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コメンタリー:乳児期の牛乳曝露と反復性喘鳴

コラム
2020/12/14 James Jeffrey Malatack, MD, Professor of Pediatrics, Thomas Jefferson University’s Sidney Kimmel College of Medicine

ヒトの牛乳アレルギーは,何十年も前から医療従事者の関心を集めてきた。牛乳は乳児期と小児期に最も多く摂取され,牛乳への感作は乳児期に起こる可能性が高いことから,小児科医たちは,その機序とヒトアレルギー疾患の原因の一つとしての牛乳タンパク質の影響を解明することに特に注力してきた。

Hiroshi Tachimotoらは,最近の論文においてこの議論を詳細に検討した(1)。過去の研究では,牛乳がヒトのアレルギー疾患や喘鳴の原因であることを示唆した結果と,そうした因果関係を否定した結果が混在していたことから,これは賞賛に値する試みである。本研究は東京にある単一の病院にて,ランダム化非盲検(被験者は乳児であったが,親は盲検化されなかった)試験として実施された。対象とされた新生児は,アレルギーのリスクが平均以上であった家系から選択され,生後最初の3日間にわたり,アミノ酸乳での補充を可とする母乳栄養を行う群と,牛乳を補助的に与えながら母乳栄養を行う群の2群にランダムに割り付けられた。その後,研究デザインについて盲検化された医師が,喘鳴を含むアレルギー疾患の有無を生後5カ月時点と2歳時に評価した。2歳時の臨床評価または臨床検査でアレルギー疾患の所見が認められた被験者は,6歳まで追跡された。被験者の約半数が長期追跡の基準を満たした。

最終的に各151例で構成される2群間で比較が行われ,評価項目に有意差が認められた。生後最初の3日間に母乳とともに牛乳を与えられた乳児では,追跡調査で17.9%(27例)に反復性喘鳴/喘息が認められたが,生後最初の3日間に牛乳を与えられなかった(アミノ酸乳での補充を可とする母乳栄養を受けた)乳児では,追跡調査で9.9%(15例)に反復性喘鳴/喘息が認められた。牛乳での補充を受けた新生児は,生後5カ月時点までこの授乳継続を継続するものとされた一方,アミノ酸乳での補充のみ可とされた群では一部で授乳計画が途中で変更された。後者の群では,速やかに(14日目より前に)牛乳を追加するか,14日目以降に牛乳を追加するか,アミノ酸乳での補助を可とする母乳栄養を5カ月間継続する(牛乳は与えない)という3つの方針のいずれかを,被験者の親が自ら選択(self-randomized)したとみられる。

著者らは,研究結果に影響を及ぼしうるすべての変数を統制したと考えており,ランダム化された変数は生後数日間の牛乳への曝露のみであった。このように変数統制を前提としていることから,詳細な検証が必要である。変数統制がいくつかの潜在的な交絡因子と相まって,研究結果やその解釈に影響を及ぼした可能性がある:

1. 被験者(実際には被験者の親)を盲検化しなかったことが,ランダム化におけるエラーにつながった可能性がある。ただし,本研究の性質を考えると,親を盲検化することは不可能であったことに留意すべきである。アミノ酸乳は外観と臭いが牛乳とは異なるため,容易にそれと分かることから,たとえ最初に親を盲検化したとしても,親は自分の子がどの群に割り付けられたかをすぐに識別できたと考えられる。アレルギーが判明している家族が対象とされた本研究において,自分の子が牛乳を摂取しなかったことを認識している親は将来牛乳を与えることを避ける可能性が高くなるのではないかという点を検討する必要がある。親が14日目より前または14日目以降に牛乳を追加するか,5カ月時点まで牛乳を含まない授乳計画を維持したとき,この知識は5カ月以降の親の行動にどのような影響を与えたであろうか。また,この情報は母親自身の食事にどのような影響を及ぼすであろうか。逆に,牛乳を5カ月間与え続ける群の親がすでに乳児が牛乳に感作されていることに気づいた場合,母親はその後も牛乳を継続する可能性が高くなるであろうか,また,その事実は母親自身の食事にどのような影響を及ぼすであろうか。子が他の潜在的な食物アレルゲンを摂取することを母親が許容する可能性はどれくらいであろうか。

2. 牛乳の量について考察がないが,量が重要である可能性がある。親が生後14日時点でアミノ酸乳の使用を中止して牛乳での補充を選択したとしても,母乳量が十分にあって補充を必要としない場合には,果たして補充をするであろうか。するとしても,どれだけの量を与えようとするであろうか。満腹になった乳児に与えようとしたとき,どれくらい摂取するであろうか。こうした量の情報が非常に重要である可能性がある。

3. 対象集団はアトピーのリスクを示唆する背景情報がある患者から選択された。著者は,対象者が民族的均質性の高い東京の裕福な地域から選択されたことから,清潔仮説(cleanliness hypothesis)により,アレルゲンに感作される可能性が比較的高かった可能性があると説明している。本研究の結果は一般集団には全く適用できない可能性がある。

4. 著者らは,2歳時点でアトピーの研究基準を満たした患者についてのみ,それ以降6歳までの追跡を許可した。2年時点でアトピーの基準を満たさなかった患者はその後の検討から除外されたが,その集団に今回の結論を否定しうる「late wheezer」が何例含まれていたのかが気にかかるところである。喘鳴出現までの平均期間が2年を超えていたため,これは非常に重要なポイントである。

5. 盲検化をしなかったことが,他の潜在的な感作物質に関する親の行動を変えるように影響を及ぼした可能性はないであろうか。

本研究では,最初の3日間にわたる牛乳による介入や牛乳を含まない補充の有効性が,血中25(OH)D濃度の影響を加味する形でも評価された。25(OH)D値は生後5カ月時点と2歳時に評価された。5カ月時点でビタミンD値が高かった(> 29ng/mL)乳児では,25(OH)D値が低かった(< 29ng/mL)乳児と比べて,牛乳非摂取群での喘鳴/喘息再発リスクの低下がより劇的であったが,後者の集団では曝露がないことによる有益な効果は認められなかった。2歳時にはビタミンDの効果はみられなかった。

IgE値も生後5カ月時点と2歳時に評価され,5カ月時点ではIgE値による影響は観察されなかったものの,2歳時には,IgE値が最も高いカテゴリーの乳児において,生後最初の3日間に牛乳の補充を受けなかった場合の方が喘鳴の頻度が低かった。上記の懸念のため,生後最初の3日間のランダム化との関連でのビタミンD値またはIgE値の影響は不明である。

本研究が複雑であることに加えて,論文内にみられる矛盾により,読解の難しさが増している。例えば,試験デザイン(Trial Design)の第2文では,2つの試験群は生後5カ月時点まで授乳計画を遵守したと書かれているが,後ろにある結果の項では,アミノ酸乳の使用を可とする母乳栄養を受けた乳児を生後5カ月以内にさらに3群に分けており,そのうち2群では生後5カ月より前に授乳計画が変更されたと読める記載になっている。

この複雑な研究を興味深くしているものは何であろうか。データが説得力をもち,上記の懸念を解消するものであるとすれば,生後最初の3日間が非常に重要であるのはなぜかという疑問が生じる。おそらくは,新生児で頻回にみられる正常な消化管逆流が微量誤嚥(microaspiration)やアレルゲンへの肺の直接感作と関連していて,それが反復性喘鳴のプロセスを惹起している可能性がある。最終的な私見としては,本研究の結果を現在の診療方針に反映させるにはあまりに多くの懸念があると考える。しかし,Tachimotoらが提起している,生後3日間と牛乳,さらに言えば他の食物アレルゲンへの感作には何か特別な事情があるのかという疑問は興味深いものであり,さらなる研究に値する。

参考文献

Tachimoto H, Imanari E, Mezawa M, et al: effect of avoiding cow's milk formula at birth on prevention of asthma or recurrent wheeze among young children: Extended follow-upfrom the ABC randomized clinical trial. JAMA Netw Open Oct 1; 3(10):e2018534, 2020. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2020.18534