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コメンタリー ― COVID-19:ヒトコロナウイルス感染症についてわかっていること

コラム
2020/03/12 Matthew Levison, MD, Adjunct Professor of Medicine, Drexel University College of Medicine

コロナウイルスは,エンベロープを有するRNAウイルスで,電子顕微鏡下で太陽のコロナに似たスパイク状の表面タンパクが観察されることを特徴とする。コロナウイルスは1930年代に家禽で初めて発見され,多数のコロナウイルスが動物の呼吸器,消化管,肝臓,神経系に疾患を引き起こす。

ヒトコロナウイルス(HCoV)感染症

ヒトで疾患を引き起こすコロナウイルス(HCoV)は7種類に限られる。

7種類のHCoVのうち4種類(HCoV-NL63-229E-OC43-HKU1)は,感冒などの自然軽快する軽度の上気道感染症を引き起こすが,乳児,高齢者および易感染者では肺炎などの重度の下気道感染症を引き起こす可能性がある。これらのHCoV感染症には季節性のパターンがみられ,温帯地域ではほとんどの症例が冬季に発生している。

7種類のHCoVのうち3種類(SARS-CoVMERS-CoVSARS-CoV2)は,21世紀になってから致死的肺炎の大規模なアウトブレイクを引き起こしている。

SARS-CoV

そのうち最初にアウトブレイクが起きたのは重症急性呼吸器症候群(SARS)で,200211月に中国南部の広東省で最初に発生した後,数カ月のうちに6大陸の29カ国に広がるエピデミックを引き起こした。世界全体で8,000人以上が発症し,800人近くが死亡した。症例の大半は中国本土と香港で発生した。米国では,検査でSARSと確定診断された患者は8人にとどまり,8人全員にSARS-CoV流行地域への渡航歴がみられた。全体の致死率は10%であったが,年齢別でばらつきがあり,24歳以下では1%未満で,65歳以上では50%を超えていた。

SARSの発生源は,生きた動物を売買する広東省の市場で食材として売られていたパームシベット(ネコに似た哺乳類)であった。SARS-CoVは,ひとたびヒトに感染すると,大きな呼吸飛沫,エアロゾルおよび糞口経路(下痢はこの感染症の一般的な症状である)を介して容易にヒトからヒトに伝播する。

MERS-CoV

続いて致死的な感染症を引き起こしたHCoVは,20129月にアラビア半島で発見された中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)であった。MERS-CoVはアウトブレイクを何度か引き起こし,それにより2500人以上が発症し,致死率は約35%となった。感染者のほとんどがアラビア半島の居住者か,直近でアラビア半島への旅行歴がある者であった。全症例の85%がサウジアラビアで報告された。アラビア半島以外で起きた最大のMERSのアウトブレイクは,2015年に韓国で発生したもので,これにはアラビア半島から帰国した1人の旅行者が関係していた。

MERS-CoVは,SARS-CoVと同様,人獣共通感染症であり,ヒトコブラクダとの直接的または間接的な接触を介して伝播する。また,MERS-CoVは直接接触,媒介物および呼吸器飛沫を介してヒトからヒトに伝播する。20182019年に発生した全症例のうち42%に,家庭や医療施設におけるヒト-ヒト感染のクラスターとの関連が認められた。60%は感染源不明とされた。MERS-CoVは,気道分泌物,便,血清および尿から検出され,生存者では発症後1カ月以上にわたりウイルスが検出されている。

SARS-CoV2COVID-19

7番目に発見されたHcoVSARS-CoV2で,これはCOVID-19と命名された疾患の原因ウイルスであり,現在世界的に感染が拡大している。今回のアウトブレイクは中国中部の湖北省にある人口1100万人以上の都市である武漢で始まった。(武漢はコロナウイルスの代表的な研究機関であるWuhan Institute of Virologyの所在地であるが,その研究と現在のアウトブレイクに関連があるとは疑われていない。)この感染症はコウモリを起源とするとみられ,同市の海鮮卸売市場で珍味として販売されていた中間宿主(センザンコウ[体表を鱗で覆われ,アリを捕食する哺乳類]と考えられる)を介してヒトに感染したと考えられている。初期の症例の55%がこの市場に関連したもので,市場は202011日に閉鎖された。その後の症例は,他のヒト症例から感染した可能性が高い(1)。潜伏期間は症例の95%で14日以下と報告されており,これが隔離期間を14日間とする根拠となっている。

9週間にわたり感染拡大が続いた現在,湖北省の当局は64,084例の感染確定例と2,346例の死亡例を報告している。検査キットの不足により,最重症例しか報告されていない可能性が高く,実際の症例数はおそらく,これよりはるかに多いと考えられる。診断されていない軽症の感染例が多数存在することで,更なる感染拡大を抑制する取組みの成果が制限されていると考えられる。2003年のSARSのアウトブレイクと比較すると感染拡大のペースが速く,このことから,SARS-CoV2SARS-CoVより感染力がはるかに高いと示唆される。

中国当局は2020123日,湖北省において数百万の人々を隔離するという措置を講じた。この規制は,多くの人々が帰省する旧正月の前日に施行された。実際には,封鎖が開始される前に500万人が武漢を離れたと推計されており,それに呼応するように周辺の省で症例数が急増した。また,武漢への渡航歴のある症例が香港やシンガポールなど,中国以外の地域でもみられるようになった。

SARS-CoV2の伝播

SARS-CoV2は主に,以下の形式で伝播すると考えられている:

  • 感染者の咳またはくしゃみにより半径1メートル以内に飛散した生きたウイルスを含む大きな呼吸器飛沫を吸引する

     

    他の伝播形式として以下のものがある:

  • ウイルスで汚染された表面に触れた手で眼,鼻または口を触る
  • 呼吸器から空中に放出されたウイルスを含む分泌物を吸引する(未確認)
  • 糞口感染(未確認)

2003年のSARSのアウトブレイクではスーパースプレッダーが感染拡大に極めて大きな役割を果たしたが,現在のCOVID-19のアウトブレイクでもスーパースプレッダーが大きな役割を果たしている可能性が高い。スーパースプレッダーとは,平均的な感染者よりも著しく多くの人々に感染を広める個人のことである。スーパースプレッディング現象には複数の因子が寄与するが,具体的には,感受性の高い個人との接触の回数や時間を増やす宿主の行動,混雑,不十分な換気,不適切な隔離手順,伝播の可能性がある感染者の不必要な移動,誤診,ウイルスの毒性およびウイルス量,別の病原体との共感染などが挙げられる。

COVID-19のスーパースプレッダーとなった英国のビジネスマンは,2020120日から22日にかけてシンガポールで開催され,多数の国から109名(そのうち少なくとも1人は湖北省から参加)が出席した会議に出席し,SARS-CoV2に感染した。その後フランスに旅行し,フランス・アルプスにあるスキー場の山荘で11人の旅行者を感染させた。その後,スイス経由で英国に帰国し,SARS-CoV2の感染が確認された。 Grand Hyattでの会議に参加した他の6人(マレーシア人1人,韓国人2人,シンガポール人3人)もCOVID-19を発症した。

パンデミックの可能性は?

パンデミックとは,世界的規模の多くの国々において感染性病原体の伝播が複数の世代にわたって持続的に起こることである。これまでのところ,全症例の約98%が中国で発生している。中国以外で発生しているCOVID-19は,主に中国で感染した旅行者に関係したものである。中国以外でのSARS-CoV2の持続的な伝播は少数の国だけにとどまっているが,そのパターンは明らかに急速に変化している。221日から23日までの直近の48時間で,韓国から報告される症例数は204例から602例へと2倍以上になった。現在,韓国は中国に次いで2番目に症例数の多い国となっている。また,イランでは最近0例から43例へ,イタリアでは3例から132例へと,数日間で症例数が劇的に増加した。資源が不足していて本疾患の診断が行えない地域においては,COVID-19の感染状況を示すデータが存在しない。特に懸念されているのは,ここ数年で中国の存在感が高まっているアフリカ諸国である(2)

1週間前の時点では,米国でCOVID-19が流行が起きていることを示唆する証拠は少なかった。しかし,こうした状況も極めて急速に変化している。221日から23日までの48時間のうちに,米国におけるCOVID-19の症例数は15例から35例に増加した。その内訳は旅行関連の症例が13例,日本においてクルーズ船ダイアモンド・プリンセス号で検疫を受けた後に送還された米国人の症例が18例,武漢から避難して帰国した米国人の症例が3例である。2020226日水曜日のCenters for Disease Control and PreventionCDC:米国疾病予防管理センター)の発表によると,SARS-CoV2の流行国への旅行歴がなく,コロナウイルスへの感染が判明している個人との接触歴もないカリフォルニア州のある住民が,米国における最初の「市中感染」症例となった可能性がある。現在では,武漢から送還された3名,ダイヤモンド・プリンセス号から下船した42名,国内で感染が確認された15名を含めて,米国での症例数は60例に達している(3)

予防

SARS-CoV2のさらなる感染拡大を予防できるワクチンはまだなく,特異的な抗ウイルス薬もない。しかし,世界中の研究者が医薬品の試験を行うべく迅速に動いており,HIV/AIDSの治療に使用される2つのプロテアーゼ阻害薬であるロピナビルとリトナビルを配合したKaletra,抗マラリア薬のクロロキン,当初はエボラウイルス感染症に対して試験が行われていたヌクレオチドアナログのremdesivirなどが検討されている。 NIHChinese Center for Disease Control and PreventionUniversity of Hong KongUniversity of QueenslandUniversity of Saskatchewanのほか,複数の製薬企業をはじめとする数多くの組織が,公開されたゲノム情報を活用してSARS-CoV-2に対するワクチンの開発を進めている。 ワクチンと薬剤を迅速に開発することにより,COVID-19のパンデミックへの進展を抑えられる可能性が期待されている。

したがって,最も重要な予防策は以下の方法でSARS-CoV2への曝露を回避することである:

  • 呼吸器予防策と接触予防策
  • 隔離

 

呼吸器予防策(respiratory precautionsとしては,マスクを使用する。マスクにはサージカルマスクとN95マスクの2種類がある。患者はサージカルマスクを着用すべきであり,これは呼吸器分泌物の飛散を防ぎ,周囲の人の感染を防ぐのに役立つ。ただし,サージカルマスクは密着度が高くないため,未感染者が着用しても感染者の呼吸器分泌物の吸入を防ぐことはできない(ただし,手から鼻や口へのウイルスの移行は制限される可能性がある)。 したがって,感染者と接触がある人は,密着度の高いN95マスクを着用すべきであり,それにより空中にただよう呼吸器分泌物の吸引を防ぐことができる。大規模なアウトブレイクが起きればN95マスクやその他の防護具手袋,アイシールド,ガウンなど)の供給が枯渇する可能性があるため,感染者への曝露のリスクが最も高い人々(感染者のケアに当たる人など)が使用できるように優先順位を定めるべきである。

接触予防策としては以下のものがある:

  • COVID-19患者との濃厚接触を避ける
  • 手洗いをせずに眼,鼻,口に触れないようにする
  • 石鹸と水で20秒以上の手洗いを頻回に行うか,石鹸と水がない場合はアルコール含有率が60%以上の手指消毒液を使用する。

 

複数の人が頻繁に触れる環境表面(ドアノブ,トイレの備品,キーボード,エレベーターのボタンなど)は,使用する前に毎回使い捨てのワイプで清浄化すべきである。

隔離は極めて重要である。患者の場合,病院での隔離か自宅での隔離かを判断する上では,疾患としての重症度が参考になる。COVID-19に感染した患者と濃厚接触があった健常者については,潜伏期間(すなわち最後の曝露から14日間)の自宅隔離とする。

参考文献

1. Li Q, Guan X, Wu P, et al: Early transmission dynamics in Wuhan, China, of novel coronavirus-infected pneumonia. N Engl J Med 29 Jan. 2020. doi: 10.1056/NEJMoa2001316

2. Knowledge@Wharton: China's investment in Africa: What's the real story? Philadelphia, Wharton School, University of Pennsylvania 16 Jan. 2016.

3. Centers for Disease Control and Prevention: Coronavirus Disease 2019 (COVID-19): COVID-19 Situation Summary. Atlanta,GA, U.S. Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control and Prevention. Updated February 26, 2020. Accessed February 27, 2020.