薬の有害反応 薬の有害反応の概要 薬の有害反応(副作用)とは薬のあらゆる望ましくない作用のことです。 19世紀初頭に、ドイツの科学者パウル・エールリヒが理想的な薬を「魔法の弾丸(magic bullet)」と表現しました。これは病気の部位を正確に狙い、健康な組織には害を及ぼさないような薬を意味したものです。新薬の多くは、それまでの薬よりも狙いが正確になっているものの、現在... さらに読む (薬のあらゆる望ましくない作用)が起こる可能性は多くの要因によって高まります。具体的には以下のものがあります。
遺伝的要因
特定の病気
複数の薬の同時使用
非常に若年であるか高齢者
妊娠
母乳哺育
遺伝的要因によって特定の薬の毒性作用を受けやすい人もいます。
特定の病気のために薬の吸収や代謝、排泄、体の薬物応答性が変わってしまい(薬と病気の相互作用 薬と病気の相互作用 薬が人に与える影響については、薬が以下のものと相互作用することにより、予想されたものとは異なる可能性があります。 その人が服用している別の薬(薬同士の相互作用) その人が摂取している飲食物やサプリメント(薬と栄養素の相互作用) その人がかかっている別の病気(薬と病気の相互作用) 薬物相互作用は、通常は好ましくなく、ときに害をもたらすことがあります。相互作用では以下のことが起こる可能性があります。 さらに読む )、薬の有害反応のリスクが高まることがあります。
治療を受ける側の心構えや先行きの見通し、自信、医療従事者への信頼といった精神的な要因と身体との相互作用が薬の有害反応に及ぼす影響については、まだほとんど明らかになっていません。
複数の薬の使用
年齢
乳児や非常に若年の小児は薬を代謝する能力が十分に発達していないことから、薬の有害反応を生じるリスクが高くなります。例えば、新生児はクロラムフェニコールという抗菌薬を代謝、排泄することができません。この薬を投与された新生児では、しばしば死に至る重篤な副作用であるグレイ症候群が発生する可能性があります。別の抗菌薬であるテトラサイクリンを歯の形成中(8歳頃まで)の乳児や幼児に投与すると、歯のエナメル質が永久に変色してしまうことがあります。18歳未満の小児でインフルエンザや水痘(水ぼうそう)にかかっているときにアスピリンを投与すると ライ症候群 ライ症候群 ライ症候群は非常にまれな病気ですが、脳の炎症や腫れと、肝機能の低下または喪失をもたらし、生命を脅かすことがあります。 ライ症候群の原因は不明ですが、ウイルス感染症やアスピリンの使用が引き金になると考えられています。 ウイルス感染症の症状に続いて激しい吐き気、嘔吐、錯乱、反応の鈍化がみられるのが典型的で、ときに昏睡に至ることもあります。 診断は、小児の精神状態の急な変化、血液検査および肝生検の結果に基づいて下されます。... さらに読む を発症するおそれがあります。
高齢者も、いくつかの理由で薬の有害反応を起こすリスクが高くなります(加齢と薬 加齢と薬 最も一般的な医学的介入である薬は、高齢者医療の重要な部分です。薬がなければ、多くの高齢者の身体機能はさらに衰えたり、またはより早く死を迎えるでしょう。 高齢者は、高血圧、糖尿病、または関節炎など複数の慢性疾患にかかりやすいことから、若い人より多くの薬を服用する傾向があります。高齢者が慢性疾患の治療に使用するほとんどの薬は何年にもわたり服用... さらに読む )。高齢者は様々な健康上の問題を抱えていることが多く、複数の処方薬や市販薬を服用している可能性が高くなります。また加齢に伴い、肝臓で多くの薬がうまく代謝されなくなるとともに、腎臓が薬を体からうまく排泄できなくなり、薬やその他の有害反応で腎臓が損傷を受けるリスクが高まります。こうした加齢に伴う問題が、加齢により多くなる傾向にある栄養不良や脱水のために悪化することもよくあります。
また高齢者では、薬の作用の影響を受けやすくなります。例えば、立ちくらみ、食欲不振、うつ病、錯乱、協調運動障害を来す可能性が高く、転倒して骨折するリスクがあります。こうした反応を引き起こす薬には、多くの抗ヒスタミン薬や睡眠補助薬、抗不安薬、降圧薬、抗うつ薬などがあります(表「 高齢者で特に問題を起こしやすい主な薬 高齢者で特に問題を起こしやすい主な薬 」を参照)。
妊娠と母乳哺育
多くの薬、例えば、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)のような降圧薬は、胎児の健康と正常な発達にリスクをもたらします。妊婦は可能な限り、特に第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)では、いかなる薬も服用すべきではありません(表「 妊娠中に問題を引き起こす可能性がある主な薬剤 妊娠中に問題を引き起こす可能性がある主な薬剤* 」を参照)。ただし、ACE阻害薬やARBなどの一部の薬は、第3トリメスター(訳注:日本の妊娠後期にほぼ相当)にリスクが最大になります。妊娠中に処方薬や市販薬、サプリメント(薬用ハーブを含む)を使用する場合は、いずれも医師に相談する必要があります。社会的に容認されている薬物(アルコールやニコチン)および違法薬物(ヘロインなどのオピオイドやコカイン)も、妊娠中の女性および胎児にリスクをもたらします。
薬や薬用ハーブの成分が母乳を通じて乳児に移行することがあります(授乳期間中の薬の使用 授乳期間中の薬の使用 授乳期間中に母親が薬剤を使用しなければならなくなると、授乳をやめるべきかどうか迷います。答えは以下の条件によって変わってきます。 母乳に移行する薬剤の量 薬剤が乳児に吸収されるかどうか 薬剤は乳児にどのような影響を与えるか 乳児の哺乳量はどのくらいか(乳児の月齢と母乳以外の食事や水分の摂取量により異なる) さらに読む )。授乳中の女性には、服用すべきでない薬と、医師の管理下で使える薬があります。通常は母乳哺育を受けている乳児に害にならない薬もいくつかあります。しかし授乳中の女性は、どのような薬でも服用する前に医療従事者に相談した方がよいでしょう。社会的に容認されている薬物も違法薬物も母乳哺育を受けている乳児に害を与えるおそれがあります。
さらなる情報
米国中毒情報センター協会(American Association of Poison Control Centers):緊急の場合Information(情報)、Prevention(予防)(訳注:(公財)日本中毒情報センターのウェブサイトはhttps://www.j-poison-ic.jpを参照してください)
FDA有害事象報告システム(FDA Adverse Event Reporting System)