人工妊娠中絶

(中絶)

執筆者:Frances E. Casey, MD, MPH, Virginia Commonwealth University Medical Center
レビュー/改訂 2020年 5月
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米国では,州ごとの制限(例,義務的待機期間,在胎期間による制限)があるものの,生存胎児の中絶は合法である。米国では約半数の妊娠が意図しないものである。意図しない妊娠の約40%が人工中絶により終了しており,処置の90%が妊娠第1トリメスターに行われる。

中絶が合法である国では,中絶は通常安全で合併症はまれである。世界的にみると,母体死亡の13%が人工中絶に続発して発生しており,それらの死亡の大部分は中絶が非合法の国で起きている。

中絶を行う前に妊娠を確定すべきである。しばしば在胎期間は超音波検査により決定されるが,ときに病歴と身体診察により第1トリメスター中の在胎期間を正確に確定できる。女性が第2トリメスターで前置胎盤,または前壁胎盤に加え子宮瘢痕の病歴を認める場合は,ドプラ超音波検査を考慮すべきである。

人工中絶の完了は子宮内容物の除去を直接観察することで,または手技中に行う超音波検査によって確認することができる。手技中に超音波検査を行わない場合は,手技前後に血清β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)を定量測定することで,妊娠の終了を確認できる;1週間後に50%超の減少があれば終了が確定する。

生殖器の微生物(クラミジアを含む)に対して効果的な抗菌薬を中絶当日に投与すべきである。従来では,ドキシサイクリンを用いる;手技前に200mgを投与する。血液型がRh陰性の女性には,手技後にRho(D)免疫グロブリンを投与する。

妊娠第1トリメスターの中絶では,しばしば局所麻酔のみでよいが,習熟した医師は鎮静を追加することもある。それ以降の中絶には通常,より深い鎮静が必要である。

妊娠28週未満での人工中絶の直後に,避妊法(全ての様式)を開始できる。

方法

人工中絶の一般的な方法は以下の通りである:

  • 頸管拡張後の器具による子宮内容除去術

  • 薬物による誘導(子宮収縮を促進する薬剤)

用いられる方法は,妊娠期間の長さによって異なる部分がある。器具による子宮内容除去術はほとんどのケースで用いることができる。11週未満または15週を超える妊娠の一部には薬物が使用できる。

子宮手術(子宮切開術や子宮摘出術)は最後の手段であり,死亡率が高いため通常は避ける。また,子宮切開術により子宮瘢痕が生じ,これが後の妊娠において破裂する可能性がある。

器具による子宮内容除去術

典型的には14週未満では,通常径の大きい吸引カニューレを子宮腔に挿入し,頸管拡張・内膜掻爬(D&C)が行われる。

9週未満では,手動真空吸引法(manual vacuum aspiration:MVA)を用いることができる。この方法では子宮内容を除去するために十分な圧力を発生させる。MVA装置は持ち運び可能で,電源を必要とせず,電動式の真空吸引装置よりも静かである。MVAは妊娠初期の間の自然流産の管理にも用いられることがある。9週以降は,EVAが用いられる;電動式吸引装置にカニューレを接続する。

14~24週では,通常は頸管拡張・内容除去(D&E)を用いる。鉗子を用いて胎児を切断および除去し,吸引カニューレを用いて羊水,胎盤および胎児の残骸を吸引する。D&Eには,器具による他の内容除去法よりも高い技術およびより多くの研修が必要である。

しばしば,手技の前に頸管を拡張するために徐々に径が大きくなる先細の拡張器を使用する。しかしながら,在胎期間と出産回数によっては,先細の拡張器が頸管に与える損傷を最小限にするため,先細の拡張器の代わりに,またはそれに追加して,他のタイプの拡張器の使用が必要になる場合がある。選択肢としては以下のものがある:

  • プロスタグランジンE1誘導体(ミソプロストール)

  • ラミナリア桿(乾燥した海藻の茎)のような浸透性拡張器

ミソプロストールはプロスタグランジン放出を促進することで頸管を拡張させる。ミソプロストールは通常手技の2~4時間前に腟内投与または舌下投与する。

浸透性拡張器は頸管に挿入し4時間以上(妊娠18週を超えていればしばしば一晩)放置しておくことが可能である。浸透性拡張器は通常16~18週以降で使用する。

薬物による誘導

11週未満または15週を超える妊娠には薬物による誘導が可能である。患者に重度の貧血がみられる場合は,輸血を迅速に行えるように,薬物による中絶は病院でのみ行うべきである。

米国では10週未満の中絶の25%が薬物による中絶である。

10週未満の妊娠に対するレジメンとして,プロゲステロン受容体拮抗薬であるミフェプリストン(RU 486)とプロスタグランジンE1誘導体であるミソプロストールの併用があり,以下のように使用する:

  • ミフェプリストン200mgを経口投与,その24~48時間後にミソプロストール800μgを舌下投与(10~11週の妊娠には,ミソプロストールの初回投与から4時間後に追加でミソプロストール800μgを舌下投与)

ミソプロストールは患者が自身で使用するか,医師が投与してもよい。

このレジメンは8~9週の妊娠では約95%,9~10週を超える妊娠では92%の効果がある(1)。

妊娠の終了を確認し,必要に応じて避妊法を提供するために,フォローアップ来院が必要である。

15週以降は,誘導の24~48時間前にミフェプリストン200mgによる前治療を行うことで誘導時間が短縮する。中絶の誘導にはプロスタグランジンを使用する。選択肢としては以下のものがある:

  • プロスタグランジンE2(ジノプロストン)腟坐薬

  • ミソプロストール腟錠または舌下錠

  • プロスタグランジンF2α(ジノプロストトロメタミン)の筋注

典型的なミソプロストールの用量としては600~800μg腟内投与後,400μgを3時間毎,最大5回までの舌下投与である。または2錠の200μgのミソプロストール腟錠を6時間毎に使用できる;流産はほぼ100%の症例で48時間以内に起こる。

プロスタグランジンの有害作用としては,悪心,嘔吐,下痢,高体温,顔面紅潮,血管迷走神経症状,気管支攣縮,発作閾値の低下などがある。

方法に関する参考文献

  1. 1.Kapp N, Eckersberger E, Lavelanet A, Rodriguez MI: Medical abortion in the late first trimester: A systematic review.MMWR Recomm Rep 65 (4):1–66, 2016.doi: 10.15585/mmwr.rr6504a1.

合併症

安全で合法的な中絶での合併症発生率(重篤な合併症は1%未満;死亡率は100,000件当たり1件未満)は,避妊でのそれよりも高い;しかしながら,その発生率は正期産児分娩後の14分の1であり,過去数十年で低下している。合併症発生率は在胎期間が長いほど上昇する。

重篤な早期合併症としては以下のものがある:

  • 器具による子宮穿孔(0.1%),また頻度は低いが腸管や他の臓器の穿孔

  • 大出血(0.06%)(外傷や子宮弛緩により生じることがある)

  • 頸管裂傷(0.1~1%)(典型的には支持鉤による浅層の裂傷であるが,より重篤で修復が必要なものもある)

全身麻酔または局所麻酔による,重篤な合併症はまれである。

最もよくみられる遅発性合併症としては以下のものがある:

  • 出血と重大な感染(0.1~2%)

これらの合併症は通常,胎盤断片が残留することにより起こる。出血が生じたり感染が疑われる場合は,骨盤内超音波検査を行う;超音波スキャンで胎盤断片の残留がみられることがある。軽度の炎症が予測されるが,感染が中等度または重度である場合には,腹膜炎や敗血症が起こりうる。感染による子宮内膜腔の癒着(アッシャーマン症候群)や卵管線維症から不妊が生じる場合もある。さらに進んだ妊娠においては,頸管の強引な拡張が子宮頸管不全症の一因になることがある。しかしながら,人工中絶により,その後の妊娠時に胎児および妊婦に対するリスクが増大することはおそらくない。

心理的合併症は典型的には起こらないが以下の女性ではみられることがある:

  • 妊娠前に精神症状がみられていた場合

  • 妊娠に顕著な情緒的愛着があった場合

  • 社会的サポートが限られている,またはサポートシステムから非難されていると感じている

要点

  • 意図しない妊娠の約40%が人工中絶により終了している。

  • 人工妊娠中絶の一般的な方法は,頸管拡張後の器具による子宮内容除去術または薬物による誘導(子宮収縮の誘発)である。

  • 人工中絶を行う前に,女性が妊娠していることを確かめ,妊娠していれば病歴および身体診察および/または超音波検査により在胎期間を決定する。

  • 器具による内容除去では,14週未満では通常D&C,14~24週ではD&Eを用い,ときにミソプロストールまたは浸透性拡張器(例,ラミナリア桿)を用いてあらかじめ頸管拡張を行う。

  • 薬物による誘導では11週未満ではミフェプリストンを投与し,その後ミソプロストールを投与する;15週以降では,ミフェプリストンで前治療を行った後,プロスタグランジン(例,ジノプロストン腟錠,ミソプロストール腟錠および舌下錠,プロスタグランジンF2α筋注,またはミソプロストール腟錠)を投与する。

  • 重篤な合併症(例,子宮穿孔,大出血,重篤な感染)は中絶の1%未満で起こる。

  • 人工中絶により,その後の妊娠時にリスクが増大することはおそらくない。

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