自然流産

(流産)

執筆者:Antonette T. Dulay, MD, Main Line Health System
レビュー/改訂 2020年 10月
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自然流産は,妊娠20週より前に起きる,誘発によらない胎芽もしくは胎児の死亡,または受胎産物の排出である。切迫流産は,この時期に起こる頸管開大を伴わない性器出血で,生存可能な胎児の子宮内妊娠が確認された女性において自然流産が起こる可能性を示唆するものである。診断は臨床基準および超音波検査による。治療は通常,切迫流産に対しては待機的観察であり,自然流産が生じた,または不可避と思われる場合は,観察または子宮内容除去術を行う。

自然流産は,その定義として,胎児が死亡することであり,自然流産は以降の妊娠における自然流産のリスクを高める可能性がある。

胎児死亡および早産は以下のように分類される:

  • 流産:妊娠20週前での胎児死亡または受胎産物(胎児および胎盤)の排出

  • 胎児死亡(死産):20週以降の胎児死亡

  • 早産:20~36週6日の生存胎児の娩出

流産は以下のように分類できる(流産の分類の表を参照):

表&コラム

妊娠が確認された女性の約20~30%で,妊娠の初めの20週の間に出血が起こる;このような女性の半分は自然に流産する。したがって,自然流産の発生頻度は確認された妊娠のうち最大約20%である。非常に早期の流産には月経の遅延と誤解されているものもあるため,全妊娠における発生頻度はおそらくさらに高い。

病因

単発性の自然流産は,特定のウイルス(特にサイトメガロウイルス,ヘルペスウイルス,パルボウイルス,および風疹ウイルス),または散発性の流産あるいは不育症を引き起こす疾患(例,染色体異常またはメンデル遺伝病,黄体機能不全)に起因する可能性がある。その他の原因としては,免疫異常,重度外傷,子宮異常(例,筋腫,癒着)などがある。ほとんどの場合,原因は不明である。

自然流産の危険因子としては以下のものがある:

無症候性の甲状腺疾患,後傾子宮,および軽度の外傷が自然流産を引き起こすことは証明されていない。

症状と徴候

自然流産の症状として,痙攣性の骨盤痛,出血,および最終的な組織の排出がある。後期自然流産は,破水した際の羊水の流出から始まることがある。出血が大量になることはまれである。子宮頸管の開大は進行流産であることを示す。

自然流産の後に受胎産物が子宮内に残っていれば,ときに数時間から数日遅れて性器出血が起こりうる。感染症が発生することもあり,発熱および疼痛のほか,ときに敗血症が生じる(敗血症性流産と呼ばれる)。

診断

  • 臨床基準

  • 通常,超音波検査およびヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(β-hCG)の定量

切迫,進行,不全,または完全流産の診断は,臨床基準(自然流産における特徴的な症状と徴候の表を参照)および尿妊娠検査陽性の所見に基づき可能であることが多い。

異所性妊娠の除外および受胎産物が子宮内に残っているかどうかの確認(完全流産ではなく不全流産であることを示唆する)のために,通常は超音波検査および血清β-hCGの定量も行われる。しかしながら,特に妊娠早期では,結果が決定的でない場合がある。

表&コラム

稽留流産は,子宮が進行的に増大しない場合,またはβ-hCG定量値が妊娠期間に対して低値であるか,あるいは48~72時間以内に2倍とならない場合に疑われる。超音波検査で以下のいずれかを示す場合は稽留流産が確定する:

  • 以前に検出された胎児心拍の消失

  • 胎児の頭殿長が7mmを超える時期に心拍がみられない

  • 胎嚢の平均径(3つの直行面で測定した平均)が25mmを超える時期に胎芽がみられない(経腟超音波検査で判断する)。

不育症では流産の原因を特定するための検査が必要である。

治療

  • 切迫流産に対しては経過観察

  • 進行,不全,または稽留流産に対しては子宮内容除去術

  • 心理的支援

切迫流産では,治療は経過観察である。床上安静によりその後の完全流産のリスクが減少するとのエビデンスはない。

進行,不全,稽留流産に対する治療は,子宮内容除去術を施行するか,受胎産物の自然排出を待つことである。子宮内容除去術としては通常,12週前では吸引,12~23週では頸管拡張・内容除去,16~23週以降では薬物による誘導(例,ミソプロストールによる)を行う。子宮内容除去術の施行が遅れるほど,胎盤出血,胎児長管骨による子宮穿孔が発生する可能性,および子宮頸管の拡張が困難となる可能性が高くなる。これらの合併症は,浸透性頸管拡張器(例,ラミナリア桿),ミソプロストールまたはミフェプリストン(RU 486)を術前に使用することにより減少する。

完全流産と考えられる場合は,子宮内容除去術をルーチンに行う必要はない。子宮内容除去術は,出血が起きている場合と,他の徴候から受胎産物の残存が示唆される場合に施行する。

人工または自然流産の後,親は悲しみと罪悪感を抱くことがある。心理的支援を提供して,自然流産の大半の症例では自身の行動が原因ではない,と安心させるべきである。正式なカウンセリングの適応となることはまれであるが,利用できるようにしておくべきである。

要点

  • 自然流産はおそらく妊娠の約10~15%に起こる。

  • 単発性の自然流産の原因は通常不明である。

  • 子宮頸管の開大は進行流産であることを示す。

  • 自然流産を確認し,臨床基準,超音波検査,およびβ-hCGの測定結果に基づいて,どのタイプかを決定する。

  • 進行,不全,または稽留流産では,最終的に子宮内容除去術が必要となる。

  • 切迫および完全流産では,子宮内容除去術が必要とならない場合も多い。

  • 自然流産後は,両親に心理的支援を提供する。

不育症

不育症は,自然流産が2~3回以上連続して起こることである。原因の確定には,両親についての広範な評価が必要となることがある。一部の原因は治療できる。

病因

不育症の原因は,母体,胎児,または胎盤によることがある。

母体による原因で頻度が高いものとしては以下のものがある:

  • 子宮または頸管の異常(例,ポリープ,筋腫,癒着,子宮頸管無力症)

  • 母親(または父親)の染色体異常(例,均衡型転座)

  • 顕性でコントロール不良の慢性疾患(例,甲状腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,糖尿病,高血圧)

  • 慢性腎疾患

後天性の血栓性疾患(例,ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン[IgGまたはIgM],または抗β2糖タンパク質I[IgGまたはIgM]を伴う抗リン脂質抗体症候群に関連)は10週以降の反復流産との関連がみられる。遺伝性の血栓性疾患との関連はあまり明らかではないが,おそらく第V因子Leiden変異を除いて,強くないようである。

胎盤による原因にはコントロール不良の既存の慢性疾患を含む(例,全身性エリテマトーデス[SLE],慢性高血圧)。

胎児による原因は通常,以下である:

  • 染色体または遺伝子の異常

  • 解剖学的な先天異常

染色体異常は不育症の50%の原因となっている可能性がある;染色体異常による流産は妊娠初期により多い。妊娠10週未満に起こる全ての自然流産の最大80%に異数性が関与しているが,20週以降に起こるものでは15%未満である。

不育症の既往が以降の妊娠における胎児発育不全および早産のリスクを上昇させるかどうかは,流産の原因により異なる。

診断

  • 臨床的評価

  • 原因を同定するための検査

不育症の診断は臨床的に行う。

不育症の原因特定に役立てるため,評価には以下を含めるべきである:

  • 可能性のある遺伝学的原因を除外するために,臨床的適応に応じた両親の遺伝的評価とあらゆる受胎産物の遺伝学的評価(核型分析)

  • 後天性血栓性疾患のスクリーニング:抗カルジオリピン抗体(IgGおよびIgM),抗β2糖タンパク質I(IgGおよびIgM),およびループスアンチコアグラント

  • 甲状腺刺激ホルモン

  • 糖尿病検査

  • 構造的子宮異常を調べるために,子宮卵管造影またはソノヒステログラフィー

原因を確定できない女性は50%に上る。遺伝性血栓性疾患のスクリーニングは,母体・胎児専門医の管理による場合を除き,もはやルーチンには推奨されない。

治療

  • 可能であれば原因の治療

不育症の原因には,治療可能なものもある。原因が同定できない場合,次の妊娠における生児出生の可能性は35~85%である。

要点

  • 不育症の原因は,母体,胎児,または胎盤によることがある。

  • 染色体異常(特に異数性)が不育症の原因の50%を占めている可能性がある。

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