骨盤痛

執筆者:David H. Barad, MD, MS, Center for Human Reproduction
レビュー/改訂 2020年 3月
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骨盤痛は体幹下部の不快感で,女性に一般的な愁訴である。外性器および会陰部皮膚近傍に生じる会陰部痛とは区別して考える。

病因

骨盤痛は生殖器(子宮頸部,子宮体部,子宮付属器)または他の臓器に起因することがある。ときに原因不明である。

婦人科疾患

婦人科疾患の中には(骨盤痛の原因としての婦人科疾患の表を参照),周期的な疼痛(すなわち,月経周期の同じ時期に繰り返し生じる痛み)を起こすものがある。それ以外の場合,痛みは月経周期に関連しない独立した事象である。痛みが突然始まるか徐々に始まるかは,この2つを区別するのに役立つ。

全体として,骨盤痛を引き起こす最も頻度の高い婦人科的要因は以下の通りである:

子宮筋腫は,変性したり,子宮内の占拠部位で過度の出血または痙攣が生じたりすると,骨盤痛を引き起こす可能性がある。大半の子宮筋腫は疼痛を引き起こさない。

表&コラム

非婦人科疾患

骨盤痛を引き起こす可能性がある非婦人科疾患としては以下のものがある:

  • 消化管(例,腫瘍,便秘,高位の直腸周囲膿瘍)

  • 尿路(例,膀胱炎間質性膀胱炎結石

  • 筋骨格(例,以前の経腟分娩による恥骨結合の離開,腹筋挫傷)

  • 心因性(例,身体化;以前に経験した身体的,心理的,性的虐待の影響)

最も頻度の高いものを特定するのは難しい。

評価

骨盤痛の原因には緊急治療を要するもの(例,異所性妊娠付属器の捻転)があるため,骨盤痛の評価は迅速に行わなければならない。

妊娠可能年齢の女性では得られた病歴にかかわらず,妊娠を除外すべきである。

病歴

現病歴には婦人科歴(経妊回数,経産回数,月経歴,性感染症歴)および痛みの発症,期間,部位,および性質を含めるべきである。疼痛の質,急性度,重症度,および部位,ならびに疼痛と月経周期の関係に注意すると,最も可能性の高い原因が示唆される可能性がある。関連症状として重要なものには,性器出血または帯下および血行動態不安定による症状(例,めまい,ふらつき,失神,失神前状態)がある。

システムレビュー(review of systems)では,以下のような可能性のある原因を示唆する症状がないか検討すべきである:

  • つわり,乳房の腫脹もしくは圧痛,または無月経:妊娠

  • 発熱および悪寒:感染

  • 腹痛,悪心,嘔吐,または便通の変化:消化管疾患

  • 頻尿,尿意切迫,または排尿困難:泌尿器疾患

既往歴の聴取では,不妊,異所性妊娠,骨盤内炎症性疾患,尿路結石,憩室炎,および消化管または泌尿生殖器癌の既往に注意すべきである。腹部および骨盤内手術の既往歴に注意すべきである。

身体診察

身体診察は異常または不安定な徴候(例,発熱,低血圧)を見つけるためバイタルサインの評価から始め,腹部の診察および内診に焦点を置く。

腹部を触診して,圧痛,腫瘤および腹膜刺激徴候がないか確認する。直腸診を行い,圧痛,腫瘤および便潜血を調べる。痛みの部位および関連所見が原因への手がかりとなる可能性がある(骨盤痛の診断へのいくつかの手がかりの表を参照)。

内診には外性器の視診,腟鏡診,および双合診を含める。子宮頸部を視診して,分泌物,子宮脱頸管狭窄または病変がないか確認する。双合診では頸部移動痛,付属器腫瘤または圧痛,および子宮の拡大または圧痛を評価する。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 失神または出血性ショック(例,頻脈,低血圧)

  • 腹膜刺激徴候(反跳痛,筋硬直,筋性防御)

  • 閉経後の性器出血

  • 発熱または悪寒

  • 悪心,嘔吐,発汗,または興奮を伴う突然の重度の痛み

所見の解釈

骨盤痛の急性度および重症度,ならびに月経周期との関係から,最も可能性の高い原因が示唆される可能性がある(骨盤痛の原因としての婦人科疾患の表を参照)。疼痛の性質と位置,および関連所見もまた手がかりとなる(骨盤痛の診断へのいくつかの手がかりの表を参照)。しかしながら所見は非特異的である場合がある。例えば,子宮内膜症は様々な所見につながりうる。

表&コラム

検査

骨盤痛のある患者には全例で以下を行うべきである:

  • 尿検査

  • 尿妊娠検査

尿検査は骨盤痛の最も一般的な原因(例,膀胱炎,尿路結石)を除外するために行われる,迅速で単純な検査である。尿検体はまた,尿妊娠検査にも用いることができる。患者が妊娠している場合,超音波検査によって,または超音波検査では不明瞭なときは他の検査によって除外されるまでは,異所性妊娠を考える。疑われる妊娠が5週未満の可能性がある場合は,血清妊娠検査を行うべきである;尿妊娠検査は妊娠初期では妊娠を除外するのに感度が十分でないことがある。

他に実施する検査は,臨床的に疑われる疾患による。患者を十分に診察することができない場合(例,痛みや協力不可能な状態のため),または腫瘤が疑われる場合には,骨盤内超音波検査を施行する。重度または持続性の疼痛の原因を同定できない場合には,腹腔鏡検査を施行する。

経腟プローブを用いた骨盤内超音波検査は内診の補助として有用な場合がある;腫瘤などをより正確に示すことができ,妊娠5週以降(すなわち,月経予定日から1週間後)の妊娠の診断に役立つ。例えば,骨盤内に液体貯留があり妊娠検査が陽性であるが,子宮内妊娠の所見がない場合は,異所性妊娠を確定するのに役立つ。

治療

可能であれば,基礎疾患を治療する。

骨盤痛はまず経口非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)で治療する。患者が特定のNSAIDに良好に反応しない場合でも,別のNSAIDには反応することがある。

NSAIDが効果的でない場合は,他の鎮痛薬または催眠法を試してもよい。

筋骨格痛には,安静,加温,理学療法,線維筋痛症には0.5%ブピバカインまたは1%リドカインの圧痛点への注射も必要となることがある。

難治性の疼痛がみられる場合は,子宮摘出術を施行してもよいが,効果がない場合もある。

老年医学的重要事項

高齢女性では骨盤痛の症状が曖昧なことがある。腸および膀胱機能に注意した慎重なシステムレビュー(review of systems)が必須である。

高齢女性では,骨盤痛を引き起こす一部の疾患が年齢とともにより多くみられるようになるため(特に閉経後),骨盤痛の一般的な原因は異なる可能性がある。そのような疾患としては以下のものがある:

性交歴を聴取すべきである;医師はしばしば多くの女性が生涯を通じて性的に活動的であり続けることに気づかない。性行為について尋ねる前に女性のパートナーが生存しているかどうか確認すべきである。高齢女性において,腟の過敏,かゆみ,泌尿器症状,または出血は性交後に二次的に起こることがある。これらの症状は数日間骨盤を安静にすることでしばしば軽快する。

急激な食欲低下,体重減少,消化不良,または排便習慣の突然の変化は卵巣がんまたは子宮体がんの徴候であることがあり,徹底した臨床的評価が必要である。

要点

  • 骨盤痛は一般的で,婦人科的または非婦人科的原因によることがある。

  • 妊娠可能年齢の女性では妊娠を除外すべきである。

  • 疼痛の質,急性度,重症度,および部位,ならびに疼痛と月経周期の関係から,最も可能性の高い原因が示唆される可能性がある。

  • 月経困難症は骨盤痛の一般的な原因であるが除外診断による。

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