新生児細菌性髄膜炎

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2020年 7月
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新生児細菌性髄膜炎は,細菌の侵襲により髄膜に炎症を来す病態である。徴候は敗血症と同様で,中枢神経系の刺激(例,嗜眠,痙攣,嘔吐,易刺激性[特にparadoxical irritability],項部硬直,泉門膨隆)と脳神経の異常である。診断は腰椎穿刺による。治療は抗菌薬による。

生後3カ月以上の乳児における細菌性髄膜炎新生児感染症の概要,および成人における See also page 髄膜炎の概要を参照のこと。)

新生児細菌性髄膜炎は,正期産児では出生10,000人当たり2例,低出生体重児では出生1,000人当たり2例の頻度で発生し,主に男児でみられる。新生児敗血症を起こした新生児の約15%で発生するが,ときに単独でも起こる。

病因

主な病原体は以下のものである:

その他に報告されている病原体として,腸球菌,非腸球菌D群レンサ球菌,α溶血性レンサ球菌黄色ブドウ球菌コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,グラム陰性腸内細菌(例,Klebsiella属,Enterobacter属,Citrobacter diversus),インフルエンザ菌髄膜炎菌肺炎球菌などがある。

新生児細菌性髄膜炎は,新生児敗血症に伴う菌血症の結果として発生する場合が多く,血液培養でのコロニー数が多いほど,髄膜炎のリスクは高くなる。新生児細菌性髄膜炎はまた,頭皮の病変から生じることもあり,特に発生異常により表皮とくも膜下腔の間に交通が生じ,それにより板間静脈の血栓性静脈炎が生じやすくなっている場合に,その可能性が高くなる。まれではあるが,近接した耳の病巣(例,中耳炎)から中枢神経系に直接波及する場合もある。

症状と徴候

多くの場合,新生児敗血症に典型的な所見(例,体温調節障害,呼吸窮迫,黄疸,無呼吸)しか認められない。中枢神経系の徴候(例,嗜眠,痙攣[特に焦点発作],嘔吐,易刺激性)は,より特異的に新生児細菌性髄膜炎を示唆する。いわゆるparadoxical irritabilityは,親が抱いたりあやしたりすることで,児が落ち着くのではなく,むしろ苛立つ(炎症を起こした髄膜が動くことで痛みが生じるため)というもので,これは本疾患により特異的な所見である。泉門膨隆は約25%,項部硬直は15%でしか認められない。これらの所見は,患児が弱齢であるほど頻度が低下する。脳神経(特に第3,第6,第7脳神経)の異常もみられることがある。

B群レンサ球菌による髄膜炎(GBS髄膜炎)は生後1週間以内に生じることがあり,早発型新生児敗血症を伴い,最初は顕著な呼吸器徴候を伴う全身性疾患として発症することが多い。しかしながら,しばしばGBS髄膜炎は,この期間より後になって(生後3カ月以内が最も多い),産科的または周産期合併症を伴わず,より特異的な髄膜炎徴候(例,発熱,嗜眠,痙攣)を特徴とする単独の疾患として発生する。

新生児細菌性髄膜炎にはしばしば脳室炎が併発し,特にグラム陰性腸内桿菌が起因菌の場合に多い。重度の血管炎とともに髄膜炎を引き起こす微生物,特にC. diversusおよびCronobacter sakazakii(かつてのEnterobacter sakazakii)は,嚢胞および膿瘍を形成する可能性が高い。緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa),大腸菌(E. coli)K1,およびSerratia属細菌も脳膿瘍を形成することがある。脳膿瘍の初期の臨床徴候は頭蓋内圧亢進であり,一般に嘔吐および泉門膨隆,ときに頭囲の増大によって明らかになる。その他の点では安定している髄膜炎新生児での増悪は,膿瘍または水頭症による進行性の頭蓋内圧亢進あるいは脳室系への膿瘍の破裂を示唆する。

パール&ピットフォール

  • 新生児では髄膜炎の古典的徴候はまれであり,泉門の膨隆ないし緊満は患児の約25%,項部硬直は15%にしか発生しない。

診断

  • 髄液の細胞数,糖およびタンパク質値,グラム染色,ならびに培養

  • ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査

  • ときに脳の超音波検査,CT,またはMRI

新生児細菌性髄膜炎の確定診断は腰椎穿刺による髄液検査によって行い,敗血症や髄膜炎が疑われる新生児には全例で髄液検査を行うべきである。しかしながら,新生児での腰椎穿刺の施行は難しく,低酸素症のリスクもある。臨床状態が不良であると(例,呼吸窮迫,ショック,血小板減少),腰椎穿刺はリスクが高くなる。腰椎穿刺が遅れた場合は,髄膜炎があるものとみなして治療を行うべきである。たとえ臨床状態が改善した場合でも,発症後数日で髄液中に炎症細胞が出現し,かつ糖およびタンパク質値に異常がみられる場合は,依然としてこの病態が示唆される。上皮性遺残物の取込みとそれに伴う上皮腫の発生を回避するため,腰椎穿刺にはトロカールを使用すべきである。

髄液は,たとえ血性であれ無細胞性であれ,培養するべきである。血液培養陰性の新生児の約15~35%(研究対象の集団により幅がある)で髄液培養が陽性となる。髄液培養が陰性であるものの,細菌性髄膜炎が疑われる場合(例,培養前に投与された抗菌薬が検査結果に影響を与えた可能性がある場合)には,髄液中の複数の一般的な病原体に対してマルチプレックスPCRを利用できる。腰椎穿刺は,臨床的な反応が不確かなら24~48時間時点で,グラム陰性菌が関与している場合は72時間時点で再度施行すべきである(無菌化を確認するため)。

髄液検査を繰り返し行うことにより,治療継続期間の参考にし,予後を予測することができる。GBS髄膜炎の新生児では24~48時間時点での腰椎穿刺の再施行に予後的価値があると信じる専門家もいる。児の状態が良好な場合は,治療終了時に腰椎穿刺を再施行すべきではない。

髄液所見の正常値については議論があり,一部は生後の経過期間が関連する。一般に,髄膜炎のない正期産児および早期産児では,ともに髄液中白血球数は20個/μL以下(そのうち5分の1が多形核白血球)である。髄膜炎がない場合の髄液タンパク質値はばらつきが大きく,正期産児で100mg/dL(1g/L)未満,早期産児で最高150mg/dL(1.5g/L)である。髄膜炎がない場合の髄液糖濃度は,同時に測定した血清糖値の75%以上である。具体的な値は20~30mg/dL(1.1~1.7mmol/L)という低値である。髄液の指標が正常な新生児で培養により細菌性髄膜炎が同定されており,したがって,髄液所見が正常でも髄膜炎を除外することはできない。

抗菌薬治療に適切に反応しない新生児では,脳室炎が疑われる。その病態は,脳室穿刺での白血球数が腰椎穿刺での値を超えること,脳室内髄液のグラム染色もしくは培養が陽性となること,または脳室内圧が高値であることで診断される。脳室炎または脳膿瘍が疑われる場合には,超音波検査,または単純および造影MRIまたはCTが診断の参考となる可能性があり,脳室拡大でも脳室炎の確定診断となる。

予後

無治療の場合,新生児細菌性髄膜炎の死亡率は100%近くとなる。治療を行う場合の予後は,出生体重,起因菌,および臨床的な重症度に規定される。治療が行われる新生児細菌性髄膜炎の死亡率は5~20%である。血管炎または脳膿瘍(壊死性髄膜炎)を引き起こす菌が原因の場合には,死亡率は75%近くとなる可能性がある。生存した乳児の20~50%では神経学的後遺症(例,水頭症難聴知的障害)が生じ,グラム陰性腸内桿菌が原因の場合は予後不良である。

予後はまた,診断時に髄液中に存在する菌の数にも一部依存する。髄液培養陽性の持続期間は合併症の発生率と直接相関する。一般に,GBS感染新生児の髄液培養は抗菌薬療法の開始から通常24時間以内に陰性化する。グラム陰性桿菌髄膜炎での培養は,陽性期間がより長く,中央値は2日である。

GBS髄膜炎の死亡率は早発型GBS敗血症の死亡率より有意に低い。

治療

  • 経験的治療としてアンピシリンとゲンタマイシン,セフォタキシム,またはその両方を併用し,続いて培養結果に基づく薬剤に変更する

See table 新生児に対する主な注射用抗菌薬の推奨用量を参照のこと。

経験的抗菌薬療法

最初の経験的治療は患者の年齢に依存するが,依然として議論が続いている。新生児の場合,多くの専門家がアンピシリンとアミノグリコシド系薬剤の併用を推奨している(新生児における主なアミノグリコシド系抗菌薬の推奨用量の表を参照)。グラム陰性菌による髄膜炎が疑われる場合,培養および感受性試験の結果が得られるまで,第3世代セファロスポリン系薬剤(例,セフォタキシム)も追加される。しかしながら,セフォタキシムを経験的治療でルーチンに使用すると,耐性菌の出現が早まる可能性があり,また第3世代セファロスポリン系薬剤の長期使用は侵襲性カンジダ症の危険因子である。アンピシリンはGBS,腸球菌,Listeria属などの細菌に有効である。ゲンタマイシンの投与により,これらの病原体に対する相乗効果が得られるほか,多くのグラム陰性菌感染症も治療できる。第3世代のセファロスポリン系薬剤は,ほとんどのグラム陰性病原体を十分にカバーしている。

入院中の新生児で先に抗菌薬を投与されている場合(例,早発型敗血症に対して),耐性菌が生じている可能性があり,また長期入院後に敗血症を起こした新生児においては,真菌感染症も考えられる。院内感染を起こした重症の新生児には,まずバンコマイシン(新生児に対するバンコマイシンの用量の表を参照)とアミノグリコシド系薬剤を投与し,さらに髄膜炎の懸念の強さに応じて,Pseudomonas aeruginosaに対して活性がある第3世代セファロスポリン系またはカルバペネム系薬剤(セフェピムまたはメロペネムなど)を併用すべきである。

髄液培養および感受性試験の結果が判明したら,抗菌薬を調整する。培養結果が得られる前にグラム染色の結果で抗菌薬のカバーする範囲を狭めるべきではない。

起因菌に特異的な抗菌薬療法

生後1週未満の新生児におけるGBS髄膜炎に推奨される初期治療は,ベンジルペニシリン100,000単位/kg,静注,6時間毎,またはアンピシリンを生後7日以内の乳児には100mg/kg,静注,8時間毎,生後7日を超える乳児には75mg/kg,6時間毎の投与である。さらに,相乗効果を得るために,年齢に応じた用量のゲンタマイシンが投与される( see table 新生児における主なアミノグリコシド系抗菌薬の推奨用量)。臨床的に改善がみられるか,髄液の無菌化が証明されれば,ゲンタマイシンを中止できる。

腸球菌やL. monocytogenesに対する治療としては,一般に経過全体にわたりアンピシリンとゲンタマイシンを併用する。

グラム陰性桿菌による髄膜炎では,治療は困難である。アンピシリンにアミノグリコシド系薬剤を併用する従来のレジメンでは死亡率が15~20%であり,生存者における後遺症発生率も高い。代替として,グラム陰性菌による髄膜炎が証明されている新生児には,第3世代セファロスポリン系薬剤(例,セフォタキシム)を使用すべきである。抗菌薬耐性が懸念される場合は,感受性試験の結果が判明するまで,アミノグリコシド系薬剤と第3世代セファロスポリン系薬剤またはスペクトルの広いβ-ラクタム系薬剤(例,メロペネム)の双方を使用してもよい。

グラム陽性菌髄膜炎に対する注射剤による治療は最低でも14日間は継続し,合併症を起こしたグラム陽性菌またはグラム陰性菌の髄膜炎では最低でも21日間以上継続する。抗菌薬の脳室内投与は推奨されない。

補助的手段

髄膜炎は新生児敗血症の部分症と考えることができるため,新生児敗血症の治療に用いられる補助的手段を新生児髄膜炎の治療にも採用すべきである。コルチコステロイドは新生児髄膜炎の治療には使用しない。小児期早期には,感音難聴を含めた神経学的合併症について綿密なモニタリングを行うべきである。

要点

  • 新生児細菌性髄膜炎の最も頻度の高い原因はB群レンサ球菌,大腸菌(E. coli),およびL. monocytogenesである。

  • 症状はしばしば非特異的である(例,体温調節障害,呼吸窮迫,黄疸,無呼吸)。

  • 中枢神経系の徴候(例,嗜眠,痙攣,嘔吐,易刺激性)を呈することもあるが,泉門の膨隆ないし緊満や項部硬直などの古典的所見はまれである。

  • 髄膜炎を起こした新生児の一部は髄液の指標(例,白血球数,タンパク質値および糖値)が正常となるため,髄液培養が極めて重要である。

  • アンピシリン,ゲンタマイシン,およびセフォタキシムによる経験的治療を開始し,続いて培養および感受性試験の結果に応じて特異的な薬剤を開始する。

  • コルチコステロイドは新生児髄膜炎には使用しない。

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