亜急性硬化性全脳炎(SSPE)

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2019年 8月
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亜急性硬化性全脳炎は,麻疹の発病後数カ月から通常は数年経過した後に発症する,通常は死に至る進行性の脳疾患である。知的退行,ミオクローヌス,および痙攣発作を引き起こす。診断では脳波検査,CTまたはMRI,髄液検査,および麻疹の血清学的検査を行う。治療は支持療法による。

ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼすウイルスについては,新生児における感染症で考察されている。本章は,一般的に小児期に発症するウイルス感染症(多くは成人にも発生しうる)を対象としている。

亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は,おそらく持続性の麻疹ウイルス感染症である。脳組織中に麻疹ウイルスが認められる。

従来,SSPEは自然麻疹患者では100万人当たり約7~300例に,麻疹ワクチン接種者では100万人当たり約1例の頻度で発生していた;ワクチン接種後の発症例は,全例がワクチン接種前に感染して認識されなかった麻疹に起因するものと考えられる。男性の方がより頻度が高い。SSPEの発生リスクは,2歳未満で麻疹に感染した場合に最も高くなる。発症年齢は通常20歳未満である。

麻疹の予防接種が広く普及しているため,SSPEは米国および西欧では極めてまれである。しかしながら,最近の麻疹のアウトブレイクを分析した結果から,SSPEの発生率はかつて考えられていたよりも高いことが示唆されており,おそらくは麻疹100万例当たり40~1700例にも上ると推定されている(1)。予防接種を受けていない集団で麻疹のアウトブレイクが増加していることを考慮すると,この発生率は特に懸念される。

総論の参考文献

  1. 1.Wendorf KA, Winter K, Zipprich J, et al: Subacute sclerosing panencephalitis: The devastating measles complication that might be more common than previously estimated.Clin Infect Dis 65(2):226–232, 2017.doi: 10.1093/cid/cix302.

症状と徴候

最初の徴候は微妙である場合が多く,学力低下,もの忘れ,かんしゃく,注意散漫,不眠などがみられる。しかしながら,その後に幻覚やミオクローヌスが生じ,全身痙攣が続くこともある。さらなる知能退行と言語能力の低下がみられる。ジストニア運動および一過性の後弓反張が生じる。その後,筋硬直,嚥下困難,皮質盲,および視神経萎縮が起こることがある。眼底検査では巣状の脈絡網膜炎とその他の異常がよくみられる。末期になると,視床下部病変によって間欠的な高体温,発汗,脈拍および血圧の異常などが引き起こされる。

診断

  • 血清学的検査

  • 脳波検査

  • 神経画像検査

認知症と筋神経系の易刺激性がみられる若年患者では,SSPEが疑われる。脳波検査,CTまたはMRI,髄液検査,および麻疹の血清学的検査を施行する。脳波検査では,二相性の高振幅波形を伴う周期性複合波が記録中絶えず同期性に認められる。CTまたはMRIでは,皮質萎縮または白質病変を認めることがある。髄液検査では通常,頭蓋内圧,細胞数,および総タンパク質量は正常となるが,髄液グロブリン値はほぼ必ず上昇し,髄液タンパク質の最高20~60%を占めるようになる。血清および髄液には,麻疹ウイルス抗体が高濃度で含まれる。抗麻疹IgGは,病勢の進行とともに上昇するようである。

検査結果が決定的でない場合は,脳生検が必要になることもある。

予後

この疾患は,ほぼ例外なく1~3年以内に死に至るが(肺炎が最終的な事象となる場合が多い),より長期の経過をたどる症例もある。少数の患者では寛解と増悪を繰り返す。

治療

  • 支持療法

一般に受け入れられている治療法は,抗てんかん薬とその他の支持療法のみである。イソプリノシン,インターフェロンα,およびラミブジンについては議論があり,抗ウイルス薬が役立つとは基本的に証明されていない。

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