肝損傷は鈍的または穿通性外傷から生じうる。患者は腹痛(ときに肩に放散する),および腹部圧痛を有する。診断はCTまたは超音波検査により行う。治療は経過観察により,ときに外科的修復を行う;まれに肝部分切除が必要である。
(腹部外傷の概要も参照のこと。)
病因
大きな衝撃(例,自動車事故)によって肝臓が損傷することがあり,また穿通性外傷(例,ナイフによる創傷,銃創)でも同様である。肝損傷は,被膜下血腫および小さな被膜の裂傷から深部の実質の裂傷,重大な挫滅,および血管剥離まで様々である。
分類
肝損傷は重症度に応じて6つのgradeに分類される(肝損傷のgradeの表を参照)。
病態生理
主な直ちにみられる結果は出血である。出血の量は,損傷の性質および程度に応じて少ないことも多いこともある。多くの小さな裂傷は,特に小児では,自然に止血する。より大きな損傷では大量に出血し,しばしば出血性ショックを引き起こす。高いgradeの肝損傷では死亡率が高い。
合併症
合併症の全体の発生率は7%未満であるが,高いgradeの損傷では15~20%という高率である。深部の実質の裂傷が胆道瘻または胆汁性嚢胞形成につながることがある。胆道瘻では,胆汁が腹腔または胸腔内に自由に漏出する。胆汁性嚢胞は,膿瘍と類似した,胆汁の隔絶された貯留である。胆汁性嚢胞は一般的には経皮的ドレナージによって治療する。胆道瘻に対しては,内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)による胆道減圧が著効する。
しばしば胆道内容物に曝露した壊死組織により,膿瘍が損傷の約3~5%に発生する。本症は受傷後数日で疼痛の増強,体温の上昇,および白血球数の増加がみられた患者で疑われ,確定診断はCTによる。膿瘍は通常は経皮的ドレナージで治療するが,経皮的な管理が奏効しない場合は開腹が必要になることがある。
症状と徴候
出血性ショック,腹痛,腹部圧痛,および腹部膨隆など,重症の腹部出血の臨床像は通常は臨床的に明白である。少量の出血または血腫では右上腹部の疼痛および圧痛が生じる。
診断
画像検査(CTまたは超音波検査)
診断は,状態が安定している患者ではCTで,不安定な患者ではベッドサイドの超音波検査または試験開腹で確定する。
治療
経過観察
ときに塞栓術または外科的修復
開腹手術の他の適応(例,中空臓器の穿孔)がなく血行動態が安定している患者は,バイタルサインおよび連続的なヘマトクリット(Hct)値のモニタリングによる経過観察が可能である。大量の進行中の出血がある患者(すなわち,低血圧およびショック,大量の継続輸血の必要性,またはヘマトクリット減少がある患者)では介入が必要となる。バイタルサインは安定しているが継続輸血が必要な患者は,出血している血管の選択的塞栓術を併用する血管造影の候補となることがある。状態の不安定な患者では開腹手術を行うべきである。
手術以外の管理の成功率は,grade 1および2の損傷で約92%,grade 3の損傷で80%,grade 4の損傷で72%,grade 5の損傷で62%である。手術以外の管理の後の集中治療室(ICU)滞在期間,食事の開始時期,床上安静の期間,または退院後の活動制限について,文献間でコンセンサスは得られていない(1)。
手術が行われた場合,小さな裂傷は一般的には縫合するか,または止血剤(例,酸化セルロース,フィブリン糊,トロンビンと粉末状ゼラチンの混合物)により治療する。より深い複雑な損傷の外科的管理は困難な場合がある。
治療に関する参考文献
Stassen NA, Bhullar I, Cheng JD: Nonoperative management of blunt hepatic injury: An Eastern Association for the Surgery of Trauma practice management guideline.J Trauma Acute Care Surg 73:S288-S293, 2012.
要点
主な直ちにみられる結果は出血であり,これはしばしば自然に止血する(特に損傷がgrade 1または2の場合)が,塞栓術または外科的修復が必要になることもある;高いgradeの損傷では死亡率および罹病率が重大なものとなることがある。
合併症には胆道瘻,胆汁性嚢胞,および膿瘍の形成がある。
状態が安定している患者ではCTにより診断を確定する。
開腹手術(状態が不安定な場合),経過観察(安定している場合),またはときに選択的血管造影による塞栓術(例,安定しているが継続輸血が必要な場合)を用いて治療する。