(心血管系の先天異常の概要 心血管系の先天異常の概要 先天性心疾患は,最も頻度の高い先天奇形であり,出生児の1%近くに発生する( 1)。先天異常のうち,先天性心疾患は乳児期死亡の主要な原因である。 乳児期に診断される最も頻度の高い先天性心疾患は,筋性部および膜性部 心室中隔欠損症であり,それに二次孔型 心房中隔欠損症が続き,これらを合わせた有病率は出生10... さらに読む も参照のこと。)
心房中隔欠損症は先天性心疾患症例の約6~10%を占める。大半の症例が単独発生かつ散発例であるが,遺伝性症候群の部分症として発生するものもある(例,5番染色体の遺伝子変異,Holt-Oram症候群)。心房中隔欠損症と 房室伝導障害 房室ブロック 房室ブロックとは,心房から心室への興奮伝導が部分的または完全に途絶する状態である。最も一般的な原因は,伝導系に生じる特発性の線維化および硬化である。診断は心電図検査による;症状および治療はブロックの程度に依存するが,治療が必要な場合は通常,ペーシングが行われる。 ( 不整脈の概要も参照のこと。) 房室ブロックの最も一般的な原因は以下のものである: 伝導系に生じる特発性の線維化および硬化(約50%の患者)... さらに読む の合併には,ホメオボックス遺伝子NKX2-5の変異が関連している可能性がある。
分類
ASDは発生部位によって分類できる:
二次孔型:卵円窩(心房中隔の中心部分)に欠損があるもの
静脈洞型:心房中隔後面の上大静脈または下大静脈付近に欠損があるもので,しばしば,右上または右下肺静脈の右房または大静脈への還流異常を合併する
病態生理
心房中隔欠損症(およびその他の奇形)でみられる血行動態変化を理解し,正常な血行動態を見直すには, 正常循環における典型的な右心圧と左心圧 正常循環における典型的な右心圧と左心圧(mmHg) の図を参照のこと。
正常循環における典型的な右心圧と左心圧(mmHg)
典型的な右心系の酸素飽和度 = 75%;典型的な左心系の酸素飽和度 = 95%。心房圧は平均圧である。 AO = 大動脈;IVC = 下大静脈;LA = 左房;LV = 左室;PA = 肺動脈;PV = 肺静脈;RA = 右房;RV = 右室;SVC = 上大静脈。 |
心房中隔欠損症では,初期の短絡方向は左から右である(心房中隔欠損症 心房中隔欠損症 の図を参照)。小さなASDは,単に卵円孔が伸長した開口である場合が多いが,生後数年間で自然閉鎖するものもある。中等大から大型のASDが長期間持続すると,大量の短絡が起こり,右房および右室に容量負荷が生じる。このような大量の短絡が修復されない場合,30歳代または40歳代で肺高血圧,肺血管抵抗上昇,および右室肥大を来す可能性がある。 上室頻拍 リエントリー性上室頻拍(SVT),WPW症候群を含む リエントリー性上室頻拍(SVT)は,ヒス束分岐部より上位の要素を含むリエントリー性伝導路が関与する。患者には突然始まって突然停止する突発性の動悸がみられ,患者によっては呼吸困難や胸部不快感もみられる。診断は臨床および心電図所見による。通常,初期治療は迷走神経刺激による。それが無効に終わった場合,QRS幅の狭い調律,あるいは房室結節伝導を必要とする変行伝導を伴うリエントリー性SVTと判明しているQRS幅の広い調律は,静注のアデノシンまたは... さらに読む (SVT), 心房粗動 心房粗動 心房粗動は,心房のマクロリエントリー回路に起因する速い規則的な心房調律である。症状としては,動悸のほか,ときに脱力感,運動耐容能低下,呼吸困難,失神前状態などがみられる。心房内血栓が形成されて塞栓症を来すことがある。診断は心電図検査による。治療としては,薬剤によるレートコントロールと抗凝固療法による血栓塞栓症の予防のほか,ときに洞調律に復帰させるための薬剤投与,カルディオバージョン,または心房粗動の基質に対するアブレーションを行う。... さらに読む , 心房細動 心房細動 心房細動は,心房における速い絶対的不整(irregularly irregular)の調律である。症状としては,動悸のほか,ときに脱力感,運動耐容能低下,呼吸困難,失神前状態などがみられる。心房内血栓が形成されることがあり,その場合塞栓性脳卒中のリスクが有意に増大する。診断は心電図検査による。治療としては,薬剤によるレートコントロールと抗凝固療法による血栓塞栓症の予防のほか,ときに洞調律に復帰させるための薬剤投与またはカルディオバージョ... さらに読む などの心房性不整脈も生じる可能性がある。心房短絡が存在すると,たとえ左右短絡が優勢であっても,一過性の右左短絡による奇異性塞栓を合併することがある。最終的には,肺動脈圧と肺血管抵抗が上昇することにより,成人期中期から後期(大半は40歳以降)にチアノーゼを伴う両方向性の心房位短絡が生じることになる(アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群は,大量の心内左右短絡または大動脈から肺動脈への左右短絡が是正されない場合に発生する合併症である。肺血管抵抗が徐々に増大するにつれて,やがて重度の肺高血圧が生じ,右左短絡の進行性の増大を伴う両方向性短絡に至る。チアノーゼと低酸素症により,後述の複数の合併症がもたらされることは不可避である。身体所見は基礎にある異常および病態生理学的異常の程度によって異なる。診断は心エコー検査または先進的な画像検査および心臓カテーテ... さらに読む )。
心房中隔欠損症
肺血流量と右房および右室容積が増加する。(注:心内圧は一般に小児期を通じて正常範囲に留まる。)大きな欠損がある場合,右房圧と左房圧は等しくなる。AO = 大動脈;IVC = 下大静脈;LA = 左房;LV = 左室;PA = 肺動脈;PV = 肺静脈;RA = 右房;RV = 右室;SVC = 上大静脈。 |
症状と徴候
中等大までの心房中隔欠損を有する患者の大半は無症状である。幼児期のうちは,大きな欠損でも症状を引き起こさない場合がある。大量の短絡は,幼児期に体重増加遅滞を,児童期には運動耐容能低下,労作時の呼吸困難,疲労,および/または動悸を引き起こすことがある。しばしば不整脈に関連して生じる静脈循環からの微小塞栓が心房中隔欠損孔を通過すると(奇異性塞栓),脳卒中を含めた脳または全身の血栓塞栓症を来すことがある。まれに,ASDが未診断ないし無治療のまま放置されると, アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群は,大量の心内左右短絡または大動脈から肺動脈への左右短絡が是正されない場合に発生する合併症である。肺血管抵抗が徐々に増大するにつれて,やがて重度の肺高血圧が生じ,右左短絡の進行性の増大を伴う両方向性短絡に至る。チアノーゼと低酸素症により,後述の複数の合併症がもたらされることは不可避である。身体所見は基礎にある異常および病態生理学的異常の程度によって異なる。診断は心エコー検査または先進的な画像検査および心臓カテーテ... さらに読む が発生する。
典型例では,聴診時に胸骨左縁上部で2/6~3/6度の収縮中期(駆出性収縮期)雑音(心雑音の強度 心雑音の強度 の表を参照)とII音(S2)の幅の広い固定性分裂が聴取される。心房間に大量の左右短絡がある場合は,胸骨左縁上部で低調の拡張期雑音(三尖弁通過血流の増加による)が生じることがある。これらの所見は,たとえ大きな欠損孔があっても,乳児では認められないことがある。著明な右室拍動(胸骨近傍の隆起や挙上として現れる)を認めることもある。
診断
胸部X線および心電図
心エコー検査
心房中隔欠損症の診断は,心臓診察,胸部X線,および心電図で示唆され,カラードプラ法を用いた2次元心エコー検査によって確定する。
有意な短絡がある場合は,心電図で右軸偏位,右室肥大,または右室伝導遅延(V1で高いR′波を伴うrSR′型)を認めることがある。胸部X線では,右房および右室拡大を伴う心拡大,主肺動脈の拡大,ならびに肺血管陰影の増強を認める。
心エコー検査では,ASDの存在を確認し,欠損部の解剖学的位置と大きさを明らかにし,右房および右室の容量負荷の程度を評価する。
欠損孔のカテーテル閉鎖術を予定している場合を除き,心臓カテーテル検査が必要になることはまれである。
治療
経過観察,カテーテル閉鎖術,または外科的修復
中心に位置する小さな(< 3mm)心房中隔欠損は大半が自然閉鎖し,3~8mmのASDも多くが3歳までに自然閉鎖する。このような欠損はおそらく,真の二次孔型ASDではなく,卵円孔が伸長して開口したものである。一次孔型ASDおよび静脈洞型ASDは,自然閉鎖することはない。
短絡量が少ない無症状の患児は経過観察とし,ときおり(典型的には3~5年毎に)心エコー検査を行うのみでよい。このような小児では,理論上は全身性の奇異性塞栓のリスクがあるが,この事象が小児期に発生することはまれである。したがって,血行動態的に有意でない小さな欠損孔の閉鎖は標準の治療ではない。
中等大から大型のASD(心エコー検査で右室容量負荷の所見を認める)は,典型的には2~6歳で閉鎖すべきである。慢性肺疾患を有する小児では早期に修復を考慮してもよい。様々な医療機器製品(例,Amplatzer®またはGore HELEX® septal occluder[中隔欠損閉鎖栓])を用いたカテーテルによる閉鎖術は,85~90%の欠損孔に施行可能であり,十分な中隔組織縁や重要構造(例,大動脈基部,肺静脈,三尖弁輪)からの距離など,適切な解剖学的特徴が認められる場合に好んで用いられる(1 治療に関する参考文献 心房中隔欠損症(ASD)は,心房中隔が開口している状態であり,左右短絡と右房および右室の容量負荷を引き起こす。小児期に症状が出現することはまれであるが,20歳以降に生じる長期合併症として,肺高血圧,心不全,心房性不整脈などがある。成人期とまれに青年期には,運動耐容能低下,呼吸困難,疲労,心房性不整脈などを呈することがある。II音の大幅な固定性分裂を伴って,胸骨左縁上部で弱い収縮中期雑音がよく聴取される。診断は心エコー検査による。治療法は... さらに読む )。それ以外の場合は,外科的修復の適応となる。静脈洞型および一次孔型(房室中隔型)欠損はデバイス閉鎖術に適さない。小児期に修復を行えば,周術期死亡率は0に近づき,長期生存率も一般集団のそれに近づく。
心内膜炎予防 予防 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む は,術前には必要ないが,修復後最初の6カ月間または外科用パッチに隣接して遺残欠損がある場合にのみ必須である。
治療に関する参考文献
1.Faccini A, Butera G: Atrial septal defect (ASD) device trans-catheter closure: limitations.J Thorac Dis 10 (Suppl 24):S2923–S2930, 2018.
要点
心房中隔欠損(ASD)は,心房間中隔のいくつかの部分の1つに生じた開口であり,左右短絡を引き起こす。
小さな心房間交通はしばしば自然閉鎖するが,大きなものは自然閉鎖せず,右房および右室負荷を引き起こし,最終的には肺動脈高血圧,肺血管抵抗上昇,および右室肥大が生じるほか,上室頻拍,心房粗動,または心房細動が発生する場合もある。
ASDを介して静脈由来の塞栓が体循環に入ると(奇異性塞栓),血管閉塞(例,脳卒中)が起こる。
典型例では,聴診時に2/6~3/6度の収縮中期雑音とII音の大幅な固定性分裂が聴取されるが,乳児ではこれらの所見がみられないこともある。
中等大から大型のASDは,典型的には2~6歳で閉鎖すべきであり,可能であればカテーテルデバイスにより閉鎖する。
より詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Heart Association: Common Heart Defects: Provides overview of common congenital heart defects for parents and caregivers
American Heart Association: Infective Endocarditis: Provides an overview of infective endocarditis, including summarizing prophylactic antibiotic use, for patients and caregivers