膀胱尿管逆流症(VUR)

執筆者:Ronald Rabinowitz, MD, University of Rochester Medical Center;
Jimena Cubillos, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2020年 9月
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膀胱尿管逆流症とは,尿が膀胱から尿管へ,ときに重症度によっては集合管まで逆流する病態である。逆流は尿路感染症の素因となり,しばしば再発を繰り返す。評価としては,排尿前後の腎臓,尿管,および膀胱の超音波検査とその後にX線透視下で排尿時膀胱尿道造影(VCUG)を施行する方法などがある。治療法は原因および重症度に依存する。

病因

膀胱尿管逆流症(VUR)の原因として最も頻度が高いのは,尿管膀胱移行部の先天的な発育異常である。膀胱壁内尿管のトンネル構造の発達が不完全である場合,尿管膀胱移行部の弁の正常機能が障害され,それにより膀胱尿の尿管および腎盂内への逆流が起こる。また下部尿路閉塞または排尿機能障害のために膀胱内圧が上昇している場合は,たとえこのトンネル構造が正常並みであっても,逆流が発生する。排尿機能障害として,排尿回数の減少,便秘,またはその両方などがあり,VURの消失を遅らせる可能性がある。

病態生理

膀胱から尿管への逆流がある場合,細菌感染やときに静水圧の上昇により上部尿路の損傷を来すことがある。下部尿路の細菌が逆流により容易に上部尿路まで送られるため,腎実質感染の頻回の発生により瘢痕化を来す可能性がある。腎瘢痕化によって,最終的には高血圧やときに腎機能障害が起こりうる。VURは小児尿路感染症(UTI)の一般的な原因の1つであり,UTIがある乳幼児の約30~40%でVURが認められる。

症状と徴候

典型例では,胎児水腎症または熱性尿路感染症の既往で,ときには同胞に対するスクリーニングの過程によって明らかとなることがある。まれに高血圧を呈するが,これは腎瘢痕化の長期的な影響であることが多い。UTIの患児には,発熱,腹痛または側腹部痛,排尿困難,頻尿,尿意切迫,尿漏れ,まれに血尿がみられる。

診断

  • 超音波検査

  • 排尿時膀胱尿道造影(VCUG)

  • ときにシンチグラフィー

感染を検出するために尿検査および尿培養を行う。乳幼児では,カテーテル尿が通常必要である。

評価としては,排尿前後の腎臓,尿管,および膀胱の超音波検査,その後のX線透視下でのVCUGなどがある。腎超音波検査により腎臓の大きさ,水腎症,瘢痕化などの評価が可能である。VCUGはVURの診断と他の膀胱異常の評価に用いられる。膀胱シンチグラフィー(放射性核種による尿道造影)は逆流のモニタリングに用いられることがある。急性感染症または瘢痕化を伴う腎皮質の病変は,適応となる場合には,サクシマー(succimer)(ジメルカプトコハク酸)を用いる核医学検査で最も正確に診断される。尿流動態検査では,状況によっては膀胱内圧の上昇を示すことができる。

VCUGの逆流所見はI~V度に分けて評価する(膀胱尿管逆流のグレードの表を参照)。逆流の程度は,膀胱の容量および力学動態に影響を受ける。

  • 軽度:I~II度

  • 中等度:III度

  • 重度:IV~V度

表&コラム

治療

  • ときに抗菌薬の予防投与

  • ときに膨張剤の注入または膀胱尿管新吻合術

軽度から中等度の膀胱尿管逆流症は,しばしば数カ月から数年で自然に消失する。感染を起こさないことが非常に重要である。以前は軽度から中等度のVUR患児には抗菌薬の予防投与が連日行われていたが,現在では,この方針に対するコンセンサスは得られていない。ほとんどの小児泌尿器科医は,重度VURの全年齢の患児,III~V度VURの2歳未満の患児,およびVURのグレードとは無関係に発熱を伴う繰り返す尿路感染症の患児に対して予防的抗菌薬投与を推奨している。年齢別または体重換算で推奨される抗菌薬の用法・用量が複数あるが,典型的には,トリメトプリム/スルファメトキサゾール就寝時,ニトロフラントイン夕食時,またはセファレキシン1日2回の投与が選択される。

膀胱内圧が上昇した重度の膀胱尿管逆流症は,抗コリン薬(例,オキシブチニン,コハク酸ソリフェナシン),およびまれに手術(ボツリヌス毒素や膀胱拡大術など)により治療される。腸管および膀胱機能障害のある患者では,行動変容法の単独施行またはバイオフィードバックとの併用が有益である。

症候性の逆流(繰り返す感染,腎臓の成長障害,腎瘢痕化)は,膨張剤(例,デキストラノマー/ヒアルロン酸)の内視鏡下注入または膀胱尿管新吻合術により治療する。

モニタリング

病歴,身体診察(血圧測定を含む),尿(血尿および蛋白尿の有無)および血清クレアチニン検査,ならびにVCUGおよび超音波検査による画像検査を,患児の年齢,逆流の重症度,および合併症に応じて定期的に行う。典型的には,2歳未満では4~6カ月毎に超音波検査を(超音波検査で有意な腎症を認める患児ではより頻回に)行い,より年長の小児では6~12カ月毎に超音波検査を行う。VCUGは1~2年毎に繰り返すことができる(高グレードのVUR,両側性VUR,および/またはより年長の小児ではより間隔を延ばすことができる)。

さらに,トイレトレーニング済みの小児には,便秘および排尿回数の減少,失禁,尿意切迫,ならびに夜尿について受診毎に評価を行うべきであり,これらは排尿機能障害のよくみられる徴候で,必要に応じて行動変容および/または薬物療法により治療する。

要点

  • 膀胱尿管逆流症(VUR)の原因として最も頻度が高いのは,尿管膀胱移行部の先天的な発育異常である。

  • 膀胱から尿管への尿逆流によって,上部尿路に細菌感染が起こることがあり,尿路感染症の乳幼児では約30~40%の頻度でVURがみられる。

  • VCUGにより診断する。

  • 定期的な超音波検査およびVCUGによりモニタリングする。

  • 軽度から中等度のVURは自然に消失する場合が多いが,より重篤な場合には外科的介入が必要となりうる。

  • VURと新たに診断された小児には,重症度と臨床経過に応じて抗菌薬の予防投与を行う。

  • トイレトレーニング済みの小児には,排尿機能障害に関する評価を行い,状況に応じて治療する。

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