四肢の先天異常

執筆者:Simeon A. Boyadjiev Boyd, MD, University of California, Davis
レビュー/改訂 2020年 5月
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先天性四肢障害(congenital limb defect)とは,四肢の欠損,不完全な発達,過剰,または異常な発達が出生時に認められる状態である。

頭蓋顔面部および筋骨格系の先天異常に関する序論も参照のこと。)

四肢欠損

先天性四肢切断および先天性四肢欠損症は,出生時に四肢が欠如しているか,不完全なものである。全体での有病率は出生10,000人当たり7.9例である。ほとんどは,原発性の子宮内発育制限,または正常胚組織の子宮内破壊に続発する破綻に起因する。上肢の方がより影響を受けやすい。

先天性四肢欠損症には多くの原因があり,しばしば様々な先天性症候群の一要素として発生する。催奇形性物質(例,サリドマイド,ビタミンA)は,よく知られた四肢形成不全/欠損の原因である。先天性四肢切断の最も頻度の高い原因は,羊膜索症候群に伴う四肢切断(遊離した羊膜線維が胎児組織に絡まったり癒合したりする)など,軟部組織および/または血管の破壊による欠損である。

四肢欠損には以下の病型がある:

  • 縦線型(頻度が高い)

  • 横断型

縦線型欠損では,特異的な発育異常(例,橈骨,腓骨,または脛骨の完全または部分的欠損)がみられる。上肢欠損で最も頻度の高いものは橈側列形成障害(radial ray deficiency)であり,下肢欠損で最も頻度の高いものは腓骨形成不全である。約3分の2の症例は以下に挙げるような他の先天性疾患を合併している:Adams-Oliver症候群(頭蓋骨の部分的形成不全と末端部の横断型四肢奇形を伴う先天性皮膚無形成),Holt-Oram症候群,TAR(thrombocytopenia[血小板減少],absent radius[橈骨欠損])症候群,ファンコニ貧血,およびVACTERL(vertebral anomalies[脊椎奇形],anal atresia[鎖肛],cardiac malformations[心奇形],tracheoesophageal fistula[気管食道瘻],renal anomalies[腎奇形],radial aplasia[橈骨無形成],limb anomalies[四肢奇形])連合。

橈側列形成障害
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最重症型の橈側列形成障害では,この患者のように橈骨が欠損する。手には屈曲と変形がみられる。
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横断型欠損では,ある位置より遠位側の全ての要素が欠損するため,四肢は切断手術の断端に類似した形態を呈する。羊膜索が最も頻度の高い原因であり,欠損の程度は羊膜索の位置により異なり,典型例では他の欠損や奇形はみられない。残りの症例は,Adams-Oliver症候群または染色体異常など,基礎にある遺伝性症候群に起因するものがほとんどである。

横断型または縦線型欠損がある場合,病因に応じて,乳児には骨低形成,二分裂骨,骨癒合,重複,脱臼,その他の骨欠損などがみられ,例えば,大腿骨近位部欠損症では大腿骨近位部と寛骨臼が発育しない。侵される四肢は単一のことも複数のこともあり,四肢毎に欠損の型が異なる場合もある。中枢神経系の異常はまれである。

多指症

多指症は過剰な指趾がみられるもので,最も頻度の高い先天性四肢変形である。この変形は軸前性,中心性,軸後性に分類される。

軸前性多指症は,余剰な親指または親趾がみられるものである。その臨床像は,幅の広いまたは重複した末節骨から,完全な指趾の重複までに及ぶ。単独で(ときに常染色体優性の病態として)発生する場合と,以下に挙げる特定の遺伝性症候群の部分症として発生する場合がある:肢先端脳梁症候群(発達遅滞および脳梁欠損を伴う),カーペンター症候群およびPfeiffer症候群(頭蓋縫合早期癒合症を伴う),ファンコニ貧血およびダイアモンド-ブラックファン貧血,Holt-Oram症候群(先天性心奇形を伴う)。

多指症
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この写真には左手の軸前性多指症が写っている。
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中心性多指症はまれであり,環指,中指,示指の重複がみられる。合指症および裂手を合併することがある。大多数の症例は症候群性である。

軸後性多指症は最も頻度が高く,四肢の尺側/腓側に過剰指がみられる。過剰指は痕跡のみである場合が最も多いが,完全に発育する場合もある。アフリカ系の人々では,この型の多指症は通常単独の異常である。その他の集団では,複数の先天奇形が生じる症候群または染色体異常症に合併することが多い。なかでも考慮すべき症候群は,Greig頭蓋・多合指趾症候群,メッケル症候群,エリス-ファンクレフェルト(Ellis-van Creveld)症候群,McKusick-Kaufman症候群,ダウン症候群,およびバルデ―-ビードル症候群である。

合指症

合指症は,手指または足趾が水かき状に癒着または完全に癒合した状態である。いくつかの病型が定義されており,その多くは常染色体優性の遺伝形式をとる。単純型合指症では軟部組織のみが癒合するが,複雑型合指症では骨も癒合する。複雑型合指症はApert症候群(頭蓋縫合早期癒合症を伴う)でみられる。環指と小指の合指症は眼歯指異形成症でよくみられる。Smith-Lemli-Opitz症候群は,第2趾と第3趾の合指症のほか複数の他の先天奇形を合併する。

合指症(複雑型)
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この患者には完全な複雑型合指症がみられ,中指と環指(薬指)の骨および軟部組織が癒合している。
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診断

  • 通常はX線

  • ときに遺伝子検査

典型的には,侵されている骨を確認するためにX線検査が施行される。異常が家族性とみられる場合と遺伝性症候群が疑われる場合は,その他の身体異常,染色体異常,および遺伝子異常に関する徹底的な評価を行うべきである。可能であれば,臨床遺伝専門医による評価が有用である。

治療

  • 外科的手技

  • 義肢

治療は多指症および合指症に対する外科的手技による。四肢の欠損または低形成に対する治療は主に義肢の使用によるが,これは下肢欠損および完全またはほぼ完全な上肢欠損では最も有用な治療法である。腕や手に少しでも運動能力がある場合は,奇形の重症度にかかわらず,義肢の使用または外科手術を勧める前に,その運動機能を詳細に評価しなければならない。切断手術は,対象となる四肢または四肢の部分にかかわらず,切断による機能的および精神的影響を評価した上で,さらに切断が義肢の装着に不可欠である場合に限り考慮すべきである。

上肢の義肢は,器具の数を最小限に抑えるためにも,極力多くのニーズに対応できるように設計すべきである。小児による義肢の使用は,早期より装着を開始して発達年齢期に義肢が身体および身体像と一体化した場合に,最もよく効果を発揮する。乳児期に使用する装具はできる限り単純で耐久性の高いものにすべきであり,例えば,筋電電動式の義手ではなくフックを使用する。効果的な整形外科学的支援と補助的支援さえあれば,先天性切断の患児の大半は通常の生活を送ることができる。

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