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コメンタリー:コーヒーと頻拍性不整脈

コラム
21年8月26日 L. Brent Mitchell, MD, Libin Cardiovascular Institute of Alberta, University of Calgary;

 

Kimらは最近,英国のBiobankデータベースに登録された患者386,253人を標本として,ベースライン時点の自己報告に基づくコーヒー摂取量と新規の頻拍性不整脈との関連について検討した前向きコホート研究の結果を公表した1。従来の医学知識に基づく予想に反して,コーヒーを摂取した患者では摂取しなかった患者と比べて,頻拍性不整脈が用量依存的に少なかったと報告された。他の19の潜在的交絡因子について調整した多変量解析では,4.5~3.1年間の追跡期間で,コーヒー摂取量に1日1杯あたり3%の頻拍性不整脈の減少との関連が認められた(HR = 0.97;95%CI,0.96-0.98)。統計学的に有意な関連が認められた頻拍性不整脈の種類は,心房細動および/または心房粗動と上室頻拍であった。もちろん,多くの理由から,たとえ多変量解析を行ったとしても,コーヒー摂取が頻拍性不整脈に対して予防的に働く可能性を観察研究で決定的に証明することはできない。本研究におけるその理由としては,自己報告バイアス,コーヒー消費量の経時的変化,残存する交絡因子や測定されていない交絡因子,逆因果関係などがある。一方で,コーヒーの習慣的摂取を評価するランダム化臨床試験が実施される可能性は低い。そのため,我々が患者への推奨の指針とするべき情報としては,この種のデータが最善のものとなる。

Hillは,観察研究において環境因子とその後の疾患との間に観察された関連を因果関係とみなす基準となる9つの特徴を提唱した(それらはときに「Bradford Hill Criteria」と呼ばれる)2。Kimらの研究に当てはめると,本研究における因果関係の存在は予防効果に換言されるが,Hillらが示した特徴のうち最も適用可能なものは,生物学的妥当性(biological plausibility),一貫性(consistency),および生物学的勾配(biological gradient)(すなわち用量反応関係)であろう。生物学的妥当性に関しては,コーヒーの(唯一ではないが)主要な薬理活性成分はメチルキサンチンカフェインであるが,不整脈の発生に対するカフェインの直接的影響は複雑であり,潜在的な催不整脈作用(交感神経活性化など)と潜在的な抗不整脈作用(アデノシン受容体遮断作用や抗酸化作用など)の両方が想定される。カフェインの間接的影響やコーヒーに含まれる他の活性成分が影響を及ぼす可能性も考慮すれば,習慣的なコーヒー摂取が頻拍性不整脈の傾向に及ぼす影響を予測することは(一般集団であれ,特定の個人であれ)不可能であると容易に理解できる。したがって,コーヒー摂取量と頻拍性不整脈との間に関連がみられるとすれば,それは生物学的に妥当である。結果の一貫性に関しては,これまでに他の観察研究で報告されているコーヒー摂取量と頻拍性不整脈の発生率との関連は,正の関連,負の関連,関連なしと一貫していない。それでも,2014年以前に発表された計228,465人の被験者を対象とした6つの前向き研究のメタアナリシス3では,習慣的なカフェイン曝露に心房細動発生率の低下傾向が認められたものの(RR = 0.90;95%CI 0.81-1.01;p = 0.07),統計学的に有意な結果にはわずかに至らなかったと結論された。その信頼区間は,Kimらの研究で認められたコーヒー摂取量と心房細動および/または心房粗動のリスクとの関連の点推定値 (HR = 0.97;95%CI 0.96-0.98;p < 0.001)を含んでいる。実際,仮にKimらの結果が正式なメタアナリシスに含められれば,心房細動の発生率低下との関連は統計学的に有意となる可能性が高い。したがって,Kimらの研究結果は過去の研究と一貫している。真の因果関係がある環境因子への曝露に関連する転帰の程度は(少なくともある程度は)曝露の程度に合わせて増大するため,生物学的勾配(すなわち用量反応性)の存在は,観察研究における因果関係の推測に強い根拠を与える。上述のように,Kimらは,コーヒーの習慣的摂取と頻拍性不整脈の新規発生との間に認められた逆向きの関連から,コーヒー摂取量1日1杯につき頻拍性不整脈の発生率が3%減少するという用量反応関係が示されたと報告している(HR = 0.97;95%CI 0.96-0.98)。この結果は過去のメタアナリシスの結果3とも一貫しており,そのメタアナリシスでは,習慣的なカフェイン摂取1日300mg(コーヒー約2~3杯に相当)につき,心房細動の発生率が6%低下していたことが示された(RR = 0.94;95%CI 0.90-0.99)。

Kimらの研究は,この種の(すなわちメンデルランダム化解析を用いた)先行研究に新たな一歩を追加するものとなった。この種の解析は,習慣的なコーヒー摂取へのランダム化が不可能であるならば,コーヒー摂取量を規定している別のランダムプロセスや,カフェイン代謝の変動に起因するカフェイン曝露を規定している別のランダムプロセスを利用するのが次善の策になるという考えに基づいている。ゲノムワイド関連研究により,コーヒー摂取量およびカフェイン代謝と関連のある一塩基多型(SNP)が複数同定されている。遺伝的素因によりコーヒー摂取量が多くなりやすい個人やカフェイン代謝が遅い個人では,カフェインの血中濃度が高くなると予想される。上記のSNPはランダムに遺伝することを考慮すると(メンデルの分離の法則),それらのSNPが他の交絡因子と関連していなければ,カフェイン曝露のランダム化試験と同等の評価が可能となり,仮にカフェイン曝露高値の予測因子であるSNPの存在に頻拍性不整脈の予防との関連が認められれば,因果関係の証拠が得られたことになる。  この仮説については,残念ながら,Kimらが報告したメンデルランダム化解析では因果関係の証拠は示されなかった。Hillが示した一貫性の特徴に関しては,別の被験者集団におけるコーヒー摂取量と心房細動リスクとの関連を解析したメンデルランダム化解析の過去の報告4でも,因果関係を裏付けるエビデンスは示されなかったという点に注目すべきである。

Kimらの患者集団には,ベースライン時点で頻拍性不整脈が判明していた患者が1346人(標本全体の0.3%)が含まれていた。この患者群での解析結果は対象集団全体での解析結果と同様となり,コーヒー摂取量に1日1杯あたり7%の頻拍性不整脈の減少との関連が認められた(HR = 0.93;95%CI 0.90-0.96)。

では,これらの結果を実際の診療にどのように組み込むことができるであろうか? Kimらが報告したデータを既存の文献と併せて検討しても,習慣的なコーヒー摂取と頻拍性不整脈の発生率低下との間に因果関係があるという推測を説得力をもって裏付けることはできない。したがって,患者がこの目的のためだけにコーヒーを摂取するのは望ましくない。一方で,習慣的なコーヒー摂取と集団全体における頻拍性不整脈の発生率上昇との間に因果関係が存在する確率は低い。したがって,この懸念のために患者にコーヒー摂取を控えさせる必要はないと考えられる。これらの結論は,あまり確実ではないものの,頻脈性不整脈の存在が判明している患者にも適用可能なようである。頻拍性不整脈が判明している患者については,すべての患者に対してコーヒーおよびカフェインの摂取を控えることを推奨している現在の慣行から脱却して,摂取と頻拍性不整脈の再発との関連を認識している患者だけにこの推奨を適用するのが適切であろう。

 

 

参考文献

  1. Kim EJ, Hoffman TJ, Nah G, Vittinghoff E, Delling F, Marcus GM. Coffee consumption and incident tachyarrhythmias: reported behavior, Mendelian randomization, and their interactions. July 19, 2021. JAMA Intern Med doi:10.1001/jamainternmed.2021.3616
  2. Hill AB. The environment and disease: association or causation. Proc R Soc Med 58:295–300, 1965.
  3. Cheng M, Hu Z, Lu X, Huang J, Gu D. Caffeine intake and atrial fibrillation incidence: dose response meta-analysis of prospective studies. Can J Cardiol 30:448–454, 2014.
  4. Yuan S, Larsson SC. No association between coffee consumption and risk of atrial fibrillation: a Mendelian randomization study. Nutr Metab Cardiovasc Dis 29:1185–1188, 2019.