(胸部外傷の概要 胸部外傷の概要 米国において,外傷による死亡の約25%を胸部外傷が引き起こしている。多くの胸部損傷が,外傷後数分または数時間の間に死を引き起こす;高度な外科訓練を必要としない根治的処置または一時的な処置によりしばしばベッドサイドで治療できる。 胸部損傷は,鈍的外傷または穿通性外傷により起こることがある。最も重要な胸部損傷には以下のものがある:... さらに読む も参照のこと。)
一般的には,肋骨骨折は胸壁への鈍的損傷の結果生じ,通常は強い力(例,急激な減速,野球のバット,重大な転倒による)が関与するが,ときに高齢者の場合,軽度または中等度の力(例,軽い転倒)だけで骨折に至る。3本以上の隣接する肋骨が別々の2カ所で骨折した場合,骨折部が 動揺胸郭 動揺胸郭 動揺胸郭は,隣接する3本以上の肋骨に生じた複数骨折の結果として,胸壁の一部が胸郭の残りの部分から分離した状態であり,その背景にある肺損傷のマーカーになる。 ( 胸部外傷の概要も参照のこと。) 単一の肋骨が複数の箇所で骨折することもある。隣接する複数(3本以上)の肋骨が2カ所以上で骨折すると,各肋骨の骨折により残りの胸郭と機械的に連結していない胸壁の区画(flail segment)が生じる。このflail... さらに読む となる。
以下に挙げるような,随伴する胸部損傷が起こることがある:
大動脈損傷,鎖骨下損傷,または心損傷(一般的でないが,急激な減速により起こることがあり,特に第1または第2肋骨が骨折した場合に起こる)
脾臓または腹部損傷(第7~第12肋骨のいずれかの骨折による)
気胸 気胸(開放性) 開放性気胸は胸壁に閉鎖されていない開口部のある気胸である;開口部が十分大きい場合は呼吸力学が障害される。 ( 胸部外傷の概要も参照のこと。) 自然気胸については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。 外傷性気胸の患者の一部では,胸壁に閉鎖されていない開口部がある場合がある。開放性気胸患者が息を吸うと,吸気により生じた胸腔内の陰圧によって,空気が気管を通して肺に流入すると同時に胸壁欠損を通じて胸腔にも流入する。小さな胸壁欠損を通る気流... さらに読む ( Professional.see heading on page 気胸(外傷性) 気胸(外傷性) 外傷性気胸は,外傷により胸腔内に空気が入った状態をいい,部分的または完全な肺虚脱を引き起こす。症状は,原因となる損傷による胸痛などであり,ときに呼吸困難が認められる。診断は胸部X線により行う。治療は通常,胸腔ドレナージによる。 ( 胸部外傷の概要も参照のこと。) 自然気胸については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。 気胸は穿通性外傷または鈍的外傷により起こる可能性がある;多くの患者には... さらに読む および Professional.see also heading on page 気胸(緊張性) 気胸(緊張性) 緊張性気胸は圧力下での胸腔内に空気が貯留した状態のことであり,肺を圧迫し,心臓への静脈還流量を減少させる。 ( 胸部外傷の概要も参照のこと。) 肺または胸壁の損傷が,空気が胸腔に入ることが可能でも出ていくことができない損傷(一方向弁)である場合に,緊張性気胸が発生する。その結果,空気が貯留して肺を圧迫し,最終的に縦隔を偏移させ,対側肺が圧迫され,心臓への静脈還流量が減少するほどに胸腔内圧が上昇し,... さらに読む )
気管気管支損傷(一般的でない)
合併症
肋骨骨折のほとんどの合併症は随伴する損傷により起こる。単独の肋骨骨折は痛みを伴うがほとんど合併症を引き起こさない。しかし,吸気のスプリンティング(splinting)(疼痛による不完全な吸気)が 無気肺 無気肺 無気肺は,肺組織の容量減少を伴う虚脱である。無気肺が広範囲に及ぶと,呼吸困難または呼吸不全を起こすことがある。肺炎を発症することもある。無気肺は通常症状を伴わないが,低酸素血症および胸膜性胸痛を呈する症例もある。診断は胸部X線による。治療として,咳嗽および深呼吸の維持,ならびに原因そのものの治療がある。 以下によって,肺胞のような開放気腔が自然に虚脱しようとする力に対抗している:... さらに読む や 肺炎 肺炎の概要 肺炎は,感染によって引き起こされる肺の急性炎症である。初期診断は通常,胸部X線および臨床所見に基づいて行う。 原因,症状,治療,予防策,および予後は,その感染が細菌性,抗酸菌性,ウイルス性,真菌性,寄生虫性のいずれであるか,市中または院内のいずれで発生したか,機械的人工換気による治療を受けている患者に発生したかどうか,ならびに患者が免疫能... さらに読む を引き起こす可能性がある(特に高齢者または複数骨折の患者の場合)。その結果,高齢患者では肋骨骨折による死亡率が高い(最大20%)。健康な若年患者および1~2本の肋骨骨折の患者ではこのような合併症はほとんど発生しない。
症状と徴候
疼痛が重度であり,体幹の動き(咳嗽や深呼吸を含む)により悪化し,数週間持続する。受傷した肋骨にはかなりの圧痛を認めるほか,ときに触診時に骨折部分が動いた際,受傷した肋骨上で捻髪音を検出できることがある。
診断
通常は胸部X線
一部の肋骨骨折は胸壁の触診で確認できる場合がある。一部の医師は,軽微な外傷の健常者では臨床的評価で十分であると感じている。しかし,重大な鈍的外傷では一般的に胸部X線を施行して随伴する損傷(例,気胸, 肺挫傷 肺挫傷 肺挫傷は外傷に起因する肺出血および肺水腫で裂傷がないものである。 ( 胸部外傷の概要も参照のこと。) 肺挫傷はよくみられるものであり,重大な鈍的または穿通性胸部外傷による,死に至る可能性のある胸部損傷である。 肋骨骨折, 気胸,またはその他の胸部損傷を伴う場合がある。大きな挫傷は酸素化を障害する可能性がある。晩期合併症は,肺炎およびときに 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などである。... さらに読む )を確認する。多くの肋骨骨折は胸部X線上では認められない;特定の肋骨を撮影してもよいが,全ての肋骨骨折をX線で同定することは通常不要である。臨床的に疑われる随伴する損傷を確認するためにその他の検査を行う。
治療
鎮痛
肺洗浄
肋骨骨折の治療には通常,オピオイド鎮痛薬が必要となるが,オピオイドには呼吸を抑制し 無気肺 無気肺 無気肺は,肺組織の容量減少を伴う虚脱である。無気肺が広範囲に及ぶと,呼吸困難または呼吸不全を起こすことがある。肺炎を発症することもある。無気肺は通常症状を伴わないが,低酸素血症および胸膜性胸痛を呈する症例もある。診断は胸部X線による。治療として,咳嗽および深呼吸の維持,ならびに原因そのものの治療がある。 以下によって,肺胞のような開放気腔が自然に虚脱しようとする力に対抗している:... さらに読む を悪化させる可能性もある。一部の医師は同時に非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を処方する。
肺合併症を最小限に抑えるために,患者には深い呼吸または咳嗽を意識して頻繁に(例,覚醒中1時間毎)行わせるべきである。手掌または枕で患部を押さえること(本質的にはスプリンティング[splinting])により,深呼吸または咳嗽時の疼痛を最小限に抑えられる。3カ所以上の骨折があるか,または心肺機能不全が基礎にある患者は入院させる。固定(例,ストラップまたはテープによる)は通常回避すべきである;固定は呼吸を抑制し,無気肺および肺炎の素因となることがある。鎮痛薬の経口投与または静注にもかかわらず咳嗽または深い呼吸ができない場合は,硬膜外投与または肋間神経ブロックを考慮してもよい。
要点
病的状態は肋骨骨折そのものではなく,基礎にある肺,脾臓,または血管の損傷か,スプリンティング(splinting)による肺炎の発生に起因する。
X線による全ての肋骨骨折の同定は通常不要である。
疼痛が重度で数週間持続する場合があり,通常オピオイド鎮痛薬が必要となる。
ストラップまたはテープによる固定は,呼吸が抑制され,無気肺および肺炎の素因となる可能性があるため,通常回避すべきである。