄養補助食品(薬用ハーブなど) さらに読む を参照)。そのため、医師が特定の患者に対する投与量を決めるときは、これらの要因を考慮しなければなりません。
薬の開発段階
(薬の開発段階の概要については、表「 研究室から医療現場へ 研究室から医療現場へ 」を参照のこと。)
開発初期
病気の治療に有用そうな薬を発見するか設計をすると、研究室で動物を使った実験を行います(この段階を開発初期といいます)。開発初期では、薬が作用する仕組みや、どの程度効果をもたらすのか、生殖能力や子孫の健康への影響を含む毒性がないかといった情報を集めます。多くの薬は、この段階で、毒性が強すぎたり、効果がないことが明らかになり、開発が断念されます。
薬が開発初期を経て有望と思われた場合は、しかるべき臨床研究審査委員会(IRB)より、臨床研究について記載したプログラムの承認を受ける必要があります。そして、米国食品医薬品局(FDA)に新薬(IND)臨床試験開始申請を提出します。申請がFDAで承認された場合、その薬を人に投与する試験を行うことができます(これを臨床試験といいます)。
臨床試験
臨床試験はいくつかの段階(相)に分けて行われ、試験内容に全面的に同意した志願者のみが参加します。
第1相では、その薬を人に投与したときの安全性と毒性を調べます。健康で若く、通常は男性の少数の参加者に対して投与量を変えながら薬を投与し、毒性が最初に現れる投与量を調べます。
第2相では、治療しようとする病気に対するその薬の効果ならびに至適と思われる投与量を調べます。治療しようとする病気にかかっている人(最多で100人程度)に投与量を変えながら薬を投与し、何らかの便益があるかを調べます。動物を使った開発初期で効果がある薬だからといって、人に対しても効果があるとは限りません。
第3相では、その薬が対象とする病気にかかっている、より多くの人(数百人から数千人になることがあります)に薬を投与します。その際、実際にその薬を使用すると予想される人と、できる限り似た条件をもつ人を選んで投与します。また、その薬の有効性についてさらに詳しく検討するとともに、これまで知られていなかった副作用がないかも調べます。通常、第3相では、新しい薬を、すでに販売されている薬やプラセボあるいはその両方と比較します。
臨床試験では、薬の有効性を判断するだけでなく、副作用の種類や発生頻度、副作用が起こりやすくなる要素(年齢、性別、他の病気の有無、他の薬の使用など)についても調べます。
承認
薬が効果的で安全であることが試験で証明されると、新薬としてFDAに申請され(新薬承認申請)、申請書には、動物実験と臨床試験の結果や、予定されている製造方法、処方についての情報(添付文書)、製品ラベルなどが添えられます。FDAは提出されたすべての情報を審査し、十分に効果的で安全な製品としてその薬を販売できるかどうかを決定します。FDAに承認された薬は、治療に使えるようになります。米国の場合、こうしたプロセス全体に約10年間かかります。研究室で4000種類の化合物の実験を行った場合、人に対して投与する試験に進めるのは平均するとわずか5種類程度で、それら5種類のうち承認されて患者に処方できるようになるのは、わずか1種類程度です。
各国には独自の承認プロセスがあり、米国のプロセスとは異なる場合があります。ある国での使用が承認されているからといって、別の国での使用が可能であるとは限りません。
第4相(市販後)
製薬会社は承認された新薬の市販を開始した後、その使用状況を調査し、それまでに見つからなかった新たな副作用があれば、すぐにFDAに報告しなければなりません。医師と薬剤師は薬の継続的なモニタリングに関与するよう勧められます。薬を市販する前の段階で大規模な試験を行ったとしても、比較的よくみられる副作用(1000回使用して1回程度起こるもの)しか検出できないため、このようなモニタリングは重要です。1万回(もしくはそれ以上)使用して1回起こるような重要な副作用は、多くの人がその薬を使う市販後の段階でしか検出できません。薬が重度の副作用を引き起こすことが新たに判明した場合、FDAは承認を取り消すことがあります。例えば、ダイエット補助薬のフェンフルラミン(fenfluramine)は、服用した一部の人が重篤な心疾患を起こしたため、販売中止になりました。