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骨盤内炎症性疾患 (PID)

執筆者:

David E. Soper

, MD, Medical University of South Carolina

最終査読/改訂年月 2015年 1月
本ページのリソース

骨盤内炎症性疾患(PID)は,上部女性性器(子宮頸部,子宮,卵管,および卵巣)の感染症である;膿瘍が生じることがある。一般的な症状および徴候として,下腹部痛,頸管分泌物,および不正性器出血がある。長期合併症には,不妊,慢性骨盤痛,および異所性妊娠がある。診断には,淋菌(Neisseria gonorrhoeae)とクラミジアに関する子宮頸部検体のPCR,頸管分泌物の顕微鏡検査(通常),超音波検査または腹腔鏡検査(ときに)が含まれる。治療は抗菌薬による。

子宮頸部の感染(子宮頸管炎— 子宮頸管炎)により粘液膿性の分泌物が生じる。卵管の感染(卵管炎)および子宮の感染(子宮内膜炎)が併発する傾向がある。重度の場合,感染は卵巣(卵巣炎),そして腹膜(腹膜炎)に広がりうる。子宮内膜炎および卵巣炎を伴う卵管炎は,腹膜炎を伴っているかにかかわらず,他の組織が侵されていても,しばしば卵管炎と呼ばれる。卵管に膿が溜まり(卵管留膿症),膿瘍が形成されることがある(卵管卵巣膿瘍)。

病因

骨盤内炎症性疾患は,腟および子宮頸部から子宮内膜および卵管へ上行する微生物が原因となる。淋菌(Neisseria gonorrhoeae)および Chlamydia trachomatisは,骨盤内炎症性疾患の一般的な原因である;これらは性行為によって伝播される。性器マイコプラズマ(Mycoplasma genitalium)もまた性行為により伝播され,骨盤内炎症性疾患の原因となる,または寄与することがある。

骨盤内炎症性疾患には通常,他の好気性および嫌気性細菌も関与しており,細菌性腟症に関連する病原体を含む( 細菌性腟症(BV))。

危険因子

骨盤内炎症性疾患は一般的に35歳未満の女性で起こる。初経前,閉経後,および妊娠中に起こることはまれである。

危険因子としては以下のものがある:

  • 骨盤内炎症性疾患の既往

  • 細菌性腟症または他の性感染症の存在

特に淋菌またはクラミジア感染症による骨盤内炎症性疾患に関する他の危険因子としては以下のものがある:

  • 若年齢

  • 白人以外の人種

  • 社会経済的に低い地位

  • 複数または新しいセックスパートナー

症状と徴候

下腹部痛,発熱,頸管分泌物,および異常子宮出血が,特に月経中または月経後に多くみられる。

子宮頸管炎

頸管は発赤し,出血しやすくなる( 子宮頸管炎 : 症状と徴候)。粘液膿性の分泌物が一般的にみられる;通常は黄緑色で,子宮頸管からの流出を認めることがある。

急性卵管炎

下腹部痛が通常存在し,両側性であるが,両側の卵管が侵されていても片側のみが痛むことがある。痛みは上腹部にも生じることがある。痛みが重度である場合には,悪心および嘔吐が一般にみられる。不正出血(子宮内膜炎による)および発熱は,それぞれ最大3分の1の患者にみられる。

早期の段階では,徴候は軽度であるか全くない。後に,子宮頸部移動痛,筋性防御,および反跳痛が一般的に生じる。

ときに性交痛や排尿困難が起こる。

瘢痕を生じるほど重度の炎症を認める場合でも,症状はごく軽度であるか,全くないこともある。

淋菌(N. gonorrhoeae)による骨盤内炎症性疾患は,無痛なことがあるC. trachomatisによるものと比べ,通常は急性で,より重度の症状をもたらす。性器マイコプラズマ(M. genitalium)による骨盤内炎症性疾患は,C. trachomatisによるものと同様軽度であり,骨盤内炎症性疾患の第1選択の治療法に反応しない患者で考慮すべきである。

合併症

淋菌またはクラミジアによる急性卵管炎は,Fitz-Hugh-Curtis症候群(右上腹部痛を引き起こす肝周囲炎)に至ることがある。感染は慢性となることがあり,それは間欠的な増悪と寛解を特徴とする。

卵管卵巣膿瘍(付属器における膿の蓄積)が卵管炎を有する女性の約15%に発生する。急性または慢性の感染を伴うことがあり,治療が遅れたり不完全であったりするとより可能性が高い。痛み,発熱,および腹膜刺激徴候が通常みられ,重度の場合がある。付属器腫瘤が触知できることがあるが,激しい圧痛のため診察が限られることがある。膿瘍が破裂すると進行性の重度の症状,およびおそらく敗血症性ショックを引き起こす場合がある。

卵管留水症は非膿性の液体による卵管采部の閉塞および卵管の膨張である;通常無症候性であるが,骨盤部圧迫感,慢性骨盤痛,性交痛,および/または不妊の原因となることがある。

卵管炎は卵管に瘢痕および癒着を起こし,一般的に慢性骨盤痛,不妊,異所性妊娠のリスク増加の原因となる。

診断

  • 強く疑うこと

  • PCR

  • 妊娠検査

妊娠可能年齢の女性(特に危険因子を有する者)に下腹部痛,または頸管分泌物や原因不明の腟分泌物がみられる場合には,骨盤内炎症性疾患が疑われる。原因不明の不正性器出血,性交痛,または排尿困難がある場合には,骨盤内炎症性疾患が考えられる。下腹部,片側または両側の付属器の圧痛,および頸部移動痛がある場合には,骨盤内炎症性疾患の可能性がより高い。触知可能な付属器腫瘤は卵管卵巣膿瘍を示唆する。非常にわずかな症状を示す感染症であっても,重度の後遺症が残ることがあるため,あらゆる可能性を疑うべきである。

骨盤内炎症性疾患が疑われる場合,淋菌(N. gonorrhoeae)とC. trachomatisに対する子宮頸部検体のPCR(感度および特異度約99%)および妊娠検査を実施する。PCRが使用できない場合には培養を行う。しかしながら頸部検体が陰性であっても,上部生殖器感染の可能性がある。ポイントオブケア検査(患者の側で行う検査)では通常,グラム染色または生理食塩水によるウェットマウントを用いて頸管分泌物の膿性を確認するが,これらの検査は感度も特異度も高くない。

圧痛により患者を十分に診察できない場合には,できる限り速やかに超音波検査を施行する。

白血球数が増加することがあるが,診断には有用ではない。

妊娠検査が陽性の場合には,同様の所見を呈する異所性妊娠を考えるべきである。

骨盤痛の他の一般的な原因としては,子宮内膜症,付属器捻転,卵巣嚢胞破裂,虫垂炎などがある。これらの疾患を鑑別する特徴については,本マニュアルの別の箇所で考察されている( 骨盤痛)。

Fitz-Hugh-Curtis症候群は急性胆嚢炎に類似していることがあるが,内診時の卵管炎の所見,および必要時には超音波検査により,通常は鑑別しうる。

パール&ピットフォール

  • 臨床所見が骨盤内炎症性疾患を示唆するが妊娠検査が陽性の場合は,異所性妊娠の検査を行う。

付属器または骨盤内の腫瘤が臨床的に疑われる場合,もしくは患者が48~72時間以内に抗菌薬に反応しない場合には,できる限り速やかに超音波検査を施行し,卵管卵巣膿瘍,卵管留膿症,および骨盤内炎症性疾患に関連しない疾患(例,異所性妊娠,付属器の捻転)を除外する。超音波検査を行っても診断が不確かである場合には,腹腔鏡検査を施行すべきである;腹腔鏡検査中にみられる膿性の腹膜の存在が,診断のゴールドスタンダードである。

治療

  • 淋菌(N. gonorrhoeae),C. trachomatis,およびときに他の菌をカバーする抗菌薬

抗菌薬は,淋菌(N. gonorrhoeae)およびC. trachomatisをカバーするよう経験的に投与し,臨床検査結果に基づき変更する。診断が疑われる場合には,いくつかの理由により経験的治療が必要である:

  • 検査(特に患者の側で行うポイントオブケア検査)では結論は得られない。

  • 臨床基準に基づく診断は不正確な可能性がある。

  • 症状がごくわずかな骨盤内炎症性疾患を治療しないことにより重篤な合併症を起こすことがある。

パール&ピットフォール

  • 検査(特に患者の側で行うポイントオブケア検査)では結論は得られず,臨床基準に基づく診断は不正確な可能性があり,症状がごくわずかな骨盤内炎症性疾患を治療しないことにより重篤な合併症を起こすことがあるため,この病態が疑われる場合は常に経験的な治療を行う。

子宮頸管炎または臨床的に軽度から中等度の骨盤内炎症性疾患を有する患者は入院の必要はない。外来における治療レジメン( 骨盤内炎症性疾患治療用のレジメン*)は通常,しばしば併発する細菌性腟症( 細菌性腟症(BV) : 治療)の根治も目的としている。

淋菌(N. gonorrhoeae)感染またはC. trachomatis感染を認める患者のセックスパートナーには,治療を行うべきである。

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骨盤内炎症性疾患治療用のレジメン*

治療

レジメン

代替レジメン

非経口

レジメン A:セフォテタン2g,静注,12時間毎

または

セフォキシチン2g,静注,6時間毎

に加えて

ドキシサイクリン100mg,経口または静注,12時間毎

レジメン B:クリンダマイシン900mg,静注,8時間毎

に加えて

ゲンタマイシン2mg/kg(負荷量)静注または筋注,次いで維持量(1.5mg/kg)8時間毎;場合によって1日1回投与(例,3~5mg/kg,1日1回)に代替

経口

レジメンA:セフトリアキソン250mg,筋注,単回投与

に加えて

ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,14日間

以下を併用または非併用

メトロニダゾール500mg,経口,1日2回,14日間

レジメン B:セフォキシチン2g,筋注,単回投与に加え,プロベネシド1g,経口,同時に単回投与

に加えて

ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,14日間

以下を併用または非併用

メトロニダゾール500mg,経口,1日2回,14日間

レジメンC:他の第3世代セファロスポリン系薬剤(例,セフチゾキシム,セフォタキシム)の非経口投与

に加えて

ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,14日間

以下を併用または非併用

メトロニダゾール500mg,経口,1日2回,14日間

§フルオロキノロン系薬剤(例,レボフロキサシン500mg,経口,1日1回またはオフロキサシン400mg,経口,1日2回,14日間)

以下を併用または非併用

メトロニダゾール500mg,経口,1日2回,14日間||

* Centers for Disease Control and Preventionからの勧告:“Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines, December 17, 2010.”Available at www.cdc.gov/std/treatment.

軽度から中等度の骨盤内炎症性疾患(PID)に対する非経口(parenteral)療法と経口療法の臨床効果は同等のようである。臨床経験を指標に経口治療へ移行すべきであり,経口治療は通常,臨床的に改善がみられて24時間以内に開始することができる。

経口療法と非経口療法の臨床成績は類似しているため,軽度から中等度の急性骨盤内炎症性疾患では経口治療を考慮できる。患者が72時間以内に経口治療に反応しない場合は,診断を確定するために再評価を行い,外来または入院管理で非経口療法を行うべきである。

§セファロスポリン系薬剤が非経口の経路で投与できず,淋菌感染症の地域有病率および個人のリスクが低い場合に,このレジメンを考慮してもよい。治療開始前に淋菌感染症の検査を行わなければならない;結果が陽性の場合,以下が推奨される:

  • 核酸増幅検査(NAAT)陽性:セファロスポリン系薬剤の非経口投与

  • 淋菌感染症の培養陽性:薬剤感受性試験の結果に基づいた治療

  • キノロン耐性淋菌(Neisseria gonorrhoeae)の同定または評価できない抗菌薬感受性:セファロスポリン系薬剤の注射剤

||他の外来治療レジメンに関する情報は限られている;しかしながらアモキシシリン/クラブラン酸 + ドキシサイクリンまたはアジスロマイシン(セフトリアキソンは併用することも併用しないこともある)は短期的な臨床的治癒をもたらすことがある。このレジメンへのメトロニダゾールの追加を考慮すべきである。

通常の病原体に対する治療後に改善がみられない場合は,性器マイコプラズマ(M. genitalium)による骨盤内炎症性疾患を考慮すべきである。経験的にモキシフロキサシン400mg,経口,1日1回,7~14日間(例,10日間)で治療できる。

骨盤内炎症性疾患を有する患者は以下のいずれかがみられる場合は通常入院管理とする:

  • 診断が不確かで,外科的治療が必要な疾患(例,虫垂炎)を除外できない

  • 妊娠

  • 重度の症状または高熱

  • 卵管卵巣膿瘍

  • 外来での治療に耐えられないまたは従えない(例,嘔吐による)

  • 外来(経口)治療への反応がみられない

こうした症例では,培養検体の採取後,直ちに抗菌薬の静注( 骨盤内炎症性疾患治療用のレジメン*)を開始し,発熱のない状態が24時間続くまで投与を継続する。

卵管卵巣膿瘍では,より長期の抗菌薬静注での治療を必要とすることがある。抗菌薬単独治療による反応が不十分な場合,超音波またはCTガイド下での経皮的または経腟的ドレナージによる排膿が考慮できる。排膿には,ときに腹腔鏡下または開腹下の処置が必要となる。卵管卵巣膿瘍破裂の疑いがある場合には,直ちに開腹を行う必要がある。妊娠可能年齢の女性においては,(妊孕性の維持を期待し)手術では骨盤内臓器を温存するよう努めるべきである。

要点

  • 性交渉で感染する病原体である淋菌(Neisseria gonorrhoeae)およびChlamydia trachomatisは骨盤内炎症性疾患の一般的な原因であるが,感染はしばしば複数の菌による。

  • 骨盤内炎症性疾患は卵管の瘢痕および癒着を起こし,慢性骨盤痛,不妊,異所性妊娠のリスク増加の原因となる。

  • 非常にわずかな症状を示す感染症であっても,重度の後遺症が残ることがあるため,あらゆる可能性を疑うべきである。

  • PCRおよび培養は正確な検査である;しかしながら治療時に結果が出ていない場合には,通常経験的治療が推奨される。

  • 臨床基準(上記参照)に基づき骨盤内炎症性疾患の患者を入院させる。

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