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医療費の管理

執筆者:

Roger I. Schreck

, MD

最終査読/改訂年月 2018年 7月
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医療費を抑制し削減するには、以下のものを減らす戦略をとるしかありません。

  • 医療サービスの利用

  • 医療提供者が医療サービスに対する払い戻しを受ける額

  • 医療事業を運営するための間接費(間接費には医療の提供コストは含まれません)

医療の経済的問題の概要も参照のこと。)

これらの目標を達成するための方法の中には、医療の質を損なうものもあれば、医療を改善するものもあります。医療システムの大きな変更が及ぼす影響を予測するのは困難です。多くの場合、変更がなされてからでないと、影響が分かりません。費用の削減により、医療の質が損なわれないことが理想的です。

  • 従来、保険会社は、医療費を抑制するための方法として、医療の利用機会に対する制限を設けてきました(この戦略は医療費負担適正化法[Affordable Care Act]の規定により、減ってきています)。

  • 不必要な医療は容易に定義できますが、排除はおろか、認識することさえも困難です。

  • 健康状態を改善する戦略によって医療費を削減できるかどうかは不明です。

  • 医療費を削減するために用いられる多くの戦略には、重大な不利益もあります。

  • 保険会社と医療提供者の間接費を減らし、医療過誤に関する法律を改正することで、医療費を削減できる可能性があります。

戦略のなかには、必要な医療や予防医療が受けにくくなるために悪影響が出るものがあります。それによって病気が進行すると、治療が効果を発揮する可能性が低下し、障害の発生や死亡にもつながります。医療が向上する戦略もあります。

それぞれの戦略を評価することは困難であり、その理由としては、戦略が治療対象者に及ぼす効果を正確に測定することが難しいということが挙げられます。そうした測定は費用がかさみ、多くの人を評価対象とする必要があり、長期間モニタリングする必要があります。そのため、医療の質を評価する手段のほとんどは、医療が長期間のうちに対象者の健康にどのような影響を与えたかではなく、医療がどのように提供されたかを反映します。医療がどのように提供されたかと、医療が長期にわたって健康にどの程度役立つかは、相関していない可能性があります。

医療サービス利用の抑制

医療サービス利用を減らす戦略としては以下のものがあります。

  • 医療の利用機会を制限する、不必要な医療の提供を防ぐ(それによって必要な医療を受けることが高額または困難になったり、不可能になったりすることがあります)

  • 健康の向上を通じて、医療サービスの必要性を抑える

医療の利用機会に対する制限

以前から、医療費を抑制するために、医療の利用機会を制限する戦略が用いられてきました。

保険会社は、医療を必要とする可能性が高い人(持病がある人など)の保険加入を断ったり、多くの医療サービスを利用する人を保険対象から外したりすることで、医療の利用機会を制限してきました。米国では、医療費負担適正化法(Affordable Care Act)によってこのような行為が禁じられています。

政府は、医療支援プログラムの資格認定基準を厳しくする場合があります。

保険会社は人々の自己負担額を増やす措置をとる場合があります。例えば、以下のことを行う可能性があります。

  • 保険が適用される診察の種類と回数を制限する(例えば、精神医療や理学療法)

  • 免責額と受診時負担を増やす

  • 特定の処置に対する支払い額を減らす

こうした措置がとられると、人々の間に医療の利用を控えようという経済的な動機が生まれます。

これらの戦略を取り入れると、多くの人が不必要な医療だけでなく必要な医療も控えるようになり、医療に負の影響を及ぼします。例えば、インフルエンザのワクチン接種が必要でも、多くの人が接種を受けなくなります。また、パパニコロウ検査(子宮頸部細胞診)やマンモグラフィーなどのスクリーニング検査を女性が避けるようになる可能性があります。そうすると、がんが発生した場合に、受診したときにはがんが進行している事態も起きかねません。

一部の保険会社は医療を受けるための複雑な手続きを設けています。検査や紹介、処置を受ける際に承認が必要な場合があります。登録手続きや制約が複雑なことがあります。こうした運営上の煩雑な手順によって、わずかに医療の利用が抑制される可能性があります。

医療の利用機会を制限すると、問題が起きかねません。例えば、医療保険の加入を拒否された人が重篤な病気にかかるかもしれません(通常の診療を受けていない場合に可能性が高くなります)。そのような人は病気が進行してから病院で治療を受けることが多く、その費用の支払い能力がないことがよくあります。すると、その医療費は医療システムに費用を払っている人の負担になり、初めから通常の診療を受けしていた場合よりも費用がかさむ可能性があります。

不必要な医療の排除

不必要な医療を定義すること(健康改善につながらない処置)は簡単ですが、その認識はしばしば難しく、排除はさらに困難です。不必要な医療の定義を助けるためには、検査、薬、その他の治療法の有効性と費用対効果を比較する研究を行う必要があります。健康に影響を及ぼすほかの要因についても研究が行われる場合があります。具体的には、運動、理学療法、異なる医療提供者、システム、医療の環境、払い戻し制度などの要因です。

様々な組織が作成している評価と治療のガイドラインを用いれば、医療提供者が病気に最適な処置を行うための助けになり、不必要な検査と治療の排除につながります。しかし、ガイドラインを利用できる病気は限られていて、ガイドラインは必ずしも明確で役に立つとは限りません。また、ガイドラインは、作成された組織によって異なる場合もあります。

医療提供者の間でサービスの連携を強化することで( ケアの継続性)、評価と治療がより効率的になる可能性があります。例えば、より良いコミュニケーションや電子医療記録の利用により、不必要な重複検査を排除することができます。

高価な治療で延命を試みる場合は、人生最後の1年で生涯の医療費の約3分の1を費やすことになります。こうした治療は、不快感と依存性を大きく増大させ、短期間しか延命できないことがよくあります( 終末期の治療選択肢)。この時期には、延命を目的とした治療よりも、症状を緩和させる治療(緩和ケアやホスピスケア)の方が、多くの場合に有用です。こうした治療を望む人は、事前指示書と呼ばれる文書で指示することができます。緩和ケアやホスピスケアを要望することは、高価でしばしば技術集約的な治療を減らすことにつながります。

健康の改善

比較的安価で病気の予防に役立つサービスを多く利用するようにすると、将来的に高価な治療が必要になる機会を減らすことができます。例えば、高血圧とコレステロール高値のスクリーニングや診断、治療は、心臓発作や脳卒中の発症を予防するために役立つ可能性があります。したがって、こうした対策をとっている人は、動脈の閉塞を解消する血管形成術のような治療を受けずに済みます。乳がんや結腸がんのスクリーニングにより、がんを早期の段階で発見できれば、進行期のがんの高価な治療を避けることができます(もちろん、生存率も高くなります)。

保険会社には、一定の予防サービスを、患者とのコストシェアリングなしで保険適用とすることが、医療費負担適正化法(Affordable Care Act)によって求められています。

予防医療を増やす戦略には、次のようなものがあります。

  • プライマリケア医の数を増やす。プライマリケア医は、多くの機会に適切なスクリーニングを行うことができ、高額の治療が必要になりがちな合併症の予防に貢献します。

  • 予防サービスに対する受診時負担をなくす。

  • 無料の予防サービスを提供する(特に生活困窮者向け)。

  • 予防医療ガイドラインを守っている医療提供者に経済的な報酬を与える(質に応じた支払い方式)。

医療の利用に対する払い戻しの削減

医療が提供される場合にも、保険会社と政府は、いくつかの方法でコストを制限することができます。

診療報酬の引き下げ

保険会社と政府は、病院などの医療機関や医療提供者に対して診療報酬を引き下げるよう交渉したり、単に診療報酬を指示したりすることがあります。米国では、メディケアとメディケイドによって各サービスに対する支払率(償還率)が定められています。これらの償還率が、ほかのプランで用いられる率に影響を及ぼす傾向があります。その結果、医療提供者のサービスに対する支払いが少なくなり、それまでよりも請求額が少なくなります。

プライマリケア利用の増加

プライマリケアは通常、専門医療よりコストがかかりません。

プライマリケアの利用を増やす方法の1つは、プライマリケア医の数を増やすことです。それには、以下のようないくつかの方法が提言されています。

  • 保険会社がプライマリケアに対する償還率を上げて、医学生がプライマリケア医を志望するよう促す。

  • 政府がプライマリケアのトレーニングを行うための資金提供を増やす(それとともに専門医プログラムの資金を減らす)。

  • ほかの方法で医学生にプライマリケアをより魅力的に感じさせることもできるが、その方法をどのように取り入れるかは不明。

また、患者中心のメディカルホームという提案もなされています。このモデルでは、プライマリケア医があらゆる状況(自宅、病院、長期療養施設など)で専門医療や学際的ケアを含むすべての医療を連携させ統合します。このモデルにより、不必要な専門医療、重複するケア、患者の健康上の目標に適していない治療を減らすことができます。例えば、患者が症状の緩和を望んでいる場合は、積極的な延命治療を行いません。

包括支払い方式

この方式では、医療提供者は提供する医療の量にかかわらず、一定額の支払いを受けます。この額が決定される方法は様々です。医療提供者への支払い額は患者の診断に基づいて決まることがあります。一部の方式では、ある人がサービスを利用してもしなくても、その個人に医療を提供するための年間固定額が医療提供者に支払われます(人頭割払い方式)。

多くのサービスを提供する医療提供者に報酬を支払う診療毎の個別支払い(フィー・フォー・サービス)方式に比べると、包括支払い方式はより安価な医療を補償対象とし、通常は少数のサービスに適用されます。しかし、包括支払い方式では、複数の病気を抱える人や重篤な状態の患者といった複雑な健康問題のある人に医療を提供するにあたって、医療提供者に経済的なメリットがありません。そのため、理論上は必要な医療が提供されない可能性があります。また、医療の質が低下する可能性もあります。医療の質を維持するために、品質管理システムが導入されること(提供される医療を定期的にレビューする組織の利用など)もよくあります。

責任医療組織

責任医療組織(Accountable Care Organization:ACO)とは、割り当てられたメディケア患者に対して、質の高い協調的な医療を提供することに合意した、医療提供者の団体です。ACOへの払い戻しは、提供したサービスの量ではなく、医療の質と医療費の削減に基づいています。ACOが質の高い医療を提供すると同時にコスト削減に成功した場合、この節約額の一部はメディケアからACOに分配されます。

請求の拒否

米国では、ほとんどの先進国とは異なり、日常的に保険会社(メディケアを含む)が人々の受けた医療サービスに対する多数の請求を拒否しています。拒否率は平均で5~10%です。そうした請求のいくつかは、不服申し立てを経て支払いが行われることもありますが、その手続きには関係者全員が非常に多くの時間と労力を割く必要があります。

競争

患者をめぐる医療提供者間の競争や顧客をめぐる保険会社間の競争は、料金の低下を促進すると考えられます。例えば、医療提供者は顧客へのアピールとして、競争相手よりも安く同種のサービスを提供することがあります。しかし、患者が医療提供者の料金を前もって知っていることは通常なく、知っていたとしても、加入している保険プランで利用できる医療提供者が決まっていたり医療の質を判断するのが難しかったりするなどの理由で、なかなか料金の知識を活かすことができません。さらに、ほとんどの人の医療費は(雇用主負担の医療保険や税金の控除などを通じて)何らかの補助を受けているため、ほかの多くの買い物に比べて、料金を調べる意欲がわきにくいという面もあります。そのため、企業や政府との契約を獲得するために保険会社が競争したり、保険会社との契約を得るために病院が競争したりするといった大規模な組織間の競争が、コストの削減と品質の維持に最も効果的です。

しかし、競争は医療費に負担をかけます(主に管理運営費)。保険請求や評価、さらにはほかの多くのサービス(紹介やコーディングなど)に関して、様々な保険会社が多種多様な規則を要求することで、医療提供者や事務職員がその対応にとられる時間が増加します。

薬剤費の低減

ジェネリック医薬品、また適切な場合はより費用対効果の高い先発医薬品を使用すると、薬剤費の低減に役立ちます。薬剤費を減らす方法には、次のものがあります。

  • 医療提供者に対し、費用対効果の高い薬の使用法を指導する。

  • 患者や医療提供者に対する薬の宣伝や売り込みを制限する。

  • 病院やその他の施設向けに薬の使用ルールを確立する(それにより高価な薬の不必要な使用を制限する)。

  • 政府の保険が適用される人を対象とした薬の価格の引き下げを、政府が交渉できるようにする。

  • ほかの国から米国に薬を輸入して購入できるようにする。

医学研究への悪影響

医療費を削減する取り組みは、医学研究に悪影響を及ぼす可能性があります。医師や施設が医学研究に参加する資金として、開業で得られた利益が使用されています。同様に、医薬品販売による収入の一部が、製薬会社の新薬開発に費やされています。こうした収入が少なくなれば、医学研究の行われる数が減る可能性があります。

間接費の削減

間接費とは、事業運営に継続的にかかる支出のことです。医療においては、医療システムに支払われる費用のうち、医療そのものの対価ではない費用です。具体的には、管理運営費、医療過誤保険料、営利目的の病院や保険会社の利益などが該当します。

保険会社(と政府)の間接費の削減

先進国(米国を含む)の政府による医療プランと米国外の民間医療プランの場合、一般に間接費は総コストの3~5%に相当します。つまり、総医療費の95%以上は医療に使用されています。

しかし、米国では、医療費負担適正化法(Affordable Care Act)で保険料の少なくとも80%を医療に充てるよう義務づけることにより民間保険会社が管理運営費に充てられる金額を制限するまでは、民間保険会社の間接費は総コストの20~30%以上でした。管理運営費のほとんどはマーケティングや審査など、医療の改善に関係しない手続きから生じます。さらに、同じ地域に多数の民間保険プランがあると、手続き(例えば、保険請求やコーディングなど)が複雑で時間のかかるものになり、医療提供者の費用が増大します。

医療費負担適正化法(Affordable Care Act)による間接費の削減に加えて、以下のことも間接費を抑えるのに役立ちます。

  • 医療提供者が標準化された電子医療記録を使用する。

  • 営利目的のプランよりも間接費が少ない、政府のプランやなるべく非営利のプランを通じて保険を利用する。

保険会社間の競争は管理運営上の効率を高める効果があると考えられますが、請求を拒否し、適用範囲を狭くすることで支払いを抑えようとする動きにもつながります(これには多数の管理運営スタッフが必要になります)。

医療提供者の間接費の削減

医療提供者の場合は、運営や管理に関わるスタッフを減らすことができれば、間接費の削減につながります。多くの保険会社に対応するには、様々な保険料払込みや請求の規則に従わなければならないため、多数の管理運営スタッフが必要です。そのため、次の対策が医療提供者の間接費を削減する役に立ちます。

  • すべての保険会社に対し、同一の支払金額と規則を適用する

  • 医療提供者の請求に対し、保険会社が全額を支払うことを義務づける

  • 国内で同じサービスの費用を同一料金に揃える

これらの対策は一部の医療システム(ドイツや日本など)で用いられています。

医療過誤コストは医療費全体のごく一部に過ぎませんが、特定の医師にとっては、医療過誤コストに年間収入のかなりの部分が費やされる場合があります。訴訟と支払いの数を減らす改革を行えば、やがては保険料が下がり、この種のコストを抱える医師に利益があります。さらに、そのような改革は不必要な防衛医療の利用を減らす可能性もあります。

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