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熱中症の概要

執筆者:

John Lissoway

, MD, University of New Mexico;


Eric A. Weiss

, MD, Stanford University Medical Center, Emeritus

最終査読/改訂年月 2019年 6月
本ページのリソース

熱中症(heat illness)には,筋痙攣(muscle cramps) 熱痙攣 熱痙攣とは,痛みを伴う痙攣性の筋痙攣であり,通常,高温多湿の環境下で激しく運動した筋肉に起こる。 (熱中症の概要も参照のこと。) 涼しい気候でも労作により痙攣が誘発されることがあるが,このような痙攣は高温関連ではなく,おそらく体力不足を反映するものである。一方熱痙攣は,体力のある人が汗を多量にかき,喪失した水分を補充するが塩分を補充せず,... さらに読む および熱疲労(heat exhaustion) 熱疲労 熱疲労は,暑さへの曝露により引き起こされる脱力,倦怠感,悪心,失神,およびその他の非特異的症状から成る,生命の脅威までは至らない症候群である。体温調節および中枢神経系の機能は障害されないが,通常患者には脱水があり,軽度の体温上昇(40℃未満)を認める。治療は,涼しい環境での休息や,水分と電解質の補給などである。... さらに読む からheatstroke(熱射病) Heatstroke(熱射病) Heatstroke(熱射病)は,全身性炎症反応を伴う高体温症であり,多臓器の機能障害を引き起こし,しばしば死に至る。症状として,40℃を超える体温および精神状態の変化がある;発汗は認められる場合と認められない場合がある。診断は臨床的に行う。治療には,急速な体外冷却,急速輸液,および臓器機能障害に対する必要に応じた支持などがある。... さらに読む (生命を脅かす緊急事態)まで,様々な重症度のいくつかの疾患が含まれる。熱中症は予防可能であるが,米国では毎年数千人が発症し,死に至る場合もあり,若年アスリートの死因の第2位となっている。Heatstrokeが迅速かつ効果的に治療されない場合,死亡率は80%近くになる。

熱疲労の患者は,熱を放散する能力を維持しており,中枢神経系の機能は正常である。Heatstrokeでは,熱を放散するための代償機構が機能しなくなり(ただし依然として発汗が認められる場合もある),中枢神経系の機能が障害される。高体温および精神状態の変化またはその他の中枢神経系機能障害がある患者では,発汗にかかわらず,heatstrokeを考慮すべきである。

病態生理

熱の吸収は,以下を介して生じる:

  • 環境

  • 代謝

熱の放出は,以下により皮膚を介して起こる:

  • 放射:空気の動きまたは直接的な接触を必要としない過程である赤外放射による,より温度の低い環境への身体の熱の直接伝達

  • 蒸発:水の気化による冷却(例,汗)

  • 対流:露出した皮膚上を通る温度の低い空気(または液体)への熱の伝達

  • 伝導:直接接触している高温の表面から低温の表面への熱の伝達

これらの各機序の寄与は,環境の温度および湿度によって異なる。環境温度が体温より低い場合,放射によって冷却の65%が得られる。正常では冷却の30%が蒸発によって得られ,5%は水蒸気を吐き出すことならびに尿および便を作ることによる。

環境温度が35℃を超える場合,他の機序は環境温度が体温より低い場合にのみ機能するため,蒸発が実質的に全ての熱の放散を占める。しかしながら,発汗の有効性は限られている。皮膚から滴り落ちる汗は蒸発しておらず,冷却に寄与しない。発汗の有効性は,体表面積および湿度にも制限される。湿度が75%を超える場合,蒸発による熱放散は著しく低下する。そのため,環境の温度および湿度の両方が高い場合,熱放散の機序全てが失われ,熱中症のリスクが著しく増加する。

身体は熱負荷の大きな変動を代償できるが,熱放散能力を超える熱への著しいまたは長時間の曝露は深部体温を上昇させる。軽度で一過性の深部体温上昇には耐えられるが,激しい上昇(一般的には41℃を超える)ではタンパク質の変性が起こるとともに,特に高温下での重労働中には,炎症性サイトカイン(例,腫瘍壊死因子α,IL-1β)の放出が起こる。その結果,細胞機能障害が起こり,炎症カスケードが活性化され,ほとんどの臓器の機能障害および凝固カスケードの活性化が生じる。こうした病態生理学的なプロセスは,ショックの遷延に続発する多臓器不全症候群 多臓器不全症候群(MODS) ショックとは臓器灌流が低下した状態で,その結果細胞の機能障害および細胞死を生じるものである。関係する機序は,循環血液量の減少,心拍出量の減少,および血管拡張(ときに毛細血管床をバイパスする血液のシャントを伴う)である。症状としては,精神状態の変化,頻脈,低血圧,乏尿などがある。診断は臨床的になされ,血圧測定およびときに組織灌流低下のマーカ... さらに読む の病態と類似している。

代償機構としては,炎症反応を抑える他のサイトカインによる急性期反応などがある(例,フリーラジカルの産生を低下させタンパク質分解酵素の放出を阻害するタンパク質の産生促進による)。さらに,深部体温の上昇は熱ショックタンパク質の発現を誘導する。このタンパク質は,あまり解明されていない機序により(例,おそらくはタンパク質変性を防ぐことにより),および心血管系応答の制御により,一時的に暑熱耐性を高める。長時間のまたは極度の体温上昇の場合,代償機構が圧倒されるかまたは機能しなくなり,炎症および多臓器不全症候群が生じるようになる。

熱の放出は,皮膚血流量および汗の産生の変化により調節される。皮膚血流量は正常な体温では200~250mL/分であるが,熱ストレスにより7~8L/分に増大し(対流,伝導,放射および蒸発の機序により熱放散を促進し),著しい心拍出量の増加が必要となる。さらに,熱ストレスは汗の産生を,無視できるほどの少量から2L/時を超える量まで増大させるが,皮膚から滴り落ちる汗は冷却に寄与しないばかりか,脱水の一因となる。汗が非常に速やかに蒸発する,非常に高温で非常に乾燥した空気では,あまり認識できないうちに著しい発汗が起こっていることがある。2L/時を超える汗の産生により,急激に脱水が発生することがある。汗には電解質が含まれるため,電解質を大量に喪失する可能性がある。しかしながら,長期間の曝露により熱負荷に適応するための生理学的変化(順化)が引き起こされる;例,順化していない人では汗中ナトリウム濃度が40~100mEq/L(または40~100mmol/L)であるが,順化した人では10~70mEq/L(mmol/L)に低下する。

病因

過度の熱吸収は一般的には,激しい労作,高い環境温度,またはその両方によって生じる。内科的疾患および刺激薬の使用により,熱産生が増大することがある。

冷却障害は,肥満,高湿度,高い環境温度,厚着,および発汗または汗の蒸発を妨げるあらゆるものによって生じる可能性がある。

熱中症の臨床的な影響は,以下のものによって増悪する:

高齢者および非常に若年の人ではリスクが高い。高齢者は,リスクを高める可能性のある薬剤を使用する頻度が高く,脱水および心不全の発生率が高く,加齢に関連する熱ショックタンパク質の喪失があるため,リスクが高い。小児は,身体の容積に対する体表面積の比率が高く(その結果,暑い日に環境から取り込む熱が大きい),汗を産生する速度が遅いため,リスクが高い。小児は順化が遅く,口渇反応が少ない。高齢者および幼児はいずれも比較的動けないため,高温環境を離れることが困難な場合がある。

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予防

  • 暑すぎる天候の際は,高齢者および年少者は空調がなく換気されない住宅に居続けるべきではない。

  • 小児を,暑い日差しの中,自動車に放置すべきではない。

  • 可能なら,非常に高温の環境下や換気の不十分な空間では激しい労作を避けるべきであり,厚い保温服は着用すべきでない。

  • 運動または作業の後の体重減少は,脱水のモニタリングに利用できる;体重が2~3%減少した人は水分を余分にとることを忘れず,翌日の曝露前には最初の体重の1kg減以内となっているべきである。減少が4%を超える場合は,活動を1日間制限すべきである。

  • 高温中の労作が避けられない場合は,頻繁に飲み物を飲むことで水分を補給し,目の粗いメッシュの衣類の着用または扇風機の使用により蒸発を促進すべきである。

水分補給

十分な水分およびナトリウム値を維持することが,熱中症の予防に役立つ。口渇は血漿浸透圧が正常値を1~2%超えて上昇するまで刺激されないため,口渇は労作中の脱水および水分補給の必要性のよい指標とはならない。そのため,口渇にかかわらず,数時間毎に水分を摂取するべきである。腸管での水分吸収の最大量は正味約20mL/分である(1200mL/時―最大発汗率の2000mL/時より低い)ため,大量の汗を失う長時間の労作では,発汗率を低下させ,水分補給の時間をとる休憩時間が必要である。

使用する最良の水分補給液は,労作の時間と程度に加え環境因子および順化の有無に基づいて,予想される水分および電解質の喪失によって決まる。最大の水分吸収とするために,炭水化物を含有する飲料は真水に比べて,最大30%速く身体に吸収されうる。6%または7%の炭水化物濃度を含む飲料が最も急速に吸収される。炭水化物の濃度がより高い場合は,胃痙攣を引き起こし,吸収を遅くする可能性があるため,避けるべきである。しかしながら,ほとんどの状況および活動においては,水分過剰を回避する限り,水分補給には真水で十分である。ナトリウム喪失を補充せずに非常に頻繁に自由水を摂取する耐久競技の選手では,重大な低ナトリウム血症 低ナトリウム血症 低ナトリウム血症とは,血清ナトリウム濃度が136mEq/L未満に低下することであり,溶質に対する水分の過剰が原因である。一般的な原因としては,利尿薬の使用,下痢,心不全,肝疾患,腎疾患,ADH不適合分泌症候群(SIADH)などがある。特に急性低ナトリウム血症では,臨床症状は主として神経学的なものであり(浸透圧によって水分が脳細胞内に移動し... さらに読む が運動前,運動中,運動後に起こっている。特別な水分補給液(例,スポーツドリンク)は必要ではないが,その味付けは摂取を促進させ,適度な塩分含量は水分要求量が多い場合に役立つ。

肉体労働者,兵士,耐久競技の選手,または他の大量に発汗する人は,1日当たり20g以上のナトリウムを失うことがあり,熱痙攣の可能性が高くなる;このような人は,ナトリウムの喪失を飲料および食品で補う必要がある。ほとんどの状況では,塩分に富む食品の摂取で十分である;減塩食を摂取している人は塩分の摂取量を増やすべきである。さらに極端な状況(例,作業の環境に順化していない人による長時間の労作)では,経口の食塩水を使用してもよい。理想的な濃度は0.1%塩化ナトリウムであり,水1L(または1クォート[0.95L])に,塩の錠剤1gまたは食塩小さじ4分の1杯を溶かすことによって調製できる。中等度から極端な状況下では,この食塩水を摂取すべきである。溶解されていない塩の錠剤は摂取すべきでない。胃を刺激し,嘔吐を引き起こすことがあり,基礎にある脱水を治療するものとはならない。

パール&ピットフォール

  • 塩の錠剤は胃の刺激を引き起こすことがあるため,飲み込むべきでない。代わりに,水に溶かして摂取する。

順化

高温の中で行う作業の度合いと量を連続的に徐々に増大させると順化が起こり,それにより以前は耐容できなかった,または生命を脅かすものであった温度で安全に作業できるようになる。最も良好な形で順化するには通常,高温の環境下で8~11日間過ごし,毎日いくらかの運動を行う(例,1日当たり1~2時間,1日毎に強度を高める)必要がある。順化により,与えられたレベルの労作で産生される汗の量(およびそれによる冷却)が著しく増え,汗の電解質含量が大きく低下する。順化により熱中症のリスクが有意に低下する。

活動レベルの節制

可能な場合,環境,および着用の必要があり熱放散を妨げる防護服(例,消防服,化学防護服)に基づいて活動レベルを調整すべきである。以下の場合には,作業時間を短縮し,休憩時間を増やすべきである:

  • 気温が上昇した場合

  • 湿度が上昇した場合

  • 作業負荷が大きくなった場合

  • 日光が強くなった場合

  • 空気の動きがない場合

  • 防護服または防護具を身につけている場合

気温および相対湿度に基づく湿球黒球温度

気温および相対湿度に基づく湿球黒球温度

数値は,日光が十分で風が弱い場合に有効な,気温および湿度に基づく近似式によって求められている。その他の状況では,熱ストレスが過大評価される場合がある。

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総論の参考文献

  • Lipman GS, Eifling KP, Ellis MA, et al: Wilderness Medical Society practice guidelines for the prevention and treatment of heat-related illness: 2014 Update.Wilderness Environ Med 25(4 Suppl):S55-S65, 2014.doi: 10.1016/j.wem.2014.07.017.

要点

  • 環境温度が35℃を超える場合,冷却は主に蒸発によるが,湿度が75%を超える場合には蒸発が著しく低下するため,温度および湿度の両方が高い場合,熱中症のリスクは高くなる。

  • 多数の熱中症の危険因子の中には,特定の薬物および疾患(電解質平衡の異常または心血管予備能の低下を引き起こすものを含む)ならびに極端な年齢が含まれる。

  • 予防策としては,常識的な対策や,水分とナトリウムの維持および補給などがある。

  • 順化には8~11日間,毎日運動する必要があり,順化によって熱中症のリスクが低下する。

  • 温度,湿度,日光,および服または防護具の量が増加する場合,ならびに空気の動きが減少する場合,活動レベルを制限すべきである。

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