アルコール使用障害とリハビリテーション

執筆者:Gerald F. O’Malley, DO, Grand Strand Regional Medical Center;
Rika O’Malley, MD, Grand Strand Medical Center
レビュー/改訂 2020年 5月
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アルコール使用障害では,飲酒のパターンが生じ,典型的には渇望と耐性(tolerance)の症状および/または心理社会的な悪影響のある離脱症状が伴う。アルコール依存症およびアルコール乱用は一般的であるが,あまり厳密に定義されていない用語であり,アルコール関連の問題を有する人に適用される。

アルコール使用障害は非常に一般的である。米国では,12カ月間で13.9%の成人にみられると推定される。有病率は若年成人で最も高く,加齢とともに減少する。18~29歳の集団では,アルコール使用障害の12カ月間の推定有病率は26.7%であり(1),重度のアルコール使用障害の場合は7.1%であるが,65歳以上の集団では,アルコール使用障害の12カ月間の推定有病率はわずか2.3%である。

リスクのある飲酒は,飲酒の量と頻度のみで規定される:

  • 男性では1週間に14単位または1回に4単位を超える場合【訳注:1単位はエタノール量14g】

  • 女性では1週間に7単位または1回に3単位を超える場合

より少ない量と比べて,これらの量は多様な身体的および心理社会的合併症と関連している。

アルコール中毒および離脱も参照のこと。)

総論の参考文献

  1. Grant BF, Goldstein RB, Saha T, et al: Epidemiology of DSM-5 alcohol use disorder results from the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions III.JAMA Psychiatry 72 (8):757–766, 2015.doi: 10.1001/jamapsychiatry.2015.0584.

病因

アルコール乱用を示す不適応的な飲酒パターンは,高揚感を味わいたいという欲求から始まると考えられる。その後,高揚感を報酬とみなす一部の飲酒者は,繰り返しその状態に達することを重視するようになる。慢性的なアルコール乱用者の多くには,ある種のパーソナリティ特性,すなわち孤立,孤独,内気,抑うつ,依存性,敵対的および自己破壊的衝動,性的未成熟の感情がみられる。

アルコール使用障害の患者は,家庭崩壊を経験した人や家族との関係に問題を抱える人がいると考えられる。社会的因子―文化または子供の養育を通して伝えられる考え方―は,飲酒とその結果の行動のパターンに影響を及ぼす。米国では,アルコール使用障害は男性,白人,未婚,および特定の非白人の民族(例,アメリカ先住民)により多くみられる。しかしながら,このような一般化により,年齢,性別,背景,民族,または社会的状況に関係なく,誰にでもアルコール使用障害が起こりうるとの事実を曖昧にしてはならない。したがって,医師はアルコールに関する問題を全ての患者でスクリーニングすべきである。

遺伝因子

リスクのばらつきのうち,40~60%もの割合が遺伝因子によるものだと考えられている。アルコール乱用および依存の発生率は,一定の家族において,アルコールに関する問題を有する人の実子の方が養子より高い(また,一般集団より高い)。遺伝的または生化学的素因を示すエビデンスも得られており,その中には,アルコール使用障害を発症する一部の人は中毒を起こしにくい,つまり中枢神経系に作用する閾値が高いことを示唆するデータもある。

症状と徴候

アルコール使用障害の患者では,一般に深刻な社会的転帰が起こる。頻繁な中毒症状が明白で,破壊的な影響をもたらし,それによって社交と仕事を行う能力が損なわれる。外傷もよくみられる。最終的に人間関係の失敗や,常習的欠勤による失業に至る可能性がある。

アルコールがらみの行動で逮捕されたり,酒酔い運転で逮捕されたりすることがあり,違反を繰り返して運転免許を喪失することも多い。米国の全ての州は,血中アルコール濃度(BAC)80mg/dL(0.08%,[17.4mmol/L])以上の状態で運転することを違法行為と定めているが,具体的な法律および罰則は州によって異なる。

診断

  • 臨床的評価

  • スクリーニング

Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)では,12カ月間に以下の2つ以上が患者にみられることで示されるような,臨床的に重大な障害または苦痛が患者にある場合に,アルコール使用障害が存在するとみなしている:

  • 意図していたよりも多量に,または長時間アルコールを使用する

  • アルコールの使用を減らそうと持続的に望むか,またはその試みに失敗する

  • アルコールの入手,使用,または酔いの回復に多大な時間を費やす

  • アルコールを渇望する

  • アルコールが原因で,仕事,家庭,または学校での義務を果たすことに繰り返し失敗する

  • アルコールが原因で社交上または人間関係の問題を繰り返しているにもかかわらず,アルコールの使用を続ける

  • アルコールが原因で,重要な社交上,仕事上,または娯楽上の活動を放棄する

  • 身体的に危険な状況でアルコールを使用する

  • アルコールによって生じるか悪化する身体疾患(例,肝疾患)または精神障害(例,うつ病)があるにもかかわらずアルコールの使用を続ける

  • アルコールに対する耐性(tolerance)がある

  • アルコール離脱症状があるか,または離脱が原因でアルコールを使用する

スクリーニング

一部のアルコール関連問題は,患者が飲酒に対するまたは明らかなアルコール関連疾患(例,振戦せん妄肝硬変)に対する医学的治療を求めた際に診断される。しかしながら,これらの患者の多くは長期にわたり認識されないままである。一般に,女性のアルコール使用障害患者は1人で飲酒することが多く,社会的徴候をいくらかでも示す可能性が低い。したがって,多くの政府機関や専門家団体は,定期健診時にアルコールスクリーニングを実施するよう推奨している。

尺度化アプローチ( table numonly アルコールに関する問題のスクリーニングレベル参照)は,より詳細な質問が必要な患者の同定に役立つと考えられる。AUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)およびCAGE質問票など,妥当性確認済みの詳細な質問票がいくつか利用可能である。

表&コラム
医学計算ツール(学習用)

治療

  • リハビリテーションプログラム

  • 外来カウンセリング

  • 自助グループ

  • 薬物療法の考慮(例,ナルトレキソン,ジスルフィラム,アカンプロサート)

全ての患者に対し,危険なレベル未満に飲酒量を減らすようカウンセリングすべきである。

患者がリスクのある飲酒者と同定された場合は,医学的および社会的転帰について簡単に話し合い,飲酒を減量または中止するよう助言し,患者のコンプライアンスについてフォローアップしながら,治療を開始してもよい(アルコールに関する問題に対する短期的介入の表を参照)。

表&コラム

患者がより深刻な問題を有する場合,特にあまり集中的でない処置が成功しなかった後では,リハビリテーションプログラムがしばしば最善のアプローチである。リハビリテーションプログラムは,精神療法(個人療法と集団療法を含む)と医学的監督を組み合わせたものである。ほとんどの患者が外来リハビリテーションで十分である;患者がプログラムへの参加を継続する期間は様々であり,数週から数カ月が多いが,必要に応じてさらに長くしてもよい。

入院リハビリテーションプログラムは,より重度のアルコール依存患者と,顕著な身体的問題,精神活性の問題,および物質乱用の問題が併存する患者のためのものとする。治療期間は一般に外来プログラムよりも短く(数日から数週間が多い),一部は患者が加入する保険によって指示される場合がある。

精神療法には,禁酒意欲を高め,飲酒に陥りやすい状況を避けるよう患者に教える方法がある。家族や友人の支援を含め,禁酒には社会的支援が重要である。

維持療法期

禁酒を続けることは困難である。2~3週間後,つまり最後の発作から回復した頃には,飲酒の言いわけを見つけようとしがちであるということを患者に警告しておく必要がある。また数日間,あるいはまれに数週間の節酒ならば可能であるが,最終的には抑制を失ってしまう可能性が非常に高いということも伝えておくべきである。

外来および入院アルコール治療プログラムで提供されるカウンセリングに加え,自助グループや特定の薬剤も一部の患者では再発防止に役立つ可能性がある。

最も一般的な自助グループがAlcoholics Anonymous(AA)である。患者は,自分にとって居心地のよいAAグループを見つける必要がある。AAは患者に,飲酒をしない,いつでも頼りになる友人と,飲酒をしない社交的な環境を提供する。また患者は,自分自身が飲酒のために使ったことのあるあらゆる言いわけを,他の人々が議論するのを聞くことになる。自分が他のアルコール使用障害患者を助けることで,以前はアルコールを飲んでいるときにしかもてなかった自尊心と自信をもつようになると考えられる。多くのアルコール使用障害患者はAAに行きたがろうとせず,個別カウンセリングまたは集団もしくは家族治療の方が受け入れやすい。別のアプローチを求める人々には,LifeRing Secular Recovery(禁酒のための非宗教組織)のような代替組織も存在する。

薬物療法は単独の治療としてではなく,カウンセリングと併用して行うべきである。National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism(NIAAA)は,アルコール依存症に対する内科的管理および薬物療法についての医師のための指針とともに,アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)と同様,医療従事者と患者の両方のために他のいくつかの発行物およびリソースを提供している。

アルコール依存の再発防止のために入手可能な最初の薬剤であるジスルフィラムは,アセトアルデヒド(アルコール酸化の中間生成物)の代謝を阻害するため,アセトアルデヒドが蓄積する。ジスルフィラム服用後12時間以内にアルコールを摂取すると,5~15分で顔面紅潮がみられ,次に結膜の充血を伴う顔面および頸部の激しい血管拡張,拍動性頭痛,頻脈,過呼吸および発汗を引き起こす。アルコール摂取量が多いと,30~60分で悪心および嘔吐が起こり,低血圧,めまい,ときには失神や卒倒に至る場合もある。その反応は最大3時間持続する。不快感が非常に強いため,ジスルフィラム服用中に飲酒するという危険を冒す患者はほとんどいない。アルコールを含有する薬剤も避ける必要がある(例,チンキ,エリキシル,アルコール含有率が約40%に及ぶ一部のOTC鎮咳・感冒薬の液剤)。

ジスルフィラムは妊婦および心代償不全患者では禁忌である。禁酒から4~5日後に外来治療で処方されることがある。初回用量は0.5g,経口,1日1回を1~3週間であり,その後は0.25g,1日1回の維持量を投与する。効果は,最後に投与してから3~7日間持続する。禁酒プログラムの一部としてジスルフィラムの継続を促すために,定期的な来院が必要である。

ジスルフィラムの一般的な有用性は確立されておらず,患者の多くは服薬指示を守らない。アドヒアランスには通常,飲酒の監視など十分な社会的支援が必要である。これらの理由があるため,ジスルフィラムの使用は今のところ限定的である。ジスルフィラムは,綿密な監視下で禁酒意欲の高い患者に投与すると最も効果的である。

オピオイド拮抗薬であるナルトレキソンは,確実に服薬しているほとんどの患者において再発率と飲酒日数を低減する。ナルトレキソン50mgの1日1回の経口投与が一般的に行われるが,より高用量(例,100mgの1日1回)が一部の患者でより効果的とのエビデンスがある。カウンセリングを併用しても,経口ナルトレキソンの服薬遵守率はさほど高くない。長時間作用型デポ剤(380mgを月1回筋肉内注射)も入手可能である。急性肝炎または肝不全患者,およびオピオイド依存が認められる患者には,ナルトレキソンは禁忌である。

最も古いα2作動薬であるクロニジンを経口または経皮的に投与すると,軽度から中等度の離脱症状を有する患者において,アルコール離脱症状(特に高血圧および頻脈)の軽減に成功することが証明されている。しかしながら,クロニジンはアルコール離脱痙攣発作またはアルコール離脱せん妄を予防する単剤療法として効果的であるというエビデンスがある。

アカンプロサートはGABAの合成アナログであり,2gを1日1回経口投与する。アカンプロサートは,再発患者の再発率と飲酒日数を低減する。

ナルメフェン(オピオイド拮抗薬)とトピラマートについては,アルコール渇望を低減する作用の研究が現在行われている。

より詳細な情報

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