(心血管系の先天異常の概要 心血管系の先天異常の概要 先天性心疾患は,最も頻度の高い先天奇形であり,出生児の1%近くに発生する( 1)。先天異常のうち,先天性心疾患は乳児期死亡の主要な原因である。 乳児期に診断される最も頻度の高い先天性心疾患は,筋性部および膜性部 心室中隔欠損症であり,それに二次孔型 心房中隔欠損症が続き,これらを合わせた有病率は出生10... さらに読む , 心房中隔欠損症 心房中隔欠損症(ASD) 心房中隔欠損症(ASD)は,心房中隔が開口している状態であり,左右短絡と右房および右室の容量負荷を引き起こす。小児期に症状が出現することはまれであるが,20歳以降に生じる長期合併症として,肺高血圧,心不全,心房性不整脈などがある。成人期とまれに青年期には,運動耐容能低下,呼吸困難,疲労,心房性不整脈などを呈することがある。II音の大幅な固定性分裂を伴って,胸骨左縁上部で弱い収縮中期雑音がよく聴取される。診断は心エコー検査による。治療法は... さらに読む ,および 心室中隔欠損症 心室中隔欠損症(VSD) 心室中隔欠損症(VSD)は,心室中隔が開口している状態であり,両心室間の短絡を引き起こす。欠損孔が大きい場合,有意な左右短絡の発生につながり,乳児期に哺乳時の呼吸困難および発育不良を来す。胸骨左縁下部で粗大な全収縮期雑音が聴取されることが多い。繰り返す呼吸器感染症や心不全を来すことがある。診断は心エコー検査による。欠損孔は乳児期に自然閉鎖する場合もあれば,外科的修復が必要になる場合もある。... さらに読む も参照のこと。)
房室中隔欠損症は先天性心奇形の約5%を占める。この奇形はかつて,共通房室弁口や心内膜床欠損などの別の名称で呼ばれていた。「房室中隔欠損症」は,この奇形の全ての病型で房室中隔(左室と右房を隔てる中隔構造)がみられないことから,望ましい名称として広く受け入れられている。
房室中隔欠損症には以下の病型がある。
完全型,大きな(非拘束型[nonrestrictive])流入部心室中隔欠損症
移行型,中等大までの(拘束型[restrictive])心室中隔欠損症
部分型,心室中隔欠損症を認めないもの
完全型の患者の大多数には ダウン症候群 ダウン症候群(21トリソミー) ダウン症候群は21番染色体の異常であり, 知的障害,小頭症,低身長,および特徴的顔貌を引き起こす。診断は身体奇形と発達異常から示唆され,細胞遺伝学的検査によって確定される。管理方針は具体的な臨床像および奇形に応じて異なる。 ( 染色体異常症の概要も参照のこと。) 出生児における全体の発生率は約1/700であり,母体年齢が上がるにつれてリスクが徐々に増大する。母体年齢別の出生児におけるリスクは,20歳で1/2000,35歳で1/365,4... さらに読む が認められる。また房室中隔欠損症は,無脾または多脾(内臓逆位)症候群の患者にもよくみられる。
完全型房室中隔欠損症
完全型房室中隔欠損症(房室中隔欠損症 房室中隔欠損症(完全型) の図を参照)は,心房中隔の前下面の大きな 一次孔型心房中隔欠損 分類 心房中隔欠損症(ASD)は,心房中隔が開口している状態であり,左右短絡と右房および右室の容量負荷を引き起こす。小児期に症状が出現することはまれであるが,20歳以降に生じる長期合併症として,肺高血圧,心不全,心房性不整脈などがある。成人期とまれに青年期には,運動耐容能低下,呼吸困難,疲労,心房性不整脈などを呈することがある。II音の大幅な固定性分裂を伴って,胸骨左縁上部で弱い収縮中期雑音がよく聴取される。診断は心エコー検査による。治療法は... さらに読む (ASD),大きな流入部心室中隔欠損,および共通房室弁口から構成される。完全型共通房室弁口とも呼ばれる。心房および心室レベルで左右短絡が生じ,しばしば大量となる;房室弁逆流が有意となる場合もあり,ときに左室から右房への直接短絡が生じることもある。これらの異常により4つの心腔が全て拡大する。血行動態所見は大きな 心室中隔欠損症(VSD) 心室中隔欠損症(VSD) 心室中隔欠損症(VSD)は,心室中隔が開口している状態であり,両心室間の短絡を引き起こす。欠損孔が大きい場合,有意な左右短絡の発生につながり,乳児期に哺乳時の呼吸困難および発育不良を来す。胸骨左縁下部で粗大な全収縮期雑音が聴取されることが多い。繰り返す呼吸器感染症や心不全を来すことがある。診断は心エコー検査による。欠損孔は乳児期に自然閉鎖する場合もあれば,外科的修復が必要になる場合もある。... さらに読む の場合と同様である。
完全型房室中隔欠損症が修復されないと,時間の経過とともに肺血流量,肺動脈圧,および肺血管抵抗が上昇することで短絡方向が逆転し,結果としてチアノーゼと アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群は,大量の心内左右短絡または大動脈から肺動脈への左右短絡が是正されない場合に発生する合併症である。肺血管抵抗が徐々に増大するにつれて,やがて重度の肺高血圧が生じ,右左短絡の進行性の増大を伴う両方向性短絡に至る。チアノーゼと低酸素症により,後述の複数の合併症がもたらされることは不可避である。身体所見は基礎にある異常および病態生理学的異常の程度によって異なる。診断は心エコー検査または先進的な画像検査および心臓カテーテ... さらに読む が生じる。
房室中隔欠損症(完全型)
肺血流量と全房室容積が増加し,しばしば肺血管抵抗が上昇する。心房圧は平均圧である。 AO = 大動脈;IVC = 下大静脈;LA = 左房;LV = 左室;PA = 肺動脈;PV = 肺静脈;RA = 右房;RV = 右室;SVC = 上大静脈。 |
移行型房室中隔欠損症
移行型房室中隔欠損症は,一次孔型心房中隔欠損,拘束型の流入部 心室中隔欠損 心室中隔欠損症(VSD) 心室中隔欠損症(VSD)は,心室中隔が開口している状態であり,両心室間の短絡を引き起こす。欠損孔が大きい場合,有意な左右短絡の発生につながり,乳児期に哺乳時の呼吸困難および発育不良を来す。胸骨左縁下部で粗大な全収縮期雑音が聴取されることが多い。繰り返す呼吸器感染症や心不全を来すことがある。診断は心エコー検査による。欠損孔は乳児期に自然閉鎖する場合もあれば,外科的修復が必要になる場合もある。... さらに読む (大きさは中等大まで),および共通房室弁(左右の弁口に分かれていることもあれば,分かれていないこともある)から構成される。移行型共通房室弁口とも呼ばれる。心房レベルの短絡は通常大量である。心室レベルの短絡は完全型房室中隔欠損症より少なく,右室圧が左室圧よりも低い。血行動態は,主にVSDの大きさと有意な房室弁逆流の有無に依存する。
部分型房室中隔欠損症
部分型房室中隔欠損症は,一次孔型心房中隔欠損と2つの房室弁口に分かれた共通房室弁から構成され,いわゆる僧帽弁裂隙(左房室弁口)が生じる。心室中隔には欠損はみられない。血行動態異常は 二次孔型ASD 心房中隔欠損症(ASD) 心房中隔欠損症(ASD)は,心房中隔が開口している状態であり,左右短絡と右房および右室の容量負荷を引き起こす。小児期に症状が出現することはまれであるが,20歳以降に生じる長期合併症として,肺高血圧,心不全,心房性不整脈などがある。成人期とまれに青年期には,運動耐容能低下,呼吸困難,疲労,心房性不整脈などを呈することがある。II音の大幅な固定性分裂を伴って,胸骨左縁上部で弱い収縮中期雑音がよく聴取される。診断は心エコー検査による。治療法は... さらに読む の場合(例,心房レベルの左右短絡,右房・右室の拡大,肺血流量の増加)と同様であり,加えて様々な程度の房室弁逆流の所見を伴う。
不均衡型房室中隔欠損症(unbalanced AV septal defect)
患者の一部では,共通房室弁口の位置が一方の心室に偏っている。この状態を不均衡型(unbalanced)房室中隔欠損症と呼び,一方の心室が多くの血流を受け,他方の心室に形成不全が起こる。
症状と徴候
大量の左右短絡を伴う完全型房室中隔欠損症では,生後4~6週までに 心不全 心不全 先天性心疾患は,最も頻度の高い先天奇形であり,出生児の1%近くに発生する( 1)。先天異常のうち,先天性心疾患は乳児期死亡の主要な原因である。 乳児期に診断される最も頻度の高い先天性心疾患は,筋性部および膜性部 心室中隔欠損症であり,それに二次孔型 心房中隔欠損症が続き,これらを合わせた有病率は出生10... さらに読む 徴候(例,頻呼吸,哺乳時の呼吸困難,体重増加不良,発汗)が発生する。肺血管閉塞性病変(アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群は,大量の心内左右短絡または大動脈から肺動脈への左右短絡が是正されない場合に発生する合併症である。肺血管抵抗が徐々に増大するにつれて,やがて重度の肺高血圧が生じ,右左短絡の進行性の増大を伴う両方向性短絡に至る。チアノーゼと低酸素症により,後述の複数の合併症がもたらされることは不可避である。身体所見は基礎にある異常および病態生理学的異常の程度によって異なる。診断は心エコー検査または先進的な画像検査および心臓カテーテ... さらに読む )は,通常は晩期の合併症であるが,早期に発生することもある(特に ダウン症候群 ダウン症候群(21トリソミー) ダウン症候群は21番染色体の異常であり, 知的障害,小頭症,低身長,および特徴的顔貌を引き起こす。診断は身体奇形と発達異常から示唆され,細胞遺伝学的検査によって確定される。管理方針は具体的な臨床像および奇形に応じて異なる。 ( 染色体異常症の概要も参照のこと。) 出生児における全体の発生率は約1/700であり,母体年齢が上がるにつれてリスクが徐々に増大する。母体年齢別の出生児におけるリスクは,20歳で1/2000,35歳で1/365,4... さらに読む 患児の場合)。
部分型房室中隔欠損症は通常,左房室弁逆流が軽度または全くない場合,小児期には症状を引き起こさない。しかしながら,青年期または成人期早期になると,症状(例,運動耐容能低下,疲労,動悸)が現れてくる。中等度または重度の左房室弁逆流のある乳児では,しばしば心不全の徴候が出現する。移行型房室中隔欠損症の患者では,心室中隔欠損症の拘束性が中等度で血流が多い場合は心不全の徴候がみられ,心室中隔欠損症の拘束性が高い(サイズが小さい)場合は無症状のことがある。
完全型房室中隔欠損症患児の身体診察では,右室の容量および圧負荷による心尖拍動の亢進,肺高血圧による単一II音(S2)の亢進,2~3/6度収縮期雑音のほか,ときに心尖部および胸骨左縁下部に拡張期雑音が認められる(心雑音の強度 心雑音の強度 の表を参照)。高い肺血管抵抗が持続する患者,特にダウン症候群の患者では,雑音が聴かれないこともあるが,大きな単一II音が聴取される。
部分型では,大部分の症例において 二次孔型心房中隔欠損症 心房中隔欠損症(ASD) 心房中隔欠損症(ASD)は,心房中隔が開口している状態であり,左右短絡と右房および右室の容量負荷を引き起こす。小児期に症状が出現することはまれであるが,20歳以降に生じる長期合併症として,肺高血圧,心不全,心房性不整脈などがある。成人期とまれに青年期には,運動耐容能低下,呼吸困難,疲労,心房性不整脈などを呈することがある。II音の大幅な固定性分裂を伴って,胸骨左縁上部で弱い収縮中期雑音がよく聴取される。診断は心エコー検査による。治療法は... さらに読む に似た診察所見がみられ,胸骨左縁上部に大きく分裂したII音(S2)および収縮中期雑音(例,駆出性収縮期雑音)が聴取される。心房レベルの短絡量が多い場合は,拡張中期雑音が胸骨左縁下部に聴取されることがある。左房室弁に裂隙がある場合は,僧帽弁逆流により心尖部に風が吹いたような音質の収縮期雑音が発生する。
診断
胸部X線および心電図
心エコー検査
房室中隔欠損症の診断は,診察で示唆され,胸部X線および心電図で裏付けを得て,カラードプラ法を用いた2次元心エコー検査によって確定する。
胸部X線では,右房拡大,両室拡大,主肺動脈の膨隆,および肺血管陰影の増強を伴った心拡大を認める。
心電図では,上向きのQRS軸(例,左軸偏位すなわち北西軸),しばしば第1度房室ブロック,左室肥大,右室肥大または両室肥大,ときに右房拡大および右脚ブロックを認める。
カラードプラ法を用いた2次元心エコー検査により,診断を確定するとともに,重要な解剖学的および血行動態学的情報を得ることができる。心臓カテーテル検査は,外科的修復前に血行動態を詳細に検討する場合(例,より年長の時点で受診した患者を対象に肺血管抵抗を評価する場合)を除いて,通常は不要である。
治療
外科的修復
心不全に対して,術前に内科的治療(例,利尿薬,ジゴキシン,アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
完全型房室中隔欠損症は,ほとんどの患児に心不全と発育不良がみられるため,生後2~4カ月までに修復すべきである。たとえ有意な症状なく良好に発育している場合でも,肺血管疾患の発生を予防するため,生後6カ月以内に修復を行うべきである(特にダウン症候群の乳児)。
両心室の大きさが十分にあり,他に異常がない患者では,中心部の大きな欠損(一次孔型ASDおよび流入部VSDの合併)を閉鎖するとともに,共通房室弁を2つの独立した弁になるように再建する。手術死亡率は以前の症例集積研究では5~10%であったが,最近では3~4%まで低下している。手術合併症としては,完全房室ブロック(3%),心室中隔欠損の遺残,左房室弁逆流などがみられる。比較的まれな残存する異常として,右房室弁逆流,左または右房室弁狭窄,大動脈弁下狭窄などがある。
開心術による修復のタイミングを遅らせるための姑息的処置として肺動脈絞扼術が用いられることもあり,特に早産児や,低年齢または低体重での完全修復を行うリスクを高める合併症のある患児がよい適応である。
部分型欠損の無症状の患児には1~3歳時に待機手術を行う。手術死亡率は非常に低いはずである。
右室低形成または左室低形成のいずれかを伴う不均衡型(unbalanced)房室中隔欠損症の患者の一部では,一般に二心室修復術が施行できず,単心室循環を見据えた段階的手術を要し,最終的には Fontan手術 治療 が必要になる。
大量の短絡と 心不全 新生児における心不全 先天性心疾患は,最も頻度の高い先天奇形であり,出生児の1%近くに発生する( 1)。先天異常のうち,先天性心疾患は乳児期死亡の主要な原因である。 乳児期に診断される最も頻度の高い先天性心疾患は,筋性部および膜性部 心室中隔欠損症であり,それに二次孔型 心房中隔欠損症が続き,これらを合わせた有病率は出生10... さらに読む がみられる患児では,利尿薬,ジゴキシン,およびアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が手術前の症状管理に役立つ。
心内膜炎予防 予防 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む は,術前には必要ないが,修復後最初の6カ月間,または外科用パッチに隣接して遺残欠損がある場合にのみ必須である。
要点
房室中隔欠損症には完全型,移行型,および部分型があり,完全型の患児の大多数はダウン症候群を有する。
完全型房室中隔欠損症は,大きな一次孔型心房中隔欠損(ASD),心室中隔欠損(VSD),および共通房室弁(しばしば有意な逆流を伴う)から構成され,これら全てにより心房と心室の両レベルでの大量の左右短絡と4つの心房心室全ての拡大を来す。
部分型房室中隔欠損症では,ASDを有するが共通房室弁が2つの独立した房室弁口に分かれており,VSDはなく,心房レベルの短絡は大量であるが,心室心房レベルの短絡はないため,右房・右室の拡大を来す。
移行型房室中隔欠損症は,一次孔型ASD,共通房室弁,および小さいまたは中等大のVSDから構成される。
大量の左右短絡を伴う完全型房室中隔欠損症では,生後4~6週までに心不全徴候が発生する。
部分型房室中隔欠損症の症状は,僧帽弁逆流の程度によって異なり,逆流が軽度または全くない場合には青年期または成人期早期になって発症するが,中等度から重度の僧帽弁逆流がある乳児では,しばしば心不全症状が出現する。
移行型房室中隔欠損症の症状は,VSDの大きさに依存した一連のスペクトラムを構成する。
具体的な欠損と症状の重症度に応じて,生後2~4カ月または1~3歳までの期間中に外科的に欠損を修復する。
より詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Heart Association: Common Heart Defects: Provides overview of common congenital heart defects for parents and caregivers
American Heart Association: Infective Endocarditis:: Provides an overview of infective endocarditis, including summarizing prophylactic antibiotic use, for patients and caregivers