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COVID-19の感染者数は,中国本土で減少するにつれ,中国本土以外では増加している。3月13日現在,過去2週間で感染者数は13倍になり,感染発国の数は3倍に増加した。これまでに世界全体で143,000例以上の感染が確認されており,およそ8万1,000例が中国本土から,5万4,000例が中国本土以外の134ヵ国から報告されている。わずか4カ国(中国,韓国,イタリア,イラン)で全体の約82%を占めているが,中国と韓国では新たな感染者数が減少に転じている。一方,58カ国では感染者数が10名以下となっており,80カ国はいまだ感染者ゼロと報告されている。
現在,イタリアでは報告される感染者数が5日ごとに倍増している。イタリアの医療体制は世界有数とされていたが,この急速な感染拡大によって完全に崩壊している。イタリア国内や他のEU加盟国との国境を越える自由な往来がCOVID-19の感染拡大の制御を困難にしている。そこでイタリア政府は,2020年3月10日に全土のロックダウン(封鎖)に踏み切った。
米国では,感染者増加のペースがさらに速く,倍加時間は3日で,3月1日の76名から3月13日には約1,700名へと20倍以上に増加した。現在までに,47の州とコロンビア特別区で感染者が報告されている。シアトル地区とニューヨーク市北部の小規模周辺地区では,大規模なクラスター(感染者集団)が発生している。
米国では検査数の伸びが遅々としている。同国初の市中感染例が発生してから1週間以上経過した現在でも,検査を受けた人の数はわずか1,895人で,そのうちの約10%が陽性と判定された。一方,韓国では,最初の市中感染例が確認されてから1週間以内に6万6,650人以上が検査を受け,1日1万人の検査を実施できる体制が速やかに整備された。米国では依然として診断検査をすぐに受けることができず,検査対象者の範囲についても州や地域の保健当局によってかなりのばらつきがある。近い将来,SARS-CoV-2に対する検査体制が拡大されれば,より多くの感染例が明らかになるであろう。米国疾病予防管理センター(CDC)は現在,鼻咽頭スワブで採取した上気道検体で検査を行う方法を推奨している。口腔咽頭スワブによる検体採取法は,より優先度が低い方法とされている。喀痰は湿性咳嗽がみられる患者でのみ採取すべきである。
現在では感染を封じ込めて感染者数の増加を抑えるべく,各国でますます厳格な戦略が採用されるようになっている。シンガポール,香港,台湾では,早期の診断,感染確定者の隔離,広範囲にわたる接触者の追跡,接触者の隔離,ソーシャルディスタンシング(社会的距離の保持)によって,市中感染の進行を抑えることができている。韓国では感染の封じ込めと抑制に大々的に取り組んだことで,感染の拡大が鈍化しているが,イタリアとイランでは依然として,連日多くの感染が報告されている。イランとつながりのある感染者によって,イラク,アフガニスタン,バーレーン,クウェート,オマーン,レバノン,アラブ首長国連邦,カナダ,米国など,他の多くの国々で感染が拡大している。
米国では,各地の状況に応じて,州や地方自治体の間で大きなばらつきがある。一部の地域ではすべての学校と必要不可欠でない事業所(レストラン,バーなど)の閉鎖が勧告されているが,具体的な勧告の内容はさまざまである。
背景:疫学
2019年12月に中国中部の湖北省武漢で始まったCOVID-19(新型コロナウイルス[SARS-CoV-2]を原因とする疾患)のアウトブレイクを受けて,世界保健機関(WHO)は2020年3月11日,世界の多くの国々で複数の世代にわたる持続的なヒト-ヒト感染が認められたことを受けて,パンデミックを宣言した。2020年1月23日には,COVID-19の感染が拡大した湖北省諸地域への出入りを制限する措置を中国政府が講じたが,春節(中国の旧正月)が近づく中,この「防疫線」が敷かれる前に,すでに数百万の人々が家族や友人に会うべく移動していた。その後,中国本土の省で感染者が急増し,その後間もなく中国本土の外に波及した。
2020年2月の第2週までに,約4万5,000例が湖北省を中心する中国本土で報告されたが,報告される感染者数が約7万人に達してからは,中国本土の感染者数は横ばいになり始めた。ただし,検査キットの不足により最重症の入院患者しか報告対象とされなかった可能性が高く,中国の実際の感染者数はおそらく,これよりはるかに多かったはずである。症状の軽い市中感染者の大多数を診断せず隔離もしないままにしたことで,今回の感染拡大を抑える取組みの効果が制限された可能性がある。
パンデミックがどこまで拡大するか,感染者数やその割合,全体で何人が死亡するかは依然として不明である。人口の40%以上がSARS-COV-2に感染する可能性があると推定されている。このコロナウイルスに感染した人の大多数は重篤化しないが,米国の成人人口の大部分を占める1億500万人が,その年齢や基礎疾患を背景として,感染時の重篤化や死亡のリスクが高いとされている。Kaiser Family Foundationが報告した研究結果によると,この集団は60歳以上の高齢者約7,500万人と基礎疾患(心疾患,がん,慢性閉塞性肺疾患[COPD],糖尿病など)を抱える18~59歳の成人3,000万人で構成されている。
防疫線を敷いたことに加えて,「集団免疫」が中国におけるヒト-ヒト感染拡大の鈍化に寄与している可能性がある。SARS-COV-2への感染後に免疫を獲得した人々の割合が十分に多くなれば,集団免疫が形成され,感受性者を感染から保護するバリアのように機能する。感染力の強い疾患ほど,このバリアが形成されるのに必要な免疫獲得者の割合が高くなる。麻疹のように非常に伝染性の高い疾患では,集団免疫が形成されるのに人口の95%が免疫を獲得する必要がある。現時点では,COVID-19に必要な免疫獲得者の割合は不明である。集団免疫はワクチン接種によって獲得できるが,COVID-19に使用できるワクチンはまだない。
背景:臨床
COVID-19は重症化する可能性がある。武漢では,入院患者のうち5%が極めて重篤な状態に陥って集中治療室(ICU)治療が必要になり,2.3%で人工呼吸器が必要となった。シンガポールでは,11%でICU治療が必要になり,イタリアでは現在,入院患者の16%がICU治療を必要としている。COVID-19の致死率は,これまでのところ重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)よりも低いとみられているが,流行性インフルエンザと比べるとはるかに高いとみられている。インフルエンザの致死率は全体では0.1%未満であるが,高齢者での致死率ははるかに高くなる。同様に,湖北省では症状がみられたCOVID-19患者全体の約3%が死亡したが,80歳以上では30%以上が死亡した。
検査
コロナウイルスの検査は,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法に基づくもので,臨床検体(喀痰,鼻咽頭スワブ,口腔咽頭スワブ,便など)からウイルス固有の遺伝子マーカーを検出して増幅させる方法である。陽性判定は活動性の感染が起きていることを意味する。ただし,検体からウイルスの遺伝物質が検出されたとしても,その患者から他者に感染する可能性のある生きたウイルスが排出されていることを意味するわけではない。その判断には,生きたウイルスを培養する検査が必要になる。また,PCR検査で陰性と判定されても,感染の可能性が否定されるわけではなく,患者の病歴,臨床所見,疫学情報と合わせて診断する必要がある。現行の指針では,症状が消えてから,24時間以上の間隔を開けて採取した最低2回連続の呼吸器検体でPCR検査を行ってから患者の隔離を解除するよう推奨されている。
人々の体内にSARS-CoV-2の遺伝物質が存在するかどうかを検査で調べることは,ほかにも多くの理由から重要である。検査対象を拡大することで,軽症者が占める割合やこのウイルスのより正確な致死率を特定することもでき,症状がある場合とない場合での小児の感染率や,発症前にウイルスが拡散される頻度を明らかにすることも可能になる。
封じ込めと被害軽減
封じ込め(containment)は,アウトブレイクの発生直後に用いられる戦略で,感染拡大を防ぐために感染者と接触者を同定して隔離するものである。しかし,現在では市中感染が拡大しているため,いわゆる被害軽減(mitigation)と呼ばれる追加の戦略が必要とされている。
被害軽減の例としては以下のものが挙げられる:
目標は,ワクチンや治療薬が広く利用できるようになるまでの間,医療を必要とする感染者の数を減らすことにある。つまり,感染者数を指数関数的に増加させずに,感染者数の推移を示す流行曲線を平坦にすることである。最終的な感染者数が同じでも,その増加にかかる期間を引き延ばせれば,特に集中治療室のベッドや人工呼吸器といった医療資源が圧倒的に不足するという事態が発生する可能性は低くなる。