熱射病(heatstroke)

執筆者:David Tanen, MD, David Geffen School of Medicine at UCLA
レビュー/改訂 2021年 2月
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Heatstroke(熱射病)は,全身性炎症反応を伴う高体温症であり,多臓器の機能障害を引き起こし,しばしば死に至る。症状として,40℃を超える体温および精神状態の変化がある;発汗は認められる場合と認められない場合がある。診断は臨床的に行う。治療には,急速な体外冷却,急速輸液,および臓器機能障害に対する必要に応じた支持などがある。

Heatstrokeは,熱を放散する代償機構が機能しなくなり,深部体温が大きく上昇した場合に生じる。炎症性サイトカインが活性化し,多臓器機能障害が発生する可能性がある。腸管内細菌叢由来の内毒素も関与していることがある。臓器機能障害は,中枢神経系,骨格筋(横紋筋融解症),肝臓,腎臓,肺(急性呼吸窮迫症候群),および心臓に起こることがある。凝固カスケードが活性化され,ときに播種性血管内凝固症候群が引き起こされる。高カリウム血症および低血糖が起こることがある。

熱射病は以下の2種類に分類されることがあるが,この分類の有用性については議論がある(古典的熱射病と労作性熱射病の相違点の表を参照):

  • 古典的熱射病

  • 労作性熱射病

古典的熱射病は発症までに2~3日の曝露を必要とする。夏の酷暑の期間に,一般的には高齢で,座位時間が長く,空調を所有せず,しばしば水分を入手する機会が限られている人に起こる。高温の車内に放置された小児では急速に起こることがあり,特に窓を閉め切った場合に多い。

労作性熱射病は,より急激に起こり,健康で活動的な人(例,アスリート,軍隊の新兵,工場労働者)に生じる。若年アスリートの死亡原因の第2位である。高温環境における強度の労作は,身体が調節できない急激で大量の熱負荷を引き起こす。横紋筋融解症がよくみられる;急性腎障害および凝固障害は若干可能性が高く,重度である。熱疲労は,熱中症の進行に伴い熱射病へと移行することがあり,精神状態および神経機能の障害を特徴とする。

表&コラム

Heatstrokeは,代謝亢進状態を引き起こす特定の薬物(例,コカイン,フェンシクリジン[PCP],アンフェタミン,モノアミン酸化酵素阻害薬)の使用後に生じることがある。通常は過量投与を要するが,労作および環境条件が相加因子となることがある。

悪性高熱症は,一部の麻酔薬への曝露により遺伝的素因のある患者で生じることがある。神経遮断薬による悪性症候群は,抗精神病薬を服用している患者で発生することがある。これらの疾患は生命を脅かす。

熱中症の概要も参照のこと。)

症状と徴候

中枢神経系の機能障害が熱射病の特徴であり,錯乱または奇異な行動から,せん妄,痙攣発作,昏睡まで様々である。運動失調が初期の臨床像であることがある。頻脈(患者が仰臥位であっても),および頻呼吸がよくみられる。発汗は認められる場合と認められない場合とがある。体温は40℃を超える。

診断

  • 深部体温の測定を含む臨床的評価

  • 臓器機能障害の臨床検査

診断は労作および環境の暑さの病歴から通常明白である。Heatstrokeは,以下が認められることによって熱疲労と鑑別される:

  • 中枢神経系の機能障害

  • 体温が40℃を超える

Heatstrokeの診断が明らかでない場合,中枢神経系の機能障害および高体温を引き起こす可能性がある他の疾患を考慮すべきである。そうした疾患には以下のものが含まれる:

臨床検査としては,血算,プロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間,電解質,血中尿素窒素,クレアチニン,カルシウム,クレアチンキナーゼ(CK),および肝機能検査などを行い,臓器機能を評価する。尿道カテーテルを留置し,尿を採取して尿試験紙で潜血がないか確認し,尿量をモニタリングする。ミオグロビンを検出する検査は必要ない。尿検体に赤血球は含まれていないが血液に対して陽性反応を示し,血清CKが上昇している場合,ミオグロビン尿の可能性が高い。尿中薬物スクリーニングが役立つことがある。深部体温の連続モニタリング(通常直腸,食道,または膀胱のプローブによる)が望ましい。

予後

Heatstrokeの患者では死亡率および罹患率は高いが,年齢,基礎疾患,最高体温,および最も重要である高体温の持続時間と冷却の迅速性により大きく変動する。迅速で効果的な治療を行わない場合,死亡率は80%近くになる。介入にかかわらず,生存者の約20%に脳損傷が残る。一部の患者では,腎機能不全が持続する。体温が数週間不安定なことがある。

治療

  • 積極的な冷却

  • 積極的な支持療法

古典的熱射病と労作性熱射病は同様に治療する。迅速な確認および効果的で積極的な冷却の重要性は,いくら強調してもし過ぎることはない。

冷却法

主な冷却法は以下のものである:

  • 冷水浸漬

  • 気化冷却

冷水浸漬は罹患率および死亡率を最も低下させ,利用可能な場合は第1選択の治療法である。アメリカンフットボールの練習や耐久レースなどの野外活動では,大型の冷却タンクがしばしば使用される。より遠隔の地域では,患者を冷たい池や小川に浸漬することもある。救急部では,適切な器具があり,患者の状態が十分安定している(例,気管挿管の必要がない,痙攣発作が認められない)場合に,浸漬を利用できる。冷却中の熱放散の速度が血管収縮およびシバリングによって低下することがある;ベンゾジアゼピン系薬剤(例,ジアゼパム5mgまたはロラゼパム2~4mgの静脈内投与,必要に応じて追加投与),またはクロルプロマジン25~50mgの静脈内投与によってシバリングを減少させられる。

気化冷却も効果的な場合があるが,乾燥した環境で,患者の末梢循環が十分である場合(十分な心拍出量が必要)に最も効果的である。湿度が高い場合,または重度のショックがある場合には,冷水浸漬を利用すべきである。気化冷却は,風を送りながら患者に微温湯をはね掛けるかまたは噴霧することで行う。気化冷却は,冷水より温水を使用した場合の方がより効果的である。温水は皮膚と空気との水蒸気圧勾配を最大にし,血管収縮およびシバリングを最小限に抑える。一部の特別にデザインされた身体冷却ユニットでは,患者を裸でネットに乗せ排水テーブルの上に吊し,15℃の細かい霧状の水を上下から全身に吹き付ける。送風機を用いて45~48℃に温めた風を体の周囲に循環させる。この方法によって,熱射病の患者のほとんどは60分未満で冷却できる。加えて,頸部,腋窩部,および鼠径部または皮下血管が密集している無毛の皮膚表面(すなわち,手掌,足底,頬)にアイスパックまたは化学物質の保冷剤を当てて冷却を増強できるが,これは単独の冷却法としては十分ではない。

他の方法

冷却を行っている間に必要な蘇生を進めるべきである。意識障害患者では嘔吐および痙攣発作がよく発生し,誤嚥を防ぐために気管挿管および機械的人工換気(ときに筋弛緩薬を用いて)が必要になる場合がある。Heatstrokeは代謝要求を増大させるため,酸素投与を行う。患者を集中治療室(ICU)に収容して,熱疲労の場合と同様に生理食塩水を使用して静注による水分補給を開始する(熱疲労:治療を参照)。理論的には,心停止後に低体温を誘発するためのプロトコルで用いられるものと同様の,4℃に冷却した生理食塩水1~2Lの静脈内投与も,深部体温の低下に役立つことがある。水分欠乏量は,軽微な脱水(例,1~2L)から重度の脱水まで様々である。輸液はボーラス投与すべきであり,血圧,尿量,および中心静脈圧をモニタリングすることで反応および追加のボーラス投与の必要性を評価する。過剰な輸液は,特に患者が熱射病誘発性の急性腎障害を発症する場合,急性肺水腫を引き起こすことがある。

臓器機能障害および横紋筋融解症を治療する。注射用のベンゾジアゼピン系薬剤(例,ロラゼパム,ジアゼパム)は,興奮を予防し痙攣発作(これにより熱産生が増大する)を治療するために積極的に使用できる。

重度の播種性血管内凝固症候群に対して,血小板および新鮮凍結血漿が必要になる場合がある。ミオグロビン尿が認められる場合,0.5mL/kg/時以上の尿量を維持する十分な水分を投与し,尿をアルカリ化するために炭酸水素ナトリウムを静脈内投与することが,腎毒性を予防するまたは最小限に抑えるのに役立つことがある。高カリウム血症の心毒性の治療に,カルシウム塩の静脈内投与が必要になることがある。低血圧の治療に使用される血管収縮薬が,皮膚の血流を低下させ熱放散を減少させることがある。ICUで血管収縮薬を使用する場合は,充満圧のモニタリングのために肺動脈カテーテルを用いることがある。カテコールアミン(アドレナリン,ノルアドレナリン,およびドパミン)により熱産生が増大することがある。血液透析が必要になる場合がある。解熱薬(例,アセトアミノフェン)は有用ではなく,肝損傷または腎損傷の一因となることがある。ダントロレンは麻酔薬誘発性の悪性高熱症の治療に使用されるが,重度の高体温のその他の原因に対する便益は証明されていない。活性化プロテインCは動物モデルにおいて有望な結果を示しているが,ヒトにおいては証明されていない。

要点

  • Heatstrokeは,身体の熱を放散する機能が障害される,中枢神経系の機能障害が認められる,および体温が40℃を超えるという点で,熱疲労とは異なる。

  • 発熱と意識障害がある患者において,熱射病の診断がはっきりしない場合は,感染症,中毒,甲状腺クリーゼ,脳卒中,痙攣発作(発作間欠期),神経遮断薬による悪性症候群,セロトニン症候群など,その他の様々な疾患を考慮する。

  • 迅速な確認および効果的で積極的な冷却が極めて重要である。

  • 実施可能であれば冷水浸漬を利用する。

  • 気化冷却も効果的となりうるが,乾いた環境および十分な末梢循環が必要である;微温湯(冷水ではない)を使用し,送風する。

  • 患者を注意深くモニタリングし(患者の体液状態を含む),積極的な支持療法を行う。

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