腟炎は最も頻度の高い婦人科疾患の1つである。その原因により,外陰が単独で(外陰炎),または腟とともに(外陰腟炎)侵されることがある。
病因
最も頻度の高い原因は患者の年齢によって異なる。
小児
妊娠可能年齢の女性
閉経後女性
全年齢の女性
症状と徴候
腟炎は帯下を生じさせるため,正常な分泌物と鑑別する必要がある。正常な分泌物は, エストロゲン 値が高くなる際によくみられる(例,出生前に母体の エストロゲン が移行することから,生後2週間[ エストロゲン 値が突然低下する際に,わずかな出血がしばしば生じる],および エストロゲン 産生が増加する初経前の数カ月)。
正常な腟分泌物は一般的に乳白色または粘液様で,無臭,非刺激性である;下着を湿らせるほど腟を湿潤させることもある。腟炎による分泌物は,そう痒,発赤,およびときに灼熱感,疼痛,または軽度の出血を伴う。そう痒により睡眠が妨げられることがある。排尿困難や性交痛も生じうる。萎縮性腟炎では分泌物は少なく,性交痛が一般的にみられ,腟組織は外観上薄く乾燥している。症状は腟炎の個々の種類で異なるものの,重複する部分が多い( 腟炎の一般的な種類)。
腟炎の一般的な種類
外陰炎により,発赤,そう痒,およびときに圧痛や外陰からの分泌物が生じることがある。
診断
腟炎は臨床基準および院内検査により診断される。最初に,水で滑りやすくした腟鏡を用いて腟分泌物を採取し,pH紙を使用してpHを4.0~6.0まで0.2間隔で測定する。次に,分泌物を綿棒でスライドガラス2枚におき,1枚のスライドガラスは0.9%NaCl(生理食塩水によるウェットマウント),もう1枚は10%KOH(KOH法)で希釈する。KOH法では,トリコモナス腟炎や細菌性腟症で産生されるアミンから生じる魚のような臭いをチェックする(臭気テスト)。運動するトリコモナス原虫を検出するため,生理食塩水を滴下したらできるだけ早急に顕微鏡を用いて調べる(トリコモナス原虫はスライドガラス作成後数分以内に運動を停止する可能性があり,そうなると確認はより困難になる)。KOHは真菌の酵母菌糸を除くほとんどの細胞物質を溶解し,同定を容易にする。
臨床基準および院内検査結果が確定的でない場合には,分泌物の真菌またはトリコモナド培養を行ってもよい。
分泌物の他の原因を除外する。小児に帯下がみられる場合は,腟内異物が疑われる。頸管炎( 子宮頸管炎)による頸管分泌物は腟炎のものと似ることがある。腹痛,頸部移動痛,または頸部の炎症は骨盤内炎症性疾患( 骨盤内炎症性疾患 (PID))を示唆する。水様性,血性,またはその両方が混在する分泌物は,外陰癌,腟癌,または子宮頸癌に起因する可能性があり,癌は診察とパパニコロウ(Pap)検査で腟炎と鑑別できる。腟のそう痒および分泌物は,皮膚疾患(例,乾癬,癜風)により起こる場合があり,通常病歴や皮膚所見により鑑別しうる。
小児にトリコモナス腟炎を認める場合は,性的虐待に関する評価が必要である。原因不明の腟分泌物を認める場合は,子宮頸管炎(性感染症の可能性がある)を考慮すべきである。女性が細菌性腟症やトリコモナス腟炎である場合(したがって性感染症のリスクが高い場合),性感染性骨盤内炎症性疾患の一般的な原因である淋菌(Neisseria gonorrhoeae)およびChlamydia trachomatisについて頸管を検査する。
治療
外陰は可能な限り清潔に保つべきである。石鹸および不必要な局所用製剤(例,女性用衛生スプレー)は避けるべきである。氷嚢や坐浴(重曹を入れてもよい)の間欠的使用により,痛みやそう痒が軽減しうる。
症状が中等度または重度である場合,もしくは他の治療に反応しない場合には,薬物が必要となりうる。そう痒に対しては,外用コルチコステロイド(例,外用1%ヒドロコルチゾン,1日2回,必要時)を外陰に塗布してもよいが,腟には使用しない。経口の抗ヒスタミン薬はそう痒を減らし眠気を催すため,患者の睡眠を助ける。
感染症や他の原因を治療する。異物は取り除く。思春期前の女児には,会陰の望ましい衛生状態を教える(例,排便および排尿後は前から後ろへ拭くこと,手を洗うこと,会陰を指で触らないこと)。慢性的な外陰の炎症が寝たきりまたは失禁によるものである場合,外陰を清潔にすることが有用である。