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コメンタリー ― 布マスクの着用に関する新たな推奨

コラム
2020/04/22 Matthew E Levison, MD, Adjunct Professor of Medicine, Drexel University College of Medicine

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米国疾病予防管理センター(Centers for Disease control and preventionCDC)は最近まで,一般人は公共の場でマスクを着用する必要はないと勧告していた(1, 2)。他者との間に約2mの適切な距離を確保していれば,それで十分とされていたのである。

しかしながら,SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の場合,無症状の感染者や未発症の感染者も感染を拡大させる可能性があることや,呼吸器からの飛散物は最大で78m移動する可能性があり,12mの距離を空けるという推奨は実際にみられる飛散の距離や時間を過小評価している可能性があること(3)が示唆されており,こうしたエビデンスの蓄積を受けてCDCは,サージカルマスクやN95マスクの供給不足を理由として,安全な距離を確保できない場合には(特に市中感染が著明な地域では),一般人は手作りの布マスクを着用するよう推奨している(4)。呼吸器からの飛散物が感染拡大に果たす役割はまだ明確にわかっていないが,米国での初期の流行事例から,SARS-CoV-2の感染伝播においては,症状のない感染者の存在や,会話,呼吸,歌唱など呼吸を伴う日常的な行為により発生する粒子が大きな役割を果たしていることが示されている。

2020310日,ワシントン州スカジット郡の教会で60名の聖歌隊が2時間半にわたるリハーサルを行った。その時点ですでに,そこから車で1時間ほど離れたシアトルでCOVID-19の発生が確認されていたが,当時はまだ大規模集会の禁止令が発令される前で,スカジット郡での感染例の報告はなかった(5)。参加者に咳やくしゃみをしている者や具合の悪そうな者はなく,全員が自分の楽譜を持参しており,直接の身体的接触を避けるよう対策を講じていたが,その後の3週間で,この聖歌隊に所属する28名がCOVID-19と診断された。そのほかにも17名が特徴的な症状で体調を崩したが,検査を受けなかった。その後3名が入院し,2名が死亡した。

この事例は過去に何度か発生した結核のアウトブレイクに類似しており,それらの事例では,1名の感染者が歌唱したことが他の多くの合唱団員の感染につながったのが明らかであった。例えば,ある寄宿学校で起きた結核のアウトブレイクでは,発端となった患者は合唱団に所属していたが,合唱団に所属していなかったものの寄宿舎でその患者と部屋や食事を共にしていた生徒らよりも,合唱団に所属していた生徒らの方が,結核の発生率が高かった(6)。結核は空気感染を起こす感染症の典型例で,肺結核や喉頭結核の患者が咳をしたり,叫んだり,歌ったりすることで発生する空気中に浮遊する直径5μm以下の微細な感染性粒子(エアロゾルと呼ばれる)によって感染が伝播する(7)。

エアロゾルとは?

エアロゾルは,呼吸器から排出される直径1μm未満から20μmまでの多数の粒子の集まりで,その中に感染性微生物を含んでいることがある。それらの粒子は,人が話したり,歌ったり,咳やくしゃみをしたりすると,空気中に飛散する。歌唱は咳と同量のエアロゾル大粒子の発生につながることが示されている(8)。比較的大きな粒子は重力により周囲数メートル以内の環境表面に速やかに落下し,Wellsの研究によれば,そこで蒸発により水分が失われる(9)。比較的大きな粒子は,周囲にいる人の眼や口腔,鼻腔の粘膜面に付着する可能性もある。一方,比較的小さな粒子はゆっくりと沈降していき,蒸発して「飛沫核」となるが,飛沫核は非常に小さく(5μm以下)軽いため,空気中に何時間も漂い続ける。気流がない状況では,飛沫核はゆっくりと消散していく。粒子が気流に乗って漂うと,CDCが安全な距離として現在推奨している約2mの範囲外まで飛散する可能性がある。吸引されれば,飛沫核サイズの粒子が下気道に付着する(10)。

SARS-CoV-2による環境汚染は,かなりのものになる可能性がある。COVID-19感染者のベッドサイドやトイレの周辺でウイルスRNAが検出されており,大きな呼吸器飛沫や便として排出されたものが付着したと推察される(11)。患者の病室に設置された換気装置の排気口でもSARS-CoV-2RNAが検出されたが,これは飛沫核が患者のベッドサイドから気流に乗って離れた場所まで移動したものと考えられている(11)。ただし,ウイルスがこれらの場所でも生存しており,感染を引き起こす能力を維持していることを実証するのに必要はウイルス培養は行われなかった。

大小の飛沫中に含まれる微生物の感染力は,環境表面上やエアロゾル内での各病原体の生存特性と,それらの病原体に曝露する様々な組織の感受性(これには宿主細胞表面のレセプターが関係する)に依存する。最近の研究によると,SARS-CoV-2はダンボールの表面上では24時間,ステンレス鋼では48時間,プラスチックでは72時間,同研究での実験室条件下で生成されたエアロゾルとしては少なくとも3時間と,いずれも長時間にわたって生存する可能性がある(12)。

 

伝播

SARS-CoV-2は,その表面にあるスパイクタンパクを標的とする宿主細胞の表面に発現している特異的なレセプターに結合させることで宿主細胞への侵入を可能にしているが,そのレセプターはアンジオテンシン変換酵素2ACE2)である。このレセプターは,鼻腔上皮面,肺胞上皮細胞,小腸の腸上皮細胞に発現しているが(13, 14),この分布はSARS-CoV-2が咽頭検体より鼻腔検体でより多く検出されることと一致している(15)。

20022003年に25カ国余りで8,096名の感染が確認された世界的なエピデミックを引き起こしたヒトコロナウイルスであるSARS-CoVは,SARS-CoV-2とは遺伝学的に近縁であるものの,ウイルス学的動態は異なっている。SARS-CoVのウイルス価は,症状出現後に時間の経過に伴い増加していき,約10日後にピークに達するが,このことから,発症後から時間の経過に伴って感染力が高まっていくと示唆される(16)。対照的に,SARS-CoV-2のウイルス価は,発症後すぐに検出可能な水準まで増加する。患者によっては,発症前からSARS-CoV-2が検出可能になる場合もあり,そのような無症状患者のウイルス価は症状のある患者と同程度であることから,無症状の感染者や発症前の感染者がSARS-CoV-2を伝播させる可能性が示唆されている(17)。

こうしたウイルス学的知見は,無症状の感染者や発症前の感染者によるSARS-CoV-2の伝播や発症後早期からの伝播を報告した事例と一致している。中国の疫学研究では,無症候性キャリアからSARS-CoV-2が伝播した症例や,発症前の潜伏期間中に感染伝播が起きた症例が複数報告されている(18–23)。ドイツでは20201月下旬,自動車部品メーカーで16名のクラスターが発生したが,上海から来た1人の中国人女性従業員が発症前ないし軽症の段階で,明確な病識のないまま,ミュンヘン近郊でいくつかの打ち合わせに出席したことが発端であった(24)。この従業員は,普段経験しない胸痛と背部痛があり,滞在中は絶えず倦怠感を覚えていたが,時差ボケのせいと考えていた。この女性の両親は武漢在住者で,少し前に娘に会うために上海を訪れていたが,その後COVID-19の検査で陽性と判定された。女性が自身の病状に気づいたのは中国に帰国してからであった。

米国でも同様の事例が起きている。マサチューセッツ州にあるバイオテクノロジー企業の従業員3名がボストンで開催された会社の会議に参加したが,その時点ではまだ無症状で,その後のウイルス検査で陽性と判定された。その後,会議に出席していた15名の従業員がCOVID-19と診断され,そのうちの数名が自身が住んでいる州に感染を持ち帰ってしまった。マサチューセッツ州当局は,その時点でCOVID-19の感染が確認されていた179例の半数以上について,このバイオテクノロジー企業がボストンで開催した会議との関連が確認されたと公表している(25)。

発症前にウイルス伝播が起きた可能性が高いクラスターを調査したシンガポールの研究では,ウイルスへの曝露が起きた日を特定できた4つのクラスターにおいて,発症の13日前からウイルスへの曝露が起きていたことが明らかにされた(26)。同様に,シンガポールと中国の天津で発生したアウトブレイクの研究でも,平均で発症の2.552.89日前に発症前感染が起きていたことが判明した。この研究では,シンガポールと天津のいずれにおいても,推定された発症間隔(一連の伝播において連続する症例が確認された時点間の間隔)が潜伏期間よりも短く,このことは発症前感染が起きていたことを示唆している(27)。

無症状でSARS-CoV-2陽性と判定される例は比較的よくみられる。横浜で検疫対象となったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で起きたCOVID-19のアウトブレイクの発生中,乗客・乗員のうち計3,063名に対して検査が実施されたが,SARS-CoV-2陽性と判定された634名の18%が無症状であったと推定され,また,武漢から退避した日本人のうち,ウイルス検査で陽性判定を受けた人の33%が無症状であったと推定された(28)。中国国家衛生健康委員会は,最近確認された感染例885例中601例(68%)が無症状であったと報告している(29)。また,米国CDCの現在の報告では,SARS-CoV-2の感染者は25%もの高率で無症状に経過するとされている(30)。

 

要約

COVID-19は,濃厚接触下での呼吸器飛沫の飛散や,汚染された物体や表面への接触により,発症後早期から伝播する可能性がある。ときには,無症候性キャリアから伝播が起きたり,症状出現の数日前から伝播が起きたりすることもある。無症状の感染者がウイルスを伝播させる可能性があるため,体調に異変のある個人のみに外出自粛やマスクの着用を要請しても,不十分である可能性が高い。ウイルスに感染している自覚がない感染者を介した感染拡大を防ぐには,すべての人々を対象に外出の自粛と公共の場でのマスク着用を強く要請する必要がある。また,呼吸器から排出されたエアロゾルが移動する可能性のある距離(約78m)(3)を踏まえると,2mの距離を維持できない場合だけでなく,公共の場では常に,マスクを着用すべきである。医療従事者がCOVID-19患者に気管挿管などエアロゾルが発生する処置を行う際に起きるSARS-CoV-2のエアロゾル感染については,世界保健機関(WHO)やCDCが十分認識しているが,エアロゾル感染は他の状況でも起こる可能性が高く,ワシントン州スカジット郡で発生した聖歌隊のアウトブレイクで明らかになったように,特に多数の二次感染者が発生したアウトブレイクでよく認められる。SARS-CoV-2感染者が排出する大きな呼吸器飛沫による著しい環境汚染に対しては,環境および手指衛生の厳格な遵守が求められる。

 

参考文献

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